大胆だいたん)” の例文
旧字:大膽
なるほど、その図面には、今少年が話をしてくれたとおりの、大胆だいたんきわまる大深海だいしんかいの工事が略図りゃくずになって、したためられてあった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかるにかねてより斥候せきこうの用にてむためならきたる犬の此時このときをりよくきたりければ、かれを真先に立たしめて予は大胆だいたんにも藪にれり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
クリストは又情熱に燃え立つたまま、大勢の人々の集つた前に大胆だいたんにもかう云ふ彼の気もちを言ひ放すことさへはばからなかつた。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仲違なかたがいをしている人たちが前に歩みでて、まずずかしめを受けた者が相手の悪いことを即興そっきょうの歌にして、大胆だいたんにあざけって言いたてました。
「里見さん。あなたが単衣ひとえものを着てくれないものだから、着物がかきにくくって困る。まるでいいかげんにやるんだから、少し大胆だいたんすぎますね」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「でも、犯罪を予告してくるほど大胆だいたんなやつですから、油断はなりませんよ。あいつには、どんなてがあるか、わからないじゃありませんか。」
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とんぼは、したりてゆきました。そして、ねこのあたまうえへとまろうとして、やめて、大胆だいたんに、はなさきへとまったのです。
春の真昼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おれかね。おらあ豪傑だの大人なんていわれるような者じゃねえよ。……むむ、名はあるさ。姓はちょう、名は大胆だいたん
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらく彼女が眼を上げないのに乗じて、わたしは彼女をつくづく眺め始めたが、それも初めはぬすだったものが、やがてだんだん大胆だいたんになっていった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
佐助は夏以来ずっと押入の中でしていればよかったのだが誰も気が付きそうにないので大胆だいたんになって来たのと
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
別に耳障みみざわりしないのみならず、一首に三つも固有名詞を入れている点なども、大胆だいたんなわざだが、作者はただ心のままにそれを実行してごうもこだわることがない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
男装をして大胆だいたんに強盗を働き廻る女性。良家の令嬢を装って窃盗せっとうをする不良少女。それらのどれにめて見ても、姉の美佐子の行動はまるのだった。
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
さうしてつたところ始終しゞふそとで、たま其下宿そのげしゆくつたこともあつたけれど、自分じぶん其様そん初々うひ/\しいこひに、はだけがすほど、其時分そのじぶん大胆だいたんでなかつたとふことをたしかめた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
相当うでの立つ近江之介殿をあッと言う間に文字通り首にしたばかりか、大胆だいたんといおうか不敵ふてきと言おうか、城中番所の窓から抛り込んでおいて逐電ちくでんした喬之助のやつ
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのごうまいな日本魂にっぽんだましいと、強烈きょうれつな研究心は、かれに航海上の大胆だいたん知識ちしきをあたえた。十四人の少年が、かれをこのサクラ号の指揮者しきしゃとなしたのも、これがためである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
……真っ昼間、しかも、外に、大ぜい、客のいるところでやったというんですから、大胆だいたんといえば大胆、ばかばかしいといえば、随分、ばかばかしい話だと思うんですが。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
だんだん大胆だいたんになってきて、ごちそうをやたらに食い、酒をやたらに飲みましたので、腹はいっぱいになり酒の酔いは廻って、いい心持ちにうとうと居眠いねむってしまいました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
でも、灰色ネズミたちの数がふえてきますと、だんだん大胆だいたんになって、町なかまではいってくるようになりました。さいしょは、黒ネズミたちのすてた古い空家あきやに、ひっこしました。
寺田にしては随分ずいぶん思い切った大胆だいたんさで、それだけ一代にのぼせていたわけだったが、しかし勘当かんどうになった上にそのことが勤め先のA中に知れて免職めんしょくになると、やはり寺田は蒼くなった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
自動車の意志は、さながら余に乗りうつって、臆病者おくびょうものも一種の恍惚エクスタシーに入った。余は次第に大胆だいたんになった。自動車が余を載せて駈けるではなく、余自身が自動車を駆ってせて居るのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
勿論もちろんぼくには、馴々なれなれしく、そばによって、声をかける大胆だいたんさなどありません。ただ、あなたの横にいた、柴山のかたたたき、「なにを見てる」とたずねました。それは、あなたに言った積りでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
勇深ゆうしんなる者は温柔おんじゅうなる者、愛情あいじょう深き者は大胆だいたんなる者なり)
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
わたしはもう大胆だいたんになって、こう質問しつもんを親方に発してみた。
「馬鹿。」私が少し大胆だいたんになって悪口をしました。
(新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大胆だいたんてきかすめてそのをとこ作業さげふつゞけた
艦長の口から出た命令は、なんという大胆だいたんな、そして思いもかけぬ作戦計画でしょう。ところもあろうに、×船の腹の下に潜れというのです。
太平洋雷撃戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういって、うまちかづきました。馬子まごは、同情者どうじょうしゃがあらわれると、交通こうつう妨害ぼうがいとなって、しかられるのをおそれたけれど、いくぶんか大胆だいたんになりました。
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大胆だいたんに勇気凜然りんぜんと主人公登場、と役割書には書いてありました——この男は、いま自分をあざけり笑った見物人の前に出なければなりませんでした。——
しかしそれにしても武田の残党ざんとうを根だやしにするつもりである敵の本城地に、かく明からさまに姿をあらわしているのは、なんという大胆だいたんな行動であろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、雪明ゆきあかりに見た相手の姿は、不思議にも雲水うんすいのようでしたから、誰も追う者のないのを確かめたのち、もう一度あの茶室の外へ、大胆だいたんにも忍んで行ったのです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そういう安心があったものですから、大胆だいたんにやっていますと、客が眼を覚まして「泥坊どろぼう!」とどなりました。五右衛門はびっくりして、すぐ雨戸の隙間から外へ術で逃げ出しました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ところで大胆だいたんにそのさかずきを、わかい女に返しますとね、半分ばかり貴婦人にいでもらって、袖を膝にせながら、少し横向きになって、カチリと皓歯しらはの音がした、目をねむって飲んだんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おそらくぼくを笑わそうとして、無理におどけてみせてくれるのだと、ぼくは考えあなたの故意わざとらしさが悲しく、あなたに似合わない大胆だいたんさが苦々しくて、ぼくにはそのとき、あなたが大変
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
この大胆だいたんなふるまいには、骸骨男のほうがおどろいてしまいました。
サーカスの怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
富士男の大胆だいたんな計画に、一同は眼をみはった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
大胆だいたんといおうか、気が変になったといおうか、深山理学士の発表におどろいたのは、学界の人達ばかりだけではなかった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いくら大胆だいたん竹童ちくどうでも、まさか人穴城ひとあなじょうのなかへはいるまいと思っていると、あんのじょう、れいの望楼ぼうろう張出はりだし——さっき呂宋兵衛るそんべえたちのいたところから
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土百姓どびゃくしょうめが、大胆だいたんにも□□□□□□□□□□□(虫食いのために読み難し)とて伝三を足蹴あしげにかけければ、不敵の伝三腹をえ兼ね、あり合うくわをとるより早く
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ははねこは、まどいた、ふとんをしてある、二階家かいやにつくと、大胆だいたんにもへいをよじのぼりました。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしはあの人たちのことをはっきりと覚えています! あんなにも力強く、あんなにも決然と喜びや悲しみを語った、口もとにただよう大胆だいたん微笑びしょうが、いまもなおうかんできます。
大胆だいたんとも無謀ともいいようのないおそろしい盗賊です。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これが成功するか失敗するか、どっちとも分かっていなかった。しかしわしは、大胆だいたんにその実験をやってのけたのだ
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つぎに、こうは、どうして、たか空中くうちゅうから、りて、一ぽんつな大胆だいたんにつかむかをはなしたのです。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「む……」入道にゅうどうはじッと郷士ごうしおもてをみつめて、しばらくその大胆だいたんりにあきれていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな夫に連れ添っているより、自分の妻になる気はないか? 自分はいとしいと思えばこそ、大それた真似も働いたのだ、——盗人はとうとう大胆だいたんにも、そう云う話さえ持ち出した。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二十面相らしい大胆だいたんなやりかたではありませんか。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なお附け加えると、園長の金歯きんばは、大胆だいたんにも私の見ている前でビーカー中の王水おうすいに溶かし下水道へ流しました。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だから、あなたもらぬかおをして、その仲間入なかまいりをしていられたら、だれも不思議ふしぎおもうものはありますまい。ひとつみやこにいって、大胆だいたんにそうなさってはいかがですか。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
「もつとおのれの生活を書け、もつと大胆だいたんに告白しろ」とはしばしば諸君のすすめる言葉である。僕も告白をせぬわけではない。僕の小説は多少にもせよ、僕の体験の告白である。けれども諸君は承知しない。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それはすこぶる大胆だいたんな、そして乱暴な方法であった。だがそれが今残されたる只一つの道であるのだ。トロ族の群衆は、今僕の身体をきにしようと思っている。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)