寸分すんぶん)” の例文
人垣を分けて飛込んだ平次も、自分の予想と寸分すんぶん違わぬ現場の様子に、物をも言わずに立ちすくみました。それは実に恐ろしい暗合です。
女はようやく首斬り台をさぐり当てて両の手をかける。唇がむずむずと動く。最前さいぜん男の子にダッドレーの紋章を説明した時と寸分すんぶんたがわぬ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今度こんどこそはなんつても、寸分すんぶんぶた相違さうゐありませんでしたから、あいちやんもれをれてくのはまつた莫迦氣ばかげたことだとおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
すると、たなのなかほどのところに、寸分すんぶんちがわない、仏像ぶつぞういてありました。おとこは、これにまると、はっとおどろきました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしその帽子を除いたにしても、何の某の服装なるものは、寸分すんぶん立派りつぱになる次第ではない。唯貧しげな外観が、全体に蔓延まんえんするばかりである。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
見れば、床の間に安置してあるものと寸分すんぶんちがわない五重の塔が、五つにわかれて、さんぜんとかがやいているのです。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その人のお供の者たちも、やはりみんな、赤ひものついた、青ずりの着物を着ていまして、だれが見ても天皇のお行列と寸分すんぶんちがいませんでした。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
柱の太さと堂の大きさとの釣り合い、軒の長さと柱の力との調和、それらはもうこれ以上に寸分すんぶんも動かせない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
年紀としのころはふまでもない、うへかさねたきぬばかりで、手足てあしおなしろさとるまで、寸分すんぶんたがはぬ脊丈恰好せたけかつかう
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
有王 私の心は昔と寸分すんぶん変わりませぬ。あなたがみやこをおたちなされてから、苦しい長い日がつづきました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
福田蘭童らんどう、あの人、こんな手紙、女のひとへ幾枚も、幾枚も、書いたのだ。寸分すんぶんちがわぬ愛の手紙を。
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
壁にも耳、徳利とくりにも口と、寸分すんぶん、間違いのないことを、法に照らして処断するのがつとめに御座りまする
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
寸分すんぶん異ならぬ同一事実のものでも、ようによりてはめることもできれば、しることもできる。賞することもばっすることもでき、殺すこともかすこともできる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかもそれは、寸分すんぶんの休みもなく走っている鷲の背なかで、天空の上で——行われつつある争闘そうとうだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の葉にしても、草の葉にしても、けだものにしても、鳥にしても、うをにしても、また昆虫にしても同じ事で、もしか寸分すんぶんちがはないといふ、これらの二つの物を見つける事が出来たなら
ロレ あゝ、これ、ヂュリエットや、悲歎かなしみってをる! なんぼうしぼってもわし智慧ちゑにはあたはぬ。つぎ木曜もくえうには、寸分すんぶん猶豫ゆうよもなう、わか婚禮こんれいやらねばならぬといた。
屁えこき虫の石太郎が屁をはなったときと、寸分すんぶんちがわぬことが。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
こう云って、清吉は娘の顔と寸分すんぶん違わぬ畫面の女を指さした。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
虎列剌と寸分すんぶんたがわぬ死に方をするということをご存じか
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
生前せいぜん現世げんせ手慣てなれたものに寸分すんぶん相違そういもないのでした。
いえかえってから、背中せなか仏像ぶつぞうをおろして、ってきたのと二つまえならべてみますと、まさしく寸分すんぶんちがっていませんでした。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二匹の人獣は、淡い車内燈の光の前で、寸分すんぶんたがわぬ顔と顔とを突き合わせ、牙をむき、敵意に燃えてにらみ合った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
亭主ていしゆこたへて、如何いかにも、へんうはさするには、はるあけぼののやうに、蒼々あを/\かすんだ、なめらかな盤石ばんじやくで、藤色ふぢいろがゝつたむらさきすぢが、寸分すんぶんたがはず、双六すごろくつてる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
実際この寂しい川筋の景色も、幾多の冒険にれた素戔嗚には、まるで高天原たかまがはら八衢やちまたのように、今では寸分すんぶん刺戟しげきさえない、平凡な往来に過ぎないのであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし天皇はそれでも寸分すんぶんもおいといにならないで、雨がひどく降るたんびには、おへやの中へおけをひき入れて、ざあざあとり入るあまもれをお受けになり
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
もう一つ困るのは、松山中学にあの小説の中の山嵐やまあらしという綽名あだなの教師と、寸分すんぶんたがわぬのがいるというので、漱石はあの男のことをかいたんだといわれてるのだ。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾心のみはこの静かな中から何事かを予期しつつある。されどもその何事なるかは寸分すんぶんの観念だにない。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あき納戸なんど姿すがたを、猛然まうぜん思出おもひだすと、矢張やつぱ鳴留なきやまぬねここゑが、かねての馴染なじみでよくつた。おあき撫擦なでさすつて、可愛かはいがつた、くろ、とねここゑ寸分すんぶんたがはぬ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしの周囲には王氏を始め、座にい合せた食客しょっかくたちが、私の顔色かおいろうかがっていました。ですから私は失望の色が、寸分すんぶんも顔へあらわれないように、気を使う必要があったのです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、ふたりとも、心の中は、寸分すんぶんのゆだんもなくはりきっているのです。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不思議や、蒔絵まきえの車、雛たちも、それこそ寸分すんぶんたがわない古郷ふるさとのそれに似た、と思わず伸上のびあがりながら、ふと心づくと、前の雛壇におわするのが、いずれも尋常ただの形でない。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またある時はふと眼がさめると、彼女と一つとこの中に、いない筈の男が眠っていた。迫ったひたい、長い睫毛まつげ、——すべてが夜半やはんのランプの光に、寸分すんぶんも以前と変らなかった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると旅順に行くには朝八時と十一時の汽車があって……とまた先刻さっき寸分すんぶん違わないような案内者めいた事を云って聞かせた。先が先だから余も依然としてなるほどなるほどを繰り返した。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこには小泉氏と顔から背かっこうまで、寸分すんぶんたがわぬ人物が、ニコニコ笑いながらつっ立っていたのです。まるで大きな鏡でも見ているように、すぐ目の前に自分自身の姿があらわれたのです。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
衣絵きぬゑさんが此辺このあたり旅行たびしたときくるまふのを、はなし次手つひでいたのが——寸分すんぶんちがはぬ的切てつきりこれだ……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
黒ん坊の王が持っているのと、寸分すんぶんも違わない宝ばかりだ。
三つの宝 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
寸分すんぶんのすきまもない厳重な警戒です。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
晝間ひるまあのおはる納戸なんどいとつて姿すがた猛然まうぜん思出おもひだすと、矢張やつぱ啼留なきやまぬねここゑが、かねての馴染なじみでよくつた、おはる撫擦なでさすつて可愛かはいがつたくろねここゑ寸分すんぶんちがはぬ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寸分すんぶん違わぬ作りになっていたのです。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)