あい)” の例文
しかしいまさらどうもする事が出来ないから、それなりにして、未来の細君にはちょっとしたできあい指環ゆびわを買って結納ゆいのうにしたのです
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
アア、そうそう、この犯罪には星田さんもかかりあいがあったのでしたね。その『完全な犯罪パーフェクト・クライム』っていう合言葉みたいなものは、一体何を
彼等はつまらぬかかわあいになってはと思ったものか申し合わせたように兄と笛吹川画伯との争論を耳にしたことは言いませんでした。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
借家はもう半月もして水泳場が閉鎖へいさすると同時にたちまち二人に必要になるのだが、価値のあいなどで敬蔵はなかなか見つけかねた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あいが抜けるだろうという心配は無用の心配で、米友は米友らしい一人芸で、客をうならすことができるものと認められます。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すでに肚と肚で語り合っていた後藤基国や小森与三左衛門などもその中にはじっていることなので、はなあいは極めて円滑にすすんだ。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おまえさんより、おんなだもの。あたしのほうが、どんなにいやだかれやしない。——むかしッから、公事くじかけあいは、みんなおとこのつとめなんだよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼岸前ひがんまえの農家の一大事は、奉公男女の出代でがわりである。田舎も年々人手がすくなく、良い奉公人は引張りあいだ。近くに東京と云う大渦おおうずがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いままでやらしておいて、帰れはねえでしょう。旦那、そりゃあ殺生せっしょうですよ。なるほど愚痴は言いましたろう、が、いわばそいつはあいの手。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
また此処ここあい宿しゅくで、さし当りほかに稼ぐ方法がなかった。彼としては、むしろ相当な思いつきだと考えたくらいであった。
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
変えて飛出しては、斬りあいがあった、さらし物があったと、三里も五里も歩き廻って、暗くなってから、狐が落ちたような顔で帰って来るんだもの
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あいへだての襖が一斉に、どちらからともなく蹴開けひらかれて、敷居越しに白刃しらはが入り乱れ、遂には二つの大広間をブッ通した大殺陣が展開されて行った。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私も未だ試験慣れのせぬうち、ふと其かねあいを外しておッこちた時には、親の手前、学友の手前、流石さすが面目めんぼくなかったから、少し学校にも厭気が差して
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それが物変り星移りの、講釈のいいぐさじゃあないが、有為転変、芳原でめぐりあい、という深い交情なかであったげな。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
徳「直ぐに帰るから、ちっと無くてはいけないから、五両でも三両でも……係りあいの事が有って車を置いて来た」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私どもの屋敷ではこの三つの藩邸と凧合戦をした。からんで敵の凧をこちらへ取ったのが勝となっていた。遂には罵りあいを始め、石の投げ合までにも及んだ。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
上方唄かみがたうたあいの手のような三味線を聞くことを好み、芸で身を立てるような人達を相手に退屈な時を送ったこともあるが、如何いかなる場合にも自分は傍観者であって
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ここたちまち掴みあいが始まった、上になり下になり、たがいに転げて挑み争ううちに、何方どっちが先に足を滑らしたか知らず、二人は固く引組ひっくんだままで、かたえの深い谷へ転げちた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして風雅人鑑賞家として知られた孫七峯そんしちほうとつづきあいで、七峯は当時の名士であった楊文襄ようぶんじょう文太史ぶんたいし祝京兆しゅくけいちょう唐解元とうかいげん李西涯りせいがい等と朋友ともだちで、七峯のいたところの南山なんざん
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
非常に時間がかかって料理用の間にあいませんから軽便法けいべんほうで剥いた者を炒りますけれどもこれも強い火で炒ると外面焦うわこげがして中へ火がとおりません。弱い火で気長に炒るのです。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それを空気がして押さえてあるんだ。ところがかまいたちのまん中では、わりあい空気が押さないだろう。いきなりそんな足をかまいたちのまん中に入れると、すぐ血が出るさ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ある論者は今なほチョボの文句のはなはだ拙劣にしてしかもまた無用の説明に過ぎざることを説けどもこはいたずらにその辞句のみを見て三絃のあいとその節廻ふしまわしを度外に置きたるがためのみ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その間庄造は「うツ」とか、「ペツ、ペツ」とか、「ま、待ちいな!」とかあいを入れて、顔をしかめたり唾液つばきを吐いたりするけれども、実はリヽーと同じ程度に嬉しさうに見える。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うそんなお話はめに致しましょうね。でも貴郎、かかりあいになるといけませんから、他人様ひとさまにマンドリンの音を聞いたなどと仰有おっしゃらない方がようございますよ」折江は良人おっとの顔を
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
これもやっと体得して見ると、畢竟ひっきょう腰のあい一つである。が、今日は失敗した。もっとも今日の失敗は必ずしも俺の罪ばかりではない。俺は今朝けさ九時前後に人力車じんりきしゃに乗って会社へ行った。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
結局は姉妹きょうだいのあさましいあいになって、お互に気まずい思いの数々を、味わわなければならぬと思うと、今更美沢に手紙一つ書きにくく、電話一つかけにくいような、割切れないものが
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ボヘミヤン・ネクタイ、あいオーバ、(少しよごれた流行いろの薄茶)それから羅紗の合帽子(少し穢れた流行色の薄茶)手にはケン、足には赤靴、栄養不良らしい蒼黒い顔、唇と来たら鉛色である。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
面胞にきびが一ぱいな、細長い黒い顔、彼らの一人息子で、父六郎と同職業のいささか新智識であるところの少年と青年のあいが、母親譲りの、細い小さな眼をもって、赤いシャツを着て出て来た。
日本人と外国人とのあいを日本人とや申さん外国人とや申さんとしやれたると同じ事にて、しやれにもならぬつまらぬ歌に候。この外の歌とても大同小異にて駄洒落だじゃれか理窟ツぽい者のみに有之候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
海岸地方にはあいなかなか多かりしということなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
闇太郎は面白そうに微笑して、あいふすまをあけて見せた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あいまでも教え、はては自分が得意になって、かなりの美音でうたい出しましたから、一座もなんとなく陽気になってきました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「へえー」と細君があいのない返事をする。「此年ことしの春突然手紙を寄こして山高帽子とフロックコートを至急送れと云うんです。 ...
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二階は二間で、一方は六畳の畳敷き、一方は四畳半にベッドを置いて、あいの仕切りに血のような色のカーテンが深く垂れていた。
薔薇夫人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
前に述べました「鼻ぐすり」の代りに掛け引き一つで行こうとする極めて徳用向きな——同時に千番に一番の兼ねあい迄に緊張した鼻の表現であります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いまではこの柳原やぎはらあい宿しゅくになったから、おすげちゃんもしようがない、ここの柏屋へ住み込んだわけなの」
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いたずらものが、二、三羽、親の目を抜いて飛んで来て、チュッチュッチュッとつつきあい喧嘩けんかさえる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清「イエ何う致しまして誠に不束者ふつゝかもので、屋敷育ちでとん町家まちや住居すまいを致した事がないので様子あいを一向に心得ませんから皆様に不行届勝ちで、それに一体無口で」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「権次さん、黙って居ておくれ、腹でも立てなきゃア、私は後藤の小倅のところへ行く張りあいが無い」
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
かびはえ駄洒落だじゃれ熨斗のしそえて度々進呈すれど少しも取りれず、随分面白く異見を饒舌しゃべっても、かえって珠運が溜息ためいきあいの手のごとくなり、是では行かぬと本調子整々堂々
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雨は帆布をたたいて、滝のように白くあふれていた。さらに、くうへ、奈落ならくへ、ゆれかえるあいの動揺!
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心配なのは数学の奴だが、それをも無理に狼狽あわてた鵜呑うのみ式で押徹おしとおそうとする、又不思議と或程度迄は押徹おしとおされる。尤も是はかねあいもので、そのかねあいを外すと、おっこちる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
遠い神仏しんぶつを信心するでもなければ、近所隣の思惑おもわくや評判を気にするでもなく、流行はやりとか外聞がいぶんとかつきあいとか云うことは、一切禁物で、たのむ所は自家の頭と腕、目ざすものは金である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その間庄造は「うッ」とか、「ペッ、ペッ」とか、「ま、待ちいな!」とかあいを入れて、顔をしかめたり唾液つばきを吐いたりするけれども、実はリリーと同じ程度に嬉しそうに見える。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なにがも、かにがもあるもんじゃねえ、まかり間違まちがや、てえしたさわぎになろうッてんだ。おめえンとこだって、芝居しばいのこぼれをひろってる家業かぎょうなら、万更まんざらかかりあいのねえこともなかろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ここではこれを青年部ととなえていて、絶えずどたばたなぐあい喧嘩けんかがある。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「なるほどそういう意味あいだったの。あたし叔父さんに感謝しなくっちゃならないわね。だけどまだほかに何かあるんでしょう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ああなっても少しふざけ過ぎます、まあ、夜半亭と大雅堂のあいの子といったようなところで、軽く刷いてみておりますがね」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかしあの様な馬鹿馬鹿しいいたずらを、誰が何のためにやるのでしょう。私を驚かすためにか、そんな懇意こんいな知りあいは、この湖畔亭にはいないのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たといそれがドンナに不思議な、又は、恐ろしい精神科学的現象の重なりあいであるにせよ、私自身にとっては決して、夢でもなければうつつでもない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)