瑠璃るり)” の例文
蔵前の大通りには、家々の前にほこりおさえの打ち水がにおって、瑠璃るり色に澄み渡った空高く、旅鳥のむれがゆるい輪を画いている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
満潮になると、大鳥居も、朱塗りの玉垣も、瑠璃るり色を帯びて青白く光った。引潮になると、社前の白砂には霜が降りたようにみえた。
今日もお山は晴天で、八つの峰が鮮かに見え、肌が瑠璃るりのように輝いていた。そうして裾野には風が渡り、秋草の花がなびいていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かすかな瑠璃るり色がようやく空一面と空間の或る部分にまで行きわたり、下界にまでは光がとどかなかった。森はいやが上にも黒かった。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
渓向うの木立のなかでは瑠璃るりが美しくさえずっていた。瑠璃は河鹿と同じくそのころの渓間をいかにも楽しいものに思わせる鳥だった。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
小石ならともかくこうした大型良品ボンにあって、美麗な瑠璃るり色を呈すとは、じつに珍しい。ブラジル産にはけっしてないことである。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この瑠璃るり色とくちなし色と緋色の絹糸を、こんな風に織った服の裏地は、わたくしがあの人へ贈ったもので、他にはない筈のものです。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この朝の彩雲さいうんはすばらしい。いちめんなあしは、紫金青銀しこんせいぎんの花を持つかと疑われ、水は色なくして無限色をたたえる瑠璃るりに似ていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に驚くべきは、あお珊瑚礁リーフ魚よりも更に幾倍か碧い・想像し得る限りの最も明るい瑠璃るり色をした・長さ二寸ばかりの小魚の群であった。
枕元には薬罎くすりびんや検温器と一しょに、小さな朝顔の鉢があって、しおらしい瑠璃るり色の花が咲いていますから、大方おおかたまだ朝の内なのでしょう。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうした谷間をしばらく進んで行くうち、熔岩の上に瑠璃るり色の可憐かれんな花をつけている小灌木を発見したが、それは思いがけぬ深山紫陽花みやまあじさいであった。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
東の川には瑠璃るりいさご が流れて居る。南の川に銀砂が流れて居る。西の川には黄金の砂が流れて居る。北の川には金剛石の砂が流れて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
影が、結んだ玉ずさのようにも見えた。——夜叉ヶ池のお雪様は、はげしいなかにおゆかしい、野はその黒雲くろくも尾上おのえ瑠璃るり、皆、あの方のお計らい。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……これは互に成人してからの事である。夏をいろどる薔薇ばらの茂みに二人座をしめて瑠璃るりに似た青空の、鼠色に変るまで語り暮した事があった。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まさしく瑠璃るりの、群青ぐんじょう深潭しんたんようして、赤褐色の奇巌きがん群々むれむれがかっと反射したところで、しんしんとみ入るせみの声がする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
露ふくめる朝顔の鉢二つ三つ軒下に持出でて眼の醒むるばかりに咲揃いたる紅白瑠璃るりの花をうつつともなく見入れるさま、画にかかばやと思う図なり。
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三十分も経つたころは、もう向うの空にはけろりとした按排あんばい瑠璃るり色のところが見え出して居る、さういふこともあつた。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
天心まで透き徹るかとばかり瑠璃るり色に冴えて……南極圏近くにありながら、陽光はそこからまぶしく亜熱帯地方のごとくにきらめいているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この家は古くから瑪瑙めのう石や瑠璃るり琥珀こはくなどを玉に磨いたり、細工物にこしらえたりして京へ売り出すのを業としていた。
みどりの髪を肩になびけ、瑠璃るりの翼を背にたたみ、泛子うきをみつめる瞳はつぶらかに玉のごとく、ゆさりと垂れた左右の脛は珊瑚さんごを刻んだかとうたがう。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
さればにや仏も種々なる口をききたまいし中にも、ややともしては金銀こんごん瑠璃るりとのべられて、七宝の第一に説かれしなり。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
「大へんにいい天気でございます。修彌山しゅみせん南側みなみがわ瑠璃るりもまるですきとおるように見えます。こんな日如来正※知にょらいしょうへんちはどんなにお立派りっぱに見えましょう」
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
瑠璃るり色の松虫草と、大原の水分を一杯に吸い込んで、ふくらんだような桔梗ききょうのつぼみからは、秋が立ちめている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
其処にははて知らぬ蒼穹さうきゆうを径三尺の円に区切つて、底知れぬ瑠璃るりを平静にのべて、井戸水はそれ自身が内部から光り透きとほるもののやうにさへ見えた。
天地愛好すべき者多し、しかして尤も愛好すべきは処女の純潔なるかな。もし黄金、瑠璃るり、真珠を尊としとせば、処女の純潔チヤスチチイは人界に於ける黄金、瑠璃、真珠なり。
ぼんやりとよどんだような朝の空気の中で、しめりを含んだ垣根いっぱいに繁っている朝顔の葉のみどりの中に、瑠璃るり色の十三センチ五ミリはひだをゆるく波打たせ
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
アマンジャンのシャボン箱の絵のようにただきれいな翡翠ひすい色と瑠璃るり色の効果を重ねた婦人像と同じ壁の一方にかけられて「果樹園」は現代古典のおもむきを示した。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
堂内はゴシツク式建築の大寺院の例に漏れず薄暗い中に現世げんせかけ離れた幽静いうせいを感ぜしめ、幾つかの窓の瑠璃るりに五しきいろどつた色硝子ガラスが天国をのぞく様に気高けだかく美しい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
薬師とは詳しくいえば薬師瑠璃るり光如来と云い、東方浄瑠璃世界の教主である。このみ仏は自ら十二の大願を起したことが薬師如来本願経に語られてある。十二の大願とは
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
瑠璃るり瑪瑙めなうの寶物を求めて鬼ヶ島へ冒險の旅に出る日本の桃太郎の昔話を、平和な心の世界の探檢の、それも子供たちの夢で見るお話にしたやうなものだともいはれませう。
きっと、きっと、きっと来て! 今もテーブルの瑠璃るりの花瓶の中でほころびかけた白い芍薬しゃくやくが、あたしと一緒にあえかなためいきをらしながらあなたの来るのを待っているの。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
じんの木の箱に瑠璃るりあし付きのはちを二つ置いて、薫香はやや大きく粒に丸めて入れてあった。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
洲股すのまたノ駅ヲ経テ小越川ニいたル。蘇峡そきょうノ下流ニシテ、平沙へいさ奇白、湛流たんりゅう瑠璃るりノ如クあおシ。麗景きくスベシ。午ニ近クシテ四谷ニいこヒ、酒ヲ命ズ。薄醨はくり口ニ上ラズ。饂麺うんめんヲ食シテ去ル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
瑠璃るりの床、青玉の壁、翡翠ひすいの窓、そんなものがみなそれぞれの色にいろめき初めました。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
今はしぼみ果てたれど、かつては瑠璃るりの色、いと鮮かなりしこの花、ありし日の君と過せし、楽しき思ひ出に似て、私の心に告げるよ。——外国人はジョオと云ふ名前だと云つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
金箔きんぱく銀箔瑠璃るり真珠水精すいしょう以上合わせて五宝、丁子ちょうじ沈香じんこう白膠はくきょう薫陸くんろく白檀びゃくだん以上合わせて五香、そのほか五薬五穀まで備えて大土祖神おおつちみおやのかみ埴山彦神はにやまひこのかみ埴山媛神はにやまひめのかみあらゆる鎮護の神々を祭る地鎮の式もすみ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それを右に見て鹿島神社の方へ行けば、按摩あんまを渡世にする頭をまるめた盲人めくらが居る。駒鳥こまどりだの瑠璃るりだのその他小鳥がかごの中でさえずっている間から、人の好さそうな顔を出す鳥屋の隠居が居る。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兄に抱き上げられた美保子の瑠璃るり色のエヴニングの胸は、緋牡丹ひぼたんを叩き付けたように血に染んで居りますが、幸に傷は浅かったらしく、しばらくするとようやく物を言える程度に人心地付きました。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
子細あるまじと領状して、すなはちこの男をさきに立て、また勢多の方へぞ帰りける、二人共に湖水の波を分けて水中に入る事五十余町あつて、一の楼門あり、開いて内へ入るに、瑠璃るりいさご厚く
瑠璃るり色の風が今にも吹いて来るのを待ちかまゃないか。
ぼろぼろな駝鳥 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
枇杷びわの花白くほころび養母ははの来る朝空瑠璃るりに澄みて晴れたり
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
この国につぶやくことをふとぢぬ冬もめでたき瑠璃るりの空かな
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
瑠璃るりはささやく紅玉こうぎよくに、(さあれ苦の一聯ひとつらね
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
瑠璃るりの朝顔が大輪に咲くのを自慢した。
瑠璃るり御空みそら金砂子きんすなご、星輝ける神前に
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
瑠璃るりかんざしかゞやかし
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
おとすは淺黄あさぎ瑠璃るりかは
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
せき瑠璃るり鳴く
野口雨情民謡叢書 第一篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
例えば天上の星のように、瑠璃るりを点ずる露草つゆくさや、金銀の色糸いろいと刺繍ししゅうのような藪蔓草やぶつるくさの花をどうして薔薇ばら紫陽花あじさいと誰が区別をつけたろう。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
足を狙うのが、朝顔を噛むようだ。爪さきが薄く白いというのか、もすそつますそが、瑠璃るり、青、あかだのという心か、その辺が判明はっきりいたしません。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)