四谷よつや)” の例文
四谷よつやとほりへ食料しよくれうさがしにて、煮染屋にしめやつけて、くづれたかはら壁泥かべどろうづたかいのをんで飛込とびこんだが、こゝろあての昆布こぶ佃煮つくだにかげもない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
淀橋よどばし区、四谷よつや区は、大半焼け尽しました。品川しながわ区、荏原えばら区は、目下もっか延焼中えんしょうちゅうであります。下町したまち方面は、むしろ、小康状態に入りました」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
四谷よつやの御用聞で朱房しゅぶさの源吉という顔の良いのが、一応見に来ましたが、裏木戸やお勝手口の締りは厳重な上、塀の上を越した跡もないので
先生病院のベッドの上で気がついたときの様子はというと、顔が二倍ぐらいにれあがっていて、人相は四谷よつやお岩をむくましたようだった。
わたしが、父と一緒に四谷よつや納涼すずみながら散歩にゆくと、秋の初めの涼しい夜で、四谷伝馬町よつやてんまちょうの通りには幾軒の露店よみせが出ていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
下谷したやから浅草あさくさへ出たらう、それから本郷台ほんがうだいあがつて、牛込うしごめへ出て四谷よつやから麹町かうぢまちへ出てかへつてた、いやもうがつかりした。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
下谷したや佐竹ッぱらの浄るり座や、麻布あざぶ森元もりもと開盛座かいせいざを廻り、四谷よつや桐座きりざや、本所ほんじょの寿座が出来て、格の好い中劇場へ出るようになるかと思うと、また
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私はその道具屋の我楽多がらくたといっしょに、小さいざるの中に入れられて、毎晩四谷よつやの大通りの夜店にさらされていたのである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
商人は一声叫ぶなり坂を四谷よつやの方へ逃げあがった。あがったところに夜鷹蕎麦よたかそばの灯があった。商人はふいごのような呼吸いきと同時にその屋台へ飛びこんだ。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
けれども夕日と東京の美的関係を論ぜんには、四谷よつや麹町こうじまち青山あおやま白金しろかね大通おおどおりの如く、西向きになっている一本筋の長い街路について見るのが一番便宜である。
ひつじ屋で、花模様のジョウゼットを買ってから、四谷よつやに洋装学校をもっているあるマダムの邸宅を訪問した。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
役所に遠いのを仮托かこつけに、猿楽町さるがくちょうの親の家を離れて四谷よつやかみの女の写真屋の二階に下宿した事もあった。神田の皆川町みながわちょう桶屋おけやの二階に同居した事もあった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「どうもえらい騒動でげすな。拙者は、まだ暗いうちに家を出まして、四谷よつやからあるいて来ましたので」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
四谷よつや区某町某番地に、鶴見仙之助というやや高名の洋画家がいた。その頃すでに五十歳を越えていた。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
眠くって頭のしんがズキズキするのをこらえて、朝の街に出てゆくと、汚い鋪道ほどうの上に、散しの黄や赤が、露にベトベト濡れて陽に光っていた。四谷よつやまでバスに乗る。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
刑事はほとんどそれを廻り尽して、今は、山の手の牛込うしごめ四谷よつやの区内が残っているばかりであった。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
橋本の敬さんが、実弟の世良田せらだぼうを連れて来た。五歳いつつの年四谷よつやに養子に往って、十年前渡米し、今はロスアンゼルスに砂糖さとう大根だいこん八十町、セロリー四十町作って居るそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けさほど檀家だんかの縁日あきんどを狩りたてて、江戸じゅう総ざらえをいたさせましたら、耳なし浪人くまのおりを引き連れて、きょうから向こう三日間、四谷よつや毘沙門びしゃもんさまの境内で
享保きょうほう十八年、九月十三日の朝、四谷よつや塩町のはずれに小さな道場をもって、義世流の剣道を指南している鈴木伝内が、奥の小座敷で茶を飲みながら、築庭ちくていの秋草を見ているところへ
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いったいどこへゆくのだろう? 四谷よつやを過ぎ、いちを過ぎ、牛込うしごめの方へ走ってゆく。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ええ、狆は荒物屋にはいません。ですが、四谷よつやの親類の方にいるんだそうです」
保己一ほきいちだん四谷よつや寺町てらまちに住む忠雄ただおさんの祖父である。当時の流言に、次郎が安藤対馬守信睦のぶゆきのために廃立の先例を取り調べたという事が伝えられたのが、この横禍おうかの因をなしたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
山の手の四谷よつやの一かくは、屋敷町の閑寂かんじゃくな木立に、蝉しぐれがきぬいていた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この打ちこわしは前年五月二十八日の夜から品川宿、芝田町たまち四谷よつやをはじめ、下町、本所ほんじょ辺を荒らし回り、横浜貿易商の家や米屋やその他富有な家を破壊して、それが七、八日にも及んだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何でも牛込見附うしごめみつけからかなり行って、四谷よつや見附の辺のお堀端ほりばたから松の枝が往来へ差し出ているのが目につくあたりにお住いだったと思います。痩形で、少し前屈まえかがみの恰好かっこうの静かなお年寄でした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
例の『四谷よつや怪談』では御岩おいわ様の幽霊は概念的作品であまり凄くない。凄くしようという意図の方が凄さの実想より先に見えるからだが、その中にただ、たらいの中から青白い手の出るところがある。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
俺あ地蔵様を信心して、道傍みちばたに石の地蔵様が倒れてござらっしゃれば起して通る、花があれば花、水があれば水を上げて信心するだ……昨日も四谷よつやの道具屋に、このお地蔵様の木像があったから
詩人 お里つて言へば、四谷よつやか、どつかぢやありませんか。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
私等わしらあですか、私等は四谷よつや塩町しほちやうに居るんでがすア」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「長唄も岡安おかやすならまんざらでもないけれども、松永は唯つッこむばかりで面白くもなんとも有りゃアしない。それよりか清元の事サ、どうも意気でいいワ。『四谷よつやで始めてうた時、すいたらしいと思うたが、因果な縁の糸車』」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
四谷よつやだ」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
川崎の大師へ参詣かたがた……は勿体ないが、野掛のがけとして河原で一杯、茶飯と出ようと、四谷よつや辺の大工左官など五六人。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瑠璃子が赤阪ひとで先に降り、次に春代が四谷よつや左門町さもんちょうで降りると、運転手はあらかじめ行先を教えられているので、塩町しおちょうの電車通から曲って守阪かみざかを降りかけた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下谷したやから浅草あさくさ𢌞まはつて、それから貴方あなた本郷台ほんがうだいへかゝりました、それから牛込うしごめへ出まして、四谷よつやから麹町かうぢまち𢌞まはつてかへつてまゐりまして、いやもうがつかりいたしました。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
たしか明治二十四年頃であった、二葉亭は四谷よつやかみの女の写真屋の二階に下宿した事があった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
四谷よつやに赤外線男が出た。三河島みかわしまにも赤外線男が現われたと、時間と場所とをわきまえぬ出現ぶりだった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何分なにぶんよろしく」とたのんでそとた。かどて、四谷よつやからあるつもりで、わざと、しほゆきの電車につた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
四谷よつや北町の小永井鉄馬こながいてつま殿、二百五十石をんで、安祥あんしょう旗本の有名な家柄だ——、その方が中風で、弟の滝三郎たきさぶろうというのが後見をしているが、どうも面白くないことがある」
夕方四谷よつやの三輪会館に行ってみると場内はもういっぱいの人で、舞台は例の「剃刀」である。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
四谷よつやで生れていまもあの辺に住んでいる女から、お鯉の生家は、いま三河屋みかわやという牛肉屋のある向角むこうかどであったということを聞いたことがあったので、さまざまに取沙汰とりざたされている
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
同じ日の午前十時頃、四谷よつやの桜井品子の家には、又別の椿事が突発していた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
台所を働くお仙という女は知行所から呼び寄せたが、主人の手廻りの用を勤める女は江戸の者を召仕うことにして、番町から遠くない四谷よつや生れのお菊というのを一昨年の秋から屋敷に入れた。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふたり手を携えこの江戸に走りまして、四谷よつやの先に袋物屋を営みおりますと知りましたゆえ、恥ずかしさもうち忘れあと追いかけまして、昔のふたりに返るよう迫りましたところ、男の申しますには
一名四谷よつやとんびという一味の通人でありました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
途中とちうあつたとつて、吉井勇よしゐいさむさんが一所いつしよえた。これは、四谷よつや無事ぶじだつた。が、いへうら竹藪たけやぶ蚊帳かやつてなんけたのださうである——
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
帰りみちが同じ四谷よつやの方角なので、君江と春代とは大抵毎晩連立つれだって数寄屋橋すきやばしあたりから円タクに乗る。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そうさね。東京は馬鹿に広いからね。——何でも下町したまちじゃねえようだ。やまだね。山の手は麹町こうじまちかね。え? それじゃ、小石川こいしかわ? でなければ牛込うしごめ四谷よつやでしょう」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四谷よつや駕籠町かごまち比丘尼店びくにだな平助ッ」
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
わかときことだ。いまではかまふまい、わたしてい二人ふたりで、宿場しゆくばでふられた。草加さうかあめつたのではない。四谷よつやはづれで、二人ふたりともきらはれたのである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
以前飯田町いいだまちにいた荒木のばあさんの家へも電話をかけたが、どうしても通じないんだ。今は四谷よつやにいるんだからね。実はこれから行って見ようかと思っていたところさ。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)