むくい)” の例文
……ああ、これも皆聴水が、悪事のむくいなりと思へば、他を恨みん由あらねど。這奴しゃつなかりせば今宵もかく、罠目わなめの恥辱はうけまじきに
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
言うだけの事はないよ、——まるッきり、お前さんがよくばかりでだましたのでみた処で……こっちは芸妓げいしゃだ。罪もむくいもあるものか。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あゝげに聖なる處女をとめ等よ、我汝等のために饑ゑ、寒さ、または眠りをしのびしことあらば、今そのむくいを請はざるをえず 三七—三九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
十字架にけられし二盗賊の死は罪の当然のむくいとしての死である。しかし同じく十字架に釘けられしイエスはその正反対である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
きじき竜戦ふ、みづからおもへらく杜撰なりと。則ち之を摘読てきどくする者は、もとよりまさに信と謂はざるべきなり。あに醜脣平鼻しうしんへいびむくいを求むべけんや。
りますの。これは皆神様のおばちだと存じます。自分でいたした事のむくいだからいたし方がございません。ほんに/\お恥かしい。
「あさ子、堪忍してくれ、みんな俺が悪いのだ。俺の罪のむくいがお前にあらわれたのだ」と、涙ながらに歎息するのであった。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
皆すさまじげなる気色けしきして、「狂人」と一人いへば、「近きにむくいせではまじ」と外の一人いふを、戸口にて振りかへりて。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
今日までの成跡せいせきを以て見ればいまだ失望の箇条もなく、先ずついやしたる財と労とにむくいけの功をばそうしたるものというべし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
爾時そのとき一の年わかき婦人ありて、我前に來りひざまづき、我手を握り、その涙にうるほへる黒き瞳もて我面を見上げ、神の母のむくいは君が上にあれと呼びたり。
「ぢや………。」とつてしばらく黙つたのち、「いやだらうけれど当分辛抱しんばうしなさい。親孝行して置けば悪いむくいはないよ。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そうしてそれだけの善い事をしたむくいには、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ともかくも触らば散ろうという下心のおのずから素振りに現われるに「ハハア」と気が附て見れば嬉しく難有ありがたかたじけなく、罪もむくいも忘れ果てて命もトントいらぬ顔付。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
実はそれだけで辛苦努力のむくいは酬われているのです。あとは雨降らば降れ、風吹かば吹けです。だが、そうなると却って形の上の成功も案外伴って来るものです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お気の毒じやと言ひたいが、やはり貴方が自らせる罪のむくいで、固よりかく有るべき事ぢやらうと思ふ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
善をなすことのむくいは、では結局、善をなしたという満足の外には無いのか? 師の前では一応納得したような気になるのだが、さて退いて独りになって考えてみると
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
なんじら断食だんじきするとき、偽善者のごとく、悲しき面容おももちをすな。彼らは断食することを人にあらわさんとて、その顔色をそこなうなり。誠になんじらに告ぐ、彼らは既にそのむくいを得たり。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
悪業といふは、悪は悪いぢゃ、ごふとは梵語ぼんごでカルマというて、すべて過去になしたることのまだむくいとなってあらはれぬを業といふ、善業悪業あるぢゃ。こゝでは悪業といふ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
うらみむくいもない御当家へ参つて、こんなことを申上げる私は可なり苦しい思ひを致してゐるのでございます。然し、これも全く、使はれてゐます主人の命令でございますから。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
あしを截り去れば脚また生じ、金の頭金の手金の脚家充満いっぱいとなりて、爛々燦々らんらんさんさんと輝きわたりければ、この事王の耳に入りしが、仔細しさいを問ひ玉ふに及びて、これ善行のむくいなりと知れ
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
自分の神経は、自分に特有なる細緻さいちな思索力と、鋭敏な感応性に対して払う租税である。高尚な教育の彼岸に起る反響の苦痛である。天爵てんしゃく的に貴族となったむくいに受ける不文の刑罰である。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それに今承りますればとがむくいも無え嫁ッ子さんが離縁になって兄さんが小言をいいながら船へれ込むと、嫁さんがわしのような詰らん身の上は無えって、泣きながら船へ這入へえるのを見て
幽明ゆうめい物心ぶっしん死生しせい神人しんじんの間をへだつる神秘の一幕いちまくは、容易にかかげぬ所に生活の面白味おもしろみも自由もあって、みだりに之を掲ぐるのむくいすみやかなる死或は盲目である場合があるのではあるまいか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
諸君、誠実な煩悶にはきつといいむくいがあるものだ。斯うして、誠実な村人は一日に二度の大酒盛にありつくことができたのである。が、寒原半左右衛門といへども決して大損はしなかつた。
村のひと騒ぎ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
曾てイスラエルの王アハブが隣の民の葡萄園を貪り、こうイゼベル夫の為にはかつて其民を殺して葡萄園を奪ひ、其むくいとしてイゼベルは後王宮の窓より投落なげおとされ、犬其肉をくらひしと伝へらるゝ所。
真赤な胸の毛が水に映って、近づいて飲もうとすると水が火に見えるという(『旅と伝説』二巻一号)。それから下流の長篠ながしの附近でも、この鳥前生にしゅうとめを虐待して、そのむくいを以て鳥に生れた。
那樣事そんなことい、たとへば御覽ごらんなさい、貴方あなた中風ちゆうぶにでもかゝつたとか、あるひかり愚者ぐしや自分じぶん位置ゐち利用りようして貴方あなた公然こうぜんはづかしめていて、れがのちなんむくいしにんでしまつたのをつたならば
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
子のこころ親のをしへになびかぬは己が背きしむくいなるらん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
心から出た善行のむくいは次第に大きくなります。10620
世人はそれを孝友のむくいだといった。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
罪もむくいもない可憐の一少年が
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
早く善悪すべむくいなしと知らば
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
世の路よけつるむくいありて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
彼を選びてかゝるさいはひに到らしめ給ひし者、彼を召し、身をひくうして彼の得たるむくいをば與ふるをよしとし給へる時 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
これがむくい一一三虎狼こらうの心に障化しやうげして、信頼のぶより隠謀いんぼうにかたらはせしかば、一一四地祇くにつがみさかふ罪、さとからぬ清盛きよもりたる。
そのすつるところのものは、形体に属する財物か、または財にひとしき時間、心労にして、そのむくいとして得るものには、我が情を慰むるの愉快あり。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「われはその菫花すみれうりなり。君がなさけむくいはかくこそ。」少女は卓越たくごしに伸びあがりて、うつむきゐたる巨勢がかしらを、ひら手にて抑へ、そのぬか接吻せっぷんしつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「じゃ……。」といって暫く黙ったのち、「いやだろうけれど当分辛抱しなさい。親孝行して置けば悪いむくいはないよ。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
最愛いとしい、沢山たんとやつれ遊ばした。罪もむくいもない方が、こんなに艱難辛苦かんなんしんくして、命に懸けても唄が聞きたいとおっしゃるのも、おっかさんの恋しさゆえ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目の暮れぬ内にテルラチナに着き給ふべしといひぬ。我は此人々にむくいせんとおもふに、拿破里にて受取るべき爲換かはせの外には、身に附けたるものなし。
罪を罰し悪をただし規律を維持するをのみ神の属性と見做みなす時、人はわが罪のむくいを怖れて平安やすきを得ない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
悪業というは、悪は悪いじゃ、ごうとは梵語ぼんごでカルマというて、すべて過去になしたることのまだむくいとなってあらわれぬを業という、善業悪業あるじゃ。ここでは悪業という。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これはおいを遠矢にかけて、その女房を奪ったとやら申すむくいから、左の膝頭にその甥の顔をした、不思議なかさが現われて、昼も夜も骨をけずるような業苦ごうくに悩んで居りましたが
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
うらみむくいもない御当家へ参って、こんなことを申上げる私は可なり苦しい思いを致しているのでございます。しかし、これも全く、使われています主人の命令でございますから。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さ候へば私事わたくしこと如何いかに自ら作りし罪のむくいとは申ながら、かくまで散々の責苦せめくを受け、かくまで十分に懺悔致ざんげいたし、此上は唯死ぬるばかりの身の可哀あはれを、つゆほども御前様には通じ候はで
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
無心の口々長閑のどかに、拍子取りつれて、歌は人の作ながら声は天のおと美しく、よくは百ついて帰そうより他なく、うらみはつき損ねた時罪もむくいも共に忘れて、恋と無常はまだ無き世界の、楽しさうらやましく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼方此方あちこちと身の置きどころのねえ風来人間で仕方がねえが、是もみんな人に難儀を掛け、悪い事をしたむくいと思って諦めているが、何商売を仕度したくも資本もとでがないのだ、てめえまぶな仕事を安田と相談していたが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そんなことはい、たとえば御覧ごらんなさい、貴方あなた中風ちゅうぶにでもかかったとか、あるいかり愚者ぐしゃ自分じぶん位置いち利用りようして貴方あなた公然こうぜんはずかしめていて、それがのちなんむくいしにんでしまったのをったならば
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
貧しきも老の憂目うきめもふた親にわがつらかりしむくいなるらん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
あの時喜んでした事のむくいに、今ここで逢うのかなあ。