夢中むちゅう)” の例文
くるとしちゃんは、学校がっこうへいくと、やすみの時間じかんに、運動場うんどうじょう砂場すなばで、小山こやまといっしょに砂鉄さてつるのに夢中むちゅうになっていました。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『ぼくと恋愛だって!』と、この男はさけびました。『そいつはさぞかし愉快ゆかいだろうな! 見物人は夢中むちゅうになってさわぎたてるだろうよ!』
次の瞬間、ぼくは夢中むちゅうであなたの肩をたたき、出来る限りのやさしさをめ、「秋ッペさん泣くのはおよしよ。もう横浜が近いんだ」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
宗「左様か、ウヽン……煩悩経にある睡眠、あゝ夢中むちゅうゆめじゃ、実に怖いものじゃの、あゝ悪い夢をました、悪い夢を視ました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかるにおうとのぞみは、ついえずたちまちにしてすべてかんがえ圧去あっしさって、こんどはおも存分ぞんぶん熱切ねっせつに、夢中むちゅう有様ありさまで、ことばほとばしる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
草の上へねころんでふざけると、しろ公は夢中むちゅうになりすぎて、林太郎の手や足にあとがのこるほどかみつきます。そんなとき
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
私はその子の名前を呼んだ。その子はしかし私の方をり向こうともしなかった。それほど自分の遊びに夢中むちゅうになっているように見えた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おしゃべりに夢中むちゅうになっていた村人たちは、その男がいつのまにか、その部屋へやから玄関げんかんにでてきていたのに、いっこうに気づかなかった。
「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中むちゅうなんだ。いよいよこんどは、地獄じごくで毒もみをやるかな。」
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
切られたかと思ったほど痛かったが、それでも夢中むちゅうになって逃げ出すとネ、ちょうど叔父おじさんが帰って来たので、それでんでしまったよ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夢中むちゅうはらったおれん片袖かたそでは、稲穂いなほのように侍女じじょのこって、もなくつちってゆく白臘はくろうあしが、夕闇ゆうやみなかにほのかにしろかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そうしたらぼくのそばにているはずのおばあさまが何か黒いきれのようなもので、夢中むちゅうになって戸だなの火をたたいていた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そう思うと、すっかりうれしくなって、その人のほうへ夢中むちゅうでかけていきました。心配のあまり、むねがドキドキしています。
思わず飛上って総身そうしんを震いながらこの大枝の下を一散にかけぬけて、走りながらまず心覚えの奴だけは夢中むちゅうでもぎ取った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次には夢中むちゅうになって喝采かっさいしました。そしてお金が雨のように投げられました。ハムーチャは得意になって、なおいろんな物を煙にしてみせました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そして、そうした悲哀ひあいに満ちた感覚が、なんとも言えずうれしかったのだ。わたしはそれに夢中むちゅうになっていたのだ! ……
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
『まあなんという不思議ふしぎ世界せかいがあればあったものでございましょう!』とわたくしはわれをわすれて、夢中むちゅうになってさけびました。
クリストフはくのに夢中むちゅうになっていて、何をいてるのやらさっぱりわからなかったので、知らないとこたえた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
しめたッと寺田が呶鳴ると、莫迦ッ! 追込馬が鼻に立ってどうするんだと、うしろの声も夢中むちゅうだった。鼻に立ったハマザクラの騎手は鞭を使い出した。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
というのは、わたしは自分のしごとに夢中むちゅうになっていましたから。つまりわたしは、かえるを打つために使うくるみのえだをおろうと、一生いっしょうけんめいでした。
とさけびながら、夢中むちゅうでかけしますと、山風やまかぜがうしろからどっときつけて、よけい火が大きくなりました。
かちかち山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「ええ。だけれど、江戸の伝法でんぼう肌だけに気が強くて、大事な用を帯びているのだから、是非、親分を呼び返してくれ、後生だ、頼みだ、と夢中むちゅうにまでいっているのだよ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、今も昔も変わらぬ真理は、恋は思案のほか——お蓮さまは、モウモウ源三郎に夢中むちゅうなんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その英文学というものはどんなものかとおたずねになるかも知れませんが、それを三年専攻した私にも何が何だかまあ夢中むちゅうだったのです。その頃はジクソンという人が教師でした。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それはそうかもしれない。しかし本気ぶりがちがうよ。自分の考えだけに夢中むちゅうになって、国民の地についた日常生活のことなんか、まるで忘れてしまっているような本気では困るね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
玄関げんかんの食卓には、墓場から盗って来たのであろうもも色の芍薬しゃくやくが一輪コップに差してあった。二人は夢中むちゅうで食べた。実に美しくつつましい食慾しょくよくである。彼女は犬のように満ちたりた眼をしている。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「ジョキンジョキンジョキンでした。あとは夢中むちゅうです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ねずみは夢中むちゅうで あとから走る。
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
子供こどもらはいろんなことをいって、議論ぎろんをしましたが、また、そんなことはわすれてしまって、みんなはあそびに夢中むちゅうになりました。
海のかなた (新字新仮名) / 小川未明(著)
それに私はさっきから自分の印象をまとめようとしてそれにばかり夢中むちゅうになっていたので、そんな唸り声にふと気づく度毎たびごと
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
達二はどこまでも夢中むちゅうで追いかけました。そのうちに、足が何だか硬張こわばってきて、自分で走っているのかどうかわからなくなってしまいました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
手許てもと火鉢ひばちせた薬罐やかんからたぎる湯気ゆげを、千れた蟋蟀こおろぎ片脚かたあしのように、ほほッつらせながら、夢中むちゅうつづけていたのは春重はるしげであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ニールスはみんながあんまり夢中むちゅうになっているので、おかしくてたまらず、笑ったひょうしに笛をおとしてしまいました。
そういうと、おかあさんはいきなり土間どまへおり、裏庭うらにわへでていきました。林太郎はもう夢中むちゅうになり、はだしのままおっかさんの後をおいかけました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
わたくしはうれしいやら、かなしいやら、夢中むちゅうであの両腕りょううでにひしとだきかかえたのでございます……。が、それまでがわたくしうれしさの絶頂ぜっちょうでございました。
ぼくたちは夢中むちゅうになって「ポチ」とよびながら、ポチのところに行った。ポチは身動きもしなかった。ぼくたちはポチを一目見ておどろいてしまった。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
小さなハツカネズミたちは、いままでにそんな話を聞いたことがなかったので、夢中むちゅうになって聞いていました。
女の子は夢中むちゅう一生懸命いっしょうけんめいげますと、山の上からしばを背中せなかにしょってりてるおじいさんにあいました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
まあ、邪魔じゃましないでちょうだい。とにかく、すばらしい舞踏会なの。お客も大勢おおぜいいて、それがみんな若くて、立派で、勇敢ゆうかんで、みんな夢中むちゅうで女王様にこいしているの
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
たいへんきまりがわるくなって、ぴたりとあそびをめてしまった。そして窓のところへ走っていき、ガラスに顔をしあてて、何かを夢中むちゅうながめてるようなふうをした。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
おや、また往来おうらいだ。なんてまあ広い通りだろう。うかうかすると、ひきころされてしまうぞ。なにしろ、みんな夢中むちゅうで、わめいたり、走ったり、車をとばしたりしているからな。
口にしたこともないきたないことばを、おとなしい執事しつじが、めずらしくきすてた。つづいて、このやろう……このやろう、と夢中むちゅう鉄棒てつぼうにステッキで、なぐりかかっていった。
と指さされた窓のもとへ、お君は、夢中むちゅうのように、つかつか出て、硝子窓の敷居しきいすがる。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夢中むちゅうになっているうちに、ヒュッとなにかが、耳のそばをうなってかすりぬけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こっちではけんを打ってる。よっ、はっ、と夢中むちゅうで両手を振るところは、ダーク一座の操人形あやつりにんぎょうよりよっぽど上手じょうずだ。向うのすみではおいおしゃくだ、と徳利を振ってみて、酒だ酒だと言い直している。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
道々みちみちも一ぷん絶間たえまもなくしゃべつづけて、カフカズ、ポーランドを旅行りょこうしたことなどをはなす。そうして大声おおごえ剥出むきだし、夢中むちゅうになってドクトルのかおへはふッはふッといき吐掛ふっかける、耳許みみもと高笑たかわらいする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それからの享楽きょうらく妄想もうそうして、夢中むちゅうで、合宿を引き上げる荷物も、いい加減にしばりおわると、清さんが、「坂本さん、今夜は、家だろうね」とからかうのに、「勿論もちろんですよ」こう照れた返事をしたまま
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
いま崖州に到る 事なげく可し、夢中むちゅう常に京華けいくわに在るが如し。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「君はまるで夢中むちゅうだったね。」
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わたしは、それまであんなうつくしい夕空ゆうぞらたことがありません。子供こどもたちは、あそびに夢中むちゅうになって、いえかえるのをわすれていました。
夕雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)