水際みずぎわ)” の例文
あるいて見ると存外小さい。三丁ほどよりあるまい。ただ非常に不規則なかたちで、ところどころに岩が自然のまま水際みずぎわよこたわっている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で、自分は其処そこ水際みずぎわうずくまって釣ったり、其処そこ堤上ていじょうに寝転がって、たまたま得た何かを雑記帳に一行二行記しつけたりして毎日たのしんだ。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私たちは水際みずぎわを廻って崖の方へ通ずる小径こみち攀登よじのぼって行くと、大木の根方ねがたじじいが一人腰をかけて釣道具に駄菓子やパンなどを売っている。
で、玄蕃允は、自己の率いる本隊を、余吾よご水際みずぎわから清水谷を経て、急速に引き退かせつつある間に、勝政の支隊へも、使いを飛ばして
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
苫屋の中からは四つの眼が光っておりました。そこは長者の家の見張でありました。壮い男は水際みずぎわあしの中へ追い詰められて縛られました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その池の水際みずぎわには、あしやよしが沢山え茂っている上に、池のぐるりには大木がい茂って、大蛇だいじゃでも住みそうな気味の悪い大池でありました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さすがに主人の若い武家は水際みずぎわ立って立派に見えたので、こっちも年の若いお関の眼は兎角にその人の方にばかり動いた。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
泥を拭くと、赤い段だらの横縞よこじまを書いた玩具の竹笛で、まだ少しもいたんでいないところを見ると、昨今池の水際みずぎわの泥に突き差したものでしょう。
その河原の水際みずぎわに沿ってたくさんのあかりがせわしくのぼったり下ったりしていました。向う岸の暗いどてにも火が七つ八つうごいていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と林太郎はふりむきもしないで答えて、さっきおっかさんとのってきた船がつないである水際みずぎわの方へおりていきました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そのころ大阪ですばらしい人気を呼んだ大衆劇の沢正さわしょうが、東京の劇壇へ乗り出し、断然劇壇を風靡ふうびしていたが、一つは水際みずぎわだった早斬はやぎりの離れわざ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
水際みずぎわあしの間には、大方おおかたかに棲家すみかであろう、いくつもまるい穴があって、そこへ波が当る度に、たぶりと云うかすかな音が聞えた。が、女は未だに来ない。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あくもいいお天気てんきで、お日様ひさまあお牛蒡ごぼうにきらきらしてきました。そこで母鳥ははどり子供達こどもたちをぞろぞろ水際みずぎわれてて、ポシャンとみました。
果たしてたいへん噺が明るくなってきて、唄のところでは喝采さえあり、前後が水際みずぎわ立って光ってきました。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
不明瞭な点を残さず、ことごとくそれを赤ときめて、一掃してしまえば功績も一層水際みずぎわ立って司令部に認められる。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
けれどもあの透きとおるような海の藍色あいいろと、白い帆前船などの水際みずぎわ近くに塗ってある洋紅色ようこうしょくとは、僕の持っている絵具えのぐではどうしてもうまく出せませんでした。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
水際みずぎわを走りまわった。悲しい路を歩きつづけた。ひだるい長い路を歩きつづけた。真暗な長いびだるい悲しい夜の路を歩きとおした。生きるために歩きつづけた。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
父子は勇敢に水際みずぎわへ下りて行ったりして捕えた。耕助の手にある草の束が光の粒で玉帚たまはばきのようになった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お仙さんとかいう太蛇おろち使い、さすが大江戸の芸人だけあって、水際みずぎわ立った立派な芸、それに大変美しい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大汐のときには水際みずぎわから四五キロも沖まで水が退き、ところどころ汐のたまりを残すほかは、見渡す限りの干潟ひがたになるため、汐干狩の客の多いことはうまでもない。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今でも尻屋しりやあたりの荒浜をあるいてみると、大小さまざまの難破船の破片が、昆布こんぶやあらめとともに、到る処の水際みずぎわに積み上げられて、次々と村へ運びこまれている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
唯有とあ人家じんかに立寄って、井戸の水をもらって飲む。桔槹はねつるべ釣瓶つるべはバケツで、井戸側いどがわわたり三尺もあるかつらの丸木の中をくりぬいたのである。一丈余もある水際みずぎわまでぶっ通しらしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
木蓮もくれんらしい白い花が夢のように浮き上っていて、その下の水際みずぎわから一羽のさぎが今しも飛び立とうとしているところであるが、おぼろな花や林にひきかえてその鷺一匹の生動の気力は
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は水際みずぎわまで降りて行って、岸に漂いついている死体を、怖々こわごわ足でグッと押して見た。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女は米友を土蔵の裏へ引っぱって行って、河岸の水際みずぎわまで米友をつれて来た時に
とにかく、その気持のいい泉が、金色の入日をうけて、こんこんと湧き出して、きらきらと光りながら丘を流れ下りていると、ビレラフォンという立派な青年がその水際みずぎわに近づいて来ました。
殊に僚機の第二号機に竹花たけはな中尉、第三号機には熊内くまうち中尉が単身たんしん乗りこんでいたが、その水際みずぎわだった操縦ぶりは、演習という気分をとおりすぎて、むしろ実戦かと思われるほど壮快無比なもので
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大同ダムでき止められて、本来の懸崖の三分の一以上、二百じんも高く盛りあがったその水際みずぎわには、すなわち現実におけるうおは緑樹のこずえにのぼり巉岩ざんがん河底かていの暗処に没して幽明ゆうめいさらに分ちがたい。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
向河岸の方を見ると、水蒸気に飽いた、灰色の空気が、橋場の人家の輪廓りんかくをぼかしていた。土手下から水際みずぎわまで、狭い一本道の附いている処へ、かわるがわる舟を寄せて、先ず履物はきものおかへ揚げた。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
紳士の随伴つれと見える両人ふたりの婦人は、一人は今様おはつとかとなえる突兀とっこつたる大丸髷、今一人は落雪ぼっとりとした妙齢の束髪頭、いずれも水際みずぎわの立つ玉ぞろい、面相かおつきといい風姿ふうつきといい、どうも姉妹きょうだいらしく見える。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
松岡長吉は水際みずぎわに身をひいて、うしろに川を置き、構えるようにした。とらえどころのないばくとした凄気せいきを身に受けた。——そのとき、彼らは夜に乗じていた。いと口はこんなつまらぬ口論でよかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
近くの川の水際みずぎわ近くの樹の枝につるしたりさえした。
竹俣長七は、はや一人の猛敵と、斬りむすび、斬り伏せ、すぐ次の敵と組み、もんどり打って、水際みずぎわまでころがってゆく。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでもまばたきもせずに、水際みずぎわまで浸った叔父さんの手首の動くのを待っていた。けれどもそれがなかなかに動かない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長唄ながうたのおさらいにかかると、一時に五六番から十番もきつづけてむことを知らなかったが、宴会の席で浦島などを踊っても、水際みずぎわだった鮮かさがあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのなかでもこと日当ひあたりのいい場所ばしょに、かわちかく、気持きもちのいいふる百姓家ひゃくしょうやっていました。そしてそのいえからずっと水際みずぎわあたりまで、おおきな牛蒡ごぼうしげっているのです。
広重が東都名勝の錦絵のうち外桜田の景をても堀端の往来際おうらいぎわには一本の柳とても描かれてはいない。土手を下りた水際みずぎわの柳の井戸の所に唯一株ひとかぶの柳があるばかりである。
川の水は満潮のまままだ退こうとしない。私は石崖いしがけを伝って、水際みずぎわのところへ降りて行ってみた。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
同役の一人はその人俵をずるずると引摺ひきずって水際みずぎわの方へ往った。そこにはたくさんのたきぎを下敷にした上に二三十の人俵が積んであった。老人の人俵もその上にひきあげられた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
父母は二人ともかげをしながら、水際みずぎわの柳やえんじゅの陰に、その舟を見送っていたのである。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いぬそばやに似た草などの生えている水際みずぎわの線は、出入りや彎曲わんきょくが多く、対岸の林の樹影をうつす水は、たっぷりとあふれるほどの水量であるが、それは不透明に濁っていた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
空の明るさが海へ溶込とけこむようになって、反射する気味が一つもないようになって来るから、水際みずぎわ蒼茫そうぼうと薄暗くて、ただ水際だということが分る位の話、それでも水の上は明るいものです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ふと私は私の前に三人の天の子供こどもらを見ました。それはみなしもったようなうすものをつけすきとおるくつをはき私の前の水際みずぎわに立ってしきりに東の空をのぞみ太陽たいようのぼるのをっているようでした。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こうして、五月六日の戦は、真田父子の水際みずぎわ立った奮戦に終始した。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
陸戦隊は一せいにボートから水際みずぎわへとびおりました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あ……」と、かれは、痛いように、両手を顔に当てながら、洞窟の前からトボトボと低地の水際みずぎわへ下りて行った。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
席をずらせてだんだん水際みずぎわまで出て見る。余が茵は天然に池のなかに、ながれ込んで、足をひたせば生温なまぬるい水につくかも知れぬと云う間際まぎわで、とまる。水をのぞいて見る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勘作はふと水の男が笠を落すと云ったことを思いだして旅人のほうに眼をやった。と、さらさらと風が吹いて来て旅人のていた笠が、ひらひらと飛んでそれが湖の水際みずぎわに落ちた。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
芦の畑などというと不審に思われるかもしれないが、実際に水際みずぎわの広い地域に、幹の太さや葉の色などで個性をあらわした芦が、——たぶんそれぞれの用途によって区別されるのであろう。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僕はこう云う話の中にふと池の水際みずぎわ沢蟹さわがにっているのを見つけました。
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)