まり)” の例文
おや屋はうれしがって、思わずまりを宙へほうった。ぽんとつくと、前よりまた高く上がった。またつく。またつきながら道を歩き出した。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鞍上あんじょうひとなく、鞍下あんかに馬なく、青葉ゆらぐ台町馬場の芝草燃ゆる大馬場を、投げ出された黒白取り取りのまりのように駈け出しました。
向う前栽せんざい小縁こえんの端へ、千鳥と云ふ、其の腰元こしもとの、濃いむらさきの姿がちらりと見えると、もみぢの中をくる/\と、まりが乱れて飛んでく。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
阿波の伊島という島でも、網をひいていますと、まりの形をした小石が網にはいって上りました。それを捨てるとまた翌日もはいります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
書巻の眼はまりのように飛んで、戸締りのさんに向ったのは、その戸の外で、縁の近くに忍び寄った、外からの何者かの気配があるからです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
風が来て、葉がおののくたびに固まった。一団は、まりのようにあちらへ転じ、一団はこちらへと転って来る。そして彼等は歌った。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この言葉が終わるか終わらぬに、新聞記者の山本がゴムまりのように飛び上がったので、署長はじめ一同はびっくりして眺めた。
熊城は恐ろしい勢いで、ドアに身体を叩きつけたが、わずかに木のきしる音が響いたのみで、その全身がまりのようにはじき返された。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
まりなげ、楊弓ようきゅうもあり踊りもあれば、三味線もあり、いろいろと楽しませ夕方帰りには、山ほど土産をそれぞれにくれました。
併しその時分口にしていた悲痛とか悲惨とか云う言葉——それ等は要するに感興というゴムまりのような弾力から弾き出された言葉だったのだ。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
私達を捨てて去った父が突然やって来て、私にゴムまりを買ってくれた時のことを私は既に話した。その時私はどんなに父をなつかしく思ったろう。
二人のからだは、ただ見る黒白のまりとなって、広い土間をころがりまわった。黒い手と白い手とが、はげしくもつれ合った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あまりの気味悪さに覚えず腰なる一刀を抜手ぬくても見せずに切放すと二つの首はもろくも空中に舞飛んでまりの如くにころころと種彦の足許に転落ころげおちる。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まりに夢中でいる若公達わかきんだちが桜の散るのにも頓着とんちゃくしていぬふうな庭を見ることに身が入って、女房たちはまだ端の上がった御簾に気がつかないらしい。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
遊歩の時間はブランコとまり投げが専門、あとは先生が一緒になって目隠しや鬼ごっこ、以上十五、六年頃の学校風景。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
早寝のとこで聴いてゐる。……プラステイックな宇宙コスモスのしはぶきを。(このとき、地球はまりほどの大きさしかない)
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
またまりも、我々がやるようにしては遊ばず、何度ねかえすことが出来るかを見る為に、地面に叩きつけて遊ぶ。
歓喜の声を高く上げると、まりのように飛んで来た。それをホーキン氏は両手を拡げひしとばかりに抱き締めた。
花のあした、月の夜に詩歌管絃、まり、小弓、扇合せ、絵合せ、草尽くし、虫尽くしなど、心楽しく遊んだ思いを語り続け語り明かし、春の遅日を過すのであった。
女は、ケロリとした表情で無邪気に首をかしげ、道でまりつきをしているのだ。鞠は、軟式野球用の、硬いトップ・ボールだった。女は、低声で歌を歌っていた。
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
一郎さんの方のには真白な大きなごむまりが、たえ子さんの方にはそれより少し小さくて、絹の色糸でかがったきれいなきれいな鞠が一つずつ置かれてありました。
ひばりの子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それを次郎が追いすがりざまに、切ろうとしたのと、狩犬の一頭がまりのように身をはずませて、彼の手もとへかぶりついたのとが、ほとんど、同時の働きである。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
船長はまりの様にすばやく転び上ると何やら激しく叫び立てながら逃れ去つた。逃げしなに彼の投げた手裏剣しゅりけん、青たん一塊いっかいが定の真白い肩先にペッタリとへばり着いた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
五階茶碗や盆の曲や傘の曲やマストンの玉乗りやそうしたものの中では丸井亀次郎(?)父子の一つまりががめずらしく手の込んだ難しい曲技を次々と見せてくれた。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
こたへて、茶色ちやいろのスエエタアをた、まるまるふとつたからだをよちよちさせながら、敏樹としきべつちひさなまりげた。が、見當けんたうはづれて、それはをつとよこへそれてしまつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
大力に打たれた兼輔は悲しい声をあげて、子供につかまれた子猫のように、相手の膝の下をくぐって逃げようと這いまわるのを、実雅は足をあげてまりのように蹴倒した。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
洲崎弁天に面した、堀沿いの広大な構えで、総二階の善美を尽した母屋に、大小三十余の座敷があり、ほかに別棟の数寄屋が三棟と、庭の一部にはまり場が設けてあった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
せんのと、それから「種」のモデルの方が三つです。一つはって前肢まえあしを挙げている(これは葉茶屋の方のです)。一つは寝転んでいる。一つは駆けて来てまりじゃれている。
吾輩の小さな身体が禿頭の上から一間ばかりまりのようにケシ飛んで、板張の上に転がっていた。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひかる自身の物であればあのはづかしがる子がどうして知らない家へ拾ひにはひりませう、また貧しいと云つても自分の親には十や二十のまりを買ふだけの力はあると信じて居ますから
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
やがて九時にもならんとする頃一鞭あてて走り出せしが、そのガタガタさその危なさ腰を馬車台に打ちて宙に跳ね上りあたかも人間をまりにしてもてあそぶが如し。目はくらみ腹はめる。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
ぽかんと栓ぬき瓢箪のやうな恰好で突つ立つてゐる姿、丁度ゴムまりの空気を抜いたふわりとした気持、何物にもとらはれぬ、何物にもさからはぬ態度、これを想ひ出すのである。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
私は此時心のうちに此店の主人ほどうらやましい人はないと思ひ、あんなか愛い人形をたなへのせてかまはずにゐられるとは不思議な人、わたしならばあの人形、あのゴムまり、アレあの異人笛
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
そこでサ、おめえサン方は、たちのいいゴムまりのようにふくれあがって、岩壁のすぐそばを足で舵をとりながら、つかず離れず、って工合に、そろそろゆっくりと登って行くんだ。
まりなげ、なわとびのあそびにきやうをそへてながるゝをわすれし、其折そのをりこととや、信如しんによいかにしたるか平常へいぜい沈着おちつきず、いけのほとりのにつまづきて赤土道あかつちみちをつきたれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あら不思議、たしかその声、是もまださめ無明むみょうの夢かとこすって見れば、しょんぼりとせし像、耳をすませばかねて知るもみの木のかげあたりに子供の集りてまりつくか、風の持来もてくる数えうた
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
またまりを投げて遊ぶことも稀には行われて居りますけれども、これは沢山にありません。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
間髪を入れない隙に、あッ! と人々が気がついたときは、左馬之介の身体は岩石落とし……削りとったような大断面をまりのごとくに転下して、たちまち山狭の霧にのまれ去った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
園子のおなかは、ぶんまわしで画いたようにまんまるで、ゴムまりのように白く柔く、この中に小さい胃だの腸だのが、本当にちゃんとそなわっているのかしらと不思議な気さえする。
十二月八日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕らの家庭生活は、近頃無事平穏のために、気のぬけたごむまりのように無感激になっているんだ。お前も近頃実にだらけきっていたし、僕もこの無刺激な生活には堪えられなかった。
火の玉の大きさは遠くから見て、まりほどであった(嘉永七年甲寅地震海翻之記)。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
と思はず知らず叫んで、びツくりしたといふよりは、あきかへツて見てゐると無量幾千萬の螢が、まりのやうにかたまツて飛違ツてゐる。それに此處ここの螢は普通の螢の二倍の大きさがある。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「佐太郎が惚気交のろけまじりに話したことや、内儀と米吉が、夜も昼も奥の部屋にこもって、綾取り双六すごろくまりつき、と他愛もないことばかりして遊んでいることも、あの女が見届けてくれましたが」
其時小さなまりのような物がと軒下を飛退とびのいたようだったが、やが雪洞ぼんぼり火先ひさきが立直って、一道の光がサッと戸外おもて暗黒やみを破り、雨水の処々に溜った地面じづらを一筋細長く照出した所を見ると
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
庭に向いた部屋へ子供の寝床を敷いて、その枕頭まくらもとへお雪は薬のびんを運んだ。まりだの、キシャゴだの、毛糸の巾着きんちゃくだの、それから娘の好きな人形なぞも、運んで行った。お房は静止じっとしていなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やがて電車が着くと二人はゴムまりのやうに飛んで行った。
白い呼吸 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
オットセイは鼻の頭でまりをつく芸当に堪能である。
ゴルフ随行記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そんな風で、まりたたかれて飛ぶように、ここの岩の
友木はまりのように部屋の中に飛び込んだ。
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
小学校の柾屋根まさやねに我が投げしまり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)