両肱りょうひじ)” の例文
旧字:兩肱
代助は今読み切ったばかりの薄い洋書を机の上に開けたまま、両肱りょうひじを突いて茫乎ぼんやり考えた。代助の頭は最後の幕で一杯になっている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
力がなえきってみえた父は、最後の努力でもするように、おせいの方に向きなおって、膝の上に両肱りょうひじをついて丸っこくかごまった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
成政は、その精力的な体を、両肱りょうひじに誇張して、頭の粗雑を舌でおぎなってゆくような雄弁で、日頃の抱懐ほうかいを、呶々どどと、云いまくした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お君は脇息きょうそくの上に両肱りょうひじを置いて、暫らくの間、ほてる面を押隠していましたが、そのうちにウトウトと眠気がさしてきました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
茂吉が覗きこむようにするとその気配に気付いて彼は振返ったが、慌てて何かを隠そうとするように両肱りょうひじを曲げた、しかし茂吉はそれより早く
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
見る見る、お前さん、人前も構う事か、長襦袢の肩を両肱りょうひじへ巻込んで、てめえが着るように、胸にもすねにもからみつけたわ、すそがずるずると畳へく。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
城主丹羽にわ長国は、置物のようにじっと脇息きょうそく両肱りょうひじをもたせかけて、わざとあかりを消させた奥書院のほの白いやみの中に、もう半刻はんとき近くも端座しなが
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
が、彼は私と顔を合わすと、昔風に両肱りょうひじを高く張ってうやうやしくかしらを下げながら、思ったよりも若い声で、ほとんど機械的にこんな挨拶のことばを述べた。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで、両肱りょうひじをついて、土竜もぐらの掘った塚を見渡してみる。それは、老人の皮膚にもりあがる血管のように、電光形を描いて地面にもりあがっている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
あるひは両肱りょうひじを膝の上につき書物の上にその顔を近寄せ物読みふけりたる、あるひは片手に小さき鏡をかかげの手を後に廻してたぼの毛をき上げたる
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ジャヴェルは橋の欄干に両肱りょうひじをもたせ、あごを両手に埋め、濃い口髭くちひげ爪先つまききで機械的にひねりながら、考え込んだ。
さて暫くくうにらみいて、忽ち激しき運動にて両手を顔に覆い、両肱りょうひじを机に突き、死人の如く動かずにすわりいる。○暫くありて、戸口よりモデル娘きたる。
「厭な人ね。」と、お庄は机の端に両肱りょうひじをついて目をみはっていたが、いきなり手を伸ばして巻紙を引ったくった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ハッと思ううちに、貴婦人は昨夜ゆうべの如く、長いすそいてするすると窓の口へ立寄たちよって、両肱りょうひじを張って少しかがむかと見えたが、何でも全身の力を両腕に籠めて
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼女は藤色の衣をまとい、首からは翡翠ひすい勾玉まがたまをかけ垂し、その頭には瑪瑙めのうをつらねた玉鬘たまかずらをかけて、両肱りょうひじには磨かれたたかくちばしで造られた一対のくしろを付けていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
私は両肱りょうひじで体を支えて実に苦しい姿勢をしながら寝て、折々一二本弱いのに漕いではへさきを岸の方へ向けた。
それから机の上にのしかかって両肱りょうひじを立てると、呆然となっている私の鼻の先に、煙草のやにで黄色くなった右手の指を突きつけて一句一句私の頭の中へ押し込むようにして説明した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
火鉢のふちに両肱りょうひじを立てて、ちょうどさかずきを目の高さに持っていた女は、口元まで持っていったのをやめて、じっとそれに見入った。両方とも少しだまった。と、女は顔をあげで
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
太った男は、ひざの上に両肱りょうひじをついて、その上に首を垂れて、モゾモゾと答えた。そんなつまらない会話が、しばらく続いていた。紋三は、一寸法師に習って、長い間二人から目を離さなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は食卓に両肱りょうひじをつき、彼女と向かい合いにすわって、今後どんなことをするか、それを彼女に話してやった。彼女はやさしい疑念の様子でそれに耳をかし、スープがめてしまうと静かに注意した。
彼はテーブルに両肱りょうひじいた。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「小野清三様」と子昂流すごうりゅうにかいた名宛なあてを見た時、小野さんは、急に両肱りょうひじに力を入れて、机に持たしたたいねるようにうしろへ引いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれらはがやがや騒ぎながら、蒸気河岸のほうへもどっていった。先生は難をのがれてほっとし、机に両肱りょうひじもたれ、手で額を支えながら眼をつむった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
龍太郎りゅうたろうしかり、小文治こぶんじしかり、蔦之助つたのすけ忍剣にんけんも、髀肉ひにくたんをもらしながら、四本のくさりでとめられた四ひきひょうのような眼光がんこうをそろえて両肱りょうひじっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
残された竜之助は、この時、クルリとこたつの方へ向き直って、やぐらの上へ両肱りょうひじをのせて、てのひらでかおをかくして、じっとうなだれてしまいました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あるひは若き女二人互に身を畳の上に投げ出し両肱りょうひじをつき手先を組合せて指相撲ゆびずもうをなせる、あるひはまた二人ふたりの小娘連れ立ちてその一人ひとりは他の肩に片手をかけ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
マドレーヌがその恐ろしい重荷の下にほとんど腹いになって、二度両肱りょうひじ両膝りょうひざとを一つ所に持ってこようとしてだめだったのが、見て取られた。人々は叫んだ。
と、その両肱りょうひじたなのようなものに支えられて、ひざがしらも堅い足場を得ていた。クララは改悛者かいしゅんしゃのように啜泣すすりなきながら、棚らしいものの上に組み合せた腕の間に顔を埋めた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その鯉口こいぐち両肱りょうひじ突張つっぱり、手尖てさきを八ツ口へ突込つっこんで、うなじを襟へ、もぞもぞと擦附けながら
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのそばに甚だ深く造りたる凭掛よりかかり椅子いすあり。凭りかかるところ堅牢けんろうに造りありて、両肱りょうひじを持たする処を広くなしあり。この椅子に向き合せて、木部を朱色の漆にて塗りたるとうの椅子あり。
彼が振り返って姉の方を見ると、姉は丁度躑躅つつじをひき抜こうとしている両肱りょうひじを下腹にあてがって後へかえろうとしている所であった。彼は姉の大切な腹の子供に気がついて跳ね起きた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
踏みはだけた膝の上に両肱りょうひじを突張って、二三度大きく唾をみ込むうちに、みるみる蒼白まっさおな顔になりながら、物凄いまなこで相手を睨み付けた。唇をわななかせつつ肺腑はいふを絞るような声を出した。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうしてそのたびに、下にしている方の肩の骨を、蒲団ふとんの上ですべらした。しまいには腹這はらばいになったまま、両肱りょうひじを突いて、しばらく夫の方を眺めていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竹童ちくどうは、ここでいささか得意気とくいげに、ちいさな体をちょこなんとかしこまらせ、両肱りょうひじをはって、ことばをつぐ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は久しぶりで机に向い、それへ両肱りょうひじをついて、厨口のもの音をなつかしいような気持で聞いていた。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蝋燭ろうそくを消して彼はもうだれにも見らるることがないと思った。そこで彼はほっと安心した。両肱りょうひじをテーブルの上につき、てのひらに頭をささえ、暗やみのうちで瞑想めいそうしはじめた。
机に両肱りょうひじをついて、あご両掌りょうてで受けて、じっと庭前をながめこんだのであります。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
向うに仰様のけざまに寝て、両肱りょうひじを空に、後脳を引掴ひッつかむようにして椅子にかかっていたのは、数学の先生で。看護婦のような服装で、ちょうど声高に笑ったおんなは、言わずとも、体操の師匠である。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長襦袢の袖口そでぐちはこの時下へと滑ってその二の腕の奥にもし入黒子いれぼくろあらば見えもやすると思われるまで、両肱りょうひじひしの字なりに張出してうしろたぼを直し、さてまた最後にはさなが糸瓜へちま取手とってでもつまむがように
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
餉台ちゃぶだいの上に両肱りょうひじを突いた叔父が酔後すいごあくびを続けざまに二つした。叔母が下女を呼んで残物ざんぶつを勝手へ運ばした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大月玄蕃が咄嗟とっさの構えは、赤樫三尺の木剣を天辺にかざし、右手めて鍔根つばねを堅く、左手ゆんでは柄頭を軽く持って、円を描いた両肱りょうひじの中から、巨眼をみひらいて敵の隙をうかがいながら
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両肱りょうひじは骨立ち、両膝りょうひざは皮膜があらわで、傷口からは肉が見えており、銀の荊棘いばらの冠をかぶり、金のくぎでつけられ、額には紅玉ルビーの血がしたたり、目には金剛石ダイヤの涙が宿っている。
先生は難をのがれてほっとし、机に両肱りょうひじもたれ、手で額を支えながら眼をつむった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
唐金からかね獅噛火鉢しがみひばちの縁に両肱りょうひじを置いて、岩永左衛門が阿古屋の琴を聞いている時と同様の姿勢を崩さない当の談敵はなしがたきが、眼前に眼をなくしていることに、ふいと気がついたものだから失笑し
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くくりあごの福々しいのに、円々とした両肱りょうひじ頬杖ほおづえで、薄眠りをしている、一段高い帳場の前へ、わざと澄ました顔して、(お母さん、少しばかり。)黙って金箱から、ずらりと掴出つかみだして渡すのが
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松本は大きな火鉢ひばちふち両肱りょうひじを掛けて、その一方の先にある拳骨げんこつあごの支えにしながら敬太郎けいたろうを見た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正成は言って、み車のながえの下に坐り、地へつけた両肱りょうひじと平行に、かしらを低く垂れていた。
両手を差し上げ、恐ろしいうなり声を出し、砂浜の上につめを立ててその灰のようなものにつかまろうとし、半身像の柔らかい台から脱するため両肱りょうひじに身をささえ、狂気のように泣き叫ぶ。
旅装の客は両肱りょうひじをついて頬を支え、老人の言葉を聞きながら眼をつむった。
夜の蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
月心院の一間で、机竜之助が、頭巾も取り、被布も取払って、真白な木綿の着衣一枚になって、大きな獅噛火鉢しがみひばちの縁に両肱りょうひじを置いて、岩永左衛門が阿古屋あこやの琴を聞くような形をして、黙然としている。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)