眼鏡めがね)” の例文
おじいさんは、眼鏡めがねをかけて、はさみをチョキチョキとらしながら、くしをもって、若者わかもの頭髪かみにくしれてみておどろきました。
てかてか頭の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
仕掛トリックを見た時、島幾太郎とその手下の者が少しも驚かなかったのはうしたわけであろう——、あの青い眼鏡めがねでだけ読める仕掛けを
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
思想の風窓であるひとみは、そのために焼かれてしまう。眼鏡めがねもそれを隠すことはできない。地獄にガラスをかぶせたようなものである。
しかし微笑は消えて、言葉は終らぬ内に途絶えて了つた。彼女は眼鏡めがねを取上げ、聖書を閉ぢて、椅子を卓子テエブルから後の方へ押しやつた。
そうしたら部屋のむこうに日なたぼっこしながら衣物きものを縫っていたばあやが、眼鏡めがねをかけた顔をこちらに向けて、上眼うわめにらみつけながら
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
長者のうちのお祖父じいさんも出て来て、大きなまんまるい眼鏡めがねの下に眼をまんまるくして、「ほほう」と感心したように眺め入りました。
影法師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しかしMはいつのまにか湯帷子ゆかた眼鏡めがねを着もの脱ぎ場へ置き、海水帽の上へほおかぶりをしながら、ざぶざぶ浅瀬あさせへはいって行った。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見るとことごとく西洋人である。中には眼鏡めがねを出してこっちを眺めているのもあった。けれども見るうちに眼鏡は不必要になった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある午後、僕は博士の不在を見すまして、猛然と彼女に迫つた。阿耶は拒まなかつた。二人は黒眼鏡めがねをかけて、白熱光の人となつた。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「お母さん達の眼にはさばけた人間でも、おいらの眼鏡めがねにかけるちふと話にやなんねえさ、へゝん……。」と吐き出すやうに云ふ。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「遠い昔の新婚旅行の晩、………彼が顔から近眼の眼鏡めがねはずしたのを見ると、とたんにゾウッと身慄みぶるいがしたこと」も事実であり
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
頭髪の刈り方を違え、口髭をはやし、眼鏡めがねをかけ、医者の手術を受けて、一重眼瞼ひとえまぶたを二重にし、その上顔面の一部に、小さい傷さえ拵えた。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たずねて村役人むらやくにんいえへいくと、あらわれたのは、はなさきちかかるように眼鏡めがねをかけた老人ろうじんでしたので、盗人ぬすびとたちはまず安心あんしんしました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
けてゐる眼鏡めがねをはづして、蘿月らげつつくゑを離れて座敷ざしき真中まんなかすわり直つたが、たすきをとりながら這入はいつて来る妻のおたき来訪らいはうのおとよ
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いったいその女掏摸すりというのは、どの客であろうかと、銭筥ぜにばこ抽出ひきだしから眼鏡めがねをだして、上がってくるのを一人一人見張っている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されば信ずるものは何かといえば、「眼鏡めがねは眼鏡、茶碗は茶碗」とこの一言で充分でしょう。以上が私の宗教観です。此処ここに一首あります。
我が宗教観 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
けの薬をいれる、ホドヂンと云うセロファンの薬の袋をっているひとたちのなかに、眼鏡めがねをかけた赤い着物のおばあさんもいました。
眼鏡めがねをかけた白ズボンの青年は、いよいよ梅三爺とは五六間程の距離になった。爺は、それが巡査でないことだけはわかった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
戊戌つちのえいぬ即ち天保九年の)夏に至りては愈々そのことなるを覚えしかども尚悟らず、こは眼鏡めがねの曇りたる故ならめとあやまり思ひて
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
太陽と、蒼空あおぞらと、雲の間を、ヒトリポッチで飛んで行く感激の涙が……それを押ししずめるべく私は、眼鏡めがねの中で二三度パチパチとまたたきをした。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼はあわてず騒がず悠々と芝生を歩んで、甕の傍に立つ。まず眼鏡めがねをとって、ドウダンの枝にのせる。次ぎにしたおびをとって、春モミジの枝にかける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ほろほろとこぼす涙をぬぐいやりつつ、加藤子爵夫人は、さらに眼鏡めがねの下よりはふり落つる涙をぬぐいて、その書をしかとふところにおさめ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
私は急にヘルメットや日除ひよ眼鏡めがねを買つた。母親から護符を貰つた。合歓ねむの花ざかりを夢想したり銀相場を調べたりした。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
眼鏡めがねはありませんか。緑青色の鳶だと言う、それは聖心女子院とかとなうる女学校の屋根に立った避雷針の矢の根である。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大きな鼈甲べっこうぶちの眼鏡めがねを鼻の上にのせて、紫にあおいを白くぬいた和鞍わぐらや、朱房しゅぶさ馬連ばれん染革そめかわ手甲てっこうなどをいじっていた。
「そうかね。」と、長いの網をもった人がきらりと眼鏡めがねを光らせて、蟹の登っている枝のあたりを見上げました。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
僕、もうあなたのためなら、眼鏡めがねをみんなられて、うでをみんなひっぱなされて、それからぬまそこへたたきまれたって、あなたをうらみはしませんよ
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「ハイロ君、もしきみがほしいのなら、ぼくが目にかけて、きみたちの姿や顔が見える特殊の眼鏡めがねかなんかゆずってくれたまえ。それならあれをあげる」
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
小豆あずきかね。あいた、もう眼がはっきり見えないよ。息子のピエエルが眼鏡めがねを買ってくれるといいんだけど……」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
席上に年若き紳士あり、金縁きんぶち眼鏡めがねを眼の上ならで鼻の上のあたりにせながら眼鏡越しに座敷の隅々まで眺め廻し
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
母上は老眼に眼鏡めがねかけながら暇さえあれば片っ端より読まれ候てなるほどなるほどと感心いたされ候ことに候
初孫 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
赤く白くおもてを塗りて、赫然かくぜんたる色の衣をまとい、珈琲店カッフェーに坐して客をひく女を見ては、きてこれにかん勇気なく、高き帽をいただき、眼鏡めがねに鼻を挟ませて
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
戸外そとへ出ようとして扉に手をかけた時、ふ、ふ、ふと笑うような声がした。り返って見ると、見附みつけの窓の中に宵のままの老婆が大きな眼鏡めがねを見せていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼はもっぱら『神信心』にりだし、たいがいひとり黙々として、『殉教者伝』に読みふけったが、そのつど、大きな丸い銀縁の眼鏡めがねをかけるのであった。
風巻は両手ではさんでいた眼鏡めがねを胸もとまであげて、それがまるで俺の詩であるかのように胸に抱きかかえて
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
もう六十に近いと思う小柄のじいさんが、貧相な眼鏡めがねをかけてしょんぼりと仕事をしている。誰からか頼まれた直しものである。見ると船箪笥風の引出ひきだしである。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そして、八反はったんの着物を着たまま、ゴミ眼鏡めがねを顔につけ、部落を乗りまわしたものであった。その姿は全く異様であったが、頓着とんじゃくするどころではなかった。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
まず立働く人で、お雪の傍に居ても直に眼鏡めがねを掛けて、孫の為に継物したり、娘の仕事を手伝ったりした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこ女王樣ぢよわうさま眼鏡めがねをかけ、氣味きみわるほど帽子屋ばうしや凝視みつめられました、帽子屋ばうしやさをになつてふるへてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そしてお互の間に、意識はしなかったが、色々な点に於て競争の感情が動いて居ないでもなかった。三人の中で、一番早く眼鏡めがねを金縁にしたのは、譲吉であった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
男はへんじもせず、うつむいたままで、テーブルの上においてある眼鏡めがねを大いそぎでとりあげてかけると、やっと、ゆっくりとおかみさんのほうにむきなおった。
御成おなり街道へさしかかる頃から、雷鳴と電光が強くなって来たので、臆病な私は用心して眼鏡めがねをはずした。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大人おとな三人前さんにんまへ一手いつてひきうけて鼻唄はなうたまじつて退けるうでるもの、流石さすが眼鏡めがね老婆ひとをほめける。
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「よかった!」と一言、小さい声でつぶやいて、深く肩で息をした。それから、そっと眼鏡めがねをはずした。
一灯 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ロイド眼鏡めがねをかけていることさえも知られていること、それからあんな奴は少し金さえかければぐ捕まえる事が出来ると云っているから充分に注意して欲しいとあった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
貧相な猫背ねこぜだった。額部ひたいが抜け上がって、ほそい眼がしじゅう笑っていた。晩年はそれに、大きな眼鏡めがねをかけていた。鼻に特徴があって、横にねじれたような鼻であった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
眼鏡めがねなどをかけ、一見サラリーマンふうに見える。そいつが夕刊をひろげて読んでいるのです。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
孫四郎まごしろうは易者然たる鼈甲べっこう眼鏡めがねをかけて積んである絵本をまたぎ茶盆をまたぎして、先刻から机の上、床の間、押し入れの中としきりに引っくり返して何かさがしていたが
恐る恐る円道ある時、おぼさるる用途みちもやと伺いしに、塔を建てよとただ一言云われしぎり振り向きもしたまわず、鼈甲縁べっこうぶちの大きなる眼鏡めがねうちよりかすかなる眼の光りを放たれて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
素敵に大きな眼鏡めがねをかけた男性の怪物が、黒灰浦の真中の海へ深くもぐり込んだかと思うと、暫くあって浮き上り、浮き上ると共に、あっぷあっぷと息をついて、浮袋にだきついて
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)