きざはし)” の例文
もう一度夜のやうな空を飛んで、森羅殿の前へ帰つて来ると、さつきの通り杜子春をきざはしの下に引き据ゑながら、御殿の上の閻魔大王に
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(今度は悠然ゆうぜんとしてきざはしくだる。人々は左右に開く)あらび、すさみ、濁り汚れ、ねじけ、曲れる、妬婦ねたみおんなめ、われは、先ず何処いずこのものじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われはロメオの夜な/\通ひけん石のきざはしみて、かつて盛に聲樂を張りてヱロナの名流をつどへしことある大いなる舞臺に上りぬ。
きざはしを上がりきらぬ所に薫がすわると、宮はもっと上にともお言いにならず、御自身も欄干おばしまによりかかって話をおかわしになるのであった。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
きょうの泊りのことを知りて出迎えし「リフレエ」着たる下部しもべに引かれて、白石はくせききざはしのぼりゆくとき、園の木立をるゆう日朱のごとく赤く
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
手に手に吹矢のつつ弾弓はじきゆみ、鳥笛などをもてあそび、べつの一組は、きざはしの口を立ちふさいで、通せンぼをしているとしか思われない群れである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瑠璃珊瑚るりさんごちりばめた金冠の重さに得堪えぬなよやかな体を、ぐったり勾欄にもたれて、羅綾らりょう裳裾もすそきざはしの中段にひるがえし、右手に大杯を傾けながら
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
我等さいはひなる天使の許にいたれるに、彼喜ばしき聲にていふ。汝等こゝより入るべし、さきのきざはしよりははるかに易き一の階そこにあり。 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
濡れて薄むらさきになつた石のきざはしにひた/\とよする温泉の波は和やかに旅人の心を揺りうごかし旅興を親しくなつかしきものにする。予は悦んだ。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
それで、あっさりと、それだけが頭脳にうつっただけで、やがてきざはしを下って、土間から楽屋の方へと進んで行くと、楽屋の入口でやかましい人の声。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
各階ことごとく見事な真珠よりなり、ことに正面のきざはしを登って塔内に入らんとする所にめられているものは、大きさと云い形といい光沢つやと云い世界にも又あるまじき逸品で
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そのきざはしの前で自分は浅草の観音さまのように鳩の群に餌をいてやったが何故なぜこのお堂の近所には仲見世なかみせのような、賑やかでお土産を沢山買うような処がないのかと
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
少しの路のまわりをいといて見過ごさんもさすがなりと、大路を横に折れて、蝉の声々かしましき中を山の方へと進み入るに、少時して石のきざはし数十級の上に宮居見えさせ玉う。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
愛情というものだって、つまりはそこまでのぼるきざはしですもの。いつも思うのよ、人間の本当の美しさの感じが分ると、その人はそれ故に世俗的道義の典型になるところもあると。
登り詰めたるきざはしの正面には大いなる花を鈍色にびいろの奥に織り込める戸帳とばりが、人なきをかこち顔なる様にてそよとも動かぬ。ギニヴィアは幕の前に耳押し付けて一重向うに何事をかく。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まつたく、平生、人のゐないラマ塔の下のきざはしから、小さな火の光りがちらちらと見えました。ふつと消えたかと思へば、また黄色く光り出して、丁度草の中のほたるかなぞのやうでした。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そのとき行子の顔に癩の結節けっせつが出ていたので、忌わしい顔を見られるのを恥じ、大炊介の足音が下のきざはしまで近づいて来たのを聞きつつ、天主閣から投身して死ぬところで終っている。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
右手彼方にはきざはし高く大理石の円柱林立して、エフィゲニウス邸の大殿堂が空を圧してそびえ立ち、陽光は煦々くくとして建物を蒼穹あおぞらの中に浮き立たせ、ペンをきしませている私の指先に戯れ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
浦安の宮のきざはしの傍に立つ、紅の手綱、朱の鞍置いた、つくりものの白い神馬は、やがて後段の昇天の馬の姿である。その宮の前の御手洗みたらしに水を求めた稚兒は、旱魃を救ふ爲めの女神だつた。
しかし、その二つの階段は、向き合っているとはいえ、蚕室の方は、両側に手縁があるだけ……壁に寄った方の手縁の端から直線を引いてみると、それが向う側では、きざはしの中央辺に当るのだった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と大之進は、高縁のきざはしをあがって、つぎの間の障子をあけた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けれども其血は神のゐる玉座のきざはしにさへとゞきません。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
かしよ、にくみきざはしたふと神木しんぼく、わたしの悲しい心のよろこび
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
つとはなるるや、きざはし繪師ゑしはあがりぬ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
石のきざはしくづれ落ち、水際みぎはに寂びぬ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
本堂ほんだうぬかづてて、ちてきざはしかたあゆでたるは、年紀としはやう/\二十はたちばかりとおぼしき美人びじんまゆはらひ、鐵漿かねをつけたり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「六条どの、お通りあれ」廻廊のきざはしに、寺僧や、侍たちが、立迎える。誰も彼も、十八公麿の愛くるしさに、微笑をもった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
車は月桂ラウレオ街樾なみきを過ぎて客舍の門にいたりぬ。薦巾セルヰエツトひぢにしたる房奴カメリエリは客を迎へて、盆栽花卉くわきもて飾れるひろきざはしもとに立てり。
次に待ちたる車もまだ寄せぬ間をはかり、槍取りて左右にならびたる熊毛鍪くまげかぶと近衛卒このえそつの前を過ぎ、赤きかもを一筋に敷きたる大理石マーブルきざはしをのぼりぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
滋幹があやしみながら跡をつけると、父は脇目もふらずに前方を視つめ、きざはしを下りて、金剛草履こんごうぞうり穿いて、地上に立った。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
第一圈より第二圈に到るこみちきざはしを、フィレンツェ市外の一丘モンテ・アルレ・クローチ(Monte alle Croci)の階と比較せるなり
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
御殿の前にゐた大勢の鬼は、杜子春の姿を見るや否や、すぐにそのまはりを取り捲いて、きざはしの前へ引き据ゑました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わが断腸亭奴僕ぬぼく次第に去り園丁来る事また稀なれば、庭樹いたずらに繁茂して軒を蔽い苔はきざはしを埋め草はかきを没す。年々鳥雀ちょうじゃく昆虫の多くなり行くこと気味わるきばかりなり。
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
九日、朝四時というに起き出でて手あらい口そそぎ、高き杉の樹梢こずえなどは見えわかぬほど霧深き暁の冷やかなるが中を歩みて、寒月子ともども本社に至りきざはしを上りて片隅にひかゆ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
このお言葉にお答えはせずに薫はきざはしをおりて、美しい菊の一枝を折って来た。そして
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
きざはし高く整然とみどりあか青のいらかとりどりに、家々が遥かの坂の上まで続いていた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
つづきたるきざはしの、われも一段ひときだ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
きざはしかけて、べに流れ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
向うのきざはしを、木魚があがる。あとへ続くと、須弥壇しゅみだんも仏具も何もない。白布をおおうた台に、経机を据えて、その上に黒塗の御廚子があった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは、後醍醐が、泣きしずむ群臣の背にお目をとじて、きざはしを一ト段、ふた段……と下の鳳輦ほうれんへ降りかけられたときだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御殿の前にいた大勢の鬼は、杜子春の姿を見るや否や、すぐにそのまわりを取りいて、きざはしの前へ引き据えました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
請ふいづれの道のきざはしにいとちかきやを告げよ、またもしこみち一のみならずば、けはしからざるものを教へよ 四〇—四二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
法皇のつはものは騎馬にて門の傍に控へたり。門の内なる小き園には五色の紙燈をり、正面なる大理石階には萬點の燭を點せり。きざはしのぼるときは奇香衣を襲ふ。
門者かどもりに秘書官相沢がへやの番号を問いて、久しく踏み慣れぬ大理石のきざはしを登り、中央の柱に「プリュッシュ」をおおえる「ゾファ」をえつけ、正面には鏡を立てたる前房に入りぬ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
玉のきざはし、黄金のうつばりとはこう云う御殿のことであろうかと、夢に夢見る思いがいたして、ゆくりなくも斯様な所へ御奉公に罷り出た身のなりゆきの不思議さを驚くばかりでござりましたが
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と言わせるので、東のきざはしから上がって、妻戸の口の御簾みすの前へ薫はすわった。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
夕暮よりも薄暗い入梅の午後牛天神うしてんじんの森蔭に紫陽花あじさい咲出さきいづる頃、または旅烏たびがらすき騒ぐ秋の夕方沢蔵稲荷たくぞういなり大榎おおえのきの止む間もなく落葉おちばする頃、私は散歩の杖を伝通院の門外なる大黒天だいこくてんきざはしに休めさせる。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きざはしかけて、べに流れ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
きざはし、かぎろひを
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
こゑあるはひとりかけひにして、いはきざみ、いしけづりて、つめたえだかげひかる。がためのしろ珊瑚さんごぞ。あのやまえて、たにえて、はるきたきざはしなるべし。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)