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透
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とお
ふりがな文庫
“
透
(
とお
)” の例文
甲高いよく
透
(
とお
)
る声で早口にものをいい、かならず人先に発言し、
真面目
(
まじめ
)
な話にも
洒落
(
しゃれ
)
や地口をまぜ、
嘲弄
(
ちょうろう
)
するような言いかたをする。
鈴木主水
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
同じところに永く入れて置くと、たとい洋服だの
襯衣
(
シャツ
)
だのを
透
(
とお
)
してでも、ラジウムの近くにある皮膚にラジウム
灼
(
や
)
けを
生
(
しょう
)
ずるからだ。
柿色の紙風船
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
喊声
(
かんせい
)
は諸所に聞える。陽は早や暮れて、それが一そう不気味だった。のみならず
得態
(
えたい
)
の知れない火光が林を
透
(
とお
)
して方々に見えたから
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
右は宏い前庭の植込を
透
(
とお
)
して、向うに母屋が見える。日中の暑さで水を撒くと見えて、地面は一様に僅かながら湿りを含んでいる。
石塀幽霊
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
貴嬢
(
きみ
)
が
眼
(
まなこ
)
を閉じて掌を口に当て、わずかに仰ぎたまいし宝丹はげに
魂
(
たま
)
に
沁
(
し
)
み髄に
透
(
とお
)
りて毒薬の力よりも深く貴嬢の命を刺しつらん。
おとずれ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
▼ もっと見る
星は冬が深くなるほど
冴
(
さ
)
えて
透
(
とお
)
って見え、美しくなるものだった。男は戸のうちにはいり、筒井はおのが部屋に引き取って行った。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
小初の言葉のしんにはきりきり真面目さが
透
(
とお
)
っていながら手つきはいくらかふざけたように、薫の背筋の
溝
(
みぞ
)
に砂をさあっと入れる。
渾沌未分
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
私、クレテに言い付けて、丈夫な函を作らせようと思っていますのよ……何年たっても何十年たっても、水の
透
(
とお
)
らぬような浮き函を……
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
じれったいから
突然
(
いきなり
)
肩に手を懸けると、その女中は苦しくッてか、袷も
透
(
とお
)
すような汗びっしょり、ぶるぶる震えているんでしょう。
三枚続
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
彼らは
馬蹄型
(
ばていがた
)
の海岸を一列に並んで、黙々として歩いた。歯が痛かった。風は
頬
(
ほほ
)
を
透
(
とお
)
して、歯の神経をひどく刺激するのであった。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
「かれ
鉄
(
くろがね
)
の
器
(
うつわ
)
を避くれば
銅
(
あかがね
)
の弓これを
射
(
い
)
透
(
とお
)
す、ここにおいてこれをその身より抜けば
閃
(
ひらめ
)
く
簇
(
やじり
)
その
胆
(
きも
)
より
出
(
い
)
で来りて
畏怖
(
おそれ
)
これに臨む」
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
地底に水を
透
(
とお
)
さぬ凍土層がある場合、表面から土が凍って行くと、地下水の出口がふさがれてしまって、下の地下水には強い圧がかかる。
永久凍土地帯
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
雛妓
(
おしゃく
)
の黄色い声が聞えたり、踊る姿が
磨硝子
(
すりガラス
)
を
透
(
とお
)
して映ったりした。とうとうお
終
(
しま
)
いには雛妓が合宿へ遊びに来るようになった。
競漕
(新字新仮名)
/
久米正雄
(著)
殊
(
こと
)
に小さい耳が、日の光を
透
(
とお
)
しているかの如くデリケートに見えた。皮膚とは反対に、令嬢は黒い
鳶色
(
とびいろ
)
の大きな眼を有していた。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
あわてて、
糸立
(
いとだて
)
を肩にひろげたが、
透
(
とお
)
るようなビショぬれで、ポッケットにはさんだ紫鉛筆の色が、上衣の乳の下あたりまでにじみだした。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
寐床の側の畳に麻もて
箪笥
(
たんす
)
の
環
(
かん
)
の如き者を二つ三つ処々にこしらへしむ。畳堅うして畳針
透
(
とお
)
らずとて女ども苦情たらだらなり。
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
そうして、駒井は夕方陣屋へ帰って来て見ると、庭を
透
(
とお
)
して、兵部の娘の室では、娘と茂太郎とが何をか合唱しているらしい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
のみならず道に敷いた石炭殻も
霧雨
(
きりさめ
)
か露かに
濡
(
ぬ
)
れ
透
(
とお
)
っていた。僕はまだ
余憤
(
よふん
)
を感じたまま、出来るだけ足早に歩いて行った。
死後
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それにも構わず善吉は毎晩のように通い詰め通い
透
(
とお
)
して、この十月ごろから別して足が繁くなり、今月になッてからは毎晩来ていたのである。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
辰めが一生はあなたにと熱き涙
吾
(
わが
)
衣物
(
きもの
)
を
透
(
とお
)
せしは、そもや、
嘘
(
うそ
)
なるべきか、新聞こそ
当
(
あて
)
にならぬ者なれ、
其
(
それ
)
を
真
(
まこと
)
にして
信
(
まこと
)
ある女房を疑いしは
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
この女を
透
(
とお
)
して、お銀と磯谷との消息が通じているのではないかと、笹村は時々そういうことを感ぐって見たりなどした。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
夏の朝、母様は庭の離れでお針箱を
側
(
そば
)
へ置いて縫物をなさるのが常だった。太陽は網の目のようになって居る木木の緑を
透
(
とお
)
して
金色
(
こんじき
)
の光を投げた。
少年・春
(新字新仮名)
/
竹久夢二
(著)
けれどもその超音波といっても色々あって、調節して人間の鼓膜には一向感じないけど、直接に頭蓋骨を
透
(
とお
)
して脳髄に響く超音波も出来るわけだ。
睡魔
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
ぎあまんのように冷たく、澄み
透
(
とお
)
った山の空気が、きびしく五躰にしみとおり、あらゆる筋肉をこころよく緊張させた。
ちくしょう谷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
父の吐く息が着物を
透
(
とお
)
して背なかにあたたかく感ぜられる。私は「お灸」を据えられる度にくすぐったがったものだが、そんなに嫌いでもなかった。
桜林
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
人の世のあじきなさ、しみじみと骨にも
透
(
とお
)
るばかりなり。もし妾のために同情の
一掬
(
いっきく
)
を
注
(
そそ
)
がるるものあらば、そはまた世の不幸なる人ならずばあらじ。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
煙のごとくかすむ花の
薄絹
(
うすぎぬ
)
を
透
(
とお
)
して人馬の行列が見える。にしきのみ旗、にしきのみ
輿
(
こし
)
! その前後をまもるよろい武者! さながらにしき絵のよう。
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
霧を
透
(
とお
)
した朝日の光りを区切ったために、七色の虹となって浮き立ちながら花壇の上で
羽叩
(
はばた
)
く鶴の胸毛をだんだんにその横から現してゆくのが映っていた。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
自然の真相は普通人に分らぬ、詩人が其主観を
透
(
とお
)
して描いて示すに及んで、始めて普通人にも
朧気
(
おぼろげ
)
に分って人間の宝となる、とか聴かされて、又感服した。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
その声はよく
透
(
とお
)
り、一日中変わってゆく渓あいの
日射
(
ひざ
)
しのなかでよく響いた。そのころ毎日のように渓間を遊び
恍
(
ほう
)
けていた私はよくこんなことを口ずさんだ。
交尾
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
葉子は
覚
(
さ
)
めきったような、眠りほうけているような意識の中でこう思った。しんしんと底も知らず澄み
透
(
とお
)
った心がただ一つぎりぎりと死のほうに働いて行った。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
ぼつぼつ疲れかげんになってきた
脛
(
はぎ
)
のあたりへ、ズボンを
透
(
とお
)
して、ひやりとしたものが
浸
(
し
)
み込んでくる。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
この歌を味うと、内容に質実的なところがあるが、声調が
訥々
(
とつとつ
)
としていて、
沁
(
し
)
み
透
(
とお
)
るものが
尠
(
すくな
)
いので、つまりは常識の発達したぐらいな感情として伝わって来る。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
始めは繋り合う木の葉に
遮
(
さえ
)
ぎられているが、次第次第に烈しく落ちて、枝がぬれ、幹がぬれ、草がぬれ、自分らの
纏
(
まと
)
っている
糸径
(
いとだて
)
がぬれ、果ては衣服にも
沁
(
し
)
み
透
(
とお
)
る。
木曽御嶽の両面
(新字新仮名)
/
吉江喬松
(著)
豚の肉や
猪
(
しし
)
の肉は何の料理にするのでも先ず
大片
(
おおぎれ
)
を二時間位湯煮て
杉箸
(
すぎばし
)
がその肉へ楽に
透
(
とお
)
る時を適度として一旦引上げてそれから煮るとも焼くともしなければならん。
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
強くはないが物を吹き
透
(
とお
)
すような鋭い北西の風が石垣の岩角を掠めて、折々窪地へ
颪
(
おろ
)
して来る、毛布にくるまって雑談に耽っていた私達は、皆急いで天幕へ這入った。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
家の中の事に気を配りながら出るあとについて私も一緒に往還の方へ出ると、そこから杉並木の様な処を
透
(
とお
)
して
真直
(
まっすぐ
)
に見えて居る祖母の家へ足を向けながら、婆さんに
農村
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
花鳥を
透
(
とお
)
し、花鳥を
藉
(
か
)
り、花鳥を描いて人の心を
詠
(
よ
)
む。人間を諷詠するもの、これが俳句である。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
杉の
古樹
(
こじゅ
)
の陰に
笹
(
ささ
)
やら
楢
(
なら
)
やらが茂って、土はつねにじめじめとしていた。晴れた日には、夕方の光線が
斜
(
なな
)
めに林にさし
透
(
とお
)
って、向こうに広い野の空がそれとのぞかれた。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
ときに、彼女は自分の手が幼児を
透
(
とお
)
すあたりにほの温に触感を手のひらに感じることがあつた。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
彼は、正木のお祖母さんといっしょに、よくお墓
詣
(
まい
)
りをした。お墓の前にしゃがむと、彼は拝むというよりは、じっと眼をすえて地の底を見
透
(
とお
)
そうとするかのようであった。
次郎物語:02 第二部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
何
(
なに
)
を
製造
(
せいぞう
)
するのか、
間断
(
かんだん
)
なし
軋
(
きし
)
むでゐる
車輪
(
しやりん
)
の
響
(
ひびき
)
は、
戸外
(
こぐわい
)
に立つ
人
(
ひと
)
の
耳
(
みみ
)
を
聾
(
ろう
)
せんばかりだ。
工場
(
こうば
)
の
天井
(
てんじよう
)
を
八重
(
やえ
)
に
渡
(
わた
)
した
調革
(
てうかく
)
は、
網
(
あみ
)
の
目
(
め
)
を
透
(
とお
)
してのた
打
(
う
)
つ大蛇の
腹
(
はら
)
のやうに見えた。
虚弱
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
やっぱり支那風の七歳
男女不
レ
同
レ
席
なんにょせきをおなじゅうせず
という腐れ論をおっしゃるヨ。フーンと鼻で笑われたが。そのフーンが骨身に
透
(
とお
)
ってぞっとした心持がして。
藪の鶯
(新字新仮名)
/
三宅花圃
(著)
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
隠れではありますが空を
透
(
とお
)
しておりますために、雨天でない限りは、どんな
暗夜
(
やみよ
)
でも下の国道から
透
(
すか
)
して見え易い事を、用心深い犯人がよく知っていたに違いありませぬ。
巡査辞職
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「おれが困るよ。だから頼む。……第一声が
透
(
とお
)
り過ぎらあ。
洞間声
(
どうまごえ
)
っていう奴だからな」
名人地獄
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
それは、
聖
(
セント
)
テレザにも乳香入神などと云われているんだが、
薫烟
(
くんえん
)
や蒸気の幕を
透
(
とお
)
して見ると、凹凸がいっそう鮮かになり、またその残像が、時折奇怪な像を作ることがあるのだ。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
唯
(
ただ
)
、私の見る色彩のある夢にも二種あることを私は云っておきたい。その一つは、鮮明な、すき
透
(
とお
)
るような色彩からのみ成っている。その色はちょっとドロップスのそれに似ている。
鳥料理
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
と、自分の健康な体力を、兄へ
透
(
とお
)
そうとでもするように、膝に、身体に、力を入れて
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
「にんじん」が、彼の少年時代を苦き回顧の情を以て綴ったものとすれば、「ぶどう畑」は、よりストイックな心境を
透
(
とお
)
して、人生と自然とに慎ましい微笑を送っていることがわかる。
「ぶどう畑のぶどう作り」後記
(新字新仮名)
/
岸田国士
(著)
私はそれを振り上げるが早いか、彼の襟くび目がけて
欛
(
つか
)
も
透
(
とお
)
れと突き立てました。
無駄骨
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
透
常用漢字
中学
部首:⾡
10画
“透”を含む語句
見透
透徹
透明
透垣
透綾
滲透
透彫
透過
透間
透通
透見
透視
浸透
透影
透切
射透
透入
無色透明
真透
明透
...