さら)” の例文
僕はさらしだ。吹き晒しの裸身が僕だったのか。わかるか、わかるかと僕に押しつけてくる。それで、僕はわかるような気がする。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
うつくしいてて、たまのやうなこいしをおもしに、けものかはしろさらされたのがひたしてある山川やまがは沿うてくと、やまおくにまたやまがあつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
一層のこと、警察へ訴えて、二人を取り押えてもらおうかしら、だがそんなことをするのは、自分の恥をも明るみへさらすことだった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
日増しの魚や野菜を喰っている江戸ッ子たあ臓腑はらわたが違うんだ。玄海の荒海を正面に控えて「襟垢えりあかの附かぬ風」に吹きさらされた哥兄あんちゃんだ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
東京から持って来た柳行李やなぎごうりにはろくな着物一枚入っていない。その中には洗いさらした飛白かすり単衣ひとえだの、中古で買求めて来たはかまなどがある。
足袋 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
造船職工の仕事の多くは工場外の大空の下ですのであつて、冬は寒風に吹きさらされ、夏は炎天に照りつけられるのがならひであつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
やや風が吹き出して、河の天地はさらし木綿の滝津瀬のように、白瀾濁化はくらんだっかし、ときどき硝子障子ガラスしょうじの一所へ向けて吹雪の塊りを投げつける。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
草津の辻の評判のさらしが、一夜で消えてしまった以後、そのあとへ豊臣太閤の木首が転がり込んだその前後、大津の宿では道庵先生が
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昔は不義の男女を罰するために日本橋にほんばしたもとさらし者にして置いた。それと同じような事さ。どうだろう。今の読者には受けないか知ら。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分は復讐の為に、川手の娘達を群衆の前にさらし物にした。今こうして賑かな人通りにむくろを晒すのも、その罪ほろぼしの積りである。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いい訳はあるまい。あさましい人非人にんぴにん。その風俗をした姿を、羅馬ローマの町の辻にさらしものにして、お前の肉親たちにも見せてやりたい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本所竪川たてかわ通り、二つ目の橋のそばに屋敷を構えている六百五十石取りの旗本、小栗昌之助の表門前に、若い女の生首なまくびさらしてありました。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
岩壁のところどころに谷間が暗い影をしずめ、噴火で押しだされた軽石が、雨風にさらされて白骨はっこつのように落々らくらくと散らばっている。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
でも昨今は彼女も諦めたか、昼間部屋の隅っこで一尺ほどのさらしの肌襦袢を縫ったり小ぎれをいじくったりしては、太息ためいきいているのだ。
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
江戸っ子がそろっているから、いくら貧乏人でも、腹巻きや下帯は、切りたてのさらし木綿のりゅうとしたのを身につけている。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今の世間の実際に女子の不身持にしてはじさらす者なきに非ず、毎度聞く所なれども、斯く成果てたる其原因は、父母たる者、又夫たる者が
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こう云うと武兵衛は立ち上がって、春夏秋冬の風雨にさらし鍛えに鍛えた筋肉の隆々と盛り上がった胸の辺りをハタと片手で打ったのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女は胸を隠すようになった、白いさら木綿もめんの半襦袢じゅばんを着、そうして腰の二布も緋色でなく、やはり白の晒し木綿に変えた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その上自分が、十年の恐ろしい艱苦にさらされたのも、多の市が柄にもない檢校になる野心の爲と思ふと、腹の底から忿怒が煮えくり返ります。
沢崎に対して始終左半面をさらすような角度になっており、まぶしいような初夏の庭の反射が、その顔の上に真正面まともに照っていた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「何でもない事だわ。」私はあさましい姿を白々と電気の下にさらして、そのウイスキーを十杯けろりと呑み干してしまった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
大殿の今度の御処置だけで、天下に、恥をさらしたに、又候またぞろ騒動を持上げて、斉彬公のお心にもとるなど、思慮があると思うか、無いと思うか。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
のせられ恥を世の中へさらしてゐても大事ないかといかりの言葉ことばも無理ならず此方も是を婚姻こんいん邪魔じやまなす者の所爲しわざと知ねば彼奸計かのかんけい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「モスリンとキャラコだそうだ。こんな水の好いところは日本中にすくないってさ。あれはさらすんだからね。四人来た中の二人はその方の技師だよ」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それは、しら木の三方さんぼうなのだ。白い紙が敷かれていた。白いさらし木綿に包まれた短刀の刃先が魚の腹のように光っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
オノネ 美濃揖斐いび郡の山間の村で、オノネというのは、「からむし」の根のことである。さらして粉にして食用に供した。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さてさらしやうはちゞみにもあれ糸にもあれ、一夜灰汁あくひたしおき、あけあした幾度いくたびも水にあらしぼりあげてまへのごとくさらす也。
古いが、もとは相当にものが良かったらしい外套がいとうの下から、白く洗いさらされた彼女のスカートがちらちら見えていた。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
母は奥から、新しいさら木綿もめんを持って来て、再度生にとせ老人に渡した。老人は、綿入れと褌とで、すっかり温かくなったと言って、よろこんで帰って行った。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
これはカステラより少し重うございますけれども味はカステラより美味しゅうございます。その代りバターの上等をさらして使わなければいけません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女が三四人次の間に黙って控えていた。遺骸いがいは白いぬので包んでその上に池辺君の平生ふだん着たらしい黒紋付くろもんつきが掛けてあった。顔も白いさらしで隠してあった。
三山居士 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まだ温気あたたかみを含まぬ朝風は頬にはりするばかりである。窓に顔をさらしている吉里よりも、その後に立ッていた善吉はふるえ上ッて、今は耐えられなくなッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
一枚一枚に眼をさらし終つてのち、さてあまりに尋常な周圍を見廻すときのあのへんにそぐはない氣持を、私は以前には好んで味つてゐたものであつた。………
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
籠に入れた鮎が腐る恐れがあるとすれば、鮎を出して二枚にき薄く塩して、河原の石にはり付け日光にさらして干物とすれば珍味として賞玩するに足りる。
香気の尊さ (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
女は、月を見て空想にふけった。青い月の光りは障子の破れから射して、棚に乗っている白い土器をさらしていた。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
庫裡くりから本堂に通ずる長い廊下は、風雨にさらされて、昔かれが老僧に叱られながら雑巾ざふきんがけをしたところとも思へなかつた。中庭の樹木も唯繁りに繁つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
さらしおって! それが親への見せしめか? 死んで親に面当つらあてしようという気か? いやなら厭だと、なぜ初めから言わん? 気が向かんとなぜ言わんのだ!
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
わが国の哲学界を見渡すときに、われらはうら枯れた冬の野のような寂寥せきりょうを感ずるよりも、乱射した日光にさらされた乾からびた砂山の連なりを思わされる。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
芳郎は静かにその門口かどぐちに往って月の光にさらされた表札ひょうさつに注意した。表札には杉浦と云う二字が書いてあった。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これは巫女のろくめを葬る墓地であって、昔は巫女のろくめが死ぬとその屍体を柩に納めて樹の上へ掛け、三年間を風雨にさらした後に石で造った墓に収めたと云うことである。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
炉の火燃えつきんとすれども柴くべず、五十年の永き年月を潮風にのみさらせし顔には赤き焔の影おぼつかなくただよえり。頬をつたいてきらめくものは涙なるかも。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
空地には地均ぢならし工事の最中らしい切り倒された樹木の幹や泥のこびりついた生々しい木の根が春の日にさらされ、深い杉林の陰影が半分あまりを暗くしている。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
いやな奴をさらし台に上せ、気長な努力で一年間に知り得たすべてのことを、一滴一滴よせ集めた醜悪な秘密の宝全部を、通行人に見せつけてはばからなかった。
神社旧跡を滅却し神林を濫伐して売り飛ばせてテラを取り、甚だしきは往古至尊上法皇が奉幣し、国司地方官が敬礼した諸社を破壊し神殿を路傍に棄てさらした。
あさ須原峠のけんのぼる、偶々たま/\行者三人のきたるにふ、身には幾日か風雨ふううさらされてけがれたる白衣をちやくし、かたにはなが珠数じゆづ懸垂けんすゐし、三個の鈴声れいせいに従ふてひびきた
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
その露台では、今まさに大きな灰色の広告気球バルーンが、その異様な姿態をさらけ出して、愉快な青空の中へ、むくむくと上昇し始めていた。私は思わず息を吸い込んだ。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そこで、私はふつうの刺身ほど厚くは切らぬが、極端に薄くしないで、よく洗うと、なるほどさらしくじらのようにちりちりとはならないが、体よくちりちりとなる。
道は次第に狭し (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
それで其の飛出した眼球が風早を睨付けてゐるやうに見える。此の眞ツ赤な人體の模造とならんで、綺麗に眞ツ白にさらされた骸骨が巧く直立不動の姿勢になツてゐる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
浸してはさらし、晒しては水にでた幾日の後、むしろの上でつちの音高く、こもごも、交々こもごもと叩き柔らげた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「しかし、君がもう代表して恥をさらしてくれているなら、何も僕がさらしたってかまわぬだろう。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)