トップ
>
聳
>
そび
ふりがな文庫
“
聳
(
そび
)” の例文
それはアパラチヤ大山系から分離した一つの支脈で、はるかに河の西方に見え、気高く
聳
(
そび
)
え立って、そのあたり一帯に君臨している。
リップ・ヴァン・ウィンクル:ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
市兵衛町の表通には
黄昏
(
たそがれ
)
近い頃なのに車も通らなければ人影も見えず、夕月が
路端
(
みちばた
)
に
聳
(
そび
)
えた老樹の梢にかかっているばかりであった。
枇杷の花
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
そういった帆村の両眼は、人家の屋根の上をつきぬいてニョッキリ
聳
(
そび
)
えたっている一つの消防派出所の
大櫓
(
おおやぐら
)
にピンづけになっていた。
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
許宣は銭塘門を出て、
石函橋
(
せきかんきょう
)
を過ぎ、
一条路
(
ひとすじみち
)
を保叔塔の
聳
(
そび
)
えている
宝石山
(
ほうせきざん
)
へのぼって寺へと往ったが、寺は焼香の人で
賑
(
にぎ
)
わっていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
唐津
(
からつ
)
港あたりに颱風を避難したのだろうと思い乍ら窓から覗いた彼の鼻先に、朝靄を衝いて
聳
(
そび
)
えていたのは川崎造船の煙突であった。
上海された男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
▼ もっと見る
それより奥の方、
甲斐境
(
かいざかい
)
信濃境の高き嶺々重なり
聳
(
そび
)
えて
天
(
そら
)
の末をば限りたるは、
雁坂十文字
(
かりさかじゅうもんじ
)
など名さえすさまじく呼ぶものなるべし。
知々夫紀行
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
かくて三個からなる
闕門
(
けつもん
)
を中に
穿
(
うが
)
ち、巨大な堅固な花崗岩を高く築造し、その上によく伝統を守った広大な重層の建物を
聳
(
そび
)
えさせた。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
眼を転ずると、
八坂
(
やさか
)
の塔が眼の前に高く晴れた冬空に
聳
(
そび
)
えて居て、その辺からずつと向うに、四条あたりの街の一部が遠く望まれた。
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
この
壁柱
(
かべはしら
)
は
星座
(
せいざ
)
に
聳
(
そび
)
え、
白雲
(
はくうん
)
に
跨
(
また
)
がり、
藍水
(
らんすゐ
)
に
浸
(
ひた
)
つて、
露
(
つゆ
)
と
雫
(
しづく
)
を
鏤
(
ちりば
)
め、
下草
(
したくさ
)
の
葎
(
むぐら
)
おのづから、
花
(
はな
)
、
禽
(
きん
)
、
鳥
(
とり
)
、
虫
(
むし
)
を
浮彫
(
うきぼり
)
したる
氈
(
せん
)
を
敷
(
し
)
く。
十和田湖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
ものが大きいし、
拵
(
こしら
)
えが見事なので、その少年のそばへ寄った者は、すぐ少年の肩ごしに
柄
(
つか
)
の
聳
(
そび
)
えているその刀に目がつくのだった。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
中尉の記録中に、右手に墓場を眺めつつ進んでゆくとやがて左手に、
白堊
(
はくあ
)
の崇厳なる大殿堂が
聳
(
そび
)
え立っているという部分があります。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
羅馬の方より行けば左に山岳の空に
聳
(
そび
)
ゆるあり。その半腹なる村落の白壁は、鼠いろなる岩石の間に亂點して、城郭かとあやまたる。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
「それじや余計な口を利かないやうにして下さい。」兵卒は急に元気づいて肩を
聳
(
そび
)
やかした。「私は軍律に従つてるんですからね。」
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
その堀と堀の間には、たくましいクレーンの
群
(
むれ
)
が黒々と
聳
(
そび
)
え立って、その下に押し潰されそうな白塗りの船員宿泊所が立っている。
カンカン虫殺人事件
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
そしてその
涯
(
はて
)
には一本の巨大な枯木をその
巓
(
いただき
)
に持っている、そしてそのためにことさら感情を高めて見える一つの山が
聳
(
そび
)
えていた。
蒼穹
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
空に
聳
(
そび
)
えている山々の巓は、この時あざやかな紅に染まる。そしてあちこちにある樅の木立は次第に濃くなる
鼠色
(
ねずみいろ
)
に
漬
(
ひた
)
されて行く。
木精
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
黒く空に
聳
(
そび
)
えた森は、この家を隠している。さながら、この家を守っているように見えた。稀にしかこの家へ出入するものがなかった。
僧
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
熱い味噌汁を
啜
(
すゝ
)
り乍ら、八五郎は肩を
聳
(
そび
)
やかします。この男の取柄は、全くこの忠實と、疲れを知らぬ我武者羅だつたかも知れません。
銭形平次捕物控:115 二階の娘
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
叫び狂い
罵
(
ののし
)
る声は窓を通し湖水を渡り、闇の大空に
聳
(
そび
)
えている八つの峰を持った八ヶ嶽の高い高い
頂上
(
いただき
)
まで響いて行くように思われた。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そしてそれが舶来の白ペンキで塗り上げられた。その後にできた掘立小屋のような
柾葦
(
まさぶ
)
き家根の上にその建物は高々と
聳
(
そび
)
えている。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
『
日出雄
(
ひでを
)
や、あの
向
(
むか
)
ふに
見
(
み
)
える
高
(
たか
)
い
山
(
やま
)
を
覺
(
おぼ
)
えておいでかえ。』と
住馴
(
すみな
)
れし子ープルス
市街
(
まち
)
の
東南
(
とうなん
)
に
聳
(
そび
)
ゆる
山
(
やま
)
を
指
(
ゆびざ
)
すと、
日出雄少年
(
ひでをせうねん
)
は
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
正義を守るこれ成功せしなり、正義より
戻
(
もと
)
るまた正義より脱する(たとい少しなりとも)これを失敗という、
大廈
(
たいか
)
空
(
くう
)
に
聳
(
そび
)
えて高く
基督信徒のなぐさめ
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
港の入口は左右から続いた山を掘り割ったように岸が
聳
(
そび
)
えていて、その上に砲台がある。あすこから
探海灯
(
たんかいとう
)
で照らされると、一番困る。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
俳画に描くとすれば、窓に垂れた瓢箪の蔓を比較的大きく画いて、その向うに雲の峯の白く
聳
(
そび
)
えているところを現すのであろうか。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
大方の冬木立は
赤裸
(
あかはだか
)
になった今日
此頃
(
このごろ
)
でも、
樅
(
もみ
)
の林のみは
常磐
(
ときわ
)
の緑を誇って、一丈に余る高い梢は灰色の空を
凌
(
しの
)
いで
矗々
(
すくすく
)
と
聳
(
そび
)
えていた。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
ベルナルデーヌの街から河岸に出て、橋を渡ると、左には黒いノートル・ダムが高く
聳
(
そび
)
え、右には低い
死体収容所
(
ラ・モルグ
)
が
蟠
(
わだかま
)
っている。
雨の日
(新字新仮名)
/
辰野隆
(著)
窓際の
籐椅子
(
とういす
)
に腰かけて、正面に
聳
(
そび
)
える
六百山
(
ろっぴゃくざん
)
と
霞沢山
(
かすみざわやま
)
とが曇天の夕空の光に照らされて映し出した色彩の盛観に
見惚
(
みと
)
れていた。
雨の上高地
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
「そら、あの真白い、おごそかな山が、北の方に高く
聳
(
そび
)
えておりましょう、御存じですかね、あれが加賀の
白山
(
はくさん
)
でございますよ」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
細道の左右に叢々たる竹藪が多くなってやがて、二つの小峯が目近く
聳
(
そび
)
え出した。天柱山に
吐月峰
(
とげっぽう
)
というのだと主人が説明した。
東海道五十三次
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
街道の両側には、大入道のように
聳
(
そび
)
えた巨木の並木のあいだに、チラホラと人家があって、ところどころにボンヤリ常夜燈がついている。
人間豹
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
私たちは月見草などの
蓬々
(
ぼうぼう
)
と浜風に吹かれている砂丘から砂丘を越えて、帰路についた。六甲の山が、青く目の前に
聳
(
そび
)
えていた。
蒼白い月
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
永年にわたる松のこしらえはどの松を見ても、
枝
(
えだ
)
をためされ
撥
(
ばち
)
と
搦
(
から
)
み竹をはさみこんで、苦しげにしかし
亭亭
(
ていてい
)
として
聳
(
そび
)
えていた。
生涯の垣根
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
その最も近代らしい顔つきは
漸
(
ようや
)
く北と西とにそれらしい一群が
聳
(
そび
)
えている、特に西方の煙突と煙だけは素晴らしさを持っている。
めでたき風景
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
この物の
下
(
もと
)
に、シピオネとポムペオとは年若うして凱旋したり、また汝の郷土に
臨
(
のぞ
)
みて
聳
(
そび
)
ゆる山にはこの物
酷
(
つら
)
しと見えたりき 五二—五四
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
「美沢さん! 美沢さん!」
四辺
(
あたり
)
を気がねしながら、呼んでみたが、美沢は痩せた肩を、
聳
(
そび
)
やかしながら、後もふり返らず歩きつづけた。
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
その翌日余り高くない波動状の山脈を五里ばかり進んで参りますと遙かの向うのマンリーという雪峰が
聳
(
そび
)
えて居る。これは海面を抜くこと
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
残ったもののおもむく部署はその反対の方角に
聳
(
そび
)
えていた。あるいは埋もれていた。山であり野であり、とにかく涯しない原始林である。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
発電所は八分通り出来上っていた。夕暗に
聳
(
そび
)
える
恵那山
(
えなさん
)
は真っ白に雪を
被
(
かぶ
)
っていた。汗ばんだ体は、急に
凍
(
こご
)
えるように冷たさを感じ始めた。
セメント樽の中の手紙
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
駿河のくにへはいったのは十月はじめのよく晴れた日で、すでに雪を冠った富士山が、
蒼穹
(
そうきゅう
)
をぬいてかっきりと
聳
(
そび
)
えたっているのがみえた。
新潮記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
常春藤
(
きづた
)
の
簇
(
むらが
)
った塀の上には、火の光もささない彼の家が、ひっそりと星空に
聳
(
そび
)
えている。すると陳の心には、急に悲しさがこみ上げて来た。
影
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
試みに四国八十八ヶ所
廻
(
めぐ
)
りの部を見るに岩屋山海岸寺といふ札所の図あり、その図
断崖
(
だんがい
)
の上に
伽藍
(
がらん
)
聳
(
そび
)
えその
傍
(
かたわら
)
は海にして船舶を多く
画
(
えが
)
けり。
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
たとえば大分県の別府温泉の西に
聳
(
そび
)
え立った
由布岳
(
ゆふだけ
)
は、『
豊後風土記
(
ぶんごふどき
)
』の逸文にも、ユフの採取地である故にこの名が付いたと記している。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
虹汀此の所の
形相
(
けいそう
)
を見て思ふやう。此地、北に
愛宕
(
あたご
)
の霊山半空に
聳
(
そび
)
えつゝ、南方
背振
(
せぶり
)
、
雷山
(
らいさん
)
、
浮岳
(
うきだけ
)
の諸名山と
雲烟
(
うんえん
)
を連ねたり。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「天のはら富士の柴山木の
暗
(
くれ
)
の」までは「
暮
(
くれ
)
」(夕ぐれ)に続く序詞で、空に
聳
(
そび
)
えている富士山の森林のうす暗い写生から来ているのである。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
かの
巌
(
いはほ
)
の頭上に
聳
(
そび
)
ゆる
辺
(
あたり
)
に到れば、
谿
(
たに
)
急に激折して、水これが為に
鼓怒
(
こど
)
し、
咆哮
(
ほうこう
)
し、噴薄
激盪
(
げきとう
)
して、
奔馬
(
ほんば
)
の乱れ
競
(
きそ
)
ふが如し。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
官吏の肩書を
聳
(
そび
)
やかしているものもあり、その他の知人間でも私のことはだいぶ問題になって『奴も物好きな奴さ』と嘲笑して終るのもあれば
一商人として:――所信と体験――
(新字新仮名)
/
相馬愛蔵
、
相馬黒光
(著)
稲穂の実り豊かに垂れている田の
彼方
(
かなた
)
に
濃藍色
(
のうらんしょく
)
に
聳
(
そび
)
える山山の線も、異国の風景を眼にして来た梶には殊の
他
(
ほか
)
奥ゆかしく
厨房日記
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
お城を取りまく堀と、そこから
彎曲
(
わんきょく
)
した傾斜で
聳
(
そび
)
える巨大な石垣とに就いてはすでに述べた。この石垣は東京市の広い部分をかこみ込んでいる。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
それに江戸情緒の庭の向うに、ひどく現代的な区役所のサイレンの拡声機などが
聳
(
そび
)
えていて、そんなのがどうも変ですがね
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
老衰
(
らうすゐ
)
してから
餘計
(
よけい
)
にのつそりした
卯平
(
うへい
)
の
身體
(
からだ
)
は、それでも
以前
(
いぜん
)
のがつしりした
骨格
(
ほねぐみ
)
が
聳
(
そび
)
えて
側
(
そば
)
に
居
(
ゐ
)
る
勘次
(
かんじ
)
を
異樣
(
いやう
)
に
壓
(
あつ
)
した。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
聳
漢検1級
部首:⽿
17画
“聳”を含む語句
聳立
聳動
相聳
聳目
秀聳
天聳
奇聳
直聳
立聳
聳抜
聳然
聳発
聳聽
高聳