其癖そのくせ)” の例文
餅菓子店もちぐわしやみせにツンとましてる婦人をんななり。生娘きむすめそでたれいてか雉子きじこゑで、ケンもほろゝの無愛嬌者ぶあいけうもの其癖そのくせあまいから不思議ふしぎだとさ。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
手に提げた水入れの石油缶が邪魔で仕方がない。其癖そのくせ今朝からまだ一滴も口に入れないのだ。寒い位涼しいので水など少しも欲しくない。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
其癖そのくせ私は祖母を小馬鹿にしていた。何となく奥底が見透みすかされるから、祖母が何と言ったって、ちッとも可怕こわくない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
其癖そのくせかれ一々いち/\絹糸きぬいとるした價格札ねだんふだんで、品物しなもの見較みくらべてた。さうして實際じつさい金時計きんどけい安價あんかなのにおどろいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ひとりいてるといへば至極しごく温順おとなしくきこえるが、其癖そのくせ自分じぶんほど腕白者わんぱくもの同級生どうきふせいうちにないばかりか、校長かうちやうあまして數々しば/\退校たいかうもつおどしたのでも全校ぜんかうだい一といふことがわかる。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
つくゑまへにマツチはつて、かれれをてゐながら、其癖そのくせ大聲おほごゑげて小使こづかひんでマツチをつていなどとひ、女中ぢよちゆうのゐるまへでも平氣へいき下着したぎ一つであるいてゐる、下僕しもべや、小使こづかひつかまへては
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其癖そのくせ、ガラ/\とまた……今度こんど大戸おほどしまつたときは、これで、う、家内かないわたしは、幽明いうめいところへだてたとおもつて、おもはずらずなみだちた。…
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
消化こなれないかた團子だんごとゞこうつてゐるやう不安ふあんむねいだいて、わがへやかへつてた。さうしてまた線香せんかういてはりした。其癖そのくせ夕方ゆふがたまですわつゞけられなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こりゃ楽ではないわいとそぞろに不安の念が漂う。其癖そのくせ心はぐいぐい奥の方へ引張られて行くのだ。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
其癖そのくせ學校がくかうで、おの/\をのぞきつくらをするときは「じやもんだい、清正きよまさだ。」とつて、まけをしみに威張ゐばつた、勿論もちろん結構けつこうなものではない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其癖そのくせかれ性質せいしつとして、兄夫婦あにふうふごとく、荏苒じんぜんさかひ落付おちついてはゐられなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
よくおぼえてはないが、玄關げんくわんかゝると、出迎でむかへた……お太鼓たいこむすんだ女中ぢよちうひざまづいて——ヌイと突出つきだした大學生だいがくせいくつがしたが、べこぼこんとたるんで、其癖そのくせ
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのうち愚図々々ぐずぐずしているうちに、この己れに対する気の毒が凝結し始めて、ていのいい往生レシグネーションとなった。わるく云えば立ち腐れを甘んずる様になった。其癖そのくせ世間へ対してははなは気燄きえんが高い。
処女作追懐談 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はやかへらうとしたけれどおもくなつて其癖そのくせ神経しんけいするどくなつて、それでてひとりでにあくびがた。あれ!
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それで端然とすはつてゐる。くちに笑を帯びて無言の儘三四郎を見守つた姿すがたに、男は寧ろあまい苦しみを感じた。じつとして見らるゝにへない心の起つたのは、其癖そのくせ女の腰をおろすや否やである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其癖そのくせ、犬に吠えられた時、お弁当のおさいつて口塞くちふさぎをした気転なんぞ、満更まんざらの馬鹿でも無いに
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
父親てゝおや医者いしやといふのは、頬骨ほゝぼねのとがつたひげへた、見得坊みえばう傲慢がうまん其癖そのくせでもぢや、勿論もちろん田舎ゐなかには苅入かりいれときよくいねはいると、それからわづらう、脂目やにめ赤目あかめ流行目はやりめおほいから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
置處おきどころないまでに、みぎから、ひだりから、みちをせばめられて、しめつけられて、ちひさく、かたくなつて、おど/\して、其癖そのくせさうとする勇氣ゆうきはなく、およ人間にんげん歩行ほかうに、ありツたけのおそさで
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)