紀念かたみ)” の例文
熟々つく/″\見て感心なし今の話しには母御の紀念かたみの此櫛と云はるゝからは片時も忘れ給はぬ孝心かうしんを天道樣もあはれまれ必ず御惠みなるならん能々父子てゝご
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
急ぎて裏門をでぬ、貴嬢きみはここの梅林をおぼえたもうや、今や貴嬢には苦しき紀念かたみなるべし、二郎には悲しき木陰となり、われには恐ろしき場処となれり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
母の涙の紀念かたみとして肌身はだみ離さず持っていたわずかの金を惜しげもなくげ出して入社した三崎町の苦学社を逃げ出して再び下谷の伯母の家に駆け込んだ時は
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
一旦いったん帰京かえって二度目にまた丁度ちょうど行きつきたる田原がきい狼狽ろうばいし、わが書捨かきすてて室香に紀念かたみのこせし歌、多分そなたがしって居るならんと手紙の末にかき頓智とんちいだ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
やはり黒木綿の紋付羽織に、兄の紀念かたみとかいう二十年来着古きふるした結城紬ゆうきつむぎの綿入を着たままである。いくら結城紬が丈夫だって、こう着つづけではたまらない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほかにつけていたものといえばただはは紀念かたみ守刀まもりがたな——こればかりはおんなたましいでございますから、いかなる場合ばあいにもふところからはなすようなことはないのでございます。
きずは貴方の一生の瘢よ。そしてあたしの一生の紀念かたみだわ。此瘢を見るたんびに、貴方はあたしを思出して下さるでせう。あたしが風来者ふうらいものになつちやつて、満洲あたりを
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
我家のともしびが消えたと云つて愁歎しうたんしてらしたのですよ、紀念かたみの梅子を男の手で立派に養育して、雪子の恩に酬ゆるなんて吹聴ふいちやうして在らつしやいましたがネ、其れが貴郎あなた
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「さあ、うなれば、おうら紀念かたみはう大事だいじだ。よくも、おのれ、ぬく/\と衣服きものた。」とふ/\むしるがごと衣紋えもんひらいておびをかなぐり、そではづすと、やはらかなかたさがつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
世を忘れ人を離れて父子おやこただ二人名残なごりの遊びをなす今日このごろは、せめて小供の昔にかえりて、物見遊山ものみゆさんもわれから進み、やがて消ゆべき空蝉うつせみの身には要なきから織り物も、末はいもと紀念かたみの品と
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
らすべしとのたまひしかど元來もとよりおとせしは粗忽そこつなりかれしも道理どうり破損そこねしとてうらみもあらずましてやかはりをとののぞみもなしれは亡母なきはゝ紀念かたみのなれば他人ひとたてまつるべきものならずとてひろあつめてふところにせしを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ちたる影や紀念かたみ花小草はなをぐさ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
紀念かたみにこそはわかちしか。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
付て一同に通夜迄もなし翌朝よくあさ泣々なく/\野邊のべおくりさへいとねんごろに取行なひ妻の紀念かたみ孤子みなしご漸々やう/\男の手一ツにそだてゝ月日を送りけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
暖かで燃え立つようだった若い時のすべての物の紀念かたみといえば、ただこの薄禿頭、お恰好の紅絹もみのようなもの一つとなってしもうたかとおもえば、ははははは
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
香織かおりはそれを両手りょうでにささげ、『たとえおわかれしても、いつまでもいつまでもひめさまの紀念かたみ大切たいせつ保存ほぞんいたします……。』といながら、こえおしまずくずれました。
お花はいづれも木綿のそろひの中に、おのひといまはしき紀念かたみの絹物まとふを省みて、身を縮めてうつむけり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
背中せなかがぞつとさむる……背後うしろる、ととこ袖畳そでだゝみをしたをんな羽織はおり、わがねた扱帯しごきなにとなくいろつめたつて紀念かたみのやうにえてた、——持主もちぬしくなると、かへつてそんなものが
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『げに紀念かたみ、古里の種子たね。』
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ありや、紀念かたみ白楊はこやなぎ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
出して渡せばしかと懷中して則ち頭にさせくしを出し是はお前樣も知る通り我が爲に千金にもかへがたき母の紀念かたみにして片時もはなさず祕藏ひざうの品此櫛このくし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此頃も奥様の御不在の節、私を御部屋へ御招おまねきになりまして、雪の紀念かたみの梅だから、何卒天晴あつぱれ婿むこを取らせたいと思ふんで、松島は少こし年を取過ぎてつは後妻と云ふのだから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかし、わたくしほうでも近頃ちかごろはいくらかこちらの世界せかい生活せいかつれてまいりましたので、格別かくべつおどろきも、あやしみもせず、ただはは紀念かたみ守刀まもりがたなにつけただけで、心静こころしずかにちました。
千筋ちすじ百筋ももすじ気は乱るとも夫おもうはただ一筋、ただ一筋の唐七糸帯からしゅっちんは、お屋敷奉公せし叔母が紀念かたみ大切だいじ秘蔵ひめたれど何かいとわん手放すを、と何やらかやらありたけ出しておんなに包ませ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
みのらざる、何の紀念かたみ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いかに紀念かたみあふひぐさ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
いま紀念かたみつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
唯一筋の唐七糸帯からしゆつちんは、お屋敷奉公せし叔母が紀念かたみと大切に秘蔵ひめたれど何か厭はむ手放すを、と何やら彼やら有たけ出してをんなに包ませ、夫の帰らぬ其中と櫛かうがいも手ばしこく小箱に纏めて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
御腹おなかには大事の/\我子わがこではない顔見ぬ先からいとしゅうてならぬ方様かたさま紀念かたみ唐土もろこしには胎教という事さえありてゆるがせならぬ者と或夜あるよの物語りに聞しに此ありさまの口惜くちおしはらわたを断つ苦しさ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)