あかり)” の例文
新字:
あかりけて本を読むのが目に悪けりゃあ、話をしていたって好いわけです。誰かがまとまった話をして、みんなで聴いても好いでしょう。
大月氏は黙って頷くと、そのまま草を踏付けるようにしながら、小さなあかりをたよりに山肌を下りて行った。が、やがてふと立止った。
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そこへ、中仕切なかじきりの障子が、次のあかりにほのめいて、二枚見えた。真中まんなかへ、ぱっと映ったのが、大坊主の額の出た、唇のおおきい影法師。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうして居たか、よくわかりません。店の方からあかりを持つて多勢驅け付けたので、始めて主人が殺されたことがわかりましたが」
岸を離れて見上げると徳二郎はてすりつて見下ろして居た。そして内よりはあかりが射し、外よりは月の光を受けて彼の姿が明白はつきりと見える。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さいわい怪我けがもなかったので早速さっそく投出なげだされた下駄げたを履いて、師匠のうちの前に来ると、雨戸が少しばかりいていて、店ではまだあかりいている。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
かれよるになつてもあかりをもけず、よもすがらねむらず、いまにも自分じぶん捕縛ほばくされ、ごくつながれはせぬかとたゞ其計そればかりをおもなやんでゐるのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ぎゃくらっきょうの面をあかりにうつむけながら、嬉しそうな色を見せず、口数もあんまりかないところは、見上げたものだと思わせました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこから孟買の港に船遊びする富限者船のあかりが明滅するのを眺めながらサルーンから響いてくる音楽と歓談の声を聞いた。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
その中に、小さな仮小屋の様な煙草店たばこみせがあって、まだガラス戸の中にあかり明々あかあかとついていたので、そこで尋ねて見ると
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
食事のあと、友達は手燭てしよくをともして現れました。「物置にはあかりがないのだ」渡り廊下を通るとき、海風が、酔ひにほてつた私の顔を叩いてゐました。
内からあかりしてるので、はっきり見えないはずの外が見えるのですよ、雪がちらちらと降ってて、そのまた雪が銀の鏨屑のみくずのように見えるのですよ。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
楽しい新家庭にわかれをつげて、春日と渡邊が事務所へかえったのは、あかりがついてからであった。渡邊は漸く笑ましげに
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
此方こちらは真暗、向うにはあかりがついているので、目隠めかくしの板に拇指おやゆびほどのおおきさの節穴が丁度二ツ開いてるのがよく分った。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その一は趙太爺が、まだ秀才に入らぬ頃、あかりを点じて文章を読むことを許された。その二は阿Qが日雇いに来る時は燈を点じて米搗くことを許された。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
向の料理屋の二階だけは未だにぎやかで、三味線の音だの、女の笑い声だのが風に送られて聞えて来る。瓦斯ガスあかりはションボリとした柳の樹を照している。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まわってゆくと隠居所の障子にあかりがさしていて、庭の樹立がほのかな片明りに浮いてみえた。魔にかれたような足どりで奈尾は合歓木の側までいった。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
千ちゃんはふしぎに思って、テレビジョンの空中線回路へ監視燈かんしとうをつっこんでみると、あかりがつかない。なるほど電流が通っていない。やっぱりそうだったんだ。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
で、婿さんの家へいってみますと、もうあかりいておりました。入ってみますと奥様が燈の下に坐って、つくえによりかかっておやすみになろうとするふうでした。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
だが戸外には、いま廊下に漂つてゐたと同じしつとりした、動かぬ空気があり、漆喰しつくひひさしの陰から照らしてゐるあかりが石だゝみの上にぽつと落ちてゐるばかりだつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
あかりは化粧机の上に置いてあつて、床に這入る前に婚禮の衣裳いしやう被衣かつぎをかけておいた押入の扉は開け放しになつてゐました。そこで何かさら/\と云ふ音がするのです。
そこには、光子てるこの御方がいつの間にか立っている。間もなくあかりが運ばれてきた。薄絹張りの行燈に照らされて、この部屋が寮の一室であることが彼にもはっきりと分った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あかりがつけられると思つてネ、よろづやへボツ/\いつて蝋燭らふそくちやう買つてネ、ぐ帰らうとするとよろづやの五郎兵衛ゴロベイどんが、おとめさん久振ひさしぶりだ一服吸つていきなつて愛想するから
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
星がイリュミネーションのあかりのように見えて、ちょうど煙が出たり、風に吹き消されたりしてるようで、また耳の中に馬が息を吹き込んでるような気がしてびっくりするのよ。
枕許まくらもと手燭てしょくあかりをつけて、例の細い濡椽ぬれえんを伝って便所へ行った、闇夜の事なので庭の樹立等こだちなどもあまりよく見えない、勿論もちろん最早もう夜もけ渡っているので四辺あたりはシーンと静かである
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
我国には古くから八間というあかりがあった。これは寺院などに多くあるもので、実際は八間はなかったが、かなり大きいのでこの名がある。また当時よく常用されたものに蝋台ろうだいがある。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
随分とみごとに面の数々がそちこちの家ごとに行渡ったもので、家々の前に差かかる度に振返って見ると、夕餉ゆうげの食卓を囲んだあかりの下で、面をもてあそんでいる光景で続けさまにうかがわれた。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
暮色はいよいよこまやかに、転激うたたはげしき川音の寒さを添ふれど、手寡てずくななればやあかりも持きたらず、湯香ゆのか高く蒸騰むしのぼけむりの中に、ひとり影暗くうづくまるも、すこしすさまじき心地して、程無く貫一も出でて座敷に返れば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
このとき、彼は、はじめて、相手の男の顔を、はっきりとあかりの下で見ることができました。そして、あまり、その男の顔が、小さい時分に別れた自分の従兄いとこに似ているのでびっくりしました。
白い門のある家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あかりのない暗い廊下みたいなところを通って、とある部屋の中へ押し入れられた。暗闇くらやみの中を手探りすると、畳の敷いてない床に、荒らい毛の毛布があったので、それにくるまって横になった。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
加多 それではその真壁のあかりを正面に見ながら両肩を向けて左腕を正しく横に上げて下さい。そう。それでいいかな? 正しい? よし、(と今井の左腕の方向と地図と盤とを見較べている)
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
おりから何だか、気味をく思っていないところへ、ある晩高麗蔵さんが、二階へこうと、梯子段はしごだんへかかる、妻君さいくんはまたおどかす気でも何でもなく、上から下りて来る、その顔に薄くあかりして
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
偶然ふと先方むこうに座敷のあかりが見えるから、その方へ行こうとすると、それがまた飛んでもない方に見えるので、如何どうしても方角が考えられない、ついぞ見た事のない、谿谷たにの崖の上などへ出たりするので
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
シグナルの緑のあかりと、ぼんやり白い柱とが、ちらっと窓のそとを過ぎ、それから硫黄いおうのほのおのようなくらいぼんやりした転てつ機の前のあかりが窓の下を通り、汽車はだんだんゆるやかになって
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ひやりとした空気が顔をなで、かびつ臭いにほひが鼻をうちました。しかし、何分、まつくらなので、足元があぶないからちよつと立ちすくんでゐましたが、フト前の方に、かすかにあかりが見えて来ました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
いつしかに日は暮れて河岸かしのかなたはキネオラマのごとくあかり
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「人の住む家にしちゃ小さいぞ。それにあかりもついていない。」
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
侍「まアかえってあかりのない方が宜しいから持ってけ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
禮心れいごころに、あかりけておともをしませう……まち𢌞まはつて、かどまでおむかひにまゐつてもうござんす……には御覽ごらんなさいませんか。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あかりあかるき無料むれう官宅くわんたくに、奴婢ぬひをさへ使つかつてんで、其上そのうへ仕事しごと自分じぶんおもまゝてもないでもんでゐると位置ゐち
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
岸を離れて見上げると、徳二郎はてすりによって見おろしていた、そして内よりはあかりがさし、外よりは月の光を受けて、彼の姿がはっきりと見える。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あかりの不意に消えたことは、乱軍の休戦ラッパとなり、同時にまた、あのこわもてのような、変な空気ではじめた余興の見事な引上げぶりに終りました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鳥居前の電車道を横ぎると向うの細い横町の角に待合のあかりが三ツも四ツも一束になって立っているのが見えて、その辺に立並んだ新しい二階家の様子なぞ
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
政雄は機仕掛ばねじかけの人形のようにきょとんとって、へやの外へ出るなり階子段はしごだんけあがった。二階では親切な老婆があかりを点けたついでに寝床をとってくれていた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つぶやきながら奥の間へ行ってみると、あかりの側に不由が端坐していた。果して……澄透るような凄艶せいえんな顔に険しいものが見える、浅二郎は大剣を刀架へかけて静かに坐った
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とう/\珈琲コーヒーが運ばれ紳士たちが招ばれた。私は蔭の方に坐つた——若しこの輝かしくあかりいた部屋に少しでも蔭があるとしたならば。窓掛が半ば私を隱してくれた。
そこらのまばらな宵のあかりを見ると、武蔵は足をとめて、どこに泊ったものか、旅籠はたごに迷った。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつこれがために第三の例外をひらいてこの晩特にしばらくあかりをつけることを許された。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
陳は女をれて帰り、あかりけてよく見ると、ひどく容色きりょうをしていた。陳は悦んで自分のものにしようとした。女は大きな声をたててこばんだ。やかましくいう声が隣りまで聞えた。
阿霞 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「寢たことにしてあかりを消させ、亥刻よつ(十時)過ぎに、そつとその窓から忍び出し」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)