御方おんかた)” の例文
頼春は忽然数年前に、日野資朝すけとも卿の別館の夜の後苑でその御方おんかたの、御姿おんすがた御声おんこえとに接しまつった事を、まざまざと脳裡に映し出した。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お舎弟様は文武の道にひいで、お智慧も有り、ず大殿様が御秘蔵の御方おんかた度々たび/\めのお言葉も有りました事は、父から聞いて居ります
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一 拙者昨夕散歩の際この辺一町以内の草の中に金時計一個遺失致し候間御拾取の上御届け下され候御方おんかたへは御礼として金百円呈上可仕候つかまつるべくそろ
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おねがいです。もいちど京へ立ち戻り、かの御方おんかた達の安否をたしかめました上で、再びお後を慕い東国へせ下りますれば——」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ましてや貴人は今は世に亡き御方おんかたである。あからさまにその人をさずに、ほぼその事をしるすのは、あるいはさまたげがなかろうか。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
侍童 御方おんかたはかまかうとてはなってわせられました。とほくへはなれてゐいとおほせられましたゆゑ、わたくしはさやういたしました。
昨日きのうの雨のやどりの御恵に、まことある御方おんかたにこそとおもう物から、今よりのちよわいをもて、御宮仕おんみやづかえし奉らばや」と云った。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この御方おかたは中津の御家中ごかちゅう、中村何様の若旦那で、自分は始終そのお屋敷に出入でいりして決して間違まちがいなき御方おんかただから厚く頼むと鹿爪しかつめらしき手紙の文句で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
実に仏教の道徳を備えた御方おんかたはかくもあるべきものかと人をして讃嘆敬慕の念に堪えざらしむる事がございます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今日まで懕々ぶらぶら致候いたしさふらふて、唯々なつかし御方おんかたの事のみ思続おもひつづさふらふては、みづからのはかなき儚き身の上をなげき、胸はいよいよ痛み、目は見苦みぐるし腫起はれあがり候て、今日は昨日きのふより痩衰やせおとろ申候まをしさふらふ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
岩沼卿いわぬまきょうよばせらるるたっとき御身分の御方おんかた、是も御用にて欧州に御滞在中、数ならぬ我を見たて御子おんこなき家の跡目にすわれとのあり難き仰せ、再三いなみたれど許されねばいなみかねて承知し
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あのときばかりは、いかに武運ぶうんめぐままれた御方おんかたでも、今日きょう御最後ごさいごかとあやぶまれました。
白河法皇の女御にょうごで、最後は、ろう御方おんかたと呼ばれる、花山院の上﨟じょうろうであった。
ホームズ先生、あなたは私の秘密を、お護り下さる御方おんかたと存じますが、私は、最近私の主人から求婚されて、ここでの私の立場は、非常に難しいものになって来たと云うことをお知らせいたします。
まづ女御にようご御方おんかたにてむかしのおんものがたりなどきこえたまふに夜更よふけにけり、二十日の月さしいづるほどにいとゞ木高きかけどもこぐらうみえわたりて、近きたちばなのかをりなつかしくにほひて
さてその死なぬと申すは、近く申さば釈迦しゃかの孔子のと申す御方おんかたには、今日まで生きて御坐る故、人がたっとみもすればありがたがりもおそれもする、果して死なぬではないか〔一種霊魂不滅の観念〕。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あめはふれどゆきれど其處そこ轅棒かぢぼうおろさぬことなしとくちさがなき車夫しやふれに申せしやら、それからそれつたはりて想像さうぞうのかたまりはかげとなりかたちとなり種々さま/″\うわさとなり、ひとれずをもみたま御方おんかたもありし
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
白いおぐし御方おんかたを、又無いものとしとうては
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
御方おんかた御裳みもの端だに
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
加賀見忍剣かがみにんけんどのへ知らせん このじょうを手にされし日 ただちに錫杖しゃくじょうを富士の西裾野にしすそのへむけよ たずねたもう御方おんかたあらん 同志どうしの人々にも会いたまわん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間も彼は絶える暇なく「許すとのお言葉をくだされる、神のくにに属しまつる御一方」とは、いかなる御方おんかたおわしますぞや、それを求めそれを探した。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何がさて母君はとくに世に亡き御方おんかたなれば、出来ぬ相談と申すもの、とても出来ない相談の出来ようはずのなきことゆえ、いかなる鼻もこれには弱りて、しまいに泣寝入となるは必定ひつじょう
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ういう場合ばあいであるから何所いずくへまいるにも、そちをれる。』みことはそうおおせられたそうで、またひめほうでも、いとしき御方おんかた苦労くろう艱難かんなんともにするのがおんなつとめと、かたかた覚悟かくごされたのでした。
何も当時の君主を奢侈しゃしで人民を苦める御方おんかた見做みなす如き不臣の心を持って居たでは万々ばんばんあるまい、ただし倹約を好み人民を安んずるの六字を点出して、此故を以て漢文を崇慕するとしたに就ては
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
毎日のやうに御出おんい被成候なされさふらふて、御前様の御世話おんせわ万事被遊候あそばされさふらふ御方おんかたよしに候へば、後にて御前様さぞさぞ御大抵ならず御迷惑被遊候あそばされさふらふ御事おんことと、山々御察おんさつし申上候へども、一向さやうに御内合おんうちあひとも存ぜず
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大臣参議といえども皆戦争のちまたをくゞり抜け、大砲の弾丸たまにも運好うんよあたらず、今では堂々たる御方おんかたにお成り遊ばして入らっしゃるのでございますがまだひらけません時分、亜米利加アメリカという処はういう処か
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
宮家は比叡山の元天台座主ざす、僧家としても智行兼備の御方おんかた、何んのご躊躇するところもなく、珠数サラサラと押し揉んで、千手陀羅尼せんじゅだらにを高らかに読まれた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「むつらの御方おんかたいとやら、おさいの局の父御ててご、百合の小女房の良人、またわたくしのただ一人の身寄りも」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人の中に、やや座を開いて控えたのは、すなわちこれ才子の御方おんかた
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「……さ、さ、御方おんかた。お側へすすんで、過ぎこし方のおはなしやら、このたびのお礼をも仰せなされませ。ただ、うれし泣きにばかり暮れておいで遊ばさずと」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お京様のお身の上、さる御方おんかたなつかしがられ、お預かり致す」という文面であった。アッと仰天した一同の者、隣室へかけ込んだが、サア事だ! お京はもぬけのからであった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
全殿に火をけ、右大臣家の側衆もあらまし討ち取り、当の御方おんかた御首みしるしを挙ぐるもやがてのうちに候わん。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『そもじたち、何していやる? ……。御方おんかたにお風邪かぜでもおひかせしたら、どうしやるぞ。うつけ者よ』
(自分は、戦は好まぬが、故右大臣家(信長)の遺子わすれがたみたるこの御方おんかたのため、義に依って、戦うのである)
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私心なく、ただ御不愍ごふびんなる女性にょしょうと、末長き御幼少の御方おんかたたちのために——良人たり父たるあなた様の大乗大愛を——かくのごとくいのりまする、おすがりいたしまする
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その美しくて若い御方おんかたと、幼い姫たちは、かたわらにめぐらした金屏風きんびょうぶのうちに、可憐なかきつばたの花が、池のみぎわに群れ咲いているように、かたまり合っていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……むつらの御方おんかた、おさいつぼね百合殿ゆりどのの小女房、常葉ときわの局など、なぐさめてもなく、とり乱している。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ご親切様で……へ、へ、へ。だがネ、お米の御方おんかた、き、気の毒だが、宅助、ちッとも酔っちゃいねえ。だ、だめだよ! ……ず、ずらかろうなんて気で、どう神妙な様子を
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血と血とのつながりにかもされるうるわしい愛情を、人の上に立たれる御方おんかたからして認めぬようなご行為をなされたら、世上人心に、どういう影響を及ぼすか、恐ろしいことだ
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書中にある御方おんかたという人こそ信玄しんげんまご武田たけだ伊那丸であることまで、残るところなく説明した。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いつも同じような御返答では、児童の使いのようで、てまえも、ほとほと弱る。実を申せば、わが小田原の御方おんかた(氏政、氏直のこと)たちも、いささかごうを煮やしておるので」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
捨てても男のほうへ突ッ走るじゃござんせんか。ははあ……読めましたぜ、お米の御方おんかた
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山門内に見るには、まだ間がございましょう。……オオ死出の道、お淋しそうな。むつらの御方おんかた、お妻のお局、常葉の君も、みな私にならって、太守のおそばにいてさしあげたがよい
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐあとの女のさけびは、侍女の南の御方おんかたがあげた驚きにちがいあるまい。
オ、これは、いつぞや奥の御方おんかたが、鞍馬の遮那王しゃなおう様へ贈るといって、心を
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、思案ばかりでなく、そのよい相談相手として、自分の主人尾張守頼盛の母公ははぎみにもあたれば、また清盛の義母にもあたるちょうどいい手づるの御方おんかたとして——いけ禅尼ぜんにへも内密にすがっている。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(たのもしき御方おんかたよ。行く末いかなる大将におなり遊ばすやらん)
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『かまわぬ、何も、その御方おんかたを、お疑いしてゆくわけじゃない』
「畏れ多いおうわさでございますが、高倉天皇の第四の王子、上皇とおなり遊ばしてからは後鳥羽院と申し上げているあの御方おんかたほどな達人は先ずあるまいと下々しもじもの評でございまする」禅閤兼実かねざねはうなずいて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「砦にこもる御方おんかたはすなわち武田伊那丸たけだいなまるさまだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)