)” の例文
ああ、くわしくここに写さんも要なけれど、余が彼をづる心のにわかに強くなりて、ついに離れがたきなかとなりしはこの折なりき。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「国の習いで、抜けば鞘を叩き割るのが、血を見ずに鞘へ納まったは今日が初め、まあ仲裁ぶりにでて不祥ふしょうするわ。時に貴殿のは」
我は荒漠たる原野に名も知れぬ花をづるの心あれども、園芸の些技さぎにて造詣ざうけいしたる矮少わいせうなる自然の美を、左程にうれしと思ふ情なし。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
がしかし菓子箱の蓋の三色版画の中にでもいるようなこのぐしき令嬢の願いを、当惑や自尊心だけで、拒絶していいものであろうか。
唯だ彼人の往かんはおだやかならねば、我もえ往かざるべし。そが上コンスタンチヌスの寺なる彼儀式は固より餘りでたからぬ事なり。
初冬の深更のこと、雪明りをづるまま写経に時を忘れてゐると、窓外から毛の生えた手を差しのべて顔をなでるものがあつた。
閑山 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「国歌の人を鼓舞して忠誠を貫かしめ人を劇奨げきしょうして孝貞こうていくさしめ」云々「あにただに花を賞し月をで春霞におもいり風鳥に心を傾くる」
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
汝等の中にラチオびとの魂ありや、我に告げよ、我そのしらせをで喜ばむ、また我これを知らば恐らくはその者に益あらむ。 九一—九三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
なおこのになってもその自己を——敵軍すべて取り囲む琵琶の湖中においてさえも——たまの如くでて持っている姿であった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われ夫人の気高く清らかなるをずれば、いよいよ夫人をけがさまく思い、かえってまた、夫人を汚さまく思えば、愈気高く清らかなるを愛でんとす。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕には、花一輪をさえ、ほどよく愛することができません。ほのかな匂いをずるだけでは、とても、がまんができません。
秋風記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
雨風に悩まさるれば一度は地に伏しながらもたちまち起きあがりて咲くなど、菊つくりて誇る今の人ならぬいにしへの人のまことにでもすべきものなり。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
叔母恨むというとも貴嬢きみ怒るに及ばじ、恨む心は女の心にして、恨む女はずる女なり、ただこの叔母を哀れとおぼさずや。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これはキムブルガーの唇(ハプスブルグ家代々の唇の特徴)じゃ——と陛下へいかでられたほどに由緒あるもの——それが沿岸警備にもつかず
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼の、すゞに対する感情は、老人が、自分の孫にあたるような幼い娘を、老後の断ち切ることの出来ない欲情からずる。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
刀の在所ありか仇敵かたき匿家かくれがまで教えて呉れた其の功にでゝ、永く苦痛をさするも不便ふびんゆえ、この小三郎が介錯して取らせるぞ
しかし時雨の趣を解するような人が、初時雨をでて柚味噌を焼いているというほど、殊更な趣向とも解したくない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「もみぢ葉の散らふ山辺やまべぐ船のにほひにでて出でて来にけり」(同・三七〇四)という歌を作ったりしている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ひややかなる影の谷の中にあるようにしてではなく——おお、そうではなく、——御身があるべきようにして——すなわち、星のずる海の楽土イリジアムなる
ところが形姿かたち威儀いぎならびなき一人の男が夜中にたちまち來ました。そこで互にでて結婚して住んでいるうちに、何程もないのにその孃子おとめはらみました。
唯継は彼のものいふ花の姿、温き玉のかたち一向ひたぶるよろこぶ余に、ひややかにむなしうつはいだくに異らざる妻を擁して、ほとんど憎むべきまでに得意のおとがひづるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
海外までも名に響いた紋太夫の名をでさせられ、特に願いを聞き届けこの住吉の海辺において首打つ事になったというは、一方ならぬかみのご仁慈じゃ。
子がづる薄葉鉄ブリキの太鼓、そのあか片面かたも剥げしに、土盛りて、せめて植ゑむと、福寿草霜に抜き来ぬ、二株三株。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
旅のかわきをいやすため、ステファアヌ・マラルメがでた果実、「理想のにがみに味つけられた黄金色こがねいろのシトロン」
この承認はすべてのでたき徳を生む母である。しこうしてつくられたるものの切なる願いは、造り主のまったさに似るまでおのれをよくせんとの祈りである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ただこの時代の貴紳の芸術が、花鳥風月をでる風流となって久しいから、その実感ということは、一層念を入れ、一層細かく自然を見るという方へ向う。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
流れの清きにでて手にむすびつらんとよませ給ふにやあらんを、後の人の毒ありといふ一一〇狂言まがことより、此の端詞はしことばはつくりなせしものかとも思はるるなり。
僕の雨をづる癖は恐らく母からけたのであろう。いまそかりし昔、僕はしばしば母と閑話を交えながら、庭に降る雨を眺め暮したことを今もなお思い出す。
雨の日 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
翁もその熱心にでたものであろう、叱り叱り稽古を付けてやったが、翁が歿前かなりの重態に陥って、稽古を休んでいる時までも毎日毎日執拗に押かけて来て
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
したがって彼は、神様からもその悪意や暗いところの微塵もないからりとした性質をでられていた。
常識のみとおしにすぎなくて、この抵抗が私のより生粋な作家らしさ、づべき魂ではないのかしら。
虫喰い算は、序文にも述べてあるとおり、中級以上のものは一題一題が宝石のように尊く且つずべきものであるからして、なるべくじっくりと解いていただきたい。
虫喰い算大会 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
年少から寄席をで、落語を愛してきた私のその頃のメモは、また他日稿を新たとすることとして
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
庭の桜の一片をも、我とならではでたまはず。窓の月のさやけきにも、我在らずは背きたまふ。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
若し、日本音楽を愛し、歌舞伎劇を愛し、紫の色をで、白緑の色を好み、紺蛇こんじやの目を好き而も、近代ジヤズに魅力を感ずる女性あらば、如何なる香水がふさはしいか。
これまでひたすらいつくしみ、内心ひとりで嘆賞していた大事な秘密の想念を表白したわけなので、どうして人がこの功業を嘆賞しないのかと不思議でたまらなかった。
わが心、何を求め何に憧るるや、われみづからもわき難きを、われ自らにあらぬ人の父母ちゝはゝなりとていかで知り得ん。我が父母はただ只管に限り無くわれをでいつくしみ給ひき。
しかしその無類潔白な色をで貞女神ヘーラまたジュノンおよびスベスの手にこの花を持つ
無上の愛らしい形態のなかにかくされている、この人類全体の過去の努力と永遠にわたる望みを、私たちは知らずしらずわれらの幼児おさなごとしてでよろこんでいるのだと思われます。
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
其火を見ぬ様になったはよいが、真正面ましょうめんに彼が七本松と名づけてでゝ居た赤松が、大分伐られたのは、惜しかった。此等の傾斜を南に上りつめたおかいただきは、隣字の廻沢めぐりさわである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
茶道の影響は貴人の優雅な閨房けいぼうにも、下賤げせんの者の住み家にも行き渡ってきた。わが田夫は花を生けることを知り、わが野人も山水をでるに至った。俗に「あの男は茶気ちゃきがない」という。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
そして部屋へやのすみにある生漆きうるしを塗った桑の広蓋ひろぶたを引き寄せて、それに手携てさげや懐中物を入れ終わると、飽く事もなくそのふちから底にかけての円味まるみを持った微妙な手ざわりをいつくしんだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「不弥の女よ。我とともに来れ。我は爾を奴国の何物よりもでるであろう。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
千束ちづかなす我が文は讀みも了らで捨てやられ、さそふ秋風に桐一葉の哀れを殘さざらんも知れず。ましてや、あでやかなる彼れがかんばせは、浮きたる色をづる世の中に、そも幾その人を惱しけん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ここにおかしきは妾と室を共にせる眉目うるわしき一婦人いっぷじんあり、天性いやしからずして、しきりに読書習字の教えを求むるままに、妾もその志にでて何角なにかと教え導きけるに、彼はいよいよ妾をうやま
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
一抹いちまつのかすみの中にあるいは懸崖千仭けんがいせんじんの上にあるいは緑圃黄隴りょくほこうろうのほとりにあるいは勿来なこそせきにあるいは吉野の旧跡に、古来幾億万人、春の桜の花をでて大自然の摂理せつりに感謝したのである
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
... さればわれその厚意こころざしで、おつつけ彼の黒衣とやらんをうって、爾がためにうらみすすがん。心安く成仏じょうぶつせよ」「こは有難き御命おおせかな。かくては思ひ置くこともなし、くわが咽喉のどみたまへ」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
併し土岐子とか言うあの娘は感心ですね、あの心掛にでて、私の報告書がどんなに緩和されたことでしょう? あんな悪党に、あんな立派な娘が生れるというのも、神様の深い思召おぼしめしでしょう。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
芭蕉は殊のほかこの湖國の風景をでて、石山の奧には長く住んでゐたのであるが、翁の詠んだ句には湖水の深い處の句は、自分の寡聞のせゐか餘り知らない。多く湖南に屬する景物を吟じてゐる。
湖光島影:琵琶湖めぐり (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
私が弟への手紙のはしに書きつけやり候歌、なになればろく候にや。あれは歌に候。この国に生れ候私は、私らは、この国をで候こと誰にか劣り候べき。物堅き家の両親は私に何をか教へ候ひし。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)