よい)” の例文
旧字:
そのうちにあまがえるは、だんだんよいがまわって来て、あっちでもこっちでも、キーイキーイといびきをかいててしまいました。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こう云う事情がありましたから、お島婆さんの所へ行くと云っても、新蔵のほろよいの腹の底には、どこか真剣な所があったのでしょう。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よいに乗じて種々いろいろ捫着もんちゃく惹起ひきおこしているうちに、折悪おりあしくも其処そこへ冬子が来合わせたので、更にこんな面倒な事件を演出しいだす事となってしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
甲「いえ/\誠に恐入りました、よいに乗じはなはだ詰らん事を申して、お気に障ったら幾重にもおわびを致します、どうか御勘弁を願います」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、ここだ、と一番ひとつ三盃さんばいよいの元気で、拝借の、その、女の浴衣の、袖を二三度、両方へ引張り引張り、ぐっと膝を突向けて
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瑠璃子の嫣然たる微笑を浴びると、勝平は三鞭酒シャンペンしゅよいが、だん/\廻って来たそのおおきい顔の相好そうごうを、たわいもなく崩してしまいながら
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかしその顔とその着物がどうはかなく変化し得るかをすぐ予想して、よいが去って急にぞっとする人のあさましさを覚える。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右馬介は侍者じしゃとして、急に自分のよいをさました。ここは錦小路の、俗に“請酒屋うけざかや”とも“小酒屋”ともよぶ腰かけ店だ。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よいまかせて詰寄つめよりました。すると母は僕の剣幕の余り鋭いので喫驚びっくりして僕の顔を見てるばかり、一言も発しません。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
己の頭には、まだブランデエのよいが残って居て、煌々こう/\たる舞台の光明を浴びると同時に、それが再び、強く激しく体内に燃えくるめくようであった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
飲んでいる間はおたがいによいの中に解け合ってしまいますけれども、それがめかけた時はおたがいの胸にたまらないほどの味気あじきなさが湧いて来ます。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで私は、雨は降っているし、汽車には酔っているので、よいをさましながら晴れるのを待とうと、待合室のベンチに腰をかけて、約小半時間を過した。
初代は見かけの弱々しい割には、しんにしっかりした所のある娘であったが、それでも、よいのさめた様な青ざめた顔をして、ワナワナと唇の色をなくしていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
省三はめしの時にみょうな好奇心から小さなコップに二三ばい飲んでみた葡萄ぶどう酒のよいほおに残っていた。それがためにいったいに憂鬱ゆううつな彼の心も軽くなっていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
軍艦横丁のおでん屋に顔をつきこんでから、ひどくよいのまわったことを覚えている。それから後は、つれが出来たらしく、誰かと一緒に飲んでまた飲みつづけた。
暗号数字 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とさすが快活きさくな男も少し鼻声になりながらなおよいまぎらしていきおいよく云う。味わえば情も薄からぬ言葉なり。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は押入れの戸をあけて、一本の葡萄酒ぶどうしゅの瓶をとり出した。そして、それを台のついた小さなグラスに汲んでちびりちびりとやり初めた。よいが快く廻って行った。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
食後、いささかの濁酒にごりざけよいまわった老人は傍なる琴を執って弾じた。二人の子がそれに和してうたう。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
国子当時蝉表せみおもて職中一の手利てききなりたりと風説あり今宵こよいは例より、酒うましとて母君大いによい給ひぬ。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わたくしはなしられてゐたので、お料理れうり大抵たいていべはぐしてしまつた。おいしさうなスープも、んばしい饅頭風まんじうふうのお菓子かしも、それに時々とき/″\機械的きかいてきくちにするウオツカのよいた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
阿Qは一通りぶらぶら飛び廻って土穀祠おいなりさまに帰って来ると、もうよいは醒めてしまった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
家にいてやればよかったと、男は考え出したときは、もうよいが足もとをふらふらさせた。いつでも不平がましいことを言ったことがない。済まないと思いながら、こっそりと家を逃げ出してきたのだ。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
おそらく昼間飲んだ酒のよいを、そのまま寝崩れたためであろう。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
軽いよいが感じられて来るのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
この女此の時えん屠蘇とそよい
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
自棄やけに笑った。が、よいもさめ行く、おもての色とともに澄切った瞳すずしく、深く思情おもいを沈めたうちに、高き哲人の風格がある。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、さらに一月ばかり経って見ると、かえって彼はそのために、前よりもなお安々やすやすと、いつまでもめないよいのような、怪しい幸福にひたる事が出来た。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よいと云う牆壁しょうへきを築いて、その掩護えんごに乗じて、自己を大胆にするのは、卑怯ひきょうで、残酷で、相手に汚辱を与える様な気がしてならなかったからである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
屏風坂びょうぶざかの下り口、慈眼大師の石垣へ、葭簀よしずを掛けた一軒の茶店で袖無しを着た茶店の親爺が、山では珍らしくない、よいどれ武士のいびきを揺り起している。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よいの為に上気はしていたけれど、それ故に一層魅力を加えた、この美貌の青年は、私の夫であるという、異様な観念が、私の頭をかすめて通過とおりすぎたのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
酒のよいも醒め、ヒステリー的の発作もようやしずまった今の彼女かれは、所謂いわゆる「狐の落ちた人」のように、従来これまでの自分と現在の自分とは、何だか別人のようにも感じられた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
クラネクとベルセネフとは酒を飲みながら料理をった。宵からみょうにはしゃいでいるクラネクは、よいが廻って来るに従うてますます声を大きくして愉快そうに話した。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
親方どうも大きな声をしてお八釜やかましゅうございます、え、おいおとっさん、己ア此処迄に四度よたび飲んで来たが、直ぐによいが醒めるんだ、醒めるから又居酒屋へ飛び込んでって来たが
腹のうちには余計なと思いながら、ならぬとも云い難く、それならば家も狭しおれケは旅宿に帰るべしといってその晩は夜食のぜんの上、一酌いっしゃくよいうかれてそゞろあるき、鼻歌に酒のを吐き
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「どうやら酒のよいもさめかけたような——」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
独逸ドイツに対する彼の敵意は勿論僕には痛切ではなかった。従って僕は彼の言葉に多少の反感の起るのを感じた。同時にまたよいめて来るのも感じた。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やや怪訝けげんな顔をしたが、すすめられるまでもなく、よいざめのほしかったところなので、それを取って水挿の口からのどを鳴らして飲み干し、周馬にもすすめると
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お葉は酒のよいだ醒めぬのかも知れぬ、あるいは何かの夢か幻をているのかも知れぬ。にかくお杉ばばあの魔力に引かれたように、殆ど無意識でふらふらと歩いていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
段々よいが廻って、ドラ声をはり上げて歌うもの、洋服姿で変な踊りを始めるもの、場所は海岸離れた船の中、どんなに騒ごうがあばれようが、何の気兼きがねもないのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
頭から水を打ちかけられるように成って、すっかりよいも醒め、口もきけなくなった
今まで喜びに満されていたのに引換ひきかえて、大した出来ごとではないが善いことがあったようにも思われないからかして、主人は快くうていたがせっかくのよいも興もめてしまったように
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
急にいきおいい声を出した、饂飩屋に飲む博多節の兄哥あにいは、霜の上の燗酒かんざけで、月あかりに直ぐめる、色の白いのもそのままであったが、二三杯、呷切あおっきりの茶碗酒で、目のふちへ、さっよいが出た。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうかなすったんですか」とよいが一時に去ったような表情をした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
桃山哲郎は銀座尾張町おわりちょうかどになったカフェーでウイスキーを飲んでいた。彼は有楽町の汽車の線路に沿うたちょっとしたカフェーでやった仲間の会合でたりなかったよいたしているところであった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老紳士はこう云って、くびうしろらせながら、大きな声を出して笑い出した。もう大分だいぶよいがまわっているのであろう。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さすがに、よいが、いっぺんに、発して、一町ばかり歩く頃から、雨が、逆さに降ッてるように見えた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だんだんよいが廻るにつれて、猥談わいだんも出るという調子で、あけみも映画人だから、少々の猥談に辟易へきえきするたちでもなく、三人とも心から、春のように笑い興じたものである。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのくらいのアルコールは途中で醒めてしまった筈だが、この狭いところへ這入はいって、焚火にかッかとあぶられたら、又そのよいが一度に発して来て、いよいよほがらかになって来たのよ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
屋敷うちにいた時は気が張って居りますからえいが出ませんが、外へ出ると一よいが発したから、歩くにも足元が定まらんので、小僧が心配を致し、介抱しながら漸く永代橋えいたいばしかついで通った様なもので
よいめて来た」「おおさむ」など、みんなえり、袖を掻合かきあわす。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)