天人てんにん)” の例文
……一体いつたいが、天上界てんじやうかい遊山船ゆさんぶねなぞらへて、丹精たんせいめました細工さいくにござるで、御斉眉おかしづきなかから天人てんにんのやうな上﨟じやうらう御一方おひとかた、とのぞんだげな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これは後で見ると、悉く下の大広間の格天井ごうてんじょうに描かれた、天人てんにんの眼や、蝶々ちょうちょうの羽の紋や、牡丹ぼたんしべなどであったということです。
金色きんいろうまって、天人てんにんはなをまきながらはしっているのが、はっきりえるのだもの。」と、子供こどもはいったのです。
熊さんの笛 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつもかまどのはいすみこなにまみれたみにくい下司女げすおんなではなくって、もう天人てんにん天下あまくだったかとおもうように気高けだかい、十五、六のうつくしいおひめさまでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ロミオのをでもぐるした天人てんにんこゑきこゆる。……これ、乳母うばなん消息しらせぢゃ? ってゐやるはなんぢゃ? ロミオがっていとやったつなかや?
そのはじめ人間よりも前に、安助あんじょ(天使)とて無量無数の天人てんにんを造り、いまだ尊体を顕し玉わず。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
美人といえばそれまでですが、僕はあんな高尚な、天人てんにんのような美人は見た事がないんです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
下界の人は山頂も均しく長閑のどかならんと思うなるべし、の三保の松原に羽衣はごろもを落して飛行ひぎょうの術を失いし天人てんにんは、空行くかりを見て天上をうらやみしにひきかえ、我に飛行の術あらば
そうだ、天人てんにんの五衰を吹いているのだ。現実の切なさだ。いや、夢見る人の寂しさである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
には平袖ひらそで白衣びゃくいて、おびまえむすび、なにやら見覚みおぼえの天人てんにんらしい姿すがた、そしてんともいえぬ威厳いげん温情おんじょうとのそなわった、神々こうごうしい表情ひょうじょう凝乎じっわたくしつめてられます。
洋画家の満谷みつたに国四郎氏はこのごろ謡曲に夢中になつて、画室アトリエで裸体画の素描デツサンる時にも、「今はさながら天人てんにん羽根はねなき鳥の如くにて……」と低声こごゑうたひ出すのが癖になつてゐる。
あのくるまつて、百人ひやくにんばかりの天人てんにんりまかれて、空高そらたかのぼつてきました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
天人てんにん羽衣はごろもぎて袈裟けさけしとて斯くまで美しからじなど罵り合へりし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
天人てんにんのやうに辛抱づよく、長雨ながあめりだした。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
天人てんにんはまっすぐに翔けているのでした。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
天人てんにんじき、つらき世に、——
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
花姿はなすがた天人てんにん
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
青白あおじろたまのうちに、ひとみをこらしてますと、ゆめのような天人てんにん姿すがたがうかがわれるのであります。これこそ、ひろ世界せかいのうちで、いちばんとうといしおもわれます。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
群集の思はんほどもはばかられて、わきの下につめたき汗を覚えたのこそ、天人てんにん五衰ごすいのはじめとも言はう。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「とんでもない。天人てんにんのような人を、そんなところくことがどうしてできよう。」
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しばしば DS が天人てんにんのために苦しめらる。汝知らずや、さきの日汝が懺悔こひさんを聞きたる夫人も、「るしへる」自らその耳に、邪淫じゃいんの言を囁きしを。ただ、わが心弱くして、飽くまで夫人をさそう事能わず。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いまものうてくだされ、天人てんにんどの! さうしてたかところひかかゞやいておゐやる姿すがたは、おどろあやしんで、あと退さがって、しろうして見上みあげてゐる人間共にんげんども頭上とうじゃうを、はねのあるてん使つかひが、しづかにたゞよくもって
天人てんにんひとみなす空色の君がまなこに
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
おまえたちが、おれみたいに、ふえ上手じょうずになれば、極楽ごくらく景色けしきえるようになるよ。いま、おれふえくと、あちらで、天人てんにんたちが、みみかたむけていているのだ……。
熊さんの笛 (新字新仮名) / 小川未明(著)
肝心かんじんことひおくれた。——赤蜻蛉あかとんぼは、のこらず、ひとつものこらず、みなひとつづゝ、ひとつがひ、松葉まつばにつないで、天人てんにん八挺はつちやうぎんかいいかだのやうにして飛行ひかうした。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天人てんにんひとみなす空色の君がまなこに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
おばあさんは、はなしいている極楽ごくらくとは、だいぶようすがわっているので、びっくりしました。べつにりっぱな御殿ごてんのようなものも、またにある天人てんにんのようなものもなかったからです。
千羽鶴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
靜岡しづをかから、すぐに江尻えじり引返ひきかへして、三保みほ松原まつばら飛込とびこんで、天人てんにん見參けんざんし、きものをしがるつれをんなに、羽衣はごろも瓔珞えうらくをがませて、小濱こはま金紗きんしやのだらしなさを思知おもひしらさう、ついでに萬葉まんえふいんむすんで
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)