)” の例文
土地とちにて、いなだは生魚なまうをにあらず、ぶりひらきたるものなり。夏中なつぢういゝ下物さかなぼん贈答ぞうたふもちふること東京とうきやうけるお歳暮せいぼさけごとし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「峠の者こそ、抜かるなといってくれ」からびた笑い声をながして、下の者は、すたすたと胸突坂むなつきを登って行った。すると、不意に
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから西洋には、わさびおろしのような便利な機械がないので、からびたパン切れを、わさびおろしの代りに使っているわけである。
サラダの謎 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
秀夫は合点がてんが往かなかった。今の婢もそう顔だちの悪い女ではなかったが、あんなつやのないからびたような女ではなかった。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
土地にしろ、草木にしろ、生物にしろ、からびるといふことは、養分がなくなることで、機能の衰退、死滅を意味します。
正月に、漁師たちが大焚火でもしてあたりながら食べたのだろう、蜜柑みかんの皮がからびて沢山一ところに散らかっているのが砂の上に見えた。
海浜一日 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
六月みなつきつちさへけて照る日にも吾が袖めや君に逢はずして」(巻十・一九九五)等は、同じような発想の為方しかたの歌として味うことが出来る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
なにを湯だよ、洗濯のたらいでなくてもいてば、何を、えい強情張らなくても宜い、知ってるお客様だ、手拭てぬぐいたのを持ってお出で………さ此方こっち
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ええ奥さん、それが一番ですよ。可哀相だ可哀相だといってた日にゃ、こちらの口があがってしまいますからねえ」
ヂュリ なみだ創口きずぐちあらはしゃるがよい、そのなみだころにはロミオの追放つゐはうくやわしなみだ大概たいがいつけう。そのつなひろうてたも。
しお滿ちる珠を出して溺らせ、もし大變にあやまつて來たら、しおる珠を出して生かし、こうしてお苦しめなさい
まぶたひとつ、唇ひとつ、うごかすこともできず、まるで顔がかさかさにあがって木になって、頭は留針ピンのあたまみたいに、縮まったような気がする。
ねむい (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そのからびた声が、霜に響くせゐか、凛々りんりんとしてこがらしのやうに、一語づつ五位の骨に、応へるやうな気さへする。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あるじはこの時窓際まどぎは手合観てあはせみに呼れたれば、貫一は独り残りて、未だたもとかざしつつ、いよいよ限無く惑ひゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
して居ては家業に出る事もならず此方のあごて仕舞ぞや此罪このつみは皆お前の亭主へ懸て行よく/\のごふつくばりなりと己等が迷惑めいわくまぎれに種々はづかしめければ是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
従弟いとことおまっちゃんと三人で、炎天ぼしになって掬ったが、いれものをもたないで、土に掬いあげたのはすぐ消たようにかたまってしまった。三人はつばきをした。
くぬぎはしばみなどの落葉がからからにからびて、一歩一歩踏んで行く草鞋をややもするとすべらせようとする。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
しかし、ひとり背の高い、からびたような顔つきをした老紳士がいて、まゆが眼の上に張りだしていたが、この人は終始、重々しい、むしろ厳しい顔をしていた。
青年は一途いちずに救いを求めるような、混乱した表情を見せなから、からびた言葉をぐっと呑みこんだ。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうして鉄路の附近に、氷河湖の跡がからびて、今は青草の生えた牧場になって、牛が遊んでいる。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
奧さんの唇はいつもからびてひゞが入つてゐる。これはいつも頭から夜着を被つて寢るからである。奧さんは此家に來てから、博士の母君をあの人としか云はない。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
岩には青苔が蒸して、台のあたりはギボウシが手向の花のように咲いていた。からびた妙な物が炉の上に吊してある。何かと聞いて見れば熊の臓物であるという。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
無暗にごみなどは投げこめなかつたのですが、丸橋忠彌が石を投り込んだ内濠と違つて、二十や三十の菓子なら、夜陰ひそかに投り込めないことでは無かつたでせう。
西側の庭には温室もあり、その前の植木棚には盆栽が五、六十鉢、中に三百円も投じた「えびの巣」という名石や、二百円もする赤松の盆栽が、潮風にからびてる。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
と、どうなる⁈ エジプトの心臓ナイル河の水が、底をみせて涸々からからあがるだろう。むろん灌漑水かんがいすいが不足して飢饉ききんがおこる。舟行が駄目になるから交通は杜絶する。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
『大学』に「「斐たる君子あり」といって、立派な君子ありという意味の言葉があるのをもじって、「濡れた」に対し「たる」とかけて応答したというわけであった。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この世に生きている人間の慾が、る時なんかあるもんか。何千年何万年たったって同じさ。
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
露のの朝顔は、云う迄もなく碧色を要素ようそとする。それから夏の草花には矢車草がある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
このあたりを取り巻いているものは、ひろびろとした荒寥こうりょうたる環境かんきょうばかりでした。からびた褐色かっしょくのヒースと、うす黒くげた芝草しばくさが、白い砂洲さすのあいだに見えるだけでした。
そんなからびた木乃伊みいらみたいな了簡だから、せがれが云う事を聴かないでうちを飛出すのだぞ
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どうもこいつには二通りあるようです。あの四人組の一人のおとっつぁん、あの人のように肉がこけてからびて行くのと、それはまだいいが、ほんとに文字どおり腐って行く奴とです。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
カラカラというからびたような、しかし、ひどく傍若無人な高笑いであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
口惜くやしかったらどうとでもしてみろ。ぬかしたなあま。云ったらどうした、あたしの躯に傷でもつけたら、おまえの口があがるんだよ。くそ、このあま、と三平の逆上した声が聞え、幸坊が
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ねえ皆さん、どうでしょうね、もうじき水を掛けてもらえるんでしょうかしら?」と、水気の大好きなサゴ椰子やしが尋ねました、「あたくしもう、ほんとに今日はあがってしまいそうですのよ。」
かへりてはかごとやせまし寄せたりし名残なごりに袖のがたかりしを
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
君無くばからびた味の無い砂地のごとき悲哀になっちまう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ランドリュは咽喉をされたからびた声でつぶやいた。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
蒙古野に去年の出水の溜れるは五十年してぬべしと聞く
あるいはその根にいろいろな祭壇がからびてる。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
からびし黄ぐさのかをり、そのかみも仄めき蒸しぬ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
のこるかつらからびぬ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
て菫枯れしより
鬼哭寺の一夜 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お前のその蝦蛄しゃこもののようになった、両手の指を、かわがわってめろと言え。……いずれ剣劇や活動写真が好きだろう。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
抜きかけたが、ベリッと、いいそうな、こわい感触にもためらわれた。斑々はんはんと、紙端に黒くからびているのは、血の痕らしい。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右側にビール会社の煉瓦れんがの建物がからびた血のような色をしてそびえていた。そこはもう人通りが無くなっていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
モン長 げに、幾朝いくあさも/\、まだつゆなみだ置添おきそへ、くもには吐息といきくもくはへて、彷徨うろついてゐるのを見掛みかけたとか。
干菓子のようにからびた教育を、女庭訓おんなていきんとするようになってから、彼女たちに代ったものはなんであったか、大名たちのしも屋敷や国許くにもとにおけるめかけ狂いは別として
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
鼻は鸚鵡おうむくちばしのような形で、顔は天然痘のために少々穴があいていて、そこに消えることのないからびた花が咲いているさまは、霜にうたれた秋の葉のようだった。
からび切った笑いが、またヘラヘラと小屋の天井に響いて四方へ鬼気をき散らします。
詛言のろいごとを言つて、「この竹の葉の青いように、この竹の葉のしおれるように、青くなつて萎れよ。またこの鹽のちたりたりするように盈ち乾よ。またこの石の沈むように沈み伏せ」