腰掛こしか)” の例文
日曜日で、列車はわりにたて混んでいたが、それでも車室の一番隅っこに、まだ誰も腰掛こしかけていない上等のボックスがみつかった。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
祖母おばあさんはれい玄關げんくわんわきにあるはた腰掛こしかけまして、羽織はおりにするぢやう反物たんものと、子供こどもらしい帶地おびぢとを根氣こんきつてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
父はベンチに腰掛こしかけて、むちの先で砂に何やら書きながら、半ばは注意ぶかく、半ばは放心のていで、わたしの話をいていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
かれは、青草あおくさうえこしをおろそうとしたが、そばにちいさな茶店ちゃみせがあるのにづいたので、さっそくはいって腰掛こしかけへやすみました。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
くろへ腰掛こしかけてこぼこぼはっていくあたたかい水へ足を入れていてついとろっとしたらなんだかぼくがいねになったような気がした。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ジャンセエニュ先生せんせいは高い椅子いす姿勢しせい真直まっすぐにして腰掛こしかけていらっしゃいます。厳格げんかくですけれど、やさしい先生せんせいです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
腰掛こしかけも、窓ぎわのテーブルも、それから、いまニールスのねている大きなベッドも、いろんな色どりをした戸棚とだなも、みんな壁にくっついていました。
おやおやとの許嫁いひなづけでも、十年じふねんちか雙方さうはう不沙汰ぶさたると、一寸ちよつと樣子やうすわかかねる。いはん叔父をぢをひとで腰掛こしかけた團子屋だんごやであるから、本郷ほんがうんで藤村ふぢむら買物かひものをするやうなわけにはゆかぬ。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは探偵用の自動車で、腰掛こしかけの下に人間がかくれることもできますし、また、そこには、いろいろな変装の道具もいれてあるのです。携帯無線電話の箱も、おいてあります。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
花前は、耳で合点がてんしたともいうべきふうをして仕事しごとにかかる。片手かたてにしぼりバケツと腰掛こしかけとを持ち、片手かたて乳房ちぶさあらうべきをくんで、じきにしぼりにかかる。花前もここでは
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
などゝわざきこえよがしにならんで腰掛こしかけてとしわかをとこ耳語さゝやいてるのだ。
これから案内あんないれてき、はしわたると葭簀張よしずばり腰掛こしか茶屋ぢやゝで、おく住居すまゐになつてり、戸棚とだなみつつばかりり、たないくつもりまして、葡萄酒ぶだうしゆ、ラムネ、麦酒ビールなどのびん幾本いくほんも並んで
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
『ほんにそうでございました。丁度ちょうどここに手頃てごろ腰掛こしかけがございます。』
去年腰掛こしかけし石をさがすかな。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ぼくおおねえさんのとこへ行くんだよう。」腰掛こしかけたばかりの男の子は顔を変にして燈台看守の向うの席に座ったばかりの青年に云いました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
にん令嬢れいじょうたちは、今夜こんや、このへやで音楽会おんがくかいひら相談そうだんをしていました。そして、あたりをかたづけたり、がくえたり、いくつも腰掛こしかけをってきたりしました。
花と人の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしは、えだをひろげた一叢ひとむらのニワトコのかげの、低いベンチに腰掛こしかけていた。わたしは、この場所が好きだった。ジナイーダの部屋の窓が、そこから見えたからである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
さういふけむりえるところにかぎつて、旅人たびびと腰掛こしかけてやすんで休茶屋やすみぢややがありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
つまはづれさへしのばるゝ、姿すがた小造こづくりらしいのが、腰掛こしかけたはすらりとたかい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
石に腰掛こしか
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ぼく、おおねえさんのとこへ行くんだよう」腰掛こしかけたばかりの男の子は顔をへんにして燈台看守とうだいかんしゅこうのせきにすわったばかりの青年にいました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
燭台しょくだいふるいのや、南洋なんよう土人どじんったような織物おりものや、またオランダあたりからきたつぼや、支那人しなじん腰掛こしかけていたような椅子いすや、ストーブのさびたのなどまでかれてありました。
お父さんの見た人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
多勢おほぜい旅人たびびと腰掛こしかけて、めづらしさうにお蕎麥そばのおかはりをしてました。伯父をぢさんはとうさんたちにもやまのやうにりあげたお蕎麥そばをごりまして、草臥くたぶれてつたあしやすませてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
車室の中は、青い天蚕絨びろうどを張った腰掛こしかけが、まるでがら明きで、向うのねずみいろのワニスを塗ったかべには、真鍮しんちゅうの大きなぼたんが二つ光っているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いつも快活かいかつで、そして、またひとりぼっちに自分じぶんかんじた年子としこは、しばらく、やわらかな腰掛こしかけにからだをげて、うっとりと、波立なみだちかがやきつつある光景こうけいとれて、夢心地ゆめごこちでいました。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
車室の中は、青い天鵞絨ビロードった腰掛こしかけが、まるでがらあきで、こうのねずみいろのワニスをったかべには、真鍮しんちゅうの大きなぼたんが二つ光っているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
(まあ地図をお見せなさい。おけなさい。)嘉吉は自分も前小林区しょうりんくたので地図は明るかった。学生は地図をわたしながら云われた通りしきいに腰掛こしかけてしまった。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
山男はお日さまにいてたおれた木に腰掛こしかけて何か鳥を引きいてたべようとしているらしいのですが、なぜあのくろずんだ黄金きん眼玉めだま地面じめんにじっとけているのでしょう。
おきなぐさ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
アラムハラドは長い白い着物きものを着て学者のしるしのぬののついた帽子ぼうしをかぶりひく椅子いす腰掛こしかけ右手には長いむちをもち左手には本をささえながらゆっくりと教えて行くのでした。
そしたら、きのこの上に、ひょっこり三びきの小猿があらわれて腰掛こしかけました。
さるのこしかけ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)