真黒まつくろ)” の例文
堀割ほりわり丁度ちやうど真昼まひる引汐ひきしほ真黒まつくろきたない泥土でいどそこを見せてゐる上に、四月のあたゝかい日光に照付てりつけられて、溝泥どぶどろ臭気しうきさかんに発散してる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
木の上でねてゐた真黒まつくろな小人はそれを聞くと、とびおきて、青い着物をきて、赤い帽子をかぶつて音のする方へ飛んでゆきました。
十五夜のお月様 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
とせい/\、かたゆすぶると、ひゞきか、ふるへながら、をんな真黒まつくろかみなかに、大理石だいりせきのやうなしろかほ押据おしすえて、前途ゆくさきたゞじつみまもる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
地中海から吹く北風に石炭のほこりが煙の様に渦を巻いて少時しばらくあひだに美しい白ぬりの𤍠田丸も真黒まつくろに成つて居た。出帆時間が来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
犬達を押しのけて、真黒まつくろな着物の男を引捕ひつとらへました。調べてみると懐に一杯お金をつめこんでゐます。泥坊どろばうなんです。
犬の八公 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
夜業やげうの筆をさしおき、枝折戸しをりどけて、十五六邸内ていないを行けば、栗の大木たいぼく真黒まつくろに茂るほとりでぬ。そのかげひそめる井戸あり。涼気れうきみづの如く闇中あんちう浮動ふどうす。虫声ちうせい※々じゞ
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
百年二百年、三百年とつゞく、このお念仏の家には、年ごとに何程かの富が殖え、それを守るために、皆は節約に節約を重ね、真黒まつくろになつて働いてゐるのである。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
真黒まつくろに煤びた屋根裏が見える、壁側に積重ねた布団には白い毛布がかかつて、それに並んだ箪笥の上に、枕時計やら鏡台やら、種々いろんな手廻りの物が整然きちんと列べられた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
社員しやゐん充満みちみちていづれも豪傑然がうけつぜんたり、機会ときにあたれば気は引立ひきたつものなり、元亀げんき天正てんしやうころなれば一国一城のぬしとなる手柄てがらかたからぬが、きしつゝみ真黒まつくろ立続たちつゞけし人も豪傑然がうけつぜんたり
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
なんだらうと思つてすぐ飛出とびだして格子かうしを明けて見ますると、両側りやうがはとも黒木綿くろもめん金巾かなきん二巾位ふたはゞぐらゐもありませうか幕張まくはりがいたしてございまして、真黒まつくろまる芝居しばゐ怪談くわいだんのやうでございます。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひえ真黒まつくろ、真黒、くろんぼ、玉蜀黍たうもろこしや赤髯、赤髯毛唐人が股くら毛。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
といふのは、もう冬が近いのに、王様につかまつたりなんかして、そのしたくが、まださつぱり出来てゐなかつたのでした。で、もう母も子も毎日/\、朝から晩まで真黒まつくろになつて働いてをりました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
真黒まつくろに焦げて枯れませう。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
前日ぜんじつくちあさみぎはるゝ飴色あめいろ小蝦こえびしたを、ちよろ/\とはしつた——真黒まつくろ蠑螈ゐもりふたつながら、こゝにたけぢやうあまんぬる。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いつも真黒まつくろなビロードの服に、まつかなマントを背にかけて、三人のおもちやの兵隊を、おつれになつて、森のなかをあるいていらつしやいます。
プリンス・アド (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
見物がまたさわぐ。真黒まつくろりたてた空の書割かきわり中央まんなかを大きく穿抜くりぬいてあるまるい穴にがついて、雲形くもがたおほひをば糸で引上ひきあげるのが此方こなたからでもく見えた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
見ると、真黒まつくろな着物をきた男が、四方から犬にとり巻かれて、身動きも出来ないで地面につゝ伏してゐます。見馴みなれない男です。犬の八公のところの犬達です。
犬の八公 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
天鵞絨ビロウドを張つた真黒まつくろ屋形やがたの中に腰を掛けた気持は上海シヤンハイで夜中に乗つた支那の端艇はしけを思ひ出させた。狭い運河の左右は高い家家いへいへしきられ、前はやみと夜霧とで二けんと先が見えない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
真黒まつくろよるの海で
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
東枕ひがしまくらしろきれに、ほぐしたおぐし真黒まつくろなのがれたやうにこぼれてて、むかふの西向にしむきかべに、衣桁いかうてゝあります。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
の上の空一面をば無理にも夜だと思はせるやうに隙間すきまもなく真黒まつくろりたてゝある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ところが、お猫さんのおとなりにおくろさんといふ真黒まつくろなお猫さんが住んでゐました。お猫さんのお友達です。そのお黒さんが、お風呂から上つたばかりのお猫さんの所へあそびに来ました。
お猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子古川アヤ(著)
森の奥のがけのところに、大きな洞穴ほらあながありまして、その中で一人のばあさんが、真黒まつくろなべで何かを煮てゐました。ハボンスはそのそばまで駆け寄つていつて、地べたに手をついて頭を下げました。
シャボン玉 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
ときはい、かげが、じやうぬま歴然あり/\うつつて、そら真黒まつくろつたとふだ。……それ真個ほんとううかわからねども、お天守てんしゆむねは、今以いまもつてあきらかにうつるだね。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はつとおもへば、からすほどの真黒まつくろとり一羽いちは虫蝕むしくひだらけの格天井がうでんじやうさつかすめて狐格子きつねがうしをばさりと飛出とびだす……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わか駅員えきゐん二人ふたり真黒まつくろかたちで、店前みせさきつたのが、かくれする湯気ゆげなぶるやうに、湯気ゆげがまた調戯からかふやうに、二人ふたり互違たがひちがひに、覗込のぞきこむだり、むねひらいたり、かほそむけたり、あご突出つきだしたりすると
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)