頼母たのも)” の例文
欧米の婦人連もまた同様に欠点があるので、その彼我ひがの欠点を互いに相改めて、初めて頼母たのもしい婦人が出来上がるというものである。
梅原頼母たのもは五百三十石の寄合よりあい肝入きもいりで、小池帯刀の上役に当るが、隼人の口上にはいちおう反対し、こちらは待ってもよいと云った。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
慧鶴は前にいう通り容姿骨柄いかにも立派で頼母たのもし気な青年であった。その点では女性が魅着するに何処といって非の打ち処はない。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
強いことを言っても、私は矢張り弱い女ですもの、命までも狙われていると解ると、ツイこう頼母たのもしい方の手にすがりたくなります。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
興行あるごとに打囃うちはや鳴物なりものの音頼母たのもしく、野衾の恐れも薄らぐに、きて見れば、木戸のにぎわいさえあるを、内はいかにおもしろからむ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三宅藤兵衛と今峰頼母たのもは、そのとき奥田左衛門尉さえもんのじょうを振り向いて、何か目じらせした。そして三名ともついと幕の外へ立ってゆく。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(何んの音だろう?)と、四人の浪人が不審を打ったように、その音に不審を打ったのは、中庭に近い部屋に寝ていた、伊東頼母たのもであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
斯様かような際にいつも長次郎から聞く「なに、案じはねえ」というような頼母たのもしい声のかかるのを空しく、実に空しく待っていたのであるから。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
こんな場合に自分ならという彼我ひがの比較さえ胸に浮かばなかった。今の彼女には寝ぼけたお時でさえ、そこにいてくれるのが頼母たのもしかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見込で御頼みとあれば假令たとへ親兄弟おやきやうだいたりとも義に依ては急度きつと助太刀すけだち致すべしと言へば掃部は聞て偖々さて/\頼母たのもしき御心底しんていかんじ入たり然樣さやう御座らば何を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この藩の用人荒木頼母たのもの伜千之丞は、伝兵衛の推挙で先ごろ千倉屋へたずねて来て、澹山に西王母せいおうぼの大幅を頼んで行った。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
学者などにはよくあるやつだが、これも人間として頼母たのもしくない。第三に、物事を深く究めないといふ癖のあることだ。
あの星はいつ現はれるか (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
キャラコさんは、楽しすぎて、すこしぼうとなる。そのひとの掌は大きく温かくて、その手にとられていると、なんともいえない頼母たのもしさを感じる。
泰然と落着いて二本の箸をあやつっている容子ようすに、どことなく中華大人の風格があって、なかなか頼母たのもしい眺めである。
義雄はそれを見て自分の説が大して影響してゐないのに失望すると同時に、自分はそんな頼母たのもしくもない東京の文界へ再び舞ひもどる氣がしない。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
き次第で驕傲きょうごうになったり柔和になったり、丸でゴムの人形見るようだ、如何いかにも頼母たのもしくないとおおいに落胆したことがあるが、変れば変る世の中で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
徳川の一門にも随分忠義の国これ有り、加薩仙肥など頼母たのもしく相見え候えども、まるにこれらへ御委任され候わば、やはり義仲よしなかならざれば董卓とうたくに御坐候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
う迄自分の書いたものを読んで呉れるとは思はなかつたと、丑松の熱心を頼母たのもしく考へて居たらしいのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
これは好きな人に取っては好きな特徴となるに相違ない。しかしこの人のような絵はじきに行き詰ってしまうような事が無いからその点が頼母たのもしいと思う。
二科会展覧会雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
逆旅げきりょの寝覚めにはかかる頼母たのもしからぬ報償をしながら、なお生を貪っていることが、はなはだ腑甲斐ないように思われて、自ら殺したいと思ったことさえあった。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
長女藤姫ふじひめは松平周防守すおうのかみ忠弘ただひろの奥方になっている。二女竹姫はのちに有吉ありよし頼母たのも英長ひでながの妻になる人である。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かつて知ることのできなかった頼母たのもしい信頼しきった腕力が感じられ、それにもたれていることだけで、何もいらないような一切を放棄した信条が花桐の心にいた。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
『はい、けつして御無事ごぶじにはみません。』と、亞尼アンニー眞面目まじめになつた、わたくしかほ頼母たのも見上みあげて
月日たつにつれ自然出家しゅっけの念願起りきたり、十七歳の春剃髪ていはつ致し、宗学修業しゅぎょう専念に心懸こころがけあいだ、寮主雲石殿も末頼母たのもしき者に思召おぼしめされ、ことほか深切しんせつに御指南なし下され候処
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大阪おおさか俳優中村福円なかむらふくえん以前もと住居すまいは、鰻谷うなぎだにひがしちょうであったが、弟子の琴之助ことのすけが肺病にかかり余程の重態なれど、頼母たのもしい親族も無く難義なんぎすると聞き自宅へ引取ひきとりやりしが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
あまりにこひしうなつかしきをりみづかすこしははづかしきおもひ、如何いかなるゆゑともしるにかたけれど、且那だんなさまおはしまさぬとき心細こゝろほそへがたう、あにともおやとも頼母たのもしきかたおもはれぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
れば小松殿も時頼をすゑ頼母たのもしきものに思ひ、行末には御子維盛卿の附人つきびとになさばやと常々目を懸けられ、左衞門が伺候しこうの折々に『茂頼、其方そちは善きせがれを持ちて仕合者しあはせものぞ』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「関東は武をもって治むる国である。頼母たのもしい御体格ですな。定めしお力があろう。見たい。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
数を心得ないで、かんばかりで物事を決めるような非科学的なでたらめな奴は、頼母たのもしくない
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
阪急百貨店の将来を大いに頼母たのもしく思い、仕入部その他多数の使用人に対して、断然袖の下を謝絶させるだけの力のある小林さんは、当代ちょっと他に類なき人物であると考え
それは大抵たいていあたゝかなかぎられてるのであつたが、そのときかれおほきな躯幹からだはきりゝとおびめて、股引もゝひきうへたかしり端折はしよつてまだ頼母たのもしげにがつしりとしてえるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
また彼女の生きて来た生涯の体験に照してみて、たとえ娼家の一隅に生活しようともそれによって平一郎の人格が動揺するようでは頼母たのもしくないとも考えられた。冒険ではあった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
「あらやだ。三田さんはいゝ男つていふんぢやなくて、頼母たのもしい男なんですよお。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
文「嘸々さぞ/\御愁傷のことで、お見送りもしなかったのは残念だ、頼母たのもしくない」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うちあけた話になってみると、おたがいに、相当に頼母たのもしいところがある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これもまた実情で、いかに旅宿の寒さはしのぎ難いにしても、いつも淋しい独り旅であることを思えば、今宵こよいかく二人で旅寝をしていることは、いかにも心丈夫で頼母たのもしいことぞ、というのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
小間物ででも釣っただべえ、頼母たのもしい奴だと思ってただに。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
新蔵の耳にも頼母たのもしいほど、男らしく云い切りました。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
にんがつして頼母たのもうてると、住職じうしよく不在ふざいとある。
それであえて恋とか愛とかそんなものでなく、たゞ頼母たのもしい男性の友だちというものを得られたらわたくしはどんなに嬉しいでしょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのうちに最も人間に近く、頼母たのもしく、且つ奇異に感じられたのは、唐櫃からびつの上に、一個八角時計の、仰向あおむけに乗っていた事であった。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「番太の株の安い賣物でもあつたのかえ、それにしても、顏を見るといきなり泣き言をいふやうぢや、お前といふ人間も頼母たのもしくないぜ」
一朝事あるの時、拭き掃除のたすきを外し、決然として一家の運命を背負って立つ、自信あり力量ある婦人は、なんと頼母たのもしいものではあるまいか。
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
門の左右には周囲二尺ほどな赤松が泰然として控えている。大方おおかた百年くらい前からかくのごとく控えているのだろう。鷹揚おうようなところが頼母たのもしい。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「分っておりまする」使者の頼母たのもは、さっきからムカムカしている我慢がまんが、フッと顔ににがく出たので俯向うつむいたが、ぴったり、胸を張って改まった。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この頃主屋の一室では、覚兵衛や勘兵衛を相手にして、松浦頼母たのもが話していた。四辺あたりには杯盤が置き並べてあり、酒肴などがとり散らされていた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうです、若年寄の柴田頼母たのもさんです、と、久三郎が云った。富原さんではないんだな、と念を押しながら、幹太郎はふと不安な予感におそわれた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
諺に言葉多きはしな少なしと言い、西洋にも空樽あきだるを叩けば声高しとの語あり。愚者の多言もとより厭う可し。況して婦人は静にして奥ゆかしきこそ頼母たのもしけれ。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
……いや、はや、実にどうも、慨歎がいたんに堪えんことです。するとゴイゴロフは、ひどく頼母たのもしそうな顔をして、おお、そうか。見そこなってすまなかったなァ。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私たちは何となく頼母たのもしい気がして、この「毛唐ずれ」のした小野さんと、彼の、機智に富んだベントレイ夫人への断り文句などを毎日のように話しあっていた。