“夜叉:やしゃ” の例文
“夜叉:やしゃ”を含む作品の著者(上位)作品数
吉川英治26
泉鏡花9
田中貢太郎4
岡本綺堂3
南方熊楠3
“夜叉:やしゃ”を含む作品のジャンル比率
歴史 > 地理・地誌・紀行 > アジア50.0%
社会科学 > 風俗習慣・民俗学・民族学 > 伝説・民話[昔話]17.2%
哲学 > 心理学 > 超心理学・心霊研究9.1%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
そういう点になると実に我儘わがままきわまったもので、魔女か夜叉やしゃとしか思われないほど恐ろしい有様が見えるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
と、やみの中から伊兵衛の腕首をつかんだ、青面金瞳きんどう夜叉やしゃ——口が耳まで裂けたる般若はんにゃの顔。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おいおい、阿能。よけいな事を、上からいうなよ。見ろ、お袖さんの眼が、見るまに、夜叉やしゃみたいに、恐くなった」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼方此方かなたこなたに、こう駈け廻りつつ叫ぶ声が、夜叉やしゃの襲来のようであった。——若い声、しゃがれた声、いかり声。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもそれ等の霊魂は、死の瞬間におい忿怒ふんぬに充ち、残忍性に充ち、まるで悪鬼あっき夜叉やしゃの状態に置かれて居る。
たとえ悪魔ではあり、夜叉やしゃではあろうとも、いやしくも人間の形をしている以上は、人間の権威のために、これを見殺しにはできまい。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
斬れない。腕の弱いせいか、一打ちには、斬れないのである。かの女は、一撃ごとに、夜叉やしゃの相になった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年は、七十余齢、いまでは深くつつんでいる過去のそうした時代の物欲の夜叉やしゃだった片鱗も、どうかすると容貌の皺の底からにじみ出てくる。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
童髪どうはつかぜに立って夜叉やしゃのようだった。とりでとともに死のうと覚悟かくごをしている彼。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常吉は飛んで行って、あとの女の前に立ちふさがると、女は夜叉やしゃのようになって彼に斬ってかかった。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
舞台へ立っては、早い話が、出来ないまでも、神と現じ仏とあらわれ、夜叉やしゃ、鬼神ともなれば、名将、勇士、天人の舞も姿も見しょうとする。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
号令きびしく発するや否、猛風一陣どっと起って、斧をもつ夜叉やしゃ矛もてる夜叉餓えたる剣もてる夜叉
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こうも人相が変るものか! と竦然ぞっとせんばかり、髪ふり乱して夜叉やしゃのような形相であった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
玉の緒を断たんとする恐ろしき夜叉やしゃおのもとに、覚悟をめて首垂うなだれた
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
点々てんてんたるかえり血は、夜叉やしゃのように、かれのうでそでをいろどった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と忘れかけていた残忍な嫉妬の眼は、再び夜叉やしゃのように燃えて、そこの岩蔭から、潜んでいた新九郎の姿を見出してずるずると金剛力で引き摺り出した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「白が見えたら……」とウィリアムは幻影の盾をにらむ。夜叉やしゃの髪の毛は動きもせぬ、鳴りもせぬ。クララかと思う顔が一寸見えて又もとの夜叉に返る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
顔の皮が剥けて渋紙色をした眼の悪い髪の毛の縮れた醜い女の形相は夜叉やしゃのようになった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もう、そう云った時の顔つきから、清麿のおもてには、ここ久しく出なかった、仕事への凄まじい情熱——あの夜叉やしゃにも似た血相がみなぎっていた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白面皓身こうしん夜叉やしゃとなって、大空を駆けめぐり、地を埋め、水を消そうとする。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜叉やしゃ、悪魔の御託でも構わない、あんな嬉しい話を聞いた事は生れてからはじめてです。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しゃれ声ですぐ老人であることは分ったが、手には、槍を引っげ、はかまを高くくくし上げて、まるで夜叉やしゃのようなけんまくだった。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……はたで見ます唯今の、美女でもって夜叉やしゃ羅刹らせつのような奥方様のお姿は、老耄おいぼれの目には天人、女神をそのままに、尊く美しく拝まれました。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜叉やしゃはすなわち鬼の事で、これはつまり山人を鬼というのと同じことでありましょう。
と、十兵衛の血相は、戦わないうちからすでに、白面の夜叉やしゃかのように眉をげ、
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば、夜叉やしゃのような人影が、ほこやり鉄杖てつじょうをふるって、逃げ散る旅人や村の者らを見あたり次第にそこここで殺戮さつりくしていた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まして鉄作にむかっては、ほとんど夜叉やしゃ形相ぎょうそうで激しく責め立てた。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
美人夜叉やしゃと変ず で何か家内うちで非常な喧嘩が始まったような声がして居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
宿場の長者で大炊おおいという者の娘は、延寿えんじゅといって、さる年頃目をかけた女性で、自分とのあいだには、夜叉やしゃという女の子までした仲である。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして次第に息ぎれが激しくなるにつれ、夜化粧よげしょうのおしろいに青味がのぼって、いわゆる夜叉やしゃ形相ぎょうそうをそれにほつれる黒髪が作ってきます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門口にいた守衛のような角のある体の青い夜叉やしゃが、どこからくるともなしに刀を持って出てきて、男の方に近寄るなり、いきなりその刀を男の腹に突込んで切り裂いた。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は存外、優しい声でありますけれども、米友の耳には、頭巾のはずれから、チラと見た夜叉やしゃのようなおもてが眼について、その優しい声が優しく響きません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
敵たる門徒の人々が憎みののしるとおり、まさしく彼の行為は、夜叉やしゃ魔王まおうそのものであり、その姿は悪鬼羅刹あっきらせつというもおろかなほどだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これには怖ろしき夜叉やしゃの顔が隙間すきまもなくいだされている。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その代りに、今度は珠子を非難し、君の脚を売ることを望むような女性は外面がいめんにょ菩薩ぼさつ内心ないしんにょ夜叉やしゃだといって罵倒ばとうした。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女人は、夜叉やしゃ、魔王、地獄使じごくしなどと仏法からいわれているからな。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「疑心暗鬼と云うことがございますね。貴君のは、それですよ。わたしを疑ってかかるから、妾の笑顔までが、夜叉やしゃの面か何かのように見えるのでございますよ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三面六臂ろっぴ夜叉やしゃに似て、中にはおはぐろの口を張ったのがある。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「第一『金色夜叉やしゃ』なんか、あんなに世間で読まれていると云うことが、通俗小説である第一の証拠だよ。万人向きの小説なんかに、ろくなものがある訳はないからね。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と、槍を取った原士の影が、先をふさいで叫んだが、なお、血とも雨ともわかたぬ飛沫しぶきをついて、夜叉やしゃにも似た乱髪らんぱつのかげが、みよしの鼻に突っ立った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内にいると、そのおかみさんとめしたき女にいじめられるし、たまたま休みの日など外へ遊びに出ても、外にはまた、別種の手剛てごわい意地悪の夜叉やしゃがいるのでございました。
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お十夜の口が、夜叉やしゃのようにみ締まった。右手がソロソロと助広のつかにかかり、両眼は、おそろしい殺気をふくんで、お綱の白いえりあしをハッタとめる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孫兵衛は狂った夜叉やしゃのように、こんどは常木鴻山へ跳びかかった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出雲の北海岸地方にいる者は、近傍の人がこれを夜叉やしゃと云います。
花世がさけんだ途端に、夜叉やしゃのように、血刀を持った羅門が、
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突然、酔っ払った桂子が夜叉やしゃのような形相で帰ってきた。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それは額に二本の角のある青い体をした夜叉やしゃであった。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いみどりいろの顔面、相貌そうぼう夜叉やしゃのごとき櫛まきお藤が、左膳のしもとあとをむらさきの斑点ぶちに見せて、変化へんげのようににっこり笑って立っているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかもうねつながった赤色の夜叉やしゃである。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
是を以て九天邪を斬るの使を設け、十地悪を罰するの司を列ね、魑魅魍魎ちみもうりょうをして以てその奸を容るる無く、夜叉やしゃ羅刹らせつをして、その暴をほしいままにするを得ざらしむ。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かつ伏蔵もとより地下に限らず沼沢中に存するも多き故竜を以て地下また水中の伏蔵主とししたがって財宝充満金玉荘厳せる竜宮が地下と水中にありとしたのだ、ヒンズ教に地下に七住処ありて夜叉やしゃ
それはおそらく鬼とか夜叉やしゃとかいうのであろう。
仏教の八部衆天竜夜叉やしゃの次に、乾闥婆カンダールヴァあり最末位に緊那羅きんならあり、緊那羅(歌楽神また音楽天)は美声で、その男は馬首人身善く歌い、女端正好く舞い多く乾闥婆の妻たり。
花旋風はなつむじ両面りょうめん夜叉やしゃ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血相、なんといおう、夜叉やしゃ、鬼女、なお言いたりない勢いであった。およそある場合の覚悟はしていたものの、のあたりに、弦之丞が短銃の一弾に仆れたのを見たお綱が、こうなるのは当然であった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何と深い、この縄の宿縁だろう。二十余年を経た今日でも、それは地獄を生めば生める。——呼へばたちまち、夜叉やしゃ、悪鬼、羅刹らせつ、あらゆる魔のすがたは、この一すじの上へ降りて来るだろう。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ何か男が冗談まじりに他の女の話でもしたらしく、何分夢の事で辻褄の合わないところもあるのですが、女はまるで夜叉やしゃのように怒って、いきなり男に組みつき、両手に力をこめて首を締めつけました。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
夫人 夜叉やしゃいけまで参ったよ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まるで夜叉やしゃの行為にひとしい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なれど、場所がらゆえの僻耳ひがみみで、今の時節にうし刻参ときまいりなどはうつつにもない事と、聞き流しておったじゃが、何とず……この雌鬼めすおにを、夜叉やしゃを、眼前に見る事わい。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜叉やしゃヶ池へも映るらしい。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ!」お米は熱を打ち込んで、赤い吉田団扇うちわをクルリと廻しながら「——私が恋をするとすれば、鳴門はおろか、どんな関でも、きっと渡って見せますわ。ええ! じゃにでも夜叉やしゃにでもなりますとも」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲冑の兵に追いつつまれながら、死にもの狂いに、逃げ、踏みとどまり、また逃げ走っては、また戦いして、夜叉やしゃの姿になっていた山木判官は、時政のその声音こわねに、愕然がくぜん、血ばしった眼をさまよわせたが、
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくら今、武蔵自身の人間性が、人間を離脱した血の奪いあいに、夜叉やしゃけもののたましいを一つに持つような体熱からまだめきれないでいるにしても——余りに思いきった殺戮さつりくに眼がくらむ心地がする。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜叉やしゃおとこ
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
——お互いが戦場というものをおいて、対峙たいじすれば、夜叉やしゃともなり鬼神ともなるが、人間として、はだ近く会うとなると、そんなまなじりをつりあげていられないのみか、かえって非常な親しみさえ覚えるものだった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわてて枕許まくらもとからがったおせんのに、夜叉やしゃごとくにうつったのは、本多信濃守ほんだしなののかみいもうとれんげるばかりに厚化粧あつげしょうをした姿すがただった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「ここへやって来る以上は弦之丞も、死にもの狂いに違いありません。たださえ腕の冴えた奴、そいつが夜叉やしゃになって暴れ廻った日には、とても、同心方やあっしの手では抑えがつきません。どうか、よろしく一つお手配を願いとうございます」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その鋭刃えいじんになぎ立てられ、半数あまりの原士たちが、算をみだし、を負って、ドドドッ——と下り勾配こうばいへ押し崩れてゆくのを、夜叉やしゃのごとく追いかけて、ひとりあまさずさせずにはやまないかにみえた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山科やましなの辺りで、味方の勢は、はや二、三百名も討死をとげました。なにしても、敵は勢いが烈しくて、例の如く、信長が、死ねや死ねやと、声をからして指揮にあたり、信長自身も、まるで夜叉やしゃか鬼神のように馬を駆って、これへ来る様子です」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その舞を演ずるに舞人しばしば食指で自分を指さす定めだが、ノンテオクはナライの色に迷うて身を忘れ、舞を始めて自ら指さすや否や、やにわに死んだが、その霊地に堕ちて夜叉やしゃとなり、それから転生してランカ島の十頭鬼王となった(大正九年のこと別項「猴の話」)。
まさか、そのような夜叉やしゃでもあるまい。飲もう。飲まなければ死ぬであろう。おお、雪が降って来た。久し振りで風流の友と語りたい。お前はこれから一走りして、近所の友人たちを呼んで来るがいい。山崎、熊井くまい、宇津木、大竹、いそ、月村、この六人を呼んで来い。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
久太夫かずらを用ゐてこれを縛り、村里へ引出し、燈をとぼして之を見るに髪長く膝にれ、面相全く女に似て、その荒れたること絵にかける夜叉やしゃの如し。何を尋ねても物言ふこと無く、ただにこ/\と打笑ふのみ也、食を与ふれども食はず水を与ふれば飲みたり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
例えば上州の榛名湖はるなこにおいては、美しい奥方はいて供の者を帰して、しずしずと水の底に入ってったと伝え、美濃の夜叉やしゃヶ池の夜叉御前ごぜんは、父母の泣いて留めるのも聴かず、あたら十六の花嫁姿で、ひとり深山の水の神にとついだといっている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これより南三万里に国あり。夜叉やしゃ国という。その主を巨旦こたんという。悪鬼神なり。これを金神こんじんという。常に人を悩まして日本のあだとなる。このゆえに、牛頭天皇南海よりかえりたまうとき、八将神を遣わして討ち平げたまう。この巨旦は金性なるにより金神と名づく。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「恐ろしや、恐ろしやの。子ゆえの闇とは、このことか。わが子可愛さにひとの子には、鬼となっていたか……お通よ、其方そなたにも、親はあったものにのう。親御から見たらこのばばは、子のかたきじゃ、羅刹らせつじゃ、……。ああわしのすがたは夜叉やしゃともみえていたであろう」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヂュリ 罰當ばちあたりの夜叉やしゃめ! おゝ、惡魔あくまめ! わし誓約ちかひやぶらせうとしをるばかりか、まへには幾千度いくせんたびくらものいやうにめちぎったわし殿御とのごそのおなした惡口あくこうしをる。
天竜てんりゅう夜叉やしゃ乾闥婆けんだつばより、阿脩羅あしゅら迦楼羅かるら緊那羅きんなら摩睺羅伽まごらか・人・非人に至るまで等しくあわれみを垂れさせたもうわが師父には、このたび、なんじ、悟浄が苦悩くるしみをみそなわして、特にここにくだって得度とくどしたもうのじゃ。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
何の罪なく眠れるものを、たゞ一打ひとうちととびかゝり、鋭いつめでそのやはらか身体からだをちぎる、鳥は声さへよう発てぬ、こちらはそれを嘲笑あざわらひつゝ、引き裂くぢゃ。何たるあはれのことぢゃ。この身とて、今は法師にて、鳥も魚も襲はねど、昔おもへば身も世もあらぬ。あゝ罪業ざいごふのこのからだ、夜毎よごと夜毎の夢とては、同じく夜叉やしゃの業をなす。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)