ことば)” の例文
単にことばの上で見るならば、潤いのあるということは、客観的ない方で味いのあるということは、主観的な云い方であるとも云える。
歌の潤い (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
一體假名遣と云ふことば定家ていか假名遣などと云ふときから始まつたのでありませうか。そこで此物を指して自分は單に假名遣と云ひたい。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
それには方式がありますから、私がやってあげますが、逢うと申しましても、この世の人でない者に逢うことでございますから、ことば
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その時僕は説明の出来ない或る感じのするのに気が附いた。この説明の出来ないと云ふことばはその感じを的確に言ひ表したものである。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
壮大なこの場の自然の光景を背景に、この無心の熊さんを置いて見た刹那せつなに自分の心に湧いた感じは筆にもかけずことばにも表わされぬ。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
らうこゝろをつけて物事ものごとるに、さながらこひこゝろをうばゝれて空虚うつろなりひとごとく、お美尾みを美尾みをべばなにえとこたゆることばちからなさ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まことに唯一詞ひとこと。当の姫すら思い設けなんだことばが、匂うが如く出た。貴族の家庭の語と、凡下ぼんげの家々の語とは、すっかり変って居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
これらのことばを聞ける時のわがさまに及ばじ、わが愛こと/″\く神に注がれ、ベアトリーチェはそがために少時しばし忘られき 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
単に踊ると云っては、ことばが不十分であるかも知れない。その手振り足振りはすこぶる複雑なもので、尋常一様のお神楽のたぐいではない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
松陰の刑せらるるや、その絶命のことば、伝えて象山に到る。象山潸然さんぜんとして泣いて曰く、「義卿は事業に急なり、今やかくの如し」と。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
芻堯すうぎょうことばまでも捨てずという、古語の意味を活かすは今じゃ! ……かかる場合にわしをわしと知って、濁りのない女の声をもって
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「火鉢にあたるやうな暢気のんきな対局やおまへん。」といふことばをふと私は想ひ出し、にはかに坂田三吉のことがなつかしくなつて来た。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
附近の幾つかの村のも是に準拠したものか、歌のことばなどは互いによく似ており、俚謡集りようしゅうに出ている次の安房郡あわぐんのものも大同小異である。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
などということばもあったが、伊豆の女はなぜその中でないだろうか。——頼朝も時には、そんな煩悩ぼんのうに、頭脳あたまつままれている日もあった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その男は、戸口の近くにそういう二人を認めると、前からの知合らしい一方の女房に向かって、非常に穏かな様子でことばをかけた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「乞」をイデとむ例は、「乞我君イデアギミ」、「乞我駒イデワガコマ」などで、元来さあさあと促がすことばであるのだが「出で」と同音だから借りたのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
こゝろを結びことばを束ねて、歌とも成らば成して見ん、おゝそれよ、さま/″\に花咲きたりと見し野辺のおなじ色にも霜がれにけり。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
二人は手を引き合って、ゆっくり歩きながら、折々顔を見て笑い交すのである。口に出ることばは昔恋の初めてきざしたころの詞と同じであった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
それ故にこそ電火一閃いっせんするごとに拍手くが如きなれ。ただ小町のことばに和歌のために一命を捨つるはうらみなしとあるは利きたり。
ことばにつれて、如法の茸どもの、目をき、舌を吐いてあざけるのが、憎く毒々しいまで、山伏はりんとしたうちにもかよわく見えた。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近所きんじよ女房にようばうれたのをさいはひに自分じぶんあとからはしつてつた。鬼怒川きぬがはわたしふね先刻さつき使つかひと行違ゆきちがひつた。ふねからことば交換かうくわんされた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
女ながらも心男々をゝしき生質さがなれば大岡殿のことばしたがひ私し苦界へしづみし事は父が人手に掛り其上姉の身の代金もうばはれしとの事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
之をたとえば熟眠、夢まさたけなわなるのとき、おもてにザブリと冷水を注がれたるが如く、殺風景とも苦痛とも形容のことばあるべからず。
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が、そのききなれない調子、意味のまったく分からないことばの中に、この少女の迫った感情がみなぎっているのを俊寛は感ぜずにはいられなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
六十五 恐ろしとも凄まじとも形容にことばの無いこの場合に迫っては、人たる者は唯何ものかの下にくぐり込んで隠れるのみだ。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
先づ第一に「おろしけり」といふことばの意味がわからんので、これを碧梧桐にただすと、それは甘酒の荷をおろしたといふのであると説明があつた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
二三の若い者は、これを捨ゼリフのおくことばで、あっちへ向くと、もう両国の盛り場の人混みへ見えなくなってしまいました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは「天地あめつちことば」であります。これが「いろは」が出来る前に「いろは」のような役をしておったものと考えられます。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
今やこの開校の期にい、親しくその式にあずかる。故にいささか余が心情と冀望とを述べ、以てこの開校を祝するのことばと為す。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
佳き文章とは、「情こもりて、ことばび、心のままのまことを歌い出でたる」態のものを指していうなり。情籠りて云々は上田敏、若きころの文章である。
マッチということばは今どんな田舎いなかでも用いている。しかるに僕の子供のときは早附木はやつけぎといったものだ。今はそんなことをいうものはほとんどない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
極めて新らしい言文一致と奥浄瑠璃おくじょうるりの古い「おじゃる」ことばとが巧みに調和した文章の新味が著るしく読書界を驚倒した。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「わたくし、日本ことば、よく、駄目です。——あなた、わたくし、いへ、來て下さい……」と、婦人は覺束ない詞で云つた。
ハルピンの一夜 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
この竹取の絵は巨勢こせ相覧おうみの筆で、ことば書きは貫之つらゆきがしている。紙屋紙かんやがみ唐錦からにしきの縁が付けられてあって、赤紫の表紙、紫檀したんの軸で穏健な体裁である。
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
年を取っても身だしなみを忘れなかった祖母が、生きるのに物憂ものうくなっていつも死に憧れていた気持をも、彼女一流の神秘めいたことばで話していた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その年に成るまで真実ほんとうに落着く場所も見当らなかったような先生の一生は、漢詩風のことばで、その中に言い表してあった。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ふところにいだき入んとするにしうとめかたはらよりよくのませていだきいれよ、みちにてはねんねがのみにくからんと一言ひとことことばにもまごあいするこゝろぞしられける。
一郎はことほぎことばも深くはいわず。すべり出でたるその跡より一座の人々誰彼とおのがまにまに祝いを述べつ。例の斎藤はほろい気げんの高調子。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
虎は安南語を解し林中にあって人が己れの噂するを聞くという。因って虎を慰めいたことばを懸けながら近寄り虎が耳を傾け居るすきを見澄まし殺すのだ。
出して遣るとけなした所に、ことばに力を入れて呼んだのは、流石さすが気が利いてゐるが、その皆さんは一向引かうとしない。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
もし余が脳中にある和漢の字句を傾けて、そのうちからこのありさまを叙するに最も適当なることばを探したなら必ずぶら下がるが当選するにきまっている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつて浪六がいひつるごとく、かれは毒筆のみならず、誠に毒心を包蔵せるのなりといひしは実に当れることばなるべし
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
取設け置てあやまちの償ひとせんと心に思ひて中津川の橋力はしりきに着けば一封の置手紙あり即ち兩氏の名にして西京にて會せんとあり憮然としていだすべきことばなし
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
したがって、為家以後二条家に生れたところの、よんでならぬせいことばのことなども、為兼などと同じ態度でいい破って、大切なのは心だといっている。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
その冷かな、物の奥を見通すやうな目附きを、ことばに訳して言へば、「魚心あれば水心だ」とでもいふべきだらう。
客のことばには押え切れない肝癪かんしゃくの響がある。「どうしたのだね。妙じゃないか。ジネストの奥さんに、わたしが来て待っているとそう云ったかね。ええ。」
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
女にしても見まほしい——此の形容のことばはもはやこのような若衆すがたに対しては、役に立つはずがありませぬ。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
述懐のことばを洩らして、長い年月、外国を渡り歩いたものは、その心の奥底では、どこにも安住の地を見出せない、故郷すら他国であるといっておりますが
イプセン百年祭講演 (新字新仮名) / 久保栄(著)
彼女の唇からそうしたことばが聞けるものなら、その場で生命を投出したところで惜しくはなかったでしょう、私はとてもじっ沈着おちついては居られませんでした。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
犬を誉めたことばの通りに、この娘も可哀い眼付をして、美しい鼻を持って居た。それだから春の日が喜んでその顔に接吻して、娘の頬が赤くなって居るのだ。