一呼吸ひといき)” の例文
紅も散らない唇から、すぐに、ほっと息が出ようと、誰も皆思ったのが、一呼吸ひといきの間もなしにバッタリと胴の間へ、島田を崩して倒れたんです。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛脚が一呼吸ひといきつく間もなくつぎの狼がまた頭をだした。その狼も飛脚の刀を浴びて下に落ちた。それでも次の狼は懲りずに上へあがろうとした。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それを母が励まして絶頂の茶屋に休んで峠餅とうげもちとか言いまして茶屋の婆が一人ぎめの名物を喰わしてもらうのを楽しみに、また一呼吸ひといきの勇気を出しました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
青眼先生はこれを見ると、ほっと一呼吸ひといき胸をで下しましたが、なおじっと気を落ち付けて動悸を鎮めて、それから死骸の傍へ寄ってよく周囲まわりあらためて見ました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
一呼吸ひといきに次の時代の人に移ってあらわれることがあるものだ、まるできのう考えたような新しい思いをそのままに移しかえてくるから妙だ、人間の考えたものの前では
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一呼吸ひといきにああいう処へ躍り入ったような風に見えたが、その残して置いた反古なぞを見ると、透谷集の中にある面白い深味のあるものが、皆ずっと以前の幼稚なものから
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三つ目の林を駈け抜けるとゆるい斜面が現われた。その斜面の行き詰まりに一座の高い大岩がある。その大岩の頂上に「虎狼の宮」があるのである。葉末は一呼吸ひといき呼吸を入れると弛い斜面を走り出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
殆ど一呼吸ひといき
一呼吸ひといきを置いて、湯どののなかから聞こえたのは、もちろんわが心がわが耳に響いたのであろう。——お米でないのは言うまでもなかったのである。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「も一ツ」と今度は徳二郎がついでやつたのを女は又もや一呼吸ひといきに飮み干して月にむかつて酒氣をほつと吐いた。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
監物は忌いましそうな顔をして、膳の上の盃を執ってぐっと一呼吸ひといきに飲んで、また不動の方に眼をやった。赤い紅蓮ぐれんのような焔が不動の木像を中心にして炎々と燃えあがって見えた。
不動像の行方 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
眼もくらみ夢中にてただ一呼吸ひといきに呑干しつ、やや人心地になりたれば、介抱せし人を見るに、別人ならぬ悪僕なり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
徳二郎は平常ふだんにないむづかしい顏をして居たが、女のさす盃を受けて一呼吸ひといきに呑み干し
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
三左衛門は一呼吸ひといき入れてから小屋の口へ往った。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
麦酒ビイル硝子杯コップ一呼吸ひといきに引いて、威勢よく卓子テエブルの上に置いた、愛吉は汚れた浴衣の腕まくりで、遠山金之助と、広小路の麦酒ビイヤホールの一方を領している。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたをはつて兒玉こだま一呼吸ひといきくやオックスホードの紳士しんし
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「が、酒のいきおいを借りて、と云うのが、打明けた処だろう——しかも今夜——頭から恐入らされたよ。」と、もう一呼吸ひといき、帽子を深草、みのより外套がいとう見窄みすぼらしい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と一杯一呼吸ひといきに飲み干して校長に差し
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
夫人が態度の厳粛なりしは、犬の手品を見附けたる故にはあらで、「きっと。」をいわんとて、きっとせるなりと、小間使は観察しつ。ほっと一呼吸ひといき、汗を入れぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人間とても年がてば、ないがしろにする約束を、一呼吸ひといき早く私が破るに、何にはばかる事がある! ああ、恋しい人のふみを抱いて、私は心も悩乱した、姥、許して!
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其で此の家を見つけたんだもの、何の考へもなしにけ込んだが、一呼吸ひといきして見ると、うだらう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うなじを垂れて屈託そう、眉毛のあとが著るしくひそんで、じっと小首を傾けたり。はてこの様子では茶も菓子もと悟ったが、そのまま身退くことを不得えず。もう一呼吸ひといきずるりと乗出し
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十時を過ぎた頃、一呼吸ひといきかせて、もの音は静まったが、裾を捲いて、雷神はたたがみを乗せながら、赤黒あかぐろに黄を交えた雲が虚空そらへ、舞い舞いあがって、昇る気勢けはいに、雨が、さあと小止おやみになる。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぎたころ一呼吸ひといきかせて、ものおとしづまつたが、すそいて、雷神はたゝがみせながら、赤黒あかぐろまじへたくも虚空そらへ、ひ/\あがつて、のぼ氣勢けはひに、あめが、さあと小止をやみにる。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さあ、お三輪の顔を見ると、嬉しそうに双方を見較べて、ほっ一呼吸ひといきいた様子。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
畳から、手をもぎ放すがごとくにして、身を開いて番頭、固くなって一呼吸ひといきつき
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身をひるがえすと矢を射るよう、白い姿が、車の横を突切って、一呼吸ひといきに飛んで逃げた。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
掻巻の裾をなぎさのごとく、電燈に爪足白く、流れて通って、花活はないけのその桜の一枝、舞の構えに手に取ると、ひらりと直って、袖にうけつつ、一呼吸ひといき籠めた心の響、花ゆらゆらと胸へ取る。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうして来たんです。誰と。貴女あなた。いつ。どの汽車で。」と、一呼吸ひといきあわただしい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう一呼吸ひといきで、あがるところであつた。臺所だいどころから、座敷ざしきへ、みづ夜具やぐ布團ふとん一所いつしよちまけて、こたつはたちまながれとなつた。が屈強くつきやうきやく居合ゐあはせた。女中ぢよちうはたらいた。家内かないおちついた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
上下一呼吸ひといきく間もあらせず、まなこ鋭く、ほおせてひげ蓬々ぼうぼうと口をおおい、髪はおどろ乱懸みだれかかりて、手足の水腫みずぶくれに蒼味を帯びたる同一おなじような貧民一群、いまだ新らしき棺桶かんおけを、よいしょと背負込しょいこ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これから推上おしあがらうとふのに一呼吸ひといきつくらしく、フトまると、なかでも不精ぶせうらしいみのすそながいのが、くものやうにうづまいただんしたの、大木たいぼくえんじゆみき恁懸よりかゝつて、ごそりと身動みうごきをしたとおもへ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
水の音を聞くと一杯のんだ気になって、一呼吸ひといきいたんですが、——はてな。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やつとのおもひで此処こゝまでて……一呼吸ひといきくと、あのていだ。老爺おぢいさん、形代かたしろ犠牲にえへて、からくもです、すくしたとばかりよろこんだのは、おうらぢやない、家内かないぢやない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一呼吸ひといきいていて、唐突だしぬけに、ばり/\ばり/\、びしり、どゞん、廊下らうか雨戸外あまどそとのトタン屋根やねがすさまじく鳴響なりひゞく。ハツときて、廊下らうかた。退治たいぢではない、逃路にげみちさがしたのである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……第一背中へつかまられて、一呼吸ひといきでもこたえられるかどうだか、実はそれさえ覚束おぼつかない。悪くすると、そのまま目をまわして打倒ぶったおれようも知れんのさ。ていよく按摩さんに掴み殺されるといった形だ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駈込かけこんで、一呼吸ひといきいた頃から、降籠ふりこめられた出前でさきの雨の心細さに、親類か、友達か、浅草辺に番傘一本、と思うと共に、ついそこに、目の前に、路地の出窓から、果敢はかない顔を出して格子にすがって
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吃驚びっくり亀の子、空へ何と、爺どのは手を泳がせて、自分のいた荷車に、がらがら背後うしろから押出されて、わい、というたぎり、一呼吸ひといきに村の取着とッつき、あれから、この街道がなべづるなりに曲ります、明神様
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ええ、といきつぎに目をねむって、仰向あおむいて一呼吸ひといきついて
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と腕を組んで、胡坐あぐらを直して、伸上って一呼吸ひといきした。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ……もう一呼吸ひといきで、剃刀かみそりで、……」
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
番頭は一呼吸ひといきつき
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)