つな)” の例文
それだけ、今ごろ標札のかわりに色紙を欲しがる青年の戯れに実感がこもり、梶には、他人事ひとごとではない直接的なつながりを身に感じた。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
銀灰色の細毛の密生した彼の手首に、六種の色彩の大理石を金でつないだ鎖が掛かっていた。その小さな大理石の一つは腕時計だった。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
我等永遠とこしへのりを犯せるにあらず、そはこの者は生く、またミノス我をつながず、我は汝のマルチアの貞節みさをの目あるひとやより來れり 七六—
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
お上のお手に掛るのなら、縛られてもつながれても文句はありませんが、苗字帯刀を許されても、町人はやはり町人同士でございます。
茶店の女主人と見えるのは年頃卅ばかりで勿論まゆっておるがしんから色の白い女であった。この店の前に馬が一匹つないであった。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
まだ二三日は命がつながれようというもの、それそれ生理せいり心得草こころえぐさに、水さえあらば食物しょくもつなくとも人はく一週間以上くべしとあった。
だが一体、鉱山業のこの家の主人公と、そして帆村が苦心しつつある探偵事件と、どういう事柄によってつながっているのであろうか。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
繁った枝葉を巧みに縫い棹はあたかも征矢そやのように梢遥かにして行ったが、落ちて来た時にはその先に山鳩を黐でつなぎ止めていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
火を吹く生活の現実の悩みに触れた人でないと、こういう二つの大きな感動をつなぎ合わせた、古い文芸の意図は捉えにくいかと思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
若い兵隊が甲鉄艦のやうな靴をひきずつて、ぞろぞろ通りかかると、二階から三階から白粉おしろいの顔が梅の実のやうに珠数じゆずつなぎに覗いた。
または自分の想像した通りまぼろしに似た糸のようなものが、二人にも見えない縁となって、彼らを冥々めいめいのうちにつなぎ合せているものか。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
徳二郎は堤を下り、橋の下につないである小舟のもやひを解いて、ひらりと乘ると今まで靜まりかへつて居た水面がにはかに波紋を起す。徳二郎は
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その間鷲尾わしおは実際運動から文化団体へ移っていったりしたが、抜き差しならぬ過去は、こうしてちゃンと現在へつながっていた。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
そして、一代目の喜兵衛は乳母の小供の覚助かくすけと云う者の世話になって露命をつないでいたが、暮の二十八日になって死んでしまった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
因ってかやの小屋を結び帰り、夕方にその内に入りて伺うと黒衣の人果して来り、馬を樹につなぎ墓内に入り、数輩と面白く笑談した。
その頃の——恐らくは今でも——すべての人の親は、家に資産があると否とを問わず一家の運命希望を我が子の立身出世につないでるから
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
江戸時代は周知のように此と言ってまともに此こそ彫刻だというものはないが、彫刻の技術方面の伝統をつないで来たことは確かである。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
……扱帯しごきつないで、それにすがって、道成寺どうじょうじのつくりもののように、ふらふらと幽霊だちに、爪立つまだった釣身つりみになって覗いたのだそうです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その河畔を、水戸街道からそれて、二丁ばかりのぼった河岸に古い伝馬船に屋根をかけた、あぶなっかしい舟小屋がつないであった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
荷駄にだと荷駄とをつなぎ合わせて馬囲うまがこいを作り、人と人とは手をつなぎ、或いは槍の柄を握り合いなどして、一陣一陣濁流を渡るのだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはお雪の性質の如何いかんに係らず、窓の外の人通りと、窓の内のお雪との間には、互に融和すべき一の糸のつながれていることである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何も朝鮮と歴史のつながりがあったのではなく、全く山国の生活が淳朴じゅんぼくで自然で、気持ちにも似通にかよった点が互にあるからだと思われます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一艘いっそうつないであって、船首の方が明いていて、友之助が手招ぎをするから、お村はヤレ嬉しと桟橋さんばしから船首の方へズーッと這入はいると
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
船頭せんどうくら小屋こやをがらつとけてまたがらつとぢた。おつぎはしばらつててそれからそく/\とふねつないだあたりへりた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
並んで手をつなぎ合ってもいるし、また背中合せにたけくらべをしているようでもあり、何となく人なつかしい山に見えるからである。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
およぎの出來るにはもつて來いの遊び場だつた。舟をつないでおくにもよかつた。川蝉かわせみが居る、さぎが居る、岸には水あふひが浮いてゐる。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
欧洲の旅行から帰って以来、私の注意と興味とは芸術の方面よりも実際生活につながった思想問題と具体的問題とに向うことが多くなった。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
向島は桜というよりもむしろ雪とか月とかで優れて面白く、三囲みめぐり雁木がんぎに船をつないで、秋の紅葉を探勝することは特によろこばれていた。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
かれよるになつてもあかりをもけず、よもすがらねむらず、いまにも自分じぶん捕縛ほばくされ、ごくつながれはせぬかとたゞ其計そればかりをおもなやんでゐるのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
殊にがんからすとはちがって、いかにそれが江戸時代であっても、仮りにも鷲と名のつくほどのものが毎日ぞろぞろとつながって来る筈がない。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかしボートは、——彼はそれをつないだろうか? 彼はあんまりひどく急いでいたので、ボートを繋ぐなどということはしなかったろう。
余はこれに未来の望みをつなぐことには、神も知るらん、絶えておもいいたらざりき。されど今ここに心づきて、わが心はなお冷然たりしか。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
無論むろんうしてひもつながれているのは、まだ絶息ぜっそくらないときで、最後さいごひもれたときが、それがいよいよそのひとんだときでございます。
味も日本の饂飩よりは軽くって美味しゅうございますけれども時によるとどうしてもつながらないでポツポツれる事があります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もう斯うなっては、仕方がない、書けても書けんでも、筆で命をつなぐよりほか仕方がない。食うと食わぬの境になると、私でも必死になる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ところが総円さんは短いかんじんよりで手足の指をつないで拝んだだけだが、それでもう自由がきかず、全くおとなしくなった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そうしてその血統と、財産とが、同時に絶滅しかけていたところを、私のお蔭で辛うじて、つなぎ止めたという状態なのでした。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
丸太の杭を打ってそれへつないだはよいが、たちまち杭を引き抜いて暴れだし、とうとうお断りを食って肝腎の菊も見ずにそのまま引き返し
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
朝夕に適度な運動をさせてやるほかは、なるべくつないでおくこと。よその犬と喧嘩けんかをさせないようにすること。流産をする心配があるから。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
食物でいえばガラス絵などは、間食の如きものでしょう、間食で生命をつなぐ事はつかしい、米で常に腹を養って置かなくてはなりません。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
私は見えない無数のものにつながれている。孤立したものは無数の関係に入ることによって極めてよく限定されたものとなった。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
徳川氏に到りては、人と人とを信念の大本なる理を以てつなぎ、忠義なる空文に大義名分てふちょう力ある哲理的の解釈を応用したり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
上陸すると、恐ろしく暑い土地で、足首を二人ずつ鉄の鎖でつながれた囚人等が働いていた。其処には浜の真砂まさごのように数多くの黒人がいた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ほかに兄弟とてなかった父方の親類といえば言われるのはそこきりで、血こそつながっていないが今でも親類づき合いをしているのであった。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「甲府の牢屋の中に、まだ少年でそしてそれほどの剣道の達者がいると? いったいそれは何という者で、何の罪で牢獄につながれたのじゃ」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この一夏の留守居は、夫と妻のつながれている意味をつくづく思わせた。彼は、結婚してからの自分が結婚しない前の自分で無いに、あきれた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分と笹村との偶然の縁も、元はといえば深山の義理の叔父からつながれたのだということも、何かにつけて考え出さずにはいられなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ボア・ド・ブウロニュ街の薔薇ばらいろの大理石の館、人知れぬロアル河べりのあしの中のシャトウ、ニースのなみつな快走船ヨットしま外套がいとうを着た競馬の馬
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
鰹節かつおぶしや生米をかじって露命をつなぎ、岩窟いわやや樹の下で、雨露をしのいでいた幾日と云う長い間、彼等は一言も不平をこぼさなかった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さるに妾不幸にして、いひ甲斐がいなくも病に打ちし、すでに絶えなん玉の緒を、からつなぎて漸くに、今この児は産み落せしか。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)