うるほ)” の例文
皮をかれた梨は、前のやうに花の形に切られたまゝ置かれてあつた。お光の眼にはなつかしさうなうるほひがまただん/\加はつて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
あゝ第一の愛に愛せらるゝ者よ、あゝいと聖なる淑女よ、汝のことば我をうるほし我を暖め、かくして次第に我を生かしむ 一一八—一二〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
うるほせしが此方に向ひてコリヤ娘必ず泣な我も泣じ和女そなたそだて此年月よき婿むこ取んと思ふ所へ幸ひなるかなと今度の婚姻無上こよなき親娘おやこが悦びを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
百餘宇の學寮を持ち、數千の所化しよげを養つて、この邊一帶の町家のうるほひになつたことなどは、今の人には想像も及びません。
ひつそりしたよひの町の静かさや、うるほひをもつた星の瞬きや、空に透けてみえる桜の枝などを見ても、淡い春の悦ばしさが感ぜられるのであつた。
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
爾時そのとき一の年わかき婦人ありて、我前に來りひざまづき、我手を握り、その涙にうるほへる黒き瞳もて我面を見上げ、神の母のむくいは君が上にあれと呼びたり。
事跡からのみ論じて心理を問は無いのは、乾燥派史家の安全な遣り方であるにせよ、情無いことであつて、今日の裁判には少しうるほひがあつて宜い訳だ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
商人はふところにありてあたゝまりのさめざる焼飯の大なるを二ツ食し、雪にのどうるほして精心せいしんすこやかになり前にすゝんで雪をこぎけり。
どれでも煙草たばこのやうにしつとりとした一しゆうるほひがあし引止ひきとめるやうなちからはなくて一へばすぐはひになつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
貫一は唯胸も張裂けぬ可く覚えて、ことばでず、いだめたる宮が顔をばはふり下つる熱湯の涙に浸して、その冷たきくちびるむさぼひぬ。宮は男のつばき口移くちうつしからくものどうるほして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
馬琴の眼は、この淡彩の寒山拾得かんざんじつとくに落ちると、次第にやさしいうるほひを帯びて輝き出した。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今まで眼を閉ぢて默然もくねんたりし瀧口は、やうやくかうべもたげて父が顏を見上げしが、兩眼はうるほひて無限の情をたゝへ、滿面に顯せる悲哀のうちゆるがぬ決心を示し、おもむろに兩手をつきて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
すんほどにのびた院内ゐんない若草わかぐさが、下駄げたやはらかくれて、つちしめりがしつとりとうるほひをつてゐる。かすかなかぜきつけられて、あめいとはさわ/\とかさち、にぎつたうるほす。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
山間の寂しい小學校にゐた間、俸給の餘剩あまりを積んであがなつて、獨り稽古で勝手な音を出して、夜毎にこれをもてあそんでゐたことが、涙ぐまるゝやうな追憶となつて、乾いた彼れの心をうるほはした。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
王子わうじ音無川おとなしかは三河島みかはしまの野をうるほした其の末は山谷堀さんやぼりとなつて同じく船をうかべる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
うるほし徳は身を潤す富は少しきつひへを省き少しき利を集めたるなり集りて富となれば屋を潤すばかりでなく人を潤し業を興す流れの及ぶところ皆な潤す徳は少しの善行を重ねたるなり其功徳そのこうとく身を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
その力は、目醒めざめ、燃えた。そしてまづ、今まではあをざめたのないものとしか見えなかつた、彼女の頬のあざやかな紅となつて輝き、次には彼女の眼のうるほひにみちた艷となつて光つた。
思はず枕をうるほしたこともあつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
見れば幾許いくら大家の由緒ゆゐしよある家のといふても町人は町人だけで詮方せんかたなし必ず喃々くよ/\思ふなよとはげましながら父親も同じ袂をうるほはしぬ娘はやう/\顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この後さま/″\の流れ彼より出でたり、カトリックの園これによりてうるほひ、その叢樹こだちいよ/\榮ゆ 一〇三—一〇五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
商人はふところにありてあたゝまりのさめざる焼飯の大なるを二ツ食し、雪にのどうるほして精心せいしんすこやかになり前にすゝんで雪をこぎけり。
まだいくらもられてないは、黄褐色くわうかつしよくあかるいひかり反射はんしやして、處々しよ/\はたけくはも、しもふまではとこずゑちひさなやはらかなの四五まいうるほひをつてるのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
千年流れて盡きず、六月地とこしへに寒しといふ詩の句の通り、人をして萬斛ばんこくの凉味に夏を忘れしめ、飛沫餘煙翠嵐を卷いて、松桂千枝萬枝うるほひ、龍姿雷聲白雲を起して
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
十九のやくといふにしては初々しく、喜三郎が命まで投げ出さうといふだけあつて、お皆のやうな文法的な美人ではありませんが、いぢらしく、優しく、うるほひと光澤があつて
何か買物をしたふうであたふたと出て來て、うるほひのある眼のふちしわを寄せつゝ、ニツと笑つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
歐羅巴ヨオロツパに都會多しと雖、古羅馬のピアツツア、デル、ポヽロほど晴やかなるはあらじ。〕我は熱き頬を獅子の口に押し當て、水を頭に被りぬ。衣やうるほはん、髮や亂れん、とドメニカは氣遣ひぬ。
潤すに止まらず人をしてしらず/\の間によきに導き逢ふ所觸るゝところ皆な徳にうるほはざるなし學問もまた斯の如し今日こんにち一事を知り明日みやうにちまた一事を知る集りて大知識大學者とはなるなり現に今ま此の水を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
底をかごにして、上の方は鹽瀬しほぜの鼠地に白く蔦模樣つたもやう刺繍ぬひをした手提てさげの千代田袋ちよだぶくろを取り上げて、お光は見るともなく見入りながら、うるほひを含んだ眼をして、ひとごとのやうに言つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
春にいたりえだにつもりし雪まづとけて葉をいださぬ木の森をなしたるに、滝の水烟すゐゑんえだうるほひしがしづくとなり氷柱つらゝとなりて玉簾たまのすだれをかけめぐらしたるやうなるは、これも又たぐふべきものなし。
善悪無差別の悪平等あくびやうどうの見地に立つて居るやうな男だが、それでも人の物を奪つて吾が妻子に呉れてやり、金持の懐中ふところしぼつて手下にはうるほひをつけてやるところが感心な位のものだつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
とくと見らるゝに年のころ三十歳ばかり顏色がんしよく痩衰やせおとろにくおちほねあらはれ何樣いかさま數日拷問がうもんに苦しみし體なり扨又女房お節を見らるゝにかれとても顏色がんしよくさら人間にんげんうるほひなくいろ蒼然あをざめて兩眼を泣脹なきはら櫛卷くしまきに髮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一家一族は言ふまでもなく、谷中三崎町一圓のうるほひになつたと言はれました。
ポヽロの廣こうぢに出でゝ、記念塔のめぐりなる石獅の口より吐ける水をむすびて、我涸れたるのんどうるほしゝが、その味は人となりて後フアレルナ、チプリイの酒なんどを飮みたるにも増して旨かりき。
しきりになめたれば心さはやかになりのどうるほひしに、熊は鼻息はないきならしてねいるやう也。
私の心を春の水のやうに、うるほしてくれる