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物憂
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ものう
ふりがな文庫
“
物憂
(
ものう
)” の例文
あらわに拒絶するのもかえって人を怪しがらせる結果になるかもしれぬと思い、
物憂
(
ものう
)
く思いながら少しいざって出て話すことにした。
源氏物語:51 宿り木
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
その
一寸
(
いっすん
)
のばしが、
目覚
(
めざま
)
し時計の音を聞いてから、温かい
蒲団
(
ふとん
)
の中にもぐっているように、何とも云えず
物憂
(
ものう
)
く、こころよかった。
女妖:01 前篇
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
物憂
(
ものう
)
げに見える、眠っている、皆過去の感じである。そうしてその中に冷然と二十世紀を
軽蔑
(
けいべつ
)
するように立っているのが倫敦塔である。
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
しかし直人は、見向きもせずに、ぐったりと壁によりかかって、
物憂
(
ものう
)
げに両膝をだきかかえ乍ら、じっと目をとじたままだった。
流行暗殺節
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
彼は
物憂
(
ものう
)
い幽閉の身を忘れたかのように、お民やお粂に向かって何か物を書いて見たいと言い、筆紙の
類
(
たぐい
)
を入れてくれと頼んだ。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
▼ もっと見る
籐
(
とう
)
の
寝椅子
(
ねいす
)
に一人の
淡青色
(
たんせいしょく
)
のハアフ・コオトを着て、ふっさりと
髪
(
かみ
)
を
肩
(
かた
)
へ垂らした少女が
物憂
(
ものう
)
げに
靠
(
もた
)
れかかっているのを認め、のみならず
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
庸三は実は行くのも
物憂
(
ものう
)
いような気がしていたが、その家へぜひ来て見てもらいたいような様子なので、つい行く気になった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
都の杉並木の間には、もう
彼岸桜
(
ひがんざくら
)
の白っぽい花の影が、雪みたいに見える。春を
揺
(
ゆ
)
らぐ洛内の寺院の鐘は、一日一日、
物憂
(
ものう
)
げに曇っていた。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
けれど、
若々
(
わかわか
)
しい
鶏
(
にわとり
)
の
喜
(
よろこ
)
ばしそうな
鳴
(
な
)
き
声
(
ごえ
)
を
聞
(
き
)
くと、
星
(
ほし
)
は、すべての
長
(
なが
)
い
夜
(
よる
)
の
間
(
あいだ
)
の
物憂
(
ものう
)
かったことなどを
忘
(
わす
)
れてしまいます。
ものぐさなきつね
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
彼女は
物憂
(
ものう
)
そうに立ち上がり窓の戸を引き開けた。口の尖った、眼の優しい熊の顔が現われた。窓から覗いているのである。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
軍隊のトラックを呼び止めて、それに
便乗
(
びんじょう
)
する手は残っていた。しかしそれも
物憂
(
ものう
)
く、街の中央にある旅館に入って行った。そして飯をたべた。
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
壁際
(
かべぎわ
)
の
籐椅子
(
とういす
)
に
倚
(
よ
)
った
房子
(
ふさこ
)
は、膝の
三毛猫
(
みけねこ
)
をさすりながら、その窓の外の夾竹桃へ、
物憂
(
ものう
)
そうな視線を遊ばせていた。
影
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
どうやらこうやら、人心地ついた左孝は、まだ
纏
(
まと
)
まった事を話せるような
容態
(
ようだい
)
ではありませんが、それでも、眼だけは
物憂
(
ものう
)
そうに動かしております。
銭形平次捕物控:054 麝香の匂い
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そうして、あたりを
眺
(
なが
)
めるような
恰好
(
かっこう
)
をしたが、しばらくすると、首を垂れ、いかにも
物憂
(
ものう
)
げにうずくまった。
斜陽
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
鈍重な
眼蓋
(
まぶた
)
を
物憂
(
ものう
)
げに伏せたまま、
眼
(
ま
)
ばたきもせず真実馬耳東風に素知らぬ姿を保ち続けるのみだった。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
そうすると死はやおら
物憂
(
ものう
)
げな腰を上げて、そろそろとその人に近寄って来る。ガラガラ
蛇
(
へび
)
に見こまれた小鳥のように、その人は逃げも得しないですくんでしまう。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
愛
(
あい
)
ちやんは
物憂
(
ものう
)
さうに
長太息
(
ためいき
)
を
吐
(
つ
)
きました。『
此
(
この
)
時間
(
じかん
)
で、もつと
何
(
なに
)
か
好
(
い
)
いことをした
方
(
はう
)
が
可
(
い
)
いわ、
解
(
と
)
けもしない
謎
(
なぞ
)
をかけて
空
(
むだ
)
に
浪費
(
つぶ
)
すよりは』と
愛
(
あい
)
ちやんが
云
(
い
)
ひました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
内部へ入るとFは、いつ帰って来たかとも、
暫
(
しば
)
らくだったとも云わなかった。職業に似合わないヒゲづらの、
物憂
(
ものう
)
そうな眼で、鷲尾を
一瞥
(
いちべつ
)
したきり、あとは黙ってしまった。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
三毛は全く食欲を失って、
物憂
(
ものう
)
げに目をしょぼしょぼさせながら一日背を丸くしてすわっていた。さわって見るとからだじゅうの筋肉が細かくおののいているのが感ぜられた。
子猫
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
だが娘になった彼女らは、皆ことごとく疲れと眠さのため
物憂
(
ものう
)
げに黙っていた。それは恋に破れた娘らがどことなく人目を
憚
(
はばか
)
るあの静かな悩ましさをたたえているかのように。
花園の思想
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
と飛びこんで来たけたたましい与吉の声に、
長火鉢
(
ながひばち
)
の向うからお藤は
物憂
(
ものう
)
い眉をあげた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
そういう吉之丞自身、ただもう
物憂
(
ものう
)
いばかりで、眼玉をうごかす元気もない。
呂宋の壺
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
何事か起りたるとは知らぬにあらねど、光代は差し当りての身の
物憂
(
ものう
)
げなるを、慰めてくれぬ父を恨めしと思いぬ。憂いに重ぬる不満は穂にあらわれて、父様、つまりませぬから私も帰りまする。
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
おまえの
物憂
(
ものう
)
げな
眼
(
め
)
の光が、それをはっきり告げとるぞ。どうじゃ。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
松の袖垣
隙
(
すきま
)
あらはなるに、葉は枯れて
蔓
(
つる
)
のみ殘れる
蔦
(
つた
)
生
(
は
)
えかゝりて、古き梢の
夕嵐
(
ゆふあらし
)
、軒もる月の影ならでは訪ふ人もなく荒れ果てたり。
檐
(
のき
)
は朽ち柱は傾き、誰れ棲みぬらんと見るも
物憂
(
ものう
)
げなる
宿
(
やど
)
の
態
(
さま
)
。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
しかしながら
物憂
(
ものう
)
き悲哀が、ふだんの浪音のやうに迫つてくる。
田舎の時計他十二篇
(新字旧仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
其時
(
そのとき
)
は
前
(
まへ
)
より
天窓
(
あたま
)
が
重
(
おも
)
かつた、
顏
(
かほ
)
を
上
(
あ
)
げるが
物憂
(
ものう
)
かつた。
怪談女の輪
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
どんよりと
物憂
(
ものう
)
く流れて居た。
秘密
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
我
(
わ
)
が
汽車
(
きしや
)
は
物憂
(
ものう
)
げに
哀音
(新字旧仮名)
/
末吉安持
(著)
薄どんよりと曇り掛けた空と、その下にある
磯
(
いそ
)
と海が、同じ灰色を浴びて、
物憂
(
ものう
)
く見える中を、妙に
生温
(
なまぬる
)
い風が
磯臭
(
いそくさ
)
く吹いて来ました。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ああまた、
長
(
なが
)
い、
物憂
(
ものう
)
い
冬
(
ふゆ
)
の
間
(
あいだ
)
、この
年
(
とし
)
とった
木
(
き
)
と、
北風
(
きたかぜ
)
と、
雪
(
ゆき
)
との
戦
(
たたか
)
いがはじまるのであります。そして、かしの
木
(
き
)
は、ついに
孤独
(
こどく
)
でした。
大きなかしの木
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
だれの顔も見るのが
物憂
(
ものう
)
かった。お使いの
蔵人
(
くろうど
)
の
弁
(
べん
)
を呼んで、またこまごまと頭中将に語ったような
行触
(
ゆきぶ
)
れの事情を帝へ取り次いでもらった。
源氏物語:04 夕顔
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
年を取っても身だしなみを忘れなかった祖母が、生きるのに
物憂
(
ものう
)
くなっていつも死に憧れていた気持をも、彼女一流の神秘めいた
詞
(
ことば
)
で話していた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
外を出て歩いたり、白木と花札をやったりするのも、彼が欲するからではなく、何かに強いられた、
物憂
(
ものう
)
い生の習慣にすぎないことを彼はかんじた。
黄色い日日
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
時たま名物の乗合蒸汽がコットンコットンと
物憂
(
ものう
)
い
響
(
ひびき
)
を立てて、静かな水面に
浪
(
なみ
)
のうねりを残しつつ行くばかりだ。
魔術師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
しかしこの馬もやや老境に入って、
旺
(
さか
)
んな信長が乗り叩くには、彼も物足らなかったし、馬も
物憂
(
ものう
)
くなっていた。
新書太閤記:01 第一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかし平七は、それすらもまるでよその国の出来ごとのように、ふわりとした顔をして、
頬杖
(
ほおづえ
)
をついたまま、あいた片手で
銚子
(
ちょうし
)
を引寄せると、
物憂
(
ものう
)
げに盃を運んだ。
山県有朋の靴
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
お袴をおぬぎなさったら、などと大騒ぎになったのも無理からぬほど、まばゆく見事な景趣ではあったが、大尽は
物憂
(
ものう
)
そうな顔して溜息をつき、都にも美人は少く候、と呟く。
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
きゃっきゃっとうれしがったり恥ずかしがったりする貞世はその夜はどうしたものかただ
物憂
(
ものう
)
げにそこにしょんぼりと立った。その夜の二人は妙に無感情な
一対
(
いっつい
)
の美しい踊り手だった。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
保吉は
物憂
(
ものう
)
い三十分の
後
(
のち
)
、やっとあの避暑地の
停車場
(
ていしゃば
)
へ降りた。プラットフォオムには少し前に着いた下り列車も止っている。彼は人ごみに
交
(
まじ
)
りながら、ふとその汽車を降りる人を眺めた。
お時儀
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
彼の眼には、すべてが窮屈で、陰気で、
物憂
(
ものう
)
いほど単調であった。彼は親の側に
静止
(
じっと
)
していられないという風で、母が
注
(
つ
)
いで出した茶を飲んで、やがてまたぷいと部屋を出て行って了った。
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
... そりや
玉
(
たま
)
ちやんは
可愛
(
かあい
)
らしくつて
大人
(
おとな
)
しいわ』と
半
(
なか
)
ば
呟
(
つぶや
)
きながら
涙
(
なみだ
)
の
池
(
いけ
)
を
物憂
(
ものう
)
げに
泳
(
およ
)
ぎ
廻
(
まは
)
りました、『それから、
玉
(
たま
)
ちやんは
圍爐裏
(
ゐろり
)
の
傍
(
そば
)
にさも
心地好
(
こゝちよ
)
ささうに、
咽喉
(
のど
)
をゴロ/\
云
(
い
)
はせながら
坐
(
すわ
)
つて、 ...
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
「それどころじゃアありませんて」猿若の声は
物憂
(
ものう
)
そうだ。
南蛮秘話森右近丸
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そのとき、
子供
(
こども
)
らは
恨
(
うら
)
めしそうに、こちらを
見
(
み
)
たが、いずれも
顔色
(
かおいろ
)
は
青
(
あお
)
く、
手足
(
てあし
)
がやせて、
草履
(
ぞうり
)
を
引
(
ひ
)
きずって
歩
(
ある
)
くのも
物憂
(
ものう
)
そうなようすであった。
子供は悲しみを知らず
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
「ええ。どこか探して引越しますよ」と彼は
物憂
(
ものう
)
く答えた。「引越すとあなたから
蜆
(
しじみ
)
もゆずって貰えなくなりますね」
黄色い日日
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
裏山の絶壁を
真逆
(
まさか
)
に
下
(
くだ
)
る
筧
(
かけい
)
の竹が、青く冷たく光って見えた幾日を、
物憂
(
ものう
)
く
室
(
へや
)
の中に
呻吟
(
しんぎん
)
しつつ暮していた。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
永い冬休みをどうして暮そうかと、
物憂
(
ものう
)
い毎日をホトホト持て余していた折なので、私にはその招待がとても嬉しく、渡りに船で
早速
(
さっそく
)
招きに応ずることにした。
火縄銃
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
物憂
(
ものう
)
げに
駕籠舁共
(
かごかきども
)
を対手にしながら、並木つづきのその赤坂街道を、ゆらりゆらりとさしかかって来たのが長沢村です。何の変哲もなさそうな村だが、何しろ時がよい。
旗本退屈男:05 第五話 三河に現れた退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
それから間もなく、ある朝庸三が起きて茶の間へ出ると、子供はみんな出払って、葉子が独り
火鉢
(
ひばち
)
の前にいた。細かい羽虫が
軒端
(
のきば
)
に
簇
(
むら
)
がっていて、
物憂
(
ものう
)
げな十時ごろの日差しであった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
出るには出たが、もう車に乗る気にもなれなかった。これから定子に会いに行ってよそながら別れを惜しもうと思っていたその心組みさえ
物憂
(
ものう
)
かった。定子に会ったところがどうなるものか。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
物
常用漢字
小3
部首:⽜
8画
憂
常用漢字
中学
部首:⼼
15画
“物”で始まる語句
物
物凄
物語
物識
物怪
物騒
物置
物音
物思
物頭