せき)” の例文
「おそらくは、由緒あるお山のご高徳でいらせられましょう。ぜひ、一せきのおときなと差上げて、ご法話でも伺いたいと申されますが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
婦人は間もなく健康になって、かの一せきはなし土産みやげに都に帰られた。逗子の秋は寂しくなる。話の印象はいつまでも消えない。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ミミイ嬢はタヌの叱責しっせきに廉恥心を感じ、一せき、五合余りの牛乳と一〇〇グラムのバタを嚥下えんかして、山のように積んだ臓品のそばで自殺してしまった。
そして色々な非難もあらうが、谷崎君もつて云つた通り、明るく快活な気持で、一せきを過すと云ふ意味なら、もつと、寧ろ流行させたいやうな気がする。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
かつて故児玉こだま大将が生存中、僕は一せき大将をそのやしきに訪ねたことがある。折から外出より帰った大将は
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かんの熱いのをと命じて、手あきの女中達大勢に取り巻かれて、しばらく一せきの名残を惜んでいる。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
種種しゆじゆいろ大理石を自由に使役して、この高雅と壮大と優麗との調和を成就したれの才の絶大さよ。此処ここには彼れの雄偉ゆうゐなる未成品「ちう」「」「てう」「せき」の四像もあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
『閲微草堂筆記』の名をかぶらせたのでありまして、実に一千二百八十二種の奇事異聞を蒐録しゅうろくしてあるのですから、とても一朝一せきに説き尽くされるわけのものではありません。
加州のある土地で、博士は在留日本人から招待せうだいを受けて一せき国語教育の講演をした。
練兵場のよこを通るとき、おもくもが西で切れて、梅雨つゆにはめづらしいせき陽が、真赤まつかになつてひろはら一面いちめんらしてゐた。それがむかふくるまあたつて、まはたび鋼鉄はがねの如くひかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
せき翁の語りけるは、今より四五十年以前吉田の(三島郡の内なり)ほとり大鳥川といふたに川に夜な/\光りものありとて人おぢて近づくものなかりしに、此川の近所に富長村といふあり
その倉地が妻や娘たちに取り巻かれて楽しく一せきを過ごしている。そう思うとあり合わせるものを取ってちこわすか、つかんで引き裂きたいような衝動がわけもなくこうじて来るのだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ありしは何時いつの七せき、なにとちかひて比翼ひよくとり片羽かたはをうらみ、無常むじようかぜ連理れんりゑだいきどほりつ、此處こヽ閑窓かんさうのうち机上きじやう香爐かうろえぬけふりのぬしはとへば、こたへはぽろり襦袢じゆばんそでつゆきて
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わずらわすことになったが、実は一ちょうせきの思いつきじゃない。この一二年、手当り次第に伝記書類を読んで見た。しかし何うも気に入らん。初めから教訓の積りで書いているから、肩が凝ってしまう
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
居士コジには居士コジ定見ていけんあり、そを評論ひやうろんせんは一てふせきわざにはあらじ。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
升目ますめ 一升四ごうせき 八合九夕 五合七夕
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
きはめてお光に向ひ夫は道理もつともなる次第なれども一てうせきの事ならず假令證據しようこ人の有ればとて周章あわてねがふ事がらならず殊に北の御番所にて先年せんねん裁許濟さいきよずみに成し事故今更兎や角申立るとも入費倒にふひたふれにてむだ事に成も知れず云ば證文の出しおくれなり夫より最早もはやをつと道十郎殿の事は前世よりの因縁いんえん斷念あきらめられ紀念かたみの道之助殿の成長を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
というのは、佐渡様とも申しあわせ、御身が小倉へ到着したら、ぜひ一夜、われらなどもじえて、一せきの宴をと、待ちもうけていたのじゃ
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十年ぶりに読んでいるうちにはしなく思い起こした事がある。それはこの小説の胚胎はいたいせられた一せきの事。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
せき翁の語りけるは、今より四五十年以前吉田の(三島郡の内なり)ほとり大鳥川といふたに川に夜な/\光りものありとて人おぢて近づくものなかりしに、此川の近所に富長村といふあり
わが共同の邸宅に招き一せき盛大なる晩餐会を催すにつき、食堂、玄関、便所の嫌いなく満堂国花をもって埋むべし、という、例によって例のごとき、端倪たんげいすべからざるタヌが咄嗟さっそくの思い立ち。
「人間の性格って、然う一ちょうせきに分るものじゃありませんわ」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
後七せきの条に「当日御祝儀御帳出勤」と記してある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「それは一ちょうせきに話せぬが、つまるところ、お千絵という世阿弥よあみの娘も、弦之丞に思いをよせて、あいつに逢うのを一念で待っているのだ」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せき夫人繁子しげこを書斎に呼びて懇々浪子の事を託したる後、同十三日大纛だいとう扈従こしょうして広島大本営におもむき、翌月さらに大山大将おおやまたいしょう山路やまじ中将と前後して遼東りょうとうに向かいぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
う一ちょうせきに行くまい」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
せきの宴をもうけて、また、彼の人間をも見ようとする姫路藩の人々が、二十余名も、駕籠かごまでもって、迎えに出ていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらにまた、それが一朝一せきの陰謀でなく、義伝公以来歴代の太守が、幕府に隙さえあらばと、常にやじりいでいたことに違いない、とも思った。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご存知ないか。毛利方の軍備というのは、一朝一せきのものではありませぬぞ。想像以上と思わねばなりますまい」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに、酒でも設けて、一せき、剣談を交わそうとあれば、彼もよろこんで来るであろうし、大殿の耳へ入っても、それならばおとがめはなかろうではないか。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一せき、相府の宴には、きびすをついでくる客の車馬が迎えられた。相府の群臣も陪席し、大堂の欄や歩廊のひさしには、華燈のきらめきとがんの明りがかけ連ねられた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやこの張順も、はからずお三名の豪傑に、一せきどうのうちでお目にかかり、こんなうれしいことはございません。どうぞこれからは兄弟分の端と思ってお叱りを」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出す。すまないが貴公たちも、この不愍ふびん酒楼さかば芸人のために、一せきの歌でも唄わせたと思って、餞別せんべつをやってくれんか。……それを路銀に故郷へ帰してやりたいと思うが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時の憶い出を語りながら、一せき会したいというのである。場所は、根岸の笹の雪としてある。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十年語り合っても理解し得ない人と人もあるし、一せきの間に百年の知己ちきとなる人と人もある。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
徳川家の藩塀はんぺいとして、ここに一城を築きまするにも、一朝一せきのことではなく、藩祖浅野采女正の勲功くんこう、以後代々の忠誠に依り、御恩遇をこうむりましたこと、亡君内匠頭に於ても
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まことに、よいお話で。皆様の御推挙が通り、それが実現すれば、柳営武道のためにも、武蔵どののためにも、もう一せき、宴を張って、お杯を挙げてもよろしゅうございますな」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小柳生城の中へ、わっぱひとりを連れて、堂々と、入り込んでござった不敵さは、曲者くせものながらよいつらがまえ。それに、一せき好誼よしみもある。——腹を切れ、支度のあいだは待ってやろう。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは木曾路をへてくる上方かみがたの客、信濃路しなのじからくる善光寺帰りの旅人、和田峠をこえて江戸の方角から辿たどりつく旅人などが、一せきあかを洗うべく温泉をたのしみに必ずわらじを脱ぐので
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その女性は、和尚の郷国くにとはすぐ近い美作みまさかの七宝寺とやらで育った者であるといえば、和尚とは話も合おう。佳人の笛を聞きながら一せきの美酒は、茶で時鳥ほととぎすという夜ともまた変った味がある。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、一せき、佐女牛の邸に、闘茶とうちゃの会を催して、在京の諸大将を招待した。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あすは都へ還るという前夜、曹操は諸大将と一せきかんを共にした。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一せき、お迎え申したいが」と、使いを以て招いた。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めずらしく、積良つむらの一せきは、清遊であった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)