こう)” の例文
そうっておじいさんは一こう取済とりすましたものでしたが、わたくしとしては、それではなにやらすこ心細こころぼそいようにかんじられてならないのでした。
武蔵は、三名のなかへ割って入ると、こうの者を、大刀で一さつの下に断ち伏せ、左側の男を、左手で抜いた脇差で、横にいだ。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
標題楽嫌いをこうに振りかざしたルービンシュタインですら、リストの編曲の珠玉篇には帽子を脱いでいるのは興味の深いことである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
いかにも先方は恐れ入ったように聞こゆるけれども、さて先方にただしてみると、一こうやられたともなんとも歯牙しがにかけないでおることがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
けれども人形は一こうきませんでした。さあ甚兵衛はよわってしまいました。でも一いいだしたことですから、いまさら取消とりけすわけにはゆきません。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
受けず払わず横へそれず、猛然とした広太郎、こう手一杯に打ち込んだ。すなわち長短一味の太刀、三尺の剣はこの瞬間、九尺やりと一変する。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なになにやら、一こう見当けんとうかなくなった藤吉とうきちは、つぎってかえすと、箪笥たんすをがたぴしいわせながら、春信はるのぶこのみの鶯茶うぐいすちゃ羽織はおりを、ささげるようにしてもどってた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いくらあッしが掛け合いにいっても、打つ、殴る、蹴るの散々な目に会わせるだけで、一こうらちが明かねえんでごぜえますよ。いいえ、命はね、決して惜しくねえんです。
「まあ、わたしに言わせると、尊攘ということを今だにまっこうから振りかざしているのは、水戸ばかりじゃないでしょうか。そこがあの人たちの実に正直なところでもありますがね。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、三四年前に半年あまり一しよはぎじゆんだんの高弟(?)となつておほいに切琢磨たくましたのだが、二人とも一こう力がしん歩しない所までてゐるのだから、いさゝ好敵こうてきぎるきらひもある。
そうして支那人のうしろにまわると、腰の日本刀を抜き放した。その時また村の方から、勇しい馬蹄ばていの響と共に、三人の将校が近づいて来た。騎兵はそれに頓着とんちゃくせず、まっこうとうを振り上げた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「何あに、一こう
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「くそッ——」とばかり、十手をこうに飛びかかッてゆくと、周馬はまたも五、六歩逃げて、キラリと前差まえざし小太刀こだちを抜いた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現在げんざいわたくしとて、まだまだ一こう駄眼だめでございますが、帰幽当座きゆうとうざわたくしなどはまるでみにくい執着しゅうじゃく凝塊かたまり只今ただいまおもしてもかおあからんでしまいます……。
藤吉とうきちにも、んで師匠ししょう堺屋さかいやたせるのか、一こう合点がってんがいかなかったが、めていた気持きもちきゅうゆるんだように、しょんぼりといけ見詰みつめてっている後姿うしろすがたると
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こう上段に振りかぶり、さらにある者は破壊用の、巨大な槌を斜めに構え、「たかが三ピンただ一人、こいつさえ退治たらこっちのもの、ヤレヤレヤレ! ワッワッワッ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「はあ、一こう
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こう見当がついて来ないので、日本左衛門も手を下しようがなく、夜光の短刀の手懸りと共に、あれ以来の日は空しく過ぎておりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三十ねんもうすと現世げんせではなかなかなが歳月つきひでございますが、こちらではときはか標準めあてせいか、一こうそれほどにもかんじないのでございまして……。
返事へんじ如何いかにも調子ちょうしがよかったが、肝腎かんじん駕籠かごは、一こうぱしってはくれなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
真っ二つにされた筈でございます。ワッ、やられた! と叫びながら、足もとを見ると妹のお霜が、こうから胸板まで、切り割られて仆れておりました。身代りになったのでございます。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いつもこそこそと拙者をつけねろうておるくせに、なぜ今ここへこうに躍り立って、いさぎよく弦之丞へ名乗りかけぬか。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此方こなた花村甚五衛門は一党の軍勢を引き連れて燃える松火たいまつに路を照らし山の中腹を伝って行く。軍令厳しく兵誇らず、初冬の夜風をこうに受けて、一列縦隊ただ粛々しゅくしゅくと南へ南へと進むのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その、無法な胆気たんきと、国光のみだれにおびやかされて、周馬は少し気を乱しながら、こう兵字構ひょうじがまえに直って、寄らば——とまなこをいからせた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍令、政令、すべてはここからという形をととのえ、後醍醐の大本営叡山と、その対峙をこうにしたものだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こうこうの先陣は、公綱きんつなが受け持った。千早一番乗りは公綱がつかまつれば、この手はおまかせねがいたい」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と書いて棄権きけんしても一こう差支さしつかえないのですが、あとになって、当然知っていながら逃げたと分ると、これまた下手人同罪をまぬかれない破滅を求めるので
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう、利害も理想も、武士大衆とは、根本からちがっていたのだ。——得意絶頂にある朝廷方は期している。
ですが、彼等にしてみれば、この小仏の日ごとに往復している帳場なので、難路も一こう難路ではありますまい。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とさけびながら佐分利さぶり五郎次、三日月みかづきのごとき大刀をまっこうにかざして、加賀見忍剣かがみにんけん脳天のうてんへ斬りさげてくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つかまんを持していた弦之丞の片肘かたひじ、ピクリッと脈を打ったかのごとく動いて、こうに躍ってきた影をすくうかとみれば、バッ——とさやを脱した離弦りげん太刀たち
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥州みちのくに武者も多いが、そちはこう二心を持たぬ奥州ざむらい。そう見込んだがゆえ、いいつけたのだが」
敵のいる陣ノ腰から名島の方を望むたびに、そのこうから吹きなぐッて来る北風が、かぶとの鉢金はちがねやよろい金具に砂音すなおとをたて、皮膚の出ている部分は痛いほどだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たまかぶとの鉢の真ッこうあたったので、倒れたのは、一時眼がくらんだだけに過ぎなかったのだ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とたんに、若者のこぶしが、うなりをもって、真ッこうへ来たので、宋江は無意識に身をかわした。「……うぬ」と、突ンのめった巨体から、こんどはほんものの怒りが燃えたらしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十手よりやや長めなハチワリを持って、こうから、かれの小手を叩き伏せようとした。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここまでいうと、龐統はもうこうに孔明の説に反対を唱える者になっていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんのことはない、この四人だけは、真っこうに、神殿へ向ってたてを突きに来たような歩き方だ。だが、上までのぼりきると、拝殿のほうには一べつも与えないで、ひたいの汗を押しぬぐっている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこをこう胸落むなおとし! 切ッさきはなお余って、膝行袴たっつけの前まで裂いた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深重しんちょうな策をめぐらすでもなく、全軍数千にもたりない小勢で、それも一角へ当たるというようなこころみでなく、まっこう、敵の師直のふところ深い本陣へむかって猛然斬り込んで行ったのだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大勘は道中差を抜いて、かれのこうを待ちかまえた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
図星をさしてこうから対手あいてきもくじきにかかった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師直は、声をころし、眉の真ッこうで弟を叱った。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、感づいて、ふりかえった彼のこう
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、こう、腹を申しおりまする」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一こうに存ぜぬが」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)