小路こうぢ)” の例文
静かな小路こうぢうちに、自分の足音あしおと丈が高くひゞいた。代助はけながら猶恐ろしくなつた。あしゆるめた時は、非常に呼息いきくるしくなつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
又こゝはいかならむとさし覗き見るに、空は皆一つらに赤うなり、右左の小路こうぢはいづこも/\火燃ゆるさま、目のあたりに見えておそろし。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
するともういつの間にか幸子が、不似合な冬の頃の赤い着物を無雜作にきせられて、巍に抱かれながら、松林の小路こうぢ此方こちらへ向つて歩いて來てゐるのであつた。
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
馬鹿らしい気違じみた、我身ながら分らぬ、もうもうかへりませうとて横町の闇をば出はなれて夜店の並ぶにぎやかなる小路こうぢを気まぎらしにとぶらぶら歩るけば
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
若い詩人はその粗末な小さな部屋を小綺麗こぎれいに片けて居た。一つしか無い窓を開けると小路こうぢを隔てて塀の高い監獄の構内をぐ見おろすのである。妙なところに住んでるね。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
小路こうぢの兩側の花々は倒れたまま地に頭をつけてゐた。今迄揺れつづけてゐた葡萄棚の蔓は靜まつて、垂れ下つた葡萄の實の先端からまだ雨の滴りがゆるやかに落ちてゐた。
(旧字旧仮名) / 横光利一(著)
ひさしい以前いぜんだけれども、いまおぼえてる。一度いちど本郷ほんがう龍岡町たつをかちやうの、あの入組いりくんだ、ふか小路こうぢ眞中まんなかであつた。一度いちどしばの、あれは三田みた四國町しこくまちか、慶應大學けいおうだいがくうらおも高臺たかだいであつた。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さういふ熱い男の恋心が、垣に添つて、または小路こうぢをつたつて、時には塀のかげ、時には川の畔といふ風に既に二年もそこらを彷徨さまよつてゐるやうなことは夢にも知らなかつたのである。
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
相手の女といふは、西京のうをたなあぶら小路こうぢといふところにある宿屋の総領娘、といふことが知れたもんですから、さあ、寺内のせんの坊さんも心配して、早速西京へ出掛けて行きました。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それから少許すこし行くと、大澤河原から稻田を横ぎつて一文字に、幅廣い新道が出來て居て、これに隣り合つた見すぼらしい小路こうぢ——自分の極く親しくした藻外という友の下宿の前へ出る道は
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今や/\と待程に其後岡山侯よりむかへの人來り大名だいみやう小路こうぢの上屋敷へ三人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
長崎は石だたみ道ヴェネチアのりし小路こうぢのごととこそ聞け
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
春の夜やとある小路こうぢに驚きぬ巨人きよにんのやうに見えし水甕みがめ
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ていねいに夜の小路こうぢの大き石はぎてみたれど蟋蟀は居ず
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
日は沈み山紫に空赤く大路おほぢ小路こうぢ灯火ともし見えそむ
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
小路こうぢに跳りかつ消ゆる其聲黒し。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
その間を這ふ細き小路こうぢ
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
つつましく人住む小路こうぢ
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
いち小路こうぢ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
小路こうぢ泥濘ぬかるみ雨上あめあがりとちがつて一日いちんち二日ふつかでは容易よういかわかなかつた。そとからくつよごしてかへつて宗助そうすけが、御米およねかほるたびに
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
馬鹿ばからしい氣違きちがひじみた、我身わがみながらわからぬ、もう/\かへりませうとて横町よこちようやみをばはなれて夜店よみせならぶにぎやかなる小路こうぢまぎらしにとぶら/\るけば
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
霧につゝまれた裏の松林の小路こうぢを見つめた、多緒子は、かうして自分が見つめてゐるうちに、ひよつとどこかの松の陰から幸子が夫の手に抱かれて出て來やしないか。
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
僕等は細い小路こうぢを曲つて吸はれる如くカテドラルの二重扉の中へはひつて行つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
前栽せんざい強物つはものの、はないたゞき、蔓手綱つるたづな威毛をどしげをさばき、よそほひにむらさきそめなどしたのが、なつ陽炎かげろふ幻影まぼろしあらはすばかり、こゑかして、大路おほぢ小路こうぢつたのも中頃なかごろで、やがて月見草つきみさうまつよひぐさ
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
浮世小路こうぢしげけれど
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さてもあやしや車上しやじやうひと萬世橋よろづよばしにもあらず鍋町なべちやうにもあらず本銀町ほんしろかねちやうぎたり日本橋にほんばしにもとゞまらず大路おほぢ小路こうぢ幾通いくとほりそも何方いづかたかんとするにか洋行やうかうして歸朝きてうのちつま
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「又る。平岡君によろしく」と云つて、代助はおもてた。まちを横断して小路こうぢくだると、あたりは暗くなつた。代助はうつくしいゆめを見た様に、くらつてあるいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
チエスタア・ロオドの三井物産の支店をはうとして横の小路こうぢはひつた時、白いもしくは水色の五階建がやゝ斜めに両側をしきつた間から浅い藤紫の色をした朝のピンクの一へんが見えたのは快かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
なんとせんみち間違まちがへたり引返ひきかへしてとまた跡戻あともどり、大路おほぢいづれば小路こうぢらせ小路こうぢぬひては大路おほぢそう幾走いくそうてん幾轉いくてんたつゆきわだちのあとながひきてめぐりいづればまた以前いぜんみちなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人通りの少ない小路こうぢを二三度折れたりまがつたりして行くうちに、突然辻占つぢうら屋に逢つた。大きな丸い提灯てふちんけて、腰からした真赤まつかにしてゐる。三四郎は辻占が買つて見たくなつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
よこ町をあとへ引きかへして、裏通りへ出ると、半町ばかり北へた所に、突き当りと思はれる様な小路がある。其小路こうぢの中へ三四郎は二人ふたりれ込んだ。真直まつすぐに行くと植木屋の庭へ出て仕舞ふ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さては按摩あんまふえいぬこゑ小路こうぢひとへだてゝとほきこゆるが猶更なほさらさび
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)