まき)” の例文
まきや材木を積むこと、川岸に小屋や雪隠せっちんを建てること、二階に灯を点けることまで禁じましたが、夜ごとの火事騒ぎは少しも減らず
足利あしかが時代に作られた「はちの木」という最も通俗な能の舞は、貧困な武士がある寒夜に炉にまきがないので、旅僧を歓待するために
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
それにまた早くその辺へ野宿と極め込んでまずヤクのふんとキャンという野馬の糞を拾う必要がある。それをまきにするのでござります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
やがてまきの煙が、勝手から家の内を吹きながれた。湯浴ゆあみして、帷子かたびらにかえた藤吉郎は、草履をはいて、庭木戸から外へ歩みかけた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表町おもてちょうで小さいいえを借りて、酒に醤油しょうゆまきに炭、塩などの新店を出した時も、飯ひまが惜しいくらい、クルクルと働き詰めでいた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
猫の死んだのは実にその晩である。朝になって、下女が裏の物置にまきを出しに行った時は、もう硬くなって、古いへっついの上に倒れていた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは食料しよくれうまきとの不廉ふれん供給きようきふあふがねばならぬからである。勘次かんじはおしな發病はつびやうから葬式さうしきまでにはかれにしては過大くわだい費用ひようえうした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
貞之助と三人の姉妹とは応接間の煖炉だんろにぱちぱちはねるまきの音を聞きながら、久しぶりに顔をそろえてチーズと白葡萄酒の小卓を囲んだ。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日の光りと、月光げつくわうと、まきの火と、魚油ぎよゆしかなかつた暗いころの、ともあぶらになるなたねの花は、どんなに大切なものであつたらう。
ですから彼等かれらのゐる村落附近そんらくふきん山林さんりんは、のちにはだん/\にせまく、まばらになつてて、つひにはまき材料ざいりようにも不足ふそくするようになりました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
天井まで届くような大きな煖炉オーフェンの中で、白樺や落葉松からまつの太いまきが威勢よくはじけ、鉄架の上で珈琲沸パーコレーターがいつも白い湯気をふきあげている。
はちかつぎはあさばんもおかままえすわって、いぶりくさまきのにおいに目もはないためながら、ひまさえあればなみだばかりこぼしていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
暗いからわからぬが、何か釜らしいものが戸外の一隅かたすみにあって、まき余燼もえさしが赤く見えた。薄い煙が提燈をかすめて淡く靡いている。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
古来の倹約な習慣のために後悔のあまり和らげられていた——(彼は大束のまきを費消しながら、一本のマッチをおしんでいた。)
それ、火はまきによりて、すなわち火あり。薪なければ、すなわち火なし。薪は火を生ずるゆえんなりといえども、しかも火のもとにあらず。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
これを相手に月にまきが何炭が何俵の勘定までせられ、「おっかさん、そんな事しなくたって、菓子なら風月ふうげつからでもお取ンなさい」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
数枝、何も言わず、笑いをやめて、てれかくしみたいに、ストーヴの傍の木箱からまきを取り出し、二、三本ストーヴにくべる。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さてその農民小屋のうみんごやにはひつてると爐邊ろへんにはまきやされてあつて、その地方ちほう風俗ふうぞくをしたぢいさんがたばこをいぶらしてゐたり
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
此の身体を打毀ぶっこわしてまきにしても一分や二分のものはあらアね、馬の腹掛を着て頼むのだから、お前さん三拾両貸して呉れてもかろうと思う
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
第一のただ一人と共に火に入ったという説もあれば、数百の婢妾ひしょうまきの火に投じてから自分も火に入ったという説もある。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私はだんろにまきをくべて、さかんにもやしました。あまりあつくなると、らんまの小窓を少しあけました。外には雪がふりしきっていました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
私が筋肉薄弱でかまが切れず、持て余しているのを見た父は、自分で鎌となたふるって、まきの束を作り初めたが、その上手なのに驚いてしまった。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ガタピシと板戸を開けると、まきや炭を積んだ小暗い物置の隅っ子に、人間程の大きさの藁人形が、いかめしく突立つったっていた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼等の随喜するまきを焚く炉が切ってあるけれど、そのほかの場所では、大がいせこけたステイム・パイプが部屋の片隅に威張ってるだけだ。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「立っているのはよくない、貴殿らもまきなど探して置いて下され、火が燃えだせば明るみが見えるであろう、それを目当てに立ちもどればよい」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
大衆は単にまきだ。英雄という天の霊火が落ちて初めて燃え上る。全く十九世紀の思想だが、それ丈けに社長の共鳴が買えると思って、私は後刻
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まきのような感じの、不思議な顔である。血の気というものがすこしもなく、すっかり枯れて見えるのだ。我意の張った口を、一文字に結んでいる。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ほかの時はえず小さな口笛を吹きながら、用もないのにいているのだが、その鍋のひびだらけの腹の下で、消えかかった二本のまきいぶっている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
花売とはいうけれども門松かどまつ年木としぎ、または尋常のまき枯枝かれえだもあり、或いはぬれた松明たいまつとか、根無しつるという植物とかっている例も喜界島きかいじまにはある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ある日わたしのまきの山——いや、むしろ掘りおこした切株の山に往ったとき、わたしは二匹の大きな蟻——一方は赤く
そこで学業のひまに新聞を売ったりまきを割ったりして働いて得た金を積立てて自動車を買うわけであるから、あまり立派なものは手に入らなかった。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがて積みかさねたまきの上へ米の死骸が置かれた。それと見て人びとは念仏を唱えた。同時に隠坊おんぼうが薪に火を点けた。
妖蛸 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
旅籠屋はたごやをはじめ、小商人こあきんど、近在のすみまき等をまかなうものまでが必至の困窮に陥るから、この上は山林の利をもって渡世を営む助けとしたいものであると
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……その日その日の米まきさえ覚束おぼつかない生活の悪処に臨んで、——実はこの日も、朝飯あさを済ましたばかりなのであった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしそれは私が昼間谷から自分で採ってきた僅かな焚木でも事足りる、わざわざまきを買うほどのこともない……と、まあ、そういった位の余寒さだ。
卜居:津村信夫に (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
まじめな顔で冗談を言いながら、S君が我れわれのまどいを離れた頃には、高粱のまきももう大方は灰となって、弱い火が寂しくちろちろと燃えていた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ジャン・ヴァルジャンのそばには、彼が屋根を伝っておりてきた小屋があり、まきがつみ重ねてあり、その後ろに壁にくっついて石の立像が一つあった。
まきが飛んで、親父は片眼はまるきり見えんようになったらしいけんど、片方が大丈夫じゃけ——眼は一つありゃええ、なんて、元気でいうとるらしい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
乾草ほしぐさつくりに手をかしたり、垣根をなおしたり、馬に水をのませに連れていったり、牝牛めうしを放牧場から駆りたてたり、冬の煖炉だんろに燃すまきをきったりした。
燈芯とうしんのうすい行燈あんどんの灯が破れた障子にうつる。土門をはいると野良着のままでまきを割っている藤作の姿が見えた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そこは東に百万坪の荒地へ続く芦原あしはら、西は根戸川に接していて、工場のほかに事務所と、工員たちの小さな住宅があり、貝殻かいがら置場とまき小屋が並んでいた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
カピ長 南無三なむさん、やりをるわい。おもしろい下司野郎げすやらうめ! なんぢゃ、まきぢゃ? 乃公おれゃまた薪目まきめくらかとおもうた。……はれやれ、けたわ。
死体の上にわらまきとが積み重ねられ、幾缶かの石油を浴びせてそれにマッチで火をけるだけのことであった。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
だからね(とアーストロフに)僕だけには一つ、相変らずストーブにまきをくべたり、材木を使って小屋を建てたりすることを、お許しねがいたいものだね。
母を送りだして茶の間に帰ったおぬいは、ストーヴにまきを入れ添えて、火口のところにこぼれ落ちた灰を掃除しながら時計を見るともう三時になっていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
己はその中庭やはたで、エルリングが色々の為事をするのを見た。まきを割っている事もある。花壇を掘り返している事もある。桜ん坊を摘んでいる事もある。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
それは——彼もよく見かけたものだが——ときにはまきや乾草などを高く積み上げた荷を引いて、特に車がぬかるみやわだちの跡へはまりでもしようものなら
まきを使った鉱泉に入って、古めかしいランプの下、物静かな女中の給仕で沼のこいふなの料理を食べて、物音一つせぬ山の上、水のきわの静かな夜のねむりに入った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
階下が食堂兼居室で、普通の山小屋の体裁に真中まんなかに大きいまきストーヴがあって、二階が寝室になっている。
あわてて松葉まつばまきをくべると、ひどいけむりの中からほのおがまいたって、土間の自転車の金具が炎で赤く光った。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)