がう)” の例文
しかもそれは刻々に、あらゆる雑念を溺らし去つて、果ては涙そのものさへも、がうも心を刺す痛みのない、清らかな悲しみに化してしまふ。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼が生立おひたちの状況洋行の源因就学の有様を描きたりとて本篇に幾干いくばくの光彩を増すや、本篇に幾干の関係あるや、予はがうも之が必要を見ざるなり。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
彼は実に他の一の標準とすべきものゝ如く、誠心にして忠実、我と如何なる運命をも共にしてがうまずたゆまざるの熱愛を有すればなり、と。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それ等のユウゴオの「夢のはな」ががうも不自然でばかりか、空想の天地に自適して如何いかにも楽しさうである偉人の心境が流露して居る様に思はれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
先月の『我善坊にて』の中にある、昔と今との間に一がうも加はつたものはないといふ感想は正宗君らしくつて面白かつた。捨てた形が面白かつた。
雨の日に (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
けれどもそれ實地じつちけるちからは、すこしも養成やうせいすること出來できなかつた。したがつて自分じぶんつてゐる場所ばしよは、この問題もんだいかんがへないむかしがうことなるところがなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
罹災者りさいしやたゞちにまたみづか自然林しぜんりんからつて咄嗟とつさにバラツクをつくるので、がう生活上せいくわつじやう苦痛くつうかんじない。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
有志之士、不堪杞憂きいうにたへずしば/\正論讜議たうぎすと雖、雲霧濛々もう/\がうも採用せられず。すなはち断然奸魁かんくわいたふして、朝廷の反省を促す。下情壅塞ようそくせるより起ると云ふは即是也すなはちこれなり
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
平次の明智は、一がうの曇りもありません。何から何まで、推理の上に築いた想像ですが、それが拔き差しならぬ現實となつて、二人の用人のきもを奪つたのです。
可愛い孫の所做しよさがこんなにうるさいのだから、私はよほど孤独の食事が好きと見える。美女の給仕などをがうも要求しないのはむしろ先天的といはなければならない。
(新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それ故に善惡可否巧拙と評するも固より劃然たる區別あるに非ず巧の極端と拙の極端とはがうも紛るゝ處あらねど巧と拙との中間に在る者は巧とも拙とも申し兼候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
をつとをして三井みつゐ白木しろき下村しもむら売出うりだ広告くわうこくの前に立たしむればこれあるかな必要ひつえうの一器械きかいなり。あれがしいのうつたへをなすにあらざるよりは、がうもアナタの存在をみとむることなし
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
左様さうだ/\、がうも疑ふ所は無い」と松本は愈々いよ/\激昂げきかうしつ「現に今度の九州炭山の一件でも知ることが出来る、本来ならば篠田が自身に出掛けておほい煽動せんどうせにやならないのだ、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その聲調は、始て我をしてさきよりの月旦評のがうもマリアが耳に入らざりしを悟らしめき。
南洲及び大久保公、木戸公、後藤象次郎、坂本龍馬等公を洛東より迎へて、朝政に任ぜしむ。公既に職に在り、しば/\刺客せきかく狙撃そげきする所となり、危難きなんしきりに至る、而かもがう趨避すうひせず。
君が痛酷なる論文を「文学界」に掲げて余を駁撃ばくげきしたるより数日を隔てゝ君は予が家の薯汁飯を喫せり。余が君に遇ふや屡〻しば/\論駁の鋒を向けぬ。君はがうも之れにさからふことなかりし也。
北村透谷君 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
がうも成心があつてではないが、伊藤は折ふし面白半分に私の色の黒いことを言つてからかつた。それが私の不仕合せなさま/″\の記憶を新にした。多分八九歳位の時代のことであつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
銘々めい/\勝手かつてわかつた々々と自分じぶん議論ぎろん都合つがふはうにのみくばつて、がう學術的研究がくじゆつてきけんきうおこなはれず、一ぱうあとから彌生式やよひしき混入こんにふしたとひ、一ぱうは、いなしからずとひ。水掛論みづかけろんをはつてしまつた。
がうちからおとさぬ疾風しつぷう雜木ざふきまじつたたけこずゑひくくさうしてさらひく吹靡ふきなびけてれどむねはどうしてもえなかつた。かれまたけぶりいとごとしかすさまじく自分じぶんはやしあたりからたつてはしつけられるのをた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
皮膚の全面に、あらゆる方向へ動かうとする力が働いてゐるが、皮膚自身は、それに対して、がうも弾力を持つてゐない。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
絵がしゆであるけれど、彫塑や其他そのたの工芸美術品も対等の取扱を受けてがうも会自身に価値を定めようとする所が無く、まつたく観衆の批評に一任して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
娘のお品をめて見ると、これはもう、言ひたくて待ち構へて居たところですから、何も彼も平次の指金だ一つたことを一がうの隱すところなく言つて了ひました。
二氏共に罪過論は偏曲なり、又は小説に応用すべからずと断定せしのみにして、がうも其理由を言はず。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
広瀬中佐の詩に至つてはがうも以上の条件をそなへてゐない。やむを得ずしてせつな詩を作つたと云ふ痕跡はなくつて、やむを得るにもかゝはらず俗な句を並べたといふ疑ひがある。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今迄がうも気が付かなんだ、此処にも亦一個の人間が居る。——男ではない。女だ。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
透谷と余の論戦はすこぶる激烈なりき。然れども余は個人たる透谷に対しては常にがうも愛敬の念を失はざりき。透谷も亦勿論もちろん、論敵たる人の性格までを疑はんとする卑劣なる人物にあらざりき。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
歌を一番善いと申すは固より理窟も無き事にて一番善い譯はがうも無之候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
されど又予を目して、万死の狂徒とし、まさしかばねに鞭打つて後む可しとするも、予に於てはがうも遺憾とする所なし。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ウフイツチ邸に劣らぬ多数の名幅ををさめた中にラフワエルとチチアノの傑作が最も多く、就中なかんづく予はラフワエルの円形の中に描いたマドンナががうも宗教臭味しうみを帯びず
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それは政略せいりやくよりもむし禮讓れいじやうからであつた。したがつて宗助そうすけにはがう不愉快ふゆくわいあたへなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これは牧野備後守樣江戸御留守居、金山主膳樣の打ちあけ話で、一厘一がうの掛け引も御座りません。これが本當とすると、翁屋小左衞門の碓氷貞之助樣は、貴方樣の爲には、親の敵を
思ふに松平定信は実に幕府後宮のそしりに因りて将軍補佐の任をむるに至れり、目前の事斯の如し。彼が此篇ありし所以決して偶然ならざる也。而して其文整々堂々格律森厳がうも老憊の態なし。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
直往邁進がうも撓むなき政治的天才によつて経緯せらるゝ所に御座候。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と云ふよりは呉織くれはとり綾織あやはとりから川島甚兵衛に至るまで、上下二千年の織工史を通じて、如何なる地歩を占むべきものか、その辺の消息に至つては、がうもわからぬと云ふ外はない。
竜村平蔵氏の芸術 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
きみ身體からだ丈夫ぢやうぶだから結構けつこうだ」とよく何處どこかに故障こしやうおこ安井やすゐうらやましがつた。この安井やすゐといふのはくに越前ゑちぜんだが、なが横濱よこはまたので、言葉ことば樣子やうすがう東京とうきやうものとことなるてんがなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)