ここ)” の例文
私の家と同じようにムリオの家はここ西班牙スペインではもっとも古い家柄であって、長い並木の行き詰まりに十七世紀風の唐門が、いかにも優雅に建っている。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昨日まではとかく家をそとなる楽しみのみ追ひ究めんとしける放蕩のここに漸く家居かきょたのしみを知り父なきのちの家を守る身となりしこそうれしけれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
梅林は初め抽斎に学び、のちここに来たもので、維新後名をけつと改め、明治二十一年一月十四日に陸軍一等軍医を以て終った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かかる立場において、我々の自己はその成立の根柢において宗教的であり、哲学的知識はここに基礎附けられるのである。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
が、それはもとより酒の上の冗談に過ぎないのを、世間知らずの山育ちの青年わかものただ一図いちず真実ほんとうと信じて、こことんでもない恋の種をいたのであろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
太祖の智にして事ここでず、詔を遺して諸王の情を屈するは解すからず。人の情屈すればすなわち悦ばず、悦ばざれば則ちうらみいだき他を責むるに至る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
予は一刻も早くここに居る苦痛を脱したく思うのだが、今日昼前に渋川がくるかも知れないと思うままに、今暫くと思いながら、心にもない事を云ってる。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
故に心思の自由は我が本有の根基なるを以て、第二目行為の自由より始めその他百般自由の類は皆ここより出で、凡そ人生の行為、福祉、学芸皆此より出づ。
蕪村をして名を文学に揚げほまれを百代に残さんとの些の野心あらしめば、彼の事業はここに止まらざりしや必せり。彼は恐らくは一俳人に満足せざりしならん。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
もはや時勢もここに至りそうろうてはさらに言語口舌こうぜつをもって是非曲直ぜひきょくちょくを争いがたければ、腕力のほかこれなかるべし。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ここもつ(四四)せい諸矦しよこうあらはせり。越石父ゑつせきほけんにして(四五)縲紲るゐせつうちり。晏子あんしでてこれみちふ、(四六)左驂ささんいてこれあがなひ、かへる。
秦の商鞅しょうおうは自分の制定した法律のために関下かんかやどせられず、「嗟乎ああ法をつくるの弊いつここに至るか」
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
縦令たとひ主命とはいひながら、罪なき禽獣ものいたずらにいためんは、快き事にあらず。彼の金眸に比べては、その悪五十歩百歩なり。ここをもて某常よりこの生業なりわいを棄てんと、思ふことしきりなりき。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
死なむ命ここおもはずただにしも妹に逢はざる事をしぞおもふ (巻十二・二九二〇)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
せにしものはここ見出みだされ、求むるものはここに備はり、家兵燹へいせんに焼かるる憂なく、愛するつまを戦場に死せしめず、和楽の和雅音わげおん大空に棚引いたり。如何に人々、今こそ波羅葦増雲近づけり。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
演じて夫人の跨下を出づるに至るや、両人覚えず大哭たいこくして曰、「名節地をはらふことここに至る。夫れまた何をか言はん。然れども孺子じゆしの為にはづかしめらるること此に至る。必ず殺して以て忿念ふんねんらさん」
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
昔より久受くずと呼来たれども、此記の例、若し久受くずならんには「国」の字は書くまじきを、ここにも軽島宮の段にも、又他の古書にも、皆「国」の字をかけるを思ふに、上代には「久爾須くにす」といひけんを
国栖の名義 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
巴山此去尚千里 巴山ここを去る尚ほ千里。
閑人詩話 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
「ああ、そりやここで聞くべき事ぢやない」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よ、われここにあり
(新字新仮名) / 太宰治(著)
ここに於てわたくしの憂慮するところは、この町の附近、しくは東武電車の中などで、文学者と新聞記者とに出会わぬようにする事だけである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人はここで又もや組討くみうちを始めたが、若い重太郎は遂においたる父を捻伏ねじふせた。彼は母のかたきと叫びつつ、持ったる洋刃ないふを重蔵ののど差付さしつけたのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
而して我々が疑うことのできない真理から出立するということは、この外にないという。しかし私はここでも主語的論理の独断が前提となっていると思う。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
右の細木香以伝は匆卒そうそつに稿を起したので、多少の誤謬ごびゅうを免れなかった。わたくしはここにこれを訂正して置きたい。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
また愛民憂世の念、おのずからここに至るというべし。太祖の遺詔、嗚呼ああ、何ぞ人を感ぜしむるの多きや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
口言はんと欲して言ふ所を知らずただ「一兵卒………一兵卒………一兵卒同様ですか」とばかり言へり「さうサ一兵卒同様サ」ここに至りて最早談話を続ぐの余地なし。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
意けだしここを以てその束縛箝制かんせいを受けたる奴隷囚虜の属に別たんと欲するなり。
おろかや金眸。爾も黒衣に欺かれしよな。かれが如き山猿に、射殺さるべき黄金丸ならんや。爾が股肱ここうと頼みつる、聴水もさきに殺しつ。その黒衣といふ山猿さへ、われはや咬ひ殺してここにあり」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ここに予は一種の實用的な平民藝術を味ふ事が出來て大に面白かつた。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
『北斎漫画』のよく滑稽こっけい諷刺に成功して西人せいじんをして仏国漫画の大家ドーミエーを連想せしめたる所以ゆえんここにあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
茝庭は毎月まいげつ一、二次、抽斎、枳園、柏軒、舟庵、海保漁村らをここつどえた。諸子は環坐して古本こほんを披閲し、これが論定をなした。会ののちには宴を開いた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私はここからしておのずから真実在というものが如何にして我々に求められるかという哲学的方法が出て来ると思う。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
珙一見してすなわはしって燕王の前に拝していわく、殿下何ぞ身を軽んじてここに至りたまえると。燕王等笑って曰く、吾輩わがはい皆護衛の士なりと。珙こうべってとせず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ここに二十余年を送りきたった重太郎自身に取っては、人間の身分や階級などは、何のあたいも無いものであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
○「如何にして日を暮らすべき」「誰かこの苦を救ふてくれる者はあるまいか」ここに至つて宗教問題に到着とうちゃくしたと宗教家はいふであらう。しかし宗教を信ぜぬ余には宗教も何の役にも立たない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
何となればここは全くつつしみといふ事から放たれて居た場所であつたから。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
出羽でわの山形は江戸から九十里で、弘前に至る行程のなかばである。常の旅にはここに来ると祝うならいであったが、五百らはわざと旅店を避けて鰻屋うなぎやに宿を求めた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
但しこのお菊は五年の後文久三年の春には既に店を女中に譲って身をひいていた事が、たまたま『枕山詩鈔』第三編巻の中に見えているからここに附記して置く。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
而して我々はいつも此処ここにロードゥスがある、此処で踊れといわなければならない。行為的直観の現実が、いつも矛盾の場所であり、事はここに決せられるのである。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
ここを我慢して謝罪わびがてら正直にお辰めを思い切れと云う事、今度こそはまちがった理屈ではないが、人間は活物いきもの杓子定規しゃくしじょうぎの理屈で平押ひらおしにはゆかず、人情とか何とか中々むずかしい者があって
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼にしてもしみずから大歌人たらんとする野心あらんかその歌の発達はもとよりここに止まらざりしや必せり。その歌の時に常則を脱する者あるは彼に発達し得べき材能の潜伏しありし事を証してあまりあり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
為永春水はまだ三鷺さんろと云い、楚満人そまびとと云った時代から竜池と相識になってこの遊の供をした。竜池が人情本中に名をとどむるに至ったのはここもとづいている。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
余はここにそれらの一例として江戸平民の住家じゅうかにおける竹材の用法と意匠との最も繊巧なるを見んがため
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
漢字の利益は主としてここにあり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ソノくるしミヤおもフベシ。蘆野あしや駅ニ飯ス。ここニ至ツテ路平坦へいたん。雨モマタム。田塍でんしょう数百けい未収穫ニ及バズ。稲茎わずかニ尺余。穂皆直立シ蒼蒼然トシテ七、八月ノ際ノ如シ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
内山町の盲人百島勾当ももしまこうとうの家を遊所あそびどころとして諸持等をここつどえることになったのは当時の事である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
従者ノ泥路ニ苦シマンコトヲおもんぱかリ天ノあかつきトナルヲ待ツテ発ス。路山間ニ入ル。岐アリ石ニろくシテ曰ク左スレバすなわち若松ニシテここヨリ距ルコト十有七里ナリト。大和久ノ駅ニ飯ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある人がかつて俳諧はいかいは普遍の徳があるとか云ったが、子規の一派の永く活動しているのは、この普遍の徳にでももとづいて居るものであろう。予が主筆のために説かんと約した鴎外漁史の事はここに終る。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
愚僧ぐそう一生涯の行状、懺悔ざんげのためその大略をここしたた置候おきそうろうものなり
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)