さい)” の例文
與助 大屋さんの話では、左官の勘太郎といふ奴は不斷から身持のよくない男で、本職のこてよりもさいころを持つ方を商賣にしてゐる。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
と云うのは、奥の長櫃キャビネットの上で、津多子夫人は生死を四人のさいの目に賭けて、両手を胸の上で組み、長々と横たわっているのであった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ともかく、明日のパンに困っては、売るあてもない原稿を書いて、運のさいの目が此方こっちへ廻って来るのを待っているわけにも参りません。
おれが博奕場ばくちばへ出入りするようになったのは、そのあとのことだった。それまでは花札はなふだにもさいころにも、手を触れたことさえなかった。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三時、私たちはもと来し方へと引きかえした。さい河原かわら蜜柑みかんをたべて、降り路をぐんぐんおりた。いつか落葉松おうるあたりまできた。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
半年もたたぬうちに、いかさまさいのつかいかたも覚えれば、そそり節の調子も出せ、朝酒の、はらわたにしみわたるような味も覚えた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さいはカラリと壺に落ちたか落ちないか、その瞬間、左の手は早くも壺の縁に飛んで、壺は天地返し——カッパと盆の上へ伏せられたものです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それでさんざんに調べた最後には、つまりいいかげんに、さいでも投げると同じような偶然な機縁によって目的の地をどうにかきめるほかはない。
案内者 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この一年程以前からあの傳造のさいの目の出が急にわるくなつて、瞬く間に財産の大半をばつてしまつたとかいふことで
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
さいは投げられたんです、わたし舞台に立ちます。あしたはもう、ここにはいません。父のところを出て、一切をすてて、新しい生活を始めます。
モナコのさいの目に現れた不吉が、佐野を行方不明にしてしまい、妾は傷のえるまでニースの赤十字病院にロダンさんの手厚い看護を受けました。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
おいの兵庫助とが、遊女のうちの美人を賭けて双六すごろくをやり、さいの論争から、ついに叔父甥で刃を抜き、双方、ひん死の重傷を負ったのみならず
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに小さな家と細い小路こうじのために、さいのように区切られて、名も知らない都会人士の巣を形づくっているうちに
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その努力というものは非常なものであります。ちょうどさいの川原で石を積んでいて、これでよいと思っていると壊れる。それでまたそれを建て直す。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
征服した方もされた方も、博奕に出たさいの目を信じただけだ。それ以外の何ものでもないのだからな。化体なものさ。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そのまま店から下りそうなるを、びったりとせなでおさえて、愛吉は土間一杯に身構えながら、くだんさいの目のごとき足並の人立に向って、かすれた声
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのソップを製へる爲に生の牛肉を細かくさいに切つて、口の長い大きな徳利とくりへ入れる。是がまた一役で、氣の長いものでなければ勤まらなかつた。
愛玉只は、黄色味を帯びた寒天様のもので、台湾たいわん無花果いちじゅくの実をつぶして作るのだそうだが、それをさいの目に切ったのの上に砂糖水、氷をかけて食う。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
さつま芋のさいの目に切つたものが、菜味としてふんだんに入つてゐる。狸はどこにゐるやと、なほ丹念に掻きまはしたが、狸肉らしいものがでゝこない。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
なおごく初期の双六のさいは、一から六までの数字でなくて、貪・瞋・痴・戒・定・恵の六字のが名目双六用に、南・無・分・身・諸・仏のが浄土双六用に
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
盗賊ふせぎに許されて設けた僧兵が、鴨川の水、双六すごろくさいほど法皇を悩ませたり、貿易のために立てた商会がインドを英国へ取ってしまう大機関となったり
剣が峰を左手に仰いで池の岸からさいの河原という所を通る。一面の石原、大小千個ともなき焼石の原である。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
津軽侯の浪人司馬又助——などというやからと押し廻り、賭場とばへ行ってはさいをころがし、女郎屋や小料理屋へ出かけて行っては、強請ゆすりがましく只で遊んだりした。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はこまかく切ったその紙片を、さいなりに筋をひいて紙のうえにならべていながら、振顧ふりむきもしないで応えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
障子しやうじもないすゝつた佛壇ぶつだんはおつぎを使つかつて佛器ぶつきその掃除さうぢをして、さいきざんだ茄子なすつたいもと、さびしいみそはぎみじかちひさな花束はなたばとをそなへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
檢査處しらべるところ賣歩行うりあるく荷物にもつ一ツもなくして家内にはめくり札さい數多あまたありしなり此返答はどうぢやと問詰とひつめられしに勘太郎一言の返答も出來兼ねたり越前守殿コレ勘太郎汝は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ひょろひょろころげかけるところを無手むずと私のえりをひっつかまえて、まるでさいかわらの子供が鬼にふんづかまえられて行くような具合に、柵外へつかみ出されてしまった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この辺の、のでん賭博というのは、数人寄ってさいを転がしているはなぱりが、田舎者を釣りよせては巻き上げるのですが、賭博場の景物には、皆春画を並べてある。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
いろいろな話題になって明石の人たちがうらやまれ、幸福な人のことを明石の尼君という言葉もはやった。太政大臣家の近江おうみの君は双六すごろくの勝負のさいを振る前には
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
実際その何分かの間は、当人同志は云うまでもなく、平常は元気の好い泰さんさえ、いよいよ運命のさいを投げて、ちょうはんかをきめる時が来たような気がしたのでしょう。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんだか初めてらしくて、さいの目も、張りかたも、よく知らなかったそうですが、半方はんかた定張じょうばりで、一度もくずれず、勝ちっぱなし、玄人連の度胆を抜いたといいます。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
運はさいの眼の出所でどころ分らぬ者にてお辰の叔父おじぶんなげのしち諢名あだな取りし蕩楽者どうらくもの、男はけれど根性図太くたれにも彼にもうとまれて大の字に寝たとて一坪には足らぬ小さき身を
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それに「運命」という奴が気紛れもので、若い、大胆な無法者の陰謀家は、いつ富籤から黄金を、あるいはいうにいわれぬさいの逆転を、抽き当てるかわかったものではない。
ねげさいの河原に接して大野亀という亀の形をした孤丘が海に突出している。船路の目標でもあれば、帆前船の変り目にもなるために、しばしば船方の唄の中に歌われている。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
第四十六 コロトン はパンをさいに切って油で揚げて豆や芋の濁ったスープへ混ぜます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さいの河原はかなしい而して真実な俚伝りでんである。此世は賽の河原である。大御親おおみおやの膝下から此世にやられた一切衆生は、皆賽の河原の子供である。子供は皆小石を積んで日をすごす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
只今ではおやかましい事でございまして、中々隠れて致す事も出来んほどお厳しいかと思いますと、麗々と看板を掛けまして、何か火入れのさいがぶら下って、花牌はなふだが並んで出ています
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ポーンと伏せてあけると、コロコロところがって、ピョコンとさいが起き上がるのです。
腰に尺八の伊達だてはなけれど、何とやらいかめしき名の親分が手下てかにつきて、そろひの手ぬぐひ長提燈ながでうちんさいころ振る事おぼえぬうちは素見ひやかし格子先かうしさきに思ひ切つての串談じようだんも言ひがたしとや
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
同じ十二銭の弁当であるが、この男のさいだけは別に煮てある。悪い博奕打ばくちうちがいか物のさいを使うように、まかないがこの男の弁当箱には秘密の印を附けているなぞと云うものがある。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
話に聞くさい河原かわらとは、こうもあろうかというようなあさましい風景であった。島まわりは、一里ほどもあるふうだったが、断崖の入江にさえぎられて廻ってみることが出来なかった。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
福岡の城下から中津の城下に移った彼は、二月に入った一日、宇佐八幡宮にさいして、本懐の一日も早く達せられんことを祈念した。実之助は、参拝を終えてから境内の茶店に憩うた。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この警戒管制には、市民の生命が、ちょうはんかのさいころの目に懸けられているのだ!
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
裸足はだしの少年靴みがき団を筆頭に、花売り娘、燐寸マッチ売子、いかさまさいの行商人、魔窟の客引き——そう言えば、このポウト・サイドには、土人区域の市場を抜けて回教堂モスクの裏へ出ると、白昼
亭主が勝つか、女房が勝つかで、柊か、つたか、いずれを飾るかの大争いがおこる。さいころとトランプの遊びで執事はふところをこやす。そして、気のいた料理人なら料理の味を見ながら腹をこやす
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
鼻糞はなくそ記事の軽重、大小を見分けるためにはとり餌箱えばこ式の県予算、さい河原かわら式土木事業の進行状態、掃溜はきだめ式市政の一般、各市町村のシミッタレた政治分野、陣笠代議士、同じく県議、ワイワイ市議
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この勝負を試すには、決して目的を立ててはいけない。決して打算をしてはいけない。自分の一切をさいにして、投げてみるだけだ。そこから本当に再び立ち上がれる大丈夫な命が見付かって来よう。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一望千里の田野を縫うさいの目のような月水ぼりは、すっぽんとともに優良などじょうを産する。ほかでは見られないまでに、持ち味すばらしく、かつ大量に産し、現に大阪市場にまで持ち込まれている。
一癖あるどじょう (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
少憩の後、コブクロ坂を越え、ややして、鶴ヶ岡八幡宮にさいした。
滑川畔にて (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
悪所通あくしょがよいのしたい放題ほうだいはしたし、なみの道楽者の十倍も余計に女のはだを知りつくして来はしたものの、いまだ、ただの一度もさいを争ったことはなし、まして人様の物を、ちり一本でも盗んだ覚えは
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)