)” の例文
樹木千載をる時は魂ありて人の形を取るかと心中驚異に感じながら進み立ち問答致しますると、孫呉の兵法にも通じおるような始末。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
像のりたるは色褪いろあせて、これを圍める彩畫ある板壁さへ、半ば朽ちて地にゆだねたれど、中には聖母兒せいぼじ丹粉にのこあざやかかなるもなきにあらず。
年来住みるしたる住宅は隣家蔦屋つたやにて譲り受け度旨たきむね申込もうしこみ有之これあり、其他にも相談の口はかかり候えども、此方こちらに取り極め申候。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土蔵の中はちりの落ちる音も聞こえそうに静かだった、梅雨明けの湿った空気は、物のりてゆく甘酸い匂いに染みている。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と言うと、「さへづる春は」(百千鳥ももちどりさへづる春は物ごとに改まれどもわれぞく)とだけをやっと小声で言った。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ずゐぶんるいものですが、アイチャンキャラ侯の先祖が、これを取つてからのち、或時あるとき、外敵にせめられて、一時これを占領されたことがありました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
右手めてひっさげたる百錬鉄ひゃくれんてつつるぎは霜を浴び、月に映じて、年紀としれども錆色せいしょく見えず、仰ぐに日の光も寒く輝き候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いかにも着實さうで、羊羹色やうかんいろの紋附と共に、何んの疑念も不平もなく、忠義一途に世にりた姿です。
折れ朽た雑草に、積りりた落葉に、霙の解けにじむ陰惨な音は、荒れ果てた曠野一面に響くかと思われた。そしてまた、薄黒い北風が、なお一層激しく吹きつのって来た……
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そこにとしる蝙蝠が棲んでいるのを発見したというような実話がいくらも伝えられている。
薬前薬後 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひとりにしさとにあるひとめぐくやきみこひなする 〔巻十一・二五六〇〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そんな時には顔が小く見えて、眼もしおらしい眼になった。後には種々いろんなことから自暴酒を飲んだらしかったが、酒を飲むと溜らない大きな顔になって、三つ四つもけて見えた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
月の光にかげくらき、もりの繁みをとほして、かすかに燈のひかり見ゆるは、げにりし庵室と覺しく、隣家とても有らざれば、げきとして死せるが如き夜陰の靜けさに、振鈴しんれいひゞきさやかに聞ゆるは
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
槖駝師うえきや剪裁せんさいの手を尽した小庭を通って、庫裡くりに行く。誰も居ない。尾の少しけたとしりた木魚と小槌こづちが掛けてある。二つ三つたゝいたが、一向出て来ぬ。四つ五つれよとたたく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
御覧ぜられませ、小藩ながらこの本丸にも、三世の年月がり居りまする。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おやじはり行く家に、必死と若さを欲していたのだ。あれほど愛していたおまえのお母さんが歿くなって間もなく、いくら人に勧められたからとて、聖人と渾名あだなされるほどの人間がぐ若い後妻を
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
先づ大網おほあみの湯をすぐれば、根本山ねもとやま魚止滝うおどめのたきちごふち左靱ひだりうつぼの険はりて、白雲洞はくうんどうほがらかに、布滝ぬのだきりゆうはな材木石ざいもくいし五色石ごしきせき船岩ふないわなんどと眺行ながめゆけば、鳥井戸とりいど前山まえやま翠衣みどりころもに染みて、福渡ふくわたの里にるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
狼のこゑはいとはね住みりて世にわびしきは雨漏あまもりの音
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
嗚呼、ものりし鳶色とびいろの「」の微笑ほゝゑみおほきやかに
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
これやこの 遥けくもりにし伝え
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
りし埴安姫はにやすひめすさびより
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
日数ひかずへて我にりたる秋簾あきすかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
りたる殻は 消ゆるとも
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
拝領の一軸いちぢくりし牡丹ぼたんかな
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
りてやぶるゝ壁のごと
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
けれども僕位世のなかるした年配の人間なら、あの記事を見て、すぐ事実だと思ひ込む人許ひとばかりもないから、ぱり若い人程正直に迷惑とは感じない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
柵結いたる井戸ひとつ、銀杏いちょうりたる樹あり、そがうしろに人の家の土塀あり。此方こなたは裏木戸のあき地にて、むかいに小さき稲荷いなりの堂あり。石の鳥居あり。木の鳥居あり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこに年る蝙蝠が棲んでいるのを発見したというような実話が幾らも伝えられている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わがさと大雪おほゆきれり大原おほはらりにしさとらまくはのち 〔巻二・一〇三〕 天武天皇
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
かつての上方女形おやま雀右衛門じゃくえもんの住居であったと聞くこの宿。お勝手や細廊下に働く人影も、小庭にりた竹のすがたも、みな道頓堀の名女形といわれた主のかたみかと、なんとなく朝寒あさざむのいじらしい。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「日の光林藪やぶしわかねばいそのかみりにし里も花は咲きけり」
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ひむがしのたふとき山のみささぎの松ふかきところりし霊廟みたまや
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
りにたる指のちからの
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そのねがひ親やりたる
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
百、二百、むらがる騎士は数をつくして北のかたなる試合へと急げば、石にりたるカメロットのやかたには、ただ王妃ギニヴィアの長くころもすそひびきのみ残る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さくひたる井戸ひとつ、銀杏いちようりたる樹あり、そがうしろに人の家の土塀どべいあり。こなたは裏木戸のあき地にて、むかひに小さき稲荷いなりの堂あり。石の鳥居とりいあり。木の鳥居あり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぢゆう上手かみてにつゞける一間の家體は細工場さいくばにて、三方にりたる蒲簾がますだれをおろせり。庭さきには秋草の花咲きたる垣に沿うて荒むしろを敷き、姉娘かつら廿歳。妹娘かへで、十八歳。相對して紙砧かみぎぬたつてゐる。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
かけまくもあやにかしこし年れる長崎のうみに御艦みふねはてたまふ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
伊勢の海の深き心をたどらずてりにし跡と波や消つべき
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
窻のものりしまち、風湿めるかうのぬくみに
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
君がなげきはりたりや
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
尾上おのえの松も年りて
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
住みるした家を引き払って、生れた町から三里の山奥に一人びしく暮らしている。卒業をすれば立派になって、東京へでも引き取るのが子の義務である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
帯も長襦袢もこれに消えて、山深き処、年る池に、ただその、すらりと雪をつかねたのに、霧ながらの葉にあやなす、にじを取って、細くなめらかに美しく、肩に掛けて背にさばき、腰に流したようである。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長崎は石だたみ道ヴェネチアのりし小路こうぢのごととこそ聞け
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
めあげよ、かくりてかくまたけし。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
朽草くちくさの土となるまで積みるしたる上を、踏めば深靴を隠すほどに踏み答えもなきに、甲野さんはようやくの思で、蝙蝠傘かわほりがさを力に、天狗てんぐまで、登って行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
風雅みやびの絵すがたか、杉の深みの
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しもあした、雪のゆうべ、雨の日、風の夜を何べんとなく鳴らした鐘は今いずこへ行ったものやら、余がこうべをあげてつたりたるやぐらを見上げたときは寂然せきぜんとしてすでに百年の響を収めている。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青き魔薬まやくかをりしてりつつゆけば
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)