いただ)” の例文
先方は謙遜けんそんして、蒔岡まきおかさんと私とでは身分違いでもあり、薄給の身の上で、そう云う結構なお嬢様に来ていただけるものとも思えないし
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昨夜ゆうべ、あなたのお兄さんからいただいた金が、別に盗賊も入ったようにもないのに、そっくりなくなったのです、どうしたのでしょう」
白っぽい洋服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その第三頁目には王冠をいただいた白髪小僧の姿と美事な女王の衣裳を着けた美留女姫が莞爾にっこと笑いながら並んでいる姿がいてあった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
中空ちゅうくうには大なるかさいただきしきいろき月を仰ぎ、低く地平線に接しては煙の如き横雲を漂はしたる田圃たんぼを越え、彼方かなた遥かにくるわの屋根を望む処。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それには、是非ともお交際つきあいを願って、いろ/\な立ち入った御相談にも、あずからせていただきたいと、それで実はあんな突然なお申込を……
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私が子供の頃には、本を読み始める時と読み終った時とには、必ずそれを手で推しいただいて頭を下げるように云い附けられたものだ。
書物の倫理 (新字新仮名) / 三木清(著)
そのかたわらに馬立てたる白髪のおきな角扣紐つのボタンどめにせし緑の猟人服かりゅうどふくに、うすきかちいろの帽をいただけるのみなれど、何となくよしありげに見ゆ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
民衆でありながら、しかも好んで服従し、頭として一人の君主をいただいている。労働者は甘んじて軽侮され、兵士は甘んじてむち打たれる。
花下かかに緑色の一子房しぼうがあって、直立し花をいただいている。子房には小柄しょうへいがあり、その下に大きな二枚の鞘苞しょうほうがあって花をようしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
またわたくし申上もうしあげることにどんな誤謬あやまちがあるかもはかりかねますので、そこはくれぐれもただ一つの参考さんこうにとどめていただきたいのでございます。
その人ならず、善く財を理し、事を計るに由りて、かかる疎放の殿をいただける田鶴見家も、さいはひ破綻はたんを生ずる無きを得てけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかもそのいただきが、すでに天秤棒をかつぎ、またはリヤカアを引張ひっぱってあるいている土地は、もうだんだんと多くなっているのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「あとでいただくわ。それにそんな良い薬なら、東京の妹にもけてやりたいんです。このごろ何だかぶらぶらしているようだから。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
京都の黒谷くろだに参詣人さんけいにん蓮生坊れんしょうぼう太刀たちいただくようなかたで、苦沙弥先生しばらく持っていたが「なるほど」と云ったまま老人に返却した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれは山にり、水に臨み、清風をにない、明月をいただき、了然たる一身、蕭然しょうぜんたる四境、自然の清福を占領して、いと心地ここちよげに見えたりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「え、そうです。知人が酒屋をしてまして、新聞を見せてくれたのです。是非乗せていただきたいのですが……国では皆心配してますから。」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
... いただいた事がありますがあれはどう致します」お登和嬢「ドウナツは軽便なお菓子でメリケン粉十五杯に焼粉を軽く一杯よく混ぜてふるって、 ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「おやいいものをいただいて、この中には何が這入ってるだろう、あけて御覧んなさい。おやいいもんだネー。オヤもうおかえりでございますか。」
初夢 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
……でも、何だか悪いやうな気がするから、やつぱり見ていただくわ。私の画つて、これ。手当り次第引つぱり出して来ましたの。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
津山からの見舞い品をささげ、一文字の短刀をいただいて、この感動的な対面が終ったとき、若さまは静かに「母上の御位牌いはいへ御挨拶を致したい」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
みつなどのように兵隊の気嫌まで取て漸々御飯をいただいていく女もあるから、お前さんなんぞ決して不足に思っちゃなりませんよ
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
雷門かみなりもんを中心とし、下谷したや浅草あさくさ本所ほんじょ深川ふかがわの方面では、同志が三万人から出来た。貴方たちも、加盟していただきたい。どうです!
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
姫よ、お前だと勘違いをして、鳰鳥とかいう里の女を、いただいて帰って行ったものさ。アッ、ハッハッハッハッ、間抜けた奴らさ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、蝋燭を買って、山に登り、お宮に参詣して、蝋燭に火をつけて捧げ、その燃えて短くなるのを待って、またそれをいただいて帰りました。
赤い蝋燭と人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「これはどうもおみやげをいただいて済みません。どうかごゆるりとなすって下さい。もうすぐ幻燈もはじまります。私は一寸失礼いたします。」
雪渡り (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
示したものだから気力ある若い人々が世間へ出る始めにこの話を額の立て物といただ真向まっこうに保持して進撃すべしと西洋でいう。
蟻は一匹の王をいただいて毎日朝から晩まで働いている。一匹もなまけるものがなく、そして大きな仕事にぶつかれば大勢一緒になってそれに掛かる。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ゆえに戦い敗れて彼の同僚が絶望に圧せられてその故国に帰りきたりしときに、ダルガス一人はそのおも微笑えみたたえそのこうべに希望の春をいただきました。
空のどこかに、雲のうえの輝き渡る大きなお宮の中に、金の冠をいただいた神様がいらっしゃることをあなたは知って居た。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
武蔵野新聞社、学芸部、長沢伝六。太宰治様。追伸ついしん、尚原稿書き直していただければ、二十五日までで結構だ。それから写真を一枚、同封して下さい。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
爺さんはすると、歯のない歯ぐきをまるだしにして喜びながら、両手で押しいただくような真似をして、それを受けとる。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
権力の地位に在って所信を断行する快さは既に先頃の経験で知ってはいるが、それには孔子を上にいただくといった風な特別な条件が絶対に必要である。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
藩祖謙信公から家にいただいている千坂家の五ヵ条の家憲にござります。その第一条だけを御覧ぜられませ。それには——
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは近頃もっぱら事実を尊ばれる小説家の微妙な観察によっくわしく描写していただいたならば明白になるかも知れません。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
遠方からわざわざ来たのですから、先生のお帰りを待っていただいて行くというのです。田舎の人は実に強情ごうじょうで困ります
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
木蘇きそ御嶽山おんたけさんが、その角々しき峰に白雪をいただいて、青ぎった空に美しい。近くは釜無山それに連なる甲斐の駒ヶ岳等いかにも深黒な威厳ある山容である。
白菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
渾然こんぜんと漲りわたっていた果もない夢幻的空想は、今ようようその気まぐれな精力と、奇怪な光彩とを失い、小さい宝杖を持ち宝冠をいただいた王様や女王様
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こう言出したと云ッて、何にも貴嬢あなたに義理を欠かしてわたくしのぞみを遂げようと云うのじゃア無いが、唯貴嬢の口からたッた一言、『断念あきらめろ』と云ッていただきたい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「だからって、ツァーを中心に推しいただくなんて……。ロシアだってテロリストの究極の敵はツァーだったんだ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ともに天をいただくを恥じとするとか極端の言葉を用い、あるいは某が某女性と関係したる始末しまつ細々こまごまと記してある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まことれ一の夢幻界なり。湾に沿へる拿破里ナポリまちは次第に暮色微茫びばうの中に没せり。ひとみを放ちて遠く望めば、雪をいただけるアルピイの山脈こほりもて削り成せるが如し
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
御願いしようと思ったので御座いますが、それも余り失礼なので。あの誠に失礼で御座いますが、私の部屋でおやすみになっていただくよりないので御座いますが
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
阿弥陀あみだいただけるもの、或は椅子に掛かり、或はとこすわり、或は立つて徘徊はいくわいす、印刷出来しゆつたいを待つ徒然つれづれに、機械の音と相競うての高談放笑なかなかににぎはし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
米沢は上杉氏の城下町、鷹山ようざん公の名君をいただきし都。そこは何よりも糸織いとおりの産地として著名であります。糸織というのは縒糸よりいとで織った絹織物のことであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「あなたはお客扱ひがお上手でいらつしやるやうね。何ならこゝで暫くお手本を見せていただけないでせうか。」
馭者はビロードの服にナポレオン帽をいただいているという始末で、とにかく珍らしくもあり、また立派なものでした。乗車賃は下が高く二階は安うございました。
銀座は昔からハイカラな所 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
仮令たとい馨子凱歌の中に光栄の桂冠けいかんいただくを得ざりしにせよ、彼女の生はその畢生ひっせいの高貴なるほのおのあらん限を尽して戦い、戦の途上戦い死せる光栄ある戦死者の生也。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「そこまでしていただいては済みませんわ。そこまでして戴いては…………恥かしい…………あたし………」
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あら、私としたことが、申し遅れまして、あの私は○○雑誌社の者ですが、今日のお話を訪問記事に致しまして、来月号の○○誌に掲載させていただく思います。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
し九仭のこうを一に欠くあらば大遺憾だいいかんの至りなり、ねがわくは此一夜星辰をいただきて安眠あんみんするを得せしめよと、たれありてか天にいのりしなるべし、天果して之を感ぜしか
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)