“縞(しま)” の例文
旁々(かたがた)の手を見れば、半(なかば)はむきだしで、その上に載せた草花の束ねが呼吸をするたびに縞(しま)のペチコートの上をしずかにころがッていた。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
つるつる坊主の蒼白(そうはく)の顔に、小さな縞(しま)の絹の着物を着せられて、ぐったり横(よこた)わっている姿は文楽か何かの陰惨な人形のようであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
あの表現派風の円や棒、立体、縞(しま)等を配置する処の一見驚くべき大柄である処のものは皆、人の頭を撲る役目を勤めているのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
女中や番頭に取り巻かれて、すすぎ盥(だらい)の前へ腰かけたのは、商家の内儀(ないぎ)らしい年増の女と、地味な縞(しま)ものを着た手代(てだい)風の男であった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例の縞(しま)の襯衣(しゃつ)に、その綛(かすり)の単衣(ひとえ)を着て、紺の小倉(こくら)の帯をぐるぐると巻きつけたが、じんじん端折(ばしょ)りの空脛(からずね)に、草履ばきで帽は冠(かぶ)らず。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
着物も、どこでこしらえて来たのか、渋い縞(しま)ものに変わっていた。すっかり、ちょいと、工面のいい商家のあるじのいでたちなのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その特徴は何色にでもよく染まること、麻には不可能なる鮮かな染模様でも縞(しま)でも、次々の工作によって自由に製品の改良ができる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
太郎や次郎はもとより、三郎までもめきめきとおとなびて来て、縞(しま)の荒い飛白(かすり)の筒袖(つつそで)なぞは着せて置かれなくなったくらいであるから。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
丸皿形(まるざらがた)のボルタメーターで、皿の内面に沈着する銀がやはりこの「シャボテン式」の放射線状の縞(しま)を成すは周知のことで、この場合は
自然界の縞模様 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
雲の縞(しま)は薄(うす)い琥珀(こはく)の板(いた)のようにうるみ、かすかなかすかな日光が降(ふ)って来ましたので、本線シグナルつきの電信柱はうれしがって
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
黒羽二重の紋服一かさね、それに袴と、それから別に絹の縞(しま)の着物が一かさね、少しも予期していないものだった。私は、呆然(ぼうぜん)とした。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
身体中に縞(しま)を作った湯の河が、桃色の曲面をツルツルと、戯(たわむ)れる様に滑り落ち、それを柔かい電燈の光が、楽しげに愛撫していた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
隅(すみ)には黒塗の衣桁(いこう)があった。異性に附着する花やかな色と手触(てざわ)りの滑(すべ)こそうな絹の縞(しま)が、折り重なってそこに投げかけられていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪は残光に映えて藤紫(ラヴェンダア)に光っていた。山峡には、水蒸気のような霧が沸きかけていた。そこへ、粗い縞(しま)を作って、町の灯が流れはじめた。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
鬱蒼(うっそう)と繁り合った葉の間から、陽の光が金色の縞(しま)になってさし込んでいる。しんとして、小鳥の声のほか何の物音もきこえない。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
アメリカ選手達の予備練習の馬群が浪の泡立つ様にさっと寄ってはさっと引返す間に、緑の縞(しま)や薄桃色のユニフォームが、ちらちらする。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
葉子は口笛を吹きながら、縞(しま)セルの単衣(ひとえ)の裾(すそ)を蹇(かか)げて上がって行くと、幼い時分から遊び馴(な)れた浜をわが物顔にずんずん歩いた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
窮策としては、インドの色の地に桃色の縞(しま)がはいりこむというような術(すべ)もあるが、いかにもまずい。何かもっといい方法がありそうである。
映画『人類の歴史』 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
向いの、縞(しま)のようになった山畠に烟(けむり)が一筋揚っている。焔(ほのお)がぽろぽろと光る。烟は斜に広がって、末は夕方の色と溶けてゆく。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
エミリアンは、自分のバイオリンと縞(しま)リスの籠とを片手にさげ、盗賊のピストルを腰にさして、そつと窓からはひ出しました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
右側の人家は戸が閉って、その戸の隙(すき)から微(かすか)に燈の光が見え、小さな冷たい雨がその燈の光を受けて、微な縞(しま)を織(お)っているのが浮んで来る。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
動く度に色を変える玉虫めいた灰白色の胴には、派手なネクタイの柄のように、赤紫色の太い縞(しま)が幾本か鮮かに引かれている。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
襟のかかった渋い縞(しま)お召(めし)に腹合わせ帯をしめて、銀杏返(いちょうがえ)しに結(ゆ)って居る風情(ふぜい)の、昨夜と恐ろしく趣が変っているのに、私は先(ま)ず驚かされた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ありふれた縞(しま)ものの如きでさえ、同一のものはかえって見出し難いのを知るであろう。民藝は驚くべき自由の世界であり創造の境地である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
竜之助は、ついついそこに待ち構えて、も一人、通行の人を嚇して着物を剥(は)ぎ取った、いま身に纏(まと)うている縞(しま)の袷(あわせ)がそれです。
買ひて歸りがけ直(すぐ)に笠原粂之進(かさはらくめのしん)の方(かた)へ行き夜前(やぜん)の火付は原町の煙草屋喜八と云ふ者なり今朝(こんてう)私し煙草を買(かひ)候時渠(かれ)が布子の縞(しま)能(よ)く似(に)たれば心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
対(つゐ)の縞(しま)あかしか何かの着物にやはり対(つゐ)の絽(ろ)の帯をしめ、当時流行の網をかけた対のパラソルをした所を見ると、或は姉(ねえ)さんに妹かも知れない。
鷺と鴛鴦 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
縞(しま)の袷(あわせ)に半纒(はんてん)、三尺帯をきちっとしめている、痩せて頬(ほお)のこけた顔は、寒さのためか蒼白く硬(こわ)ばり、唇も紫色になっていた。
源蔵ヶ原 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
身幅(みはば)の狭いのは職人だといってダブダブした着物ばかり着ていた。或時は無地物(むじもの)に泥絵具(どろえのぐ)でやたら縞(しま)を描(か)いたのを着ていた。
青だの赤だののだんだら縞(しま)のふちのついた封筒を貼(は)つてるのよ。初めは、綺麗で、面白かつたンだけど、飽きちやつたのよ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
海面は一般にいくらか穏やかになり、渦巻は一つ一つ消えて、不思議な泡の縞(しま)がいままでなにもなかったところにあらわれるようになったのだ。
庄三郎は織色(おりいろ)の羽織を著(き)まして、二子(ふたこ)の茶の黒(くろっ)ぽい縞(しま)の布子(ぬのこ)に縞の前掛に、帯は八王子博多を締めて、商人然としている。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
死んだ女房が夜業(よなべ)に縫つてくれたらしい縞(しま)の財布の中には、青錢が七八枚と、小粒で二分ばかり、それに小判が一枚入つて居るではありませんか。
「あっ、これは見覚えがある縞(しま)ズボンだ。いつも大利根博士は、この縞ズボンをはいていられた! すると博士は……」
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
明治二十一年五月十五日、岡山県美作国(みまさかのくに)真島郡下方村、妹尾与一郎氏方にて一の牝猫を産す。これを名づけて縞(しま)という。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その男のズボンはただ一本の木綿の編みひものズボンつりで留められてるきりだった。そのズボンつりの碁盤目の縞(しま)が絶えず彼の頭に上ってきた。
藪(やぶ)の中の黄楊(つげ)の木の胯(また)に頬白(ほおじろ)の巣があって、幾つそこに縞(しま)の入った卵があるとか、合歓(ねむ)の花の咲く川端の窪(くぼ)んだ穴に、何寸ほどの鯰(なまず)と鰻がいるとか
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
見ればなんと数本抜きとられて外の闇がそこだけ派手な縞(しま)となって嘘(うそ)のように浮き上がっているではございませんか。
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
縞(しま)の綿入に小倉袴を穿いて、羽織は着ていない。名刺には新思潮記者とあったが、実際この頃の真面目な記者には、こういう風なのが多いのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
縞(しま)になって横降りに降りしきる雪の中を、ただ一人だんだん遠ざかって、とうとうかすんで見えなくなってしまった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あのブルキの蝶が、極彩色のなんともいえぬ、いやな縞(しま)をもった大袈裟な羽根を、ばたばた、ばたばたと煽ると、もうどうにも我慢がならんのです。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
藍(あゐ)がちな紫地に小い紅色の花模様のあつたものや、紺地に葡萄茶(えびちや)のあらい縞(しま)のあるものやを南さんの着て居た姿は今も目にはつきりと残つて居ます。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
縞(しま)の単衣(ひとえ)に古びた透綾(すきや)の夏羽織を着て、なかばはげた頭には帽子もかむらず、小使部屋からこっそりはいってきて、「清三はいましたか」と聞いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
霜にめげぬは、青々(あおあお)とした大根の葉と、霜で甘くなる漬菜(つけな)の類(たぐい)と、それから緑の縞(しま)を土に織り出して最早ぼつ/\生えて来た大麦小麦ばかりである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
引っ掛けたねんねこばかりは往時(むかし)何なりしやら疎(あら)い縞(しま)の糸織なれど、これとて幾たびか水を潜って来た奴(やつ)なるべし。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この男は黒のアルパカ〔薄地の織物〕の上着に、縞(しま)セルのズボンをはいて、麦藁(むぎわら)帽子をかぶっていた。やはり無言のまま彼は第三の椅子に腰をかけた。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
かすかな光が縞(しま)になって、さし入って来る。やがて眼が慣れて来る。船虫が何匹も這(は)い廻っている。長い触角をぴくぴく動かしながら、しきりに走る。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ロレ 灰色目(はひいろめ)の旦(あした)が顰縮面(しかめつら)の夜(よる)に對(むか)うて笑(ゑ)めば、光明(ひかり)の縞(しま)が東方(とうばう)の雲(くも)を彩(いろど)り、剥(は)げかゝる暗(やみ)は、日(ひ)の神(かみ)の火(ひ)の輪(わ)の前(まへ)に、さながら醉人(ゑひどれ)のやうに蹣跚(よろめ)く。
それに赤い夕陽が斜めに光線を投げて、木立の中に縞(しま)の赤い明るみを織り出し、尚一入(ひとしお)の奥床しさを添えている。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「どうも汽車ってものは恐ろしく迅(はや)いものだ。まるで飛ぶようだ。電信柱はとんで来るように見え、砂利(じゃり)は縞(しま)に見える」など胆(きも)をつぶして話されました。