白雲はくうん)” の例文
この壁柱かべはしら星座せいざそびえ、白雲はくうんまたがり、藍水らんすゐひたつて、つゆしづくちりばめ、下草したくさむぐらおのづから、はなきんとりむし浮彫うきぼりしたるせんく。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
戸を明くれば、十六日の月桜のこずゑにあり。空色くうしよくあはくしてみどりかすみ、白雲はくうん団々だん/″\、月にちかきは銀の如く光り、遠きは綿の如くやわらかなり。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
私は午後の三、四時までを九州ホテルで休養した上、夕暮ゆうぐれ、上野さんやそのさんと、白雲はくうん池から白雲牧場の方を散歩して見た。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
としちゃんは、おかあさんや、いもうとのたつさんと汽車きしゃまどから、青々あおあおとしたそと景色けしきをながめていますと、とお白雲はくうんなかで、ぽかぽかといなづまがしていました。
古いてさげかご (新字新仮名) / 小川未明(著)
水に臨んだ紅葉こうようの村、谷をうずめている白雲はくうんむれ、それから遠近おちこち側立そばだった、屏風びょうぶのような数峯のせい、——たちまち私の眼の前には、大癡老人が造りだした
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鎌倉ちょう二字は二郎が旧歓の夢を呼び起こしけん、夢みるごときまなざし遠く窓外の白雲はくうんをながめてありしが静かに眼を閉じて手を組み、ひざを重ねたり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あるひは銚子ちょうしの海浜、隅田川真崎まっさき等を描きし風景の如き、その空中に漂ふだいなる白雲はくうんは家屋樹木と共にこれらの図の布局をなすに当つて欠くべからざる要件の一となれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さればとて故郷の平蕪へいぶの村落に病躯びょうく持帰もちかえるのもいとわしかったと見えて、野州やしゅう上州じょうしゅうの山地や温泉地に一日二日あるいは三日五日と、それこそ白雲はくうんの風に漂い、秋葉しゅうようの空にひるがえるが如くに
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いや、平面と呼ぶべくそれはあまりにでこぼこして、汽車を迎えるためにかれた小さな水たまりが、藁屑わらくず露西亜ロシア女の唾と、蒼穹そうきゅうを去来する白雲はくうんの一片とをうかべているだけだった。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
白雲はくうんひくび、狂瀾きやうらんてんをど印度洋上インドやうじやう世界せかい大惡魔だいあくまかくれなき七せき大海賊船だいかいぞくせんをば、木葉微塵こつぱみぢん粉韲うちくだいたるわが帝國軍艦ていこくぐんかん」と、神出鬼沒しんしゆつきぼつ電光艇でんくわうていとは、いまげんをならべて
諏訪一郡の低地は白雲はくうん密塞みっさいして、あたかも白波はくは澎沛ほうはいたる大湖水であった。急ぎに急ぐ予らもしばらくは諦視ていしせざるを得ない。路傍の石によろよろと咲く小白花はすなわち霜に痛める山菊である。
白菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
白雲はくうんは尽くる時無からん、白雲は尽くる時無からん……白雲は——。
ダニューヴの花嫁 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
白雲はくうんと冬木とついにかかはらず
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
白雲はくうんつかねてくさ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
白雲はくうんのたちわくところ
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
宿やどと、宿やどで、川底かはそこいはゑぐつたかたちで、緑青ろくしやうゆき覆輪ふくりんした急流きふりうは、さつ白雲はくうんそらいて、下屋げやづくりのひさしまれる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れいなるかなこの石、てんあめふらんとするや、白雲はくうん油然ゆぜんとして孔々こう/\より湧出わきいたにみねする其おもむきは、恰度ちやうどまどつてはるかに自然しぜん大景たいけいながむるとすこしことならないのである。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しかし弔辞の処女作には多少の興味を持っていたから、「悠々たるかな、白雲はくうん」などと唐宋八家文とうそうはっかぶんじみた文章をそうした。その次のは不慮ふりょ溺死できしを遂げた木村大尉きむらたいいのために書いたものだった。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下界げかいるとまなこくらむばかりで、かぎりなき大洋たいやうめんには、波瀾はらん激浪げきらう立騷たちさわぎ、數萬すまん白龍はくりよう一時いちじをどるがやうで、ヒユー、ヒユーときぬくがごとかぜこゑともに、千切ちぎつたやう白雲はくうん眼前がんぜんかすめて
土地とちのものが、其方そなたそらぞとながる、たにうへには、白雲はくうん行交ゆきかひ、紫緑むらさきみどり日影ひかげひ、月明つきあかりには、なる、また桃色もゝいろなる、きりのぼるを時々ときどきのぞむ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)