所業しわざ)” の例文
奪った財宝の八割までを、自分と勘兵衛とが取り、後の二割を、配下の浪人どもへ分配してやった悪辣あくらつ所業しわざなども思い出された。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勿論、凡者ただもの所業しわざではない、夕方、横川をわたって飯室谷いいむろだにへかかった天城四郎とその手下どもの襲ったことから始った事件であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにしては余りに大胆で、軽卒で、それほどの運命を背負って立っている、頭のいい青年の所業しわざとはどうしても思われませぬ。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
人々はこの怪談めいた出来事に、賊の所業しわざを憎むことも忘れて、あきれ返ってしまった。これが一体人間の仕業であろうか。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、それは神経の病的作用でもなく、勿論妖しい瘴気しょうき所業しわざであり得よう道理はない。すでに法水は、墓𥥔ぼこうの所在を知っていたのである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
假におみつの所業しわざとして、夜中にみんなの寢息をうかゞつて雜魚寢の部屋を拔出したとすると、あんまり度胸が太過ぎる。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
近頃は斬った死骸の懐中物ふところまで抜く、夜盗に等しい辻斬の所業しわざは、平次の職業意識を、一日毎にかき立てて行くのです。
なしていきどほれ共如何とも詮方せんかたなければやがて懷中を改めみるに是は如何に五百兩のかねは無くさて盜賊たうぞく所業しわざならんと近傍あたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼の聴水が所業しわざなること、目前まのあたり見て知りしかば、いかにも無念さやるせなく。ことにはかれは黄金丸が、倶不戴天ぐふたいてんあだなれば、意恨はかの事のみにあらず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「どうしても、許しがたいのは、それからあとのお前の所業しわざだ。おまえはエックス線で、わたしの正体しょうたいを知ろうとした。この神聖なわたしの正体を!」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ソレニ、コレハ多分半分以上神経ノ所業しわざダト思ウケレドモ、トキドキ体ガ急ニフラフラトシテ平衡へいこうヲ失イ、右カ左カ、ドチラカヘ倒レソウニナルヿガアル。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もない。はじめからひとつまつかつてものをふ、悪魔あくま所業しわざぢや、無理むり無躰むたい法外ほふぐわい沙汰さたおもへ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「どうもそれは、狐か狸の所業しわざらしい、それが来そうな処へ干沙ひすなをまいて置けば、足跡がつくから知れるよ」
一緒に歩く亡霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だれの所業しわざともわからないような盗みが行なわれた。浪士らが引き揚げを急いでいるどさくさまぎれの中で。ほとんど無警察にもひとしい町々の暗黒の中で。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天狗てんぐ所業しわざと云ってしまえばそれまでだが、いわゆる鎌鼬かまいたち悪戯いたずらではござるまいか」という説もあった。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
よく友人たち一口ひとくちに「君、それは鼠だろう」とけなしてしまう、成程なるほど鼠のるべきところなら鼠の所業しわざかと合点がてんもするが、鼠のるべからざるところでも、往々おうおうにして聞くのだ
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
といってあたりを見廻した時、いつの間にやら鎮まって、あっけにとられ、彼の所業しわざを見守っていた勇吉が、いかにも面目なげにしおれ、小さい声で勘助にささやいた。
田舎風なヒューモレスク (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
是はのお茶の水で失ったる彦四郎貞宗ではないか、中身はと抜いて見るとまごう方なき貞宗だから、あゝ残念な事をした庄左衞門を殺害せつがいしたのは彼等兄弟の所業しわざに相違ないが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
即ち私が利用するも同然である。のみならず、読者に対してはどうかと云うに、これまた相済まぬ訳である……所謂羊頭を掲げて狗肉を売るに類する所業しわざ、厳しくいえば詐欺である。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
定めしおれの所業しわざをば不審もして居たろうがまあ聞け、手前の母に別れてから二三日の間実は張りつめた心も恋にはゆるんで、夜深よふかに一人月をながめては人しらぬ露せまそでにあまる陣頭のさびしさ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
物疑ものうたがひといふてはつゆほどもおちなさらぬこゝろのうつくしいひとを、うもうも舌三寸したさんずんだましつけてこゝろのまゝの不義ふぎ放埒はうらつ、これがまあひと女房にようばう所業しわざであらうか、なんといふ惡者わるものの、ひとでなしの
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おほうたむしろ勘次かんじ所業しわざであることを的確てきかく證據立しようこだてゝた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
調査の結果、それがドーブレクの所業しわざである事が解りました
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
なんびとかの悪意ある所業しわざであることは明かである。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
人の所業しわざを書き入れる筆もくたびれて*
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
中間なかはいつてした所業しわざ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
恐らく今度の事件なるものは、日本における会員の、不良分子の所業しわざであろうが、どういう径路で将軍家をどうして奪ったかわからない。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
反間苦肉はんかんくにくの密告が図星に当ったものであるが、むろん、これは卑怯とも何とも云いようのない所業しわざで、Wに対して弁解の余地は毛頭もうとうない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
関羽の死は、もともと曹操のさしずであり、曹操の所業しわざであると、この禍いの鍵を魏へ転嫁してしまうに限る。張昭はさように考えるのです。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次々と、ここにはしるし得ぬ程、惨虐で淫猥な所業しわざが続けられた。そして幽霊男の生首遊戯はいつ果つべしとも見えぬのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
びっくりして夢の覚めたようになった武士は、じぶんの体が暗い地の上に立っていることを知った。彼は手荒てあらな籠舁の所業しわざおこることも忘れて四方あたりを見まわした。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四角の角々を切り落せば、角の数が倍になって、八角に成るのわ当然あたりまえ、しかもそれわ自分の所業しわざであるのに、そうとわ心付かぬ三角定木、驚いたの驚かないの!
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
「ふむ、それはしからん。女の臀部でんぶを斬るとは一体何の為だか。いずれ馬鹿か、狂人きちがい所業しわざであろうな」
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
と云うのは、いかなる魔の所業しわざであろうか、戸板の上の骸骨には、あし首がくくり合わされていて、それが人魚をかたどる、あの図紋のように感じられたからである。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いかに、天變てんぺんさいいへども、はねえて道理だうりがない。畜生ちくしやうねずみ所業しわざ相違さうゐあるまい。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
恐れらるゝにや主人の仰せ殊に御奉書ごほうしよの上は一こくも延引すべからず最初さいしよより某しは此儀に係り此度の御召おんめしも皆々勘解由の所業しわざなれば只今より我一人下向致さん各々は御國許くにもと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今ノ東京ヲコンナ浅マシイ乱脈ナ都会ニシタノハ誰ノ所業しわざダ、ミンナ田舎者ノ、ポット出ノ、百姓上リノ、昔ノ東京ノ好サヲ知ラナイ政治家ト称スル人間共ノシタコトデハナイカ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
極彩色の仏像と、素木の仏像を替えて、親父の遺言を果せばそれでいいわけですが、馬鹿な振りをして様子を見ていると、妹を殺したのは、やはりあの善八の所業しわざだったことが分って来ました。
勿論悪徒わるものですから誰の所業しわざと詮議して呉れる者も有りません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「さすがは戸ヶ崎、心眼心耳、今に至って受け取れた! 曲者はいったに相違ない! ……この場の有様、曲者の所業しわざじゃ!」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「待て。車上の人間は、礼を知らぬ野人か、偽使者か。或いは呉に人なしと思うての無礼か、呉に剣なしとあなどっての所業しわざか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、四五日以前、警察の大がかりなトランク捜索がはじまる頃には三造も自分の所業しわざに恐れを抱きはじめました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
又は変態怪奇を極めた所業しわざを平気で演じて行くたとえは、随分沢山に伝わっておりますので……いわんや若林博士のような特殊な体質と頭脳を持った人間が
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
平生いつも疏放そほうから他人の住宅へ侵入した結果になり、その上強窃盗ごうせっとうの嫌疑をかけられてもしかたのないようになったおのれ所業しわざを恐ろしく思った。隣の室ではまたものの気配がした。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
見れば扇子一本おちてあり藤兵衞手に取あげ能々よく/\見るに鐵扇てつせんにて親骨に杉田すぎた三五郎と彫付ほりつけ有りし故掃部大いにいかり然らば是は幸手さつての三五郎が所業しわざちがひし今西の方へ駈出かけだしてゆく人影ひとかげ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふにはれぬこゝろめたらしい所業しわざ可笑をかしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
範覚のやった所業しわざなのであろう、両手両膝をしばられて、猿轡さるぐつわまでかまされた浮藻の姿が、痛々しくその奥に横仆よこたわっていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いわゆる敵の営中に眠って敵を眠らせぬというような大胆な所業しわざは、日本左衛門や雲霧ぐらいに甲羅こうらを経た大盗でも、容易に行えない離れわざ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウム、僕が今ふと想像したのは非常な事柄だ。泥棒なんて生やさしい犯罪ではない。ゾッとするような陰謀だ。恐ろしいと同時に、唾棄すべき悪魔の所業しわざだ」
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妖異の所業しわざと解釈してかる伝説の由縁ゆうえんを作るべき事は疑を容れず、すなわちかかる伝説、口碑の殆ど全部が、屍体に側近する者のすくなき貧家の不幸事、もしくは屍体一個
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)