愛想あいそ)” の例文
「あれは變りもので、旦那衆のやうな心持でゐたんです。酒の酌や、御馳走の世話や、お客樣への愛想あいその出來る人ではございません」
赤い碁盤縞ごばんじまのフロックを着た先生の末子ばっし愛想あいそに出て来たが、うっかり放屁ほうひしたので、学生がドッと笑い出した。其子が泣き出した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
襤褸ぼろを着てこんな真似をしてこんな親に附いて居ようより、一層いっその事い処へ往って仕舞おうとお前に愛想あいそが尽きて出たのに違いない
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼はぎごちない思いをして、ようやくそれを書き上げたあとで、もう一遍読み返した時に、自分の字のまずい事につくづく愛想あいそを尽かした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
湯町に巣喰う遊び人の仲間に入って、博奕わるさをしているのも知っていたが、それでも男に、愛想あいそが尽きたとは思わないお寿々だった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その話を聞いた老人夫婦は内心この腕白わんぱくものに愛想あいそをつかしていた時だったから、一刻も早く追い出したさにはたとか太刀たちとか陣羽織じんばおりとか
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくし岩屋いわや修行しゅぎょうというのは、つまりうした失敗しっぱいとお叱言こごとりかえしで、自分じぶんながらほとほと愛想あいそきるくらいでございました。
お母さんだって、きょうの私のがまんして愛想あいそよくしている態度を、嬉しそうに見ていたじゃないか。あれだけでも、よかったんだろうか。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
愛想あいそきたけだものだな、おのれいやしくも諸生を教へる松川の妹でありながら、十二にもなつて何の事だ、うしたらまたそんなに学校がいやなのだ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
吉三郎はこういって自ら上がりながら、この「よくやって来た珍客」に何か歓迎のお愛想あいそをいわないかと促すように姉を見た。
ただ不思議な事には、親しくなるにしたがい次第に愛想あいそが無くなり、鼻のさき待遇あしらって折に触れては気に障る事を言うか、さなくばいやにおひゃらかす。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ねえ坊や、お前さえなければお母さんはどこへでも行けるのだよ、坊やのお父様という人はねえ、お母さんに尼になれだとさ、お父さまに愛想あいそ
香潮の顔を一目見ると、あまりの変りように愛想あいそをつかしまして、いよいよこんな鬼のような顔をした者の妻となる事は出来ないと思いました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
私が夢からめきらぬような顔付をしているとて、にやにや笑ったが、愛想あいそよく食後の葉巻煙草などをすすめて呉れた。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
參詣人さんけいにんへも愛想あいそよく門前もんぜん花屋はなや口惡くちわかゝ兎角とかく蔭口かげぐちはぬをれば、ふるしの浴衣ゆかた總菜そうざいのおのこりなどおのずからの御恩ごおんかうむるなるべし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
川岸かし女郎じょろうになる気で台湾たいわんへ行くのアいいけれど、前借ぜんしゃく若干銭なにがしか取れるというような洒落た訳にゃあ行かずヨ、どうも我ながら愛想あいその尽きる仕義だ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
座鋪に帰って、親子のものの遠慮して這入口に一塊ひとかたまりになっているのを見て、末造は愛想あいそ好く席を進めさせて、待っていた女中に、料理の注文をした。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
愛想あいそぶりにちょっと行燈をかき立てて、注文の小皿こざら盛りと熱燗あつかんを守人の前へ置いてから、老爺はまた安へ向かって
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
で、私の臆病には自分ながら愛想あいそきる位で、倫敦へ帰ったのちも、例の貴婦人の怖い顔が明けても暮れても我眼わがめ彷彿ちらついて、滅多に忘れるひまがない。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の繪などに三文の價値も置かれなくつてもいゝから、業病で鼻が缺けて身體中からうみが出るやうになつても、愛想あいそを盡かさぬほどの親しみを求めてゐた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
それに、生徒監せいとかんはとても愛想あいそよく母親ははおやむかえて、さんざんおわびをいったのだから、その上どう仕様しようがあろう?
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
手伝おうかと言っても独りでやることが判っているので、決してお愛想あいそにもその事は言葉に漏らさなかった。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
講演の後などで「たいへん善いお話を伺いまして」などとお愛想あいそを言われることがありますが、あなたは話のどこが善かった、おもしろかったと言うのですか。
しかしそこに集まる人たちが鬼の首でも取ったようにそんな話をして楽しむということに愛想あいそをつかした。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あなたは早起はやおきでゐらつしやいますね。」私が彼女の傍へ行くと、愛想あいそのいゝ接吻と握手で迎へられた。
愛想あいそよくいつもにこにこして、葉巻はまきのたばこを横にくわえ、ざるをうって不平ふへいもぐちもなかった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
処女にして文学者たるの危険などを縷々るるとして説いて、幾らか罵倒ばとう的の文辞をもならべて、これならもう愛想あいそをつかして断念あきらめてしまうであろうと時雄は思って微笑した。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
このまま続いたらまた例の発作で倉地に愛想あいそを尽かさせるような事をしでかすにきまっていたから。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
氏は五十歳を幾つも越えないであらう。肉づきの締つた、ほそやかな、背丈の高い体に瀟洒せうしやとした紺の背広を着て、調子の低いさうして脆相もろさうな程美しい言葉で愛想あいそよく語つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それはそうかも知れんけど、……候補者だって、日ごろは威張りくさって、道で逢うても、見むきもせん癖して、選挙が近づくと、急に、にこにこと、愛想あいそがようなる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
主任は段々警察のやり方に愛想あいそをつかして、刑事主任が横柄な奴だとか、この間の巡査が、あんなに請合っておきながら、近頃では自分の顔を見ると逃げ廻っているとか
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お神はお愛想あいそを言ったが、倉持は何となく浮かぬ顔で、もぞもぞしていたが、よく見ると彼は駱駝らくだのマントの下に、黒紋附の羽織を着て、白い大きな帯紐おびひもを垂らしていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
子供等は時々彼等をつかまえて玩弄おもちゃにする。彼等はお愛想あいそよく、耳を立て鼻を動かし小さな手の輪組の中におとなしく立っているが、少しでも、隙があれば逃げ出そうとする。
兎と猫 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ところでお豊だがの、おまえもっとしつけをせんと困るぜ。あの通り毎日駄々だだをこねてばかりいちゃ、先方あっち行ってからが実際思われるぞ。観音様がしゅうとだッて、ああじゃ愛想あいそをつかすぜ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
乃公おれそばでは喫んでれるななんて、愛想あいそづかしの悪口わるくちいって居たから、今になって自分が烟草を始めるのは如何どうもきまりが悪いけれども、高橋の説を聞けばまた無理でもない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私事わたくしこと其節そのせつ一思ひとおもひに不法の事を申掛け、愛想あいそを尽され候やうに致し、離縁の沙汰さたにも相成候あひなりさふらはば、誠に此上無きさいはひ存付ぞんじつき候へども、此姑このしうとめ申候人まをしさふらふひとは、評判の心掛善き御方にて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
努めて愛想あいそ笑いを浮かべて、あやすように云っていたのであるが、しゃべっているうちにいつか真剣さのあふれた表情になり、どうにかして納得なっとくさせようと一生懸命になっているのが
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また、人がきずつけ合ったり陥れ合ったりする世間その物にも、愛想あいそが尽きていますのよ。妾、勝彦さんのような、のんびりとした太古の心で、生きている方が、大好きになりましたのよ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いらっしゃいまし。」と、おかみさんが、愛想あいそよくおちゃいでくれました。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もとは仲町なかちょうの羽織芸者で、吉兵衛と好きあって一緒になった仲だが、なんにしても吉兵衛の甲斐性かいしょうないのと陰気くさいのにすっかり愛想あいそをつかし、急にむかしの生活が恋しくなってきた。
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
していやがったが、よくよくおれに愛想あいそをつかしゃアがったと見えてよそへ片付いてしまやアがったんで、つい娘や子供の事もそれきり放捨うっちゃって置いたんだがね、数えて見るともう十八だ。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
盗人というようながむしゃらな連中も外見の貧弱さに愛想あいそをつかせて、ここだけは素通りにしてやって来なかったから、こんな野良藪のらやぶのような邸の中で、寝殿しんでんだけは昔通りの飾りつけがしてあった。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その互ひの工合わるさ——かういふ目出度めでたい席には禁物の工合わるさをどうかして水に流さうと、自分よりも四十も若い男に向つて、いろ/\と愛想あいそを述べたのだが、あまりのムツツリした不作法に
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「おう、金公……」かれは愛想あいそよく「どうだ、いそがしいか?」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「お嬢さん、お客さんにも、お愛想あいそをなさるものですよ」
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お房の母は愛想あいそく、「窮屈な、嫌な箇所とこでせう。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
また思ふ、柑子かうじたな愛想あいそよき肥満こえたる主婦あるじ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「エヘヘヘヘ」とこれはお愛想あいそのつもりで
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
勿論、世辞や愛想あいそは。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そしてお愛想あいそ
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)