火傷やけど)” の例文
唇が火傷やけどしそうなくらいにまで吸い尽した煙草を、さらに、首をのばしてパッパッと唇を鳴らして吸うと、熱そうにして灰皿に捨て
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
しるこの鍋をくつがえされて、かお小鬢こびんおびただしく火傷やけどをしながら苦しみ悶えている光景を見た時に、米友の堪忍袋かんにんぶくろが一時に張り切れました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
火の光の中に、討たれる数もおびただしかったが、踏み迷い、逃げまどい、自ら焼け死ぬ者や、火傷やけどを負って狂う者数知れなかった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卯平うへい何時いつたれがさうしたのかむしろうへよこたへられてあつた。かれすくな白髮しらがはらつていた火傷やけどのあたりをうてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
英国に火傷やけどした指を火を近づけて火毒を吸い出さしむる民俗あり、蝮に咬まれた処へその蝮の肉をけて治すような同感療法ホメオパチーじゃ。
「待ってくれ、阪井は火傷やけどをしてるんだ、あやまりにきたものをなぐるって法があるか、火傷をしてるものをなぐるって法があるか」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
小さなめいの首の火傷やけどに蠅は吸着いたまま動かない。姪ははしを投出して火のついたように泣喚なきわめく。蠅を防ぐために昼間でも蚊帳かやられた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
小用に行つた娘のお雪さんが見付けて、これは漸く消し止めました、その時可哀想にお雪さんが、白魚を並べたやうな指に火傷やけどをしました
彼は小川で顔を洗い、朝の祷りを唱えると、舅の家で毎朝食事にでるクリームをかけた火傷やけどしそうな揚饅頭プィシカで、お茶が飲みたくなった。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わきを歩いていた一人の、手に火傷やけどのあとのある若くない婦人代議員が、いくらか躊躇している伸子に向って合点合点しながら
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼は倒れても、物にぶっつかっても、怪我けがをしても、火傷やけどをしても、泣いたことがなかった。ただ自分を害する事物にたいして奮激した。
だが、間もなく火は彼の指さきに迫って、もうすこしで火傷やけどするところだった。彼はびっくりして、吸殻を地上に放りだした。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「口で云うぶんには、地面から天まで説明することができるさ」と房二郎が云った、「他人の火傷やけどは痛かあねえというからな」
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
脊骨せぼねくじいた人が三人程に、火傷やけどの人や、三階や二階から落ちた人や、盲腸炎もうちょうえんの人や、なか/\種々な種類の患者が居ります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やはり、鮎は、ふつうの塩焼きにして、うっかり食うと火傷やけどするような熱いやつを、ガブッとやるのが香ばしくて最上である。
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
が、小鼻こばな両傍りやうわきからあごへかけて、くちのまはりを、ぐしやりと輪取わどつて、かさだか、火傷やけどだか、赤爛あかたゞれにべつたりとたゞれてた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お累が熱湯を浴びましたので、家中うちじゅう大騒ぎで、医者を呼びまして種々いろ/\と手当を致しましたがうしてもいかんもので、火傷やけどあとが出来ました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
諸君も御承知であろうが、汁にした薩摩芋の熱したのほど口中こうちゅうにこたえる者はない。大人おとなですら注意しないと火傷やけどをしたような心持ちがする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
皮膚に触れれば火傷やけどのような現象を起し、ゴムまりなどは陶器のように堅くなって、叩きつけるとコナゴナになって終う。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「ナニ、何でもないぞや。俺の手が少し狂ったかも知れんが、おさださんに火傷やけどをさせるつもりでしたことでは無いで」
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「では、火傷やけどまじないを教えましょう」といって、火傷の呪を教えてくれたそうで、その伝授に基いて、山崎家から「上の字」のお守を出していました。
江戸の化物 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いまでも世界中せかいちうからすくちなかには、そのとき火傷やけどのあとが真赤まつかのこつてゐるといふ。ひときらはれながらも、あのあはれなペンペのためにいてゐるのだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
右の、上から二番目の抽斗ひきだしに指先が触れる。チカッと、火傷やけどをしたような痛みを覚える。指が抽斗の曳手ひきてにかかる……
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
阿母おふくろが仏壇を拝んでいて、お灯明を消そうとして手で煽いだ拍子に火傷やけどをして、そこにあざができましたがそのまた痣がいつまで経っても直りもせずに
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
鹿島氏は本郷ほんごう三丁目の交叉こうさ点に近く住んでいるということを聞き、また写真屋を開業していて薬が爆発して火傷やけどをしたというような記事が新聞に載り
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
シュニルディユー、お前は自分でジュ・ニ・ディユーと呼んでいたが、お前には右の肩にひどい火傷やけどの跡がある。
その瑣細ささい道理だうりふのはたとへば、眞赤まツかけた火箸ひばしながあひだつてると火傷やけどするとか、またゆび小刀ナイフごくふかると何時いつでもるとかふことです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いやいや見せないばかりではなく、その胸の上へ焼金をあて、火傷やけどをさせたということである。でそこに何かが書いてあったとしても、今は全くわからない。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時ぞく周章しゅうしょうの余り、有り合わせたる鉄瓶てつびんを春琴の頭上に投げ付けて去りしかば、雪をあざむ豊頬ほうきょうに熱湯の余沫よまつ飛び散りて口惜くちおしくも一点火傷やけどあととどめぬ。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はいまのさき兄と争うはずみに裁縫台の上にあるアイロンに触れ、手首に火傷やけどをしていた。それがひりひりしてきたので、私は時々気にしては手首をめた。
前途なお (新字新仮名) / 小山清(著)
諸井琴路看護婦を拷問し、全身に無数の火傷やけどと刺傷を与えて瀕死の重態に陥入おちいらしめた現行犯として、まず、海老塚晃二氏を逮捕いたさなければならないのです
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
よく見ると、親指から人差指の内側へかけて、ひどく火傷やけどをしたものと見えて、痛そうに肉が腫れ上がっています。それでも彼はまだ手を開けようとはしません。
祭の夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ダイヤモンドの熖に火傷やけどもせず、坐睡いねむりをしている様々な石が目を覚さないように、その間を抜けて通る。
そして全体が火傷やけどのあとのように引きつって見え、顔というよりも、むしろ何か極めて薄い膜を根気よく張り重ねてこしらえた不規則な形の箱のような感じがした。
映画と癩の問題 (新字新仮名) / 伊丹万作(著)
そこへ土地の者がかけつけて来て火を消し、来宮様を御殿へ伴れて往っていろいろ介抱したが、火傷やけどがひどかったので、それがためにとうとう歿くなってしまった。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
熱いお茶を飲んで舌に火傷やけどをしたもんだから息を吸い込んで冷そうとでもするような、或は腹の空った子供等が素敵にうまい物を見た時に出すような、音をさせる。
その代りマッチ工場独特の骨壊疽こつえそにかかった老人や、歯齦はぐきが腐って歯がすっかり抜け落ちてしまった勤続者や、たびたびの火傷やけどに指がただれんで、なりっぽのように
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
いきなり多量に流し込むと非常な熱を発生してびんれたり、火傷やけどしたりする危険が発生する。
猫の穴掘り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
……額と、頬と、鼻の頭に受けた軽い火傷やけどに、冷たい空気がヒリヒリと沁みるのを感じていた……そうして工場全体の物音が一つ一つに嘲笑しているのを聴いていた……。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは幼い心にも異常な印象であった。その印象は大きな火傷やけどのようにいつまでも胸に残った。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
火傷やけどしそうに熱いのを、両手で持ちかえ持ちかえしながら、二つに折ると、黄いろい肉から、湯気がむせるように彼の頬にかかった。彼はふうふう吹いては、それを食った。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そのひたひ火傷やけどの痕を見るのは悲しいことですわ。けれども何よりも惡いことは、それにも拘らず人があなたを萬事に愛し過ぎて、大事にし過ぎるといふ危險があることです。
そして、その場合には、気の毒なビレラフォンは、少なくとも、その怪物の息吹いぶきでひどい火傷やけどをして、その上十中八九までは、殺されて、食われてしまっていたことでしょう。
まず室の外に在る通路を見るに、泥々の洪水も全くいたものと見える。ただ濃い泥の海となって、深さが膝の辺まで来る、なお熱い事は熱いけれど火傷やけどするほどの熱湯では無い。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
そこで弟子の僧は、指も入れられないような熱い湯を、すぐにひさげに入れて、湯屋から汲んで来た。しかしじかにこの提へ鼻を入れるとなると、湯気に吹かれて顔を火傷やけどするおそれがある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ねえ、なに考えているの? 真赤な顔して。……バカねえ、だから火傷やけどすんだわ」
愛のごとく (新字新仮名) / 山川方夫(著)
皮膚に火傷やけどをいたしましてはじめて感ずるというようなことは、たくさんあります。
妖怪談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
しかし彼れはその男を見ると虫唾むしずが走った。それも百姓に珍らしい長い顔の男で、禿あがった額から左の半面にかけて火傷やけどの跡がてらてらと光り、下瞼したまぶたが赤くべっかんこをしていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すぐつぎのえきで、自分はこしから下に火傷やけどをして、気絶きぜつしているところをたすけられた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
是は伊沢の当主良安の里と同じ町に住んで、外科で門戸を張つてゐる医者であつた。或年清川玄道の家の発会ほつくわいに往つた帰に、提灯の火が簔に移つて火傷やけどをして、ひどく醜い顔になつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)