はた)” の例文
旧字:
雪洞ぼんぼりを取ってしずかに退座す。夫人長煙管ながぎせるを取って、はたく音に、図書板敷にて一度とどまり、直ちに階子はしごの口にて、ともしびを下に、壇に隠る。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御生憎おあいにく様、もうこれぎりなの。到来物よ」と云って梅子は縁側へ出て、ひざの上に落ちたウエーファーのはたいた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そんなわけじゃねえが、すっかりはたいてしまっちゃ明日困るからな。」と銭占屋は腹巻をさすり挲りひっ込む。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
手のかないときなぞには洗吉さんが使なぞもして下さるし、青木さんでも、二階なぞのはたき掃除や何か、自分でして下さるのでどんなにか助かつてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
私共わたくしども夫婦は最早旅費をつかいなくし、ことには病中の入費いりめ薬礼や何やかやで全く財布さいふの底をはたき、ようやく全快しましたれば、越後路へ出立したくも如何いかにも旅費が乏しく
光代は向き直りて、父様はなぜそう奥村さんを御贔負ごひいきになさるの。と不平らしく顔を見る。なぜとはどういう心だ。めていいから誉めるのではないか。と父親てておやは煙草をはたく。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
午前あさの三時から始めた煤払いは、夜の明けないうちに内所をしまい、客の帰るころから娼妓じょろうの部屋部屋をはたき始めて、午前ひるまえの十一時には名代部屋を合わせて百幾個いくつへやに蜘蛛の一線ひとすじのこさず
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
紳士は真新しい白い手帛ハンケチで椅子の埃をはたき、そこらに散らばつてゐる麺麭屑パンくづを払ひ落したりした。手帛ハンケチはその朝紳士の細君かないが、恩にせながら箪笥の底から態々わざ/\取り出して呉れたものだつた。
先達も立構えで、話のうちむしって落した道芝の、帯の端折目はしょりめに散りかかった、三造の裾を二ツ三ツ、あおぐようにはたいてくれた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
坑夫はうまそうに腹の底まで吸ったけむを、鼻から吹き出しているに、短い羅宇らおの中途を、煙草入の筒でぽんとはたいた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手前にかまけてつい御無沙汰をしているおびなど述べ終るのを待って、媼さんは洋銀の細口の煙管きせるをポンとはたき、煙をフッと通して、気忙しそうに膝を進める。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
と綱雄は一打ち煙管きせるはたく。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
「こう、はばかりだが、そんな曰附いわくつきの代物は一ツも置いちゃあねえ、出処でどこたしかなものばッかりだ。」とくだんののみさしを行火あんかの火入へぽんとはたいた。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渋紙の袋を引き出してちりはたいて中をしらべると、画は元のまま湿しめっぽく四折よつおりに畳んであった。画のほかに、無いと思った子規の手紙も幾通か出て来た。
子規の画 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
秋ももうけて、木葉もメッキリ黄ばんだ十月の末、二日路の山越えをして、そこの国外れの海に臨んだ古い港町に入った時には、私は少しばかりの旅費もすっかりはたきつくしてしまった。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
野郎一生の運が向いて、懐をはたいた、芸妓げいしゃ、女郎にれられたってそうは行かない。処を好き自由にだっこに及んで、夜の明けるまで名代みょうだいなしだ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「御生憎様、もう是限これぎりなの。到来物とうらいものよ」と云つて梅子は椽側へて、ひざうへちたウエーフアーのはたいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はッとしながら、玉を抱いた逆上のぼせ加減で、おお、山蟻やまありってるぞ、と真白まっしろ咽喉のどの下を手ではたくと、何と、小さな黒子ほくろがあったんでしょう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時お妙のことばというのが、余り案外であったのから、小芳はあわただしく銀の小さな吸口をはたいて煙管きせるを棄てたのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何の男のようでもない。のッそりの蝦夷アイヌなんか、私は何とも思わない。悪く形でもあらわして見たがい。象牙のばちがあるものを、はたき殺しても事は済む。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三尺をしめ直す、脚絆のほこりはたいたり、荷づなを天秤てんびんに掛けたり、はずしたり。……三味線の糸をゆるめたり、袋に入れたり……さてまた袋を結んだり。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(乾いた道で、この足袋がございます。よくはたけば、何、汚れはしません。お手数てかずは恐れ入ります、どうぞ御無用に……しかしお座敷へ上りますのに、)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふ時のあしには、一種の粘糊ねばりが有るから、だるいのをしてはたくはいが、悪くてのひらにでもつぶれたらうせう。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雪枝ゆきえいきせはしくつて一息ひといきく。ト老爺ぢい煙草たばこはたいた。吸殻すゐがらおち小草をぐさつゆが、あぶらのやうにじり/\とつて、けむりつと、ほか/\薄日うすびつゝまれた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「号外、号外ッ、」とあわただしく這身はいみで追掛けて平手で横ざまにポンとはたくと、ころりとかえるのを、こっちからも一ツ払いて、くるりとまわして、ちょいとすくい
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも、手でなんぞ尋常なんじゃなくッて、羽団扇はうちわはたいたのかも知れません。……ああ、あの、緋葉もみじがちらちらと散りますこと。ひとりで散れば散るんですけれど。
「見ねえ、身もんでえをするたんびに、どんぶりが鳴らあ。腹の虫が泣くんじゃねえ、金子かねの音だ。びくびくするねえ。お望みとありゃ、千両束で足のほこりはたいて通るぜ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「馬鹿いえ、君たあ何か、」といいざまに横撲よこなぐりはたく手を、しっかと取ったが声も震えて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところでさて、首に巻いた手拭てぬぐいを取って、はたいて、馬士まごにも衣裳いしょうだ、芳原かぶりと気取りましたさ。古三味線を、チンとかツンとか引掻鳴ひっかきならして、ここで、内証で唄ったやつでさ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いえ、何、擦剥すりむきもしないようだ。」と力なく手を垂れて、膝の辺りをしずかはたく。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外土間に出張った縁台に腰を掛けるのに——市が立つと土足で糶上せりあがるのだからと、お町が手巾ハンケチでよくはたいて、縁台に腰を掛けるのだから、じかに七輪しちりんの方がいい、そちこち、お八つ時分
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「鎌首を出したはどうです、いや聞いても恐れる。」とばたばたと袖をはたく。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時も、手で突張つっぱったり、指で弾いたり、拳で席をはたいたり、(人が居るです、——一人居るですよ。)その、貴下あなた……白襯衣しろしゃつ君の努力と云ってはなかった。誰にも掛けさせまいとする。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たもとから出した手巾ハンケチを、何とそのまあ結構な椅子につかまりながら、人込の塵埃ほこりもあろうとはたいてくれましたろうではございませんか、私が、あの知己ちかづきになりましたのはその時でございました。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愚図ぐず々々ぬかすと、処々に伏勢ふせぜいは配ったり、朝鮮伝来の地雷火が仕懸けてあるから、合図の煙管きせるはたくが最後、芳原はくうへ飛ぶぜ、と威勢の懸合かけあいだから、一番景気だと帳場でも買ったのさね。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
絵で見た大将が持つ采配さいはいを略したような、何にするものだか、今もってわからない。が、町々辻々に、小児こどもという小児が、皆おもちゃを持って、振ったり、廻したり、くうはたいたりして飛廻った。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引出したのは一足の古下駄げたで、かちりとあわしてほこりはたいてそろえてくれた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老爺ぢいは、もつぺのひざ小刀屑こがたなくづはたきながら、まゆをふさ/\とゆすつてわら
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とむッつりした料理番は、苦笑いもせず、またコッツンと煙管をはたく。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばたばた、はらはらと、さあ、なさけない、口惜くやしいが、袖やたもとはたいた音。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と笑いもカラカラと五徳に響いて、煙管をはたいた。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時々とき/″\ひら/\とからすて、つばさで、をんなむねはたく……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かちりとはしてほこりはたいてそろへてれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
葛木は欄干にステッキを倒して、やわらかに手をはたいた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆さんは手を揃えて横の方で軽くはた
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぽんと、馬づらが煙管きせるはたいた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はたはたと袖をはたいて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ポンと煙管きせるはたいて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ポンと煙管きせるはたいて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
愛吉は吸殻をはたいて
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)