ゆる)” の例文
『もしっ……旦那様……。何ぞ、わたくしに落度でもござりましたならば、どうぞおゆるしくださいませ。のようにも、改めまする』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現在はゆるし得べき程度の利己心を持っている。一時の生命もその権利を有していて、未来のために常に犠牲にせらるべきものではない。
しかし弟は実にしからん非道い奴です。私の出現がどれほど彼を苦しめたか知れないが、私を生きながら葬ろうとした罪はゆるせません。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
又「酔うたのだよ、酔うて居るからゆるせと云うに……困ったね、突然いきなりつとはえらい、きずが出来たらどうも成らん、みともないわ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そうだ、あの男はじつに立派な秀抜な人間だ」と、今はもう誰でも彼でも褒め上げてゆるしてしまいたい気分で、ラエーフスキイは相槌をうった
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何卒なにとぞゆるください、陛下へいかよ』二點ツウきはめて謙遜けんそんした調子てうしつて片膝かたひざをつき、『わたしどものりましたことは——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
樽廻船は船も新型で、運賃もやすくしたので、菱垣船は大打撃をこうむった。話のうちにも老主人は時々神経痛をゆるめるらしい妙な臭いの巻煙草まきたばこった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自分の心にたずねて人に無礼を加うる念が毛頭もうとうなければ、動作の調ととのわぬことなどは、人もゆるすであろう、また自分の良心も必ずこれをゆるすものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
落草ぬすびとども道をささへて、行李にもつも残りなくうばはれしがうへに、人のかたるを聞けば、是より東の方は所々に新関しんせきゑて、旅客たびびと往来いききをだにゆるさざるよし。
「余計なことまで聞きたがるのはゆるしてくれい。お前はお前の新しい哲学に従って有難く暮してゆくつもりかな?」
それは勝三郎の生前しょうぜんに、勝久らが百方調停したにもかかわらず、ゆるされずにしまった高足弟子こうそくていし勝四郎の勘気である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
進むの願ひいと深くして我等止まることをえず、このゆゑに我等の義務つとめもし無禮むらいとみえなばゆるせ 一一五—一一七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
人間のする事、なす事、云ふ事、皆、何等かの(仮定)と云ふ物をゆるして居るのだ。「仮定」の二字を人間から取つてしまつたら、人間はどーする気だらう。
俺の記 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
くらませはしないわ。まつすぐに白状しておしまひなさい。妾ちつとも怒りやしなくつてよ。ゆるして上げるわ。どうせ妾、貴方に惚れてる訳ぢやないんだから。
いって置く位がよかろう。あれは元来善い男だけれども今度は心なしに誤ったんだからゆるしてやるがよかろう
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ゆるし置者なりと御詫宣たくせん有けるとかやされば此畔倉重四郎も則ち是等の道理だうりに有んか前世の因縁いんねんも有しことなるかしかしながら是もたゞしばしうち斯る大惡不道も天のゆるしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また或時女王が海賊の三人の捕虜の美しい男ぶりを愛でてその生命をゆるしてやったことがあった。クウフリンは何も云わず真面目な様子をして彼等を眺めていた。
此まゝにして置けば、隣家はゆるしてくれもしようが、かならず何処どこかで殺さるゝに違いない。折も好し、甲州こうしゅうの赤沢君が来たので、甲州に連れて往ってもらうことにした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
登恵子は此のことを早速スワンの主人に話し、相当な処置をとってくれればよし、さもない時は良人に打ら明けた上彼のゆるしを乞うて断乎たる方法を採ろうと決心した。
女給 (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
「こは意外長坐しぬ、ゆるしたまへ」ト会釈しつつ、わが棲居すみかをさして帰り行く、途すがら例の森陰まで来たりしに、昨日の如く木の上より、矢を射かくるものありしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
聞いてびっくり苅萱道心かるかやどうしんなら、妻妾の髪が蛇となって闘うを見て発心したのだが、この王は自分が蛇となった前夜の夢を憶い出して奇遇にあきれ、后をゆるしてまた問わず。
親の仲裁によって辛うじてゆるしてもらい、おとなしくその晩は寝ること、子供のない家でもいろいろむつかしい文句を述べ、後に酒を出されて仮面の下から飲むことなど
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それでこの甚だ杜撰ずさんな比較が万一この方面の専門家の真面目な研究のヒントにでもならばと思って、思い付いたままを誌してみた次第である。僭越の罪はゆるしてもらいたい。
短歌の詩形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いわんや金蓮の怪たんなる、明器めいきを仮りて以て矯誣きょうぶし、世をまどわしたみい、条にたがい法を犯す。きつね綏綏すいすいとしてとうたることあり。うずら奔奔ほんぽんとして良なし、悪貫あくかんすでつ。罪名ゆるさず。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
諸君、我らはこの天皇陛下をっていながら、たとえ親殺しの非望を企てた鬼子きしにもせよ、何故なにゆえにその十二名だけゆるされて、の十二名を殺してしまわなければならなかったか。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
今に私がへまでもしたら一隅で意地悪く悦び立てようと身構えでもしているように。だが私は恐らく誰よりも愛情深い態度でいつも彼に臨んだ。私はむしろ彼をゆるしたかったのである。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
臣又願わくは陛下益々ますます親親しんしんの礼をさかんにし、歳時さいじ伏臘ふくろう使問しもん絶えず、賢者は詔を下して褒賞ほうしょうし、不法者は初犯は之をゆるし、再犯は之をゆるし、三ぱん改めざれば、則ち太廟たいびょうに告げて、地を削り
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どうかゆるしてやって下さいと云うから、「よし貴様がなか這入はいれば宥してる。 ...
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
〔評〕徳川慶喜よしのぶ公は勤王きんわうの臣たり。幕吏ばくりの要する所となりて朝敵てうてきとなる。猶南洲勤王の臣として終りをくせざるごとし。公はつみゆるし位にじよせらる、南洲は永く反賊はんぞくの名をかうむる、悲しいかな。
板坂卜斎覚書にあるが如く、家康は関ヶ原役後、当時敵となりし人の妻及び娘は皆これをゆるしたり、その将軍となりし時も、かつて敵となりし人々の婦女も京都堀川にてその行装を見物せりと云ふ。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いや、悪かつた。重々あやまる。ほんの悪戯いたづらに過ぎなかつたんだからゆるして呉れ。」悪戯いたづら好きな男は先刻さつきの縄を取り上げて見せた。「見給へ、投げ出したのは蛇ぢやなくて、縄だつたんだよ。」
忽ち舊誼の絲に手繰たぐり寄せられて、一餐さんの惠に頭を垂れ、再びもとのカムパニアの孤となるも我なり。恩人夫婦はわが昔の罪をゆるして我を食卓につらならしめ、我を遊山ゆさんに伴はんとす。あに慈愛に非ざらんや。
をぢさんの取りなしで、お道はやうやうに夫のゆるしを受けた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ほとんど何の義憤をも感ぜずにその人をゆるすことができた。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
それは噴火山がゆるめてくれるのだ。
彼は子供をゆるすように云った。
伊太利亜の古陶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ひがたき心ゆるさめ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
は、殊のほか短慮者ゆえ、御奉公を過っても、三度まで死罪のおゆるしをお含みおき下さるなら、差出しましょうといわれたそうな。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謝罪あやまって許してくれるような人だったら、私はこんなにも心配はいたしませんわ、たとえ事情がどんなであろうとあの人は断じてゆるしません。
機密の魅惑 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
文「そち達は好んで徒党いたした訳でない、平林の非道にえ兼て起った事ゆえ、今度に限り其の罪をゆるすとの事じゃ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お慈悲で御座います。御情で御座います。たった一言ゆるすと仰しゃって下さいまし。師よ、わたくしはくいに虐まれて、息が詰りそうなので御座います。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二人はお互いに過去の恥ずかしい所業をゆるし合い、現在のこともすべて宥し合って、この二人の恋が彼らをともに生まれ変わらせてしまったように感じるのだった。
萬望どうぞ、おゆるしをねがひます』とあいちやんは消魂けたゝましいこゑさけんで、ふたゝ手早てばや彼等かれらひろげました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「さあ、わたしを捕へなさい。昔の親友よ! 大なる神は屹度君の罪をもゆるし玉ふだらう。」
ゆるし伊豆大島へ遠島ゑんたうつぎに煙草屋喜八はかまひなしつまかまひなし家主いへぬし平兵衞此度のはたらき町人には奇特きどくに付ほめおくみぎの通申わたされ双方さうはうけん落着らくちやくせりさて穀物屋こくものや吉右衞門は女郎初瀬留はせとめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
少しく奇人をてらい、英雄を真似たとすれば、無礼のそしりをまぬかれぬが、自分の心得の最善を尽している以上は、行儀作法ぎょうぎさほうに多少の欠点ありとするも、人はこれをゆるすものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
どこに不忠の嫌疑をおかしても陛下をいさめ奉り陛下をして敵を愛し不孝の者をゆるし玉う仁君となし奉らねばまぬ忠臣があるか。諸君、忠臣は孝子の門に出ずで、忠孝もと一途である。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
村中のもの集まりて殺さんかゆるさんかと評議せしが、結局今後こんごは村中の馬に悪戯いたずらをせぬという堅き約束をさせてこれを放したり。その川童今は村を去りて相沢あいざわの滝の淵に住めりという。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今はみやこにのぼりて尋ねまゐらせんと思ひしかど、丈夫ますらをさへゆるさざる関のとざしを、いかで女の越ゆべき道もあらじと、軒端の一〇六松にかひなき宿に、きつね鵂鶹ふくろふを友として今日までは過しぬ。
其れから懐中して居た短刀をぬいて、白状はくじょうするならゆるす、うそくなら命をもらうからそう思え、とかゝりますと、妻は血相を変えて、全く主人に無理されて一度済まぬ事をした、と云います。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)