一群ひとむれ)” の例文
この時わが左にあらはれし一群ひとむれの魂ありき、彼等はこなたにその足をはこべるも、來ることおそくしてしかすとみえず 五八—六〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一群ひとむれに言はせると、蓮太郎の演説はあまり上手の側では無いが、然し妙に人をひきつける力が有つて、言ふことは一々聴衆の肺腑を貫いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
権兵衛の伴れている下僚したやく武市総之丞たけちそうのじょうと云う男であった。総之丞は簣の一群ひとむれをやりすごしておいて、いみありそうに権兵衛を見た。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ここに居て見物したるは、西洋手品の一群ひとむれなりし。顔あかく、まなこつぶらにて、おとがいひげうずめたる男、銀六のきものすそむずと取りて
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
周囲まはりには村の若者が頬かぶりに尻はしよりといふていで、その数大凡およそ三十人ばかり、全く一群ひとむれつて、しきりにそれを練習して居る様子である。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
なぜというに、この言い争っている一群ひとむれの中に、芸者が真に厭だとか、だらないとか思っているらしいものは一人もない。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
月影はこんもりとこの一群ひとむれてらしている、人々は一語ひとことを発しないで耳を傾けていた。今しも一曲が終わったらしい、聴者ききての三四人は立ち去った。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
先に立って門前を出かけると、そこへ、一群ひとむれの駕と人とが寄って来ました。今しも城を退出して来た家老の曾根権太夫で
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから彼等の耽美主義は、この心におびやかされた彼等の魂のどん底から、やむを得ずとび立つた蛾の一群ひとむれだつた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一群ひとむれ剽盗おひはぎが馬車を取り巻いた。中にも大胆な奴等が馬の鼻の先で松明たいまつを振ると、外の奴等は拳銃の口を己達に向けた。己達の連れてゐた家隷けらいは皆逃げてしまつた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
彼はすぐ心のうちでこの間見た薄暗い控室の光景を思い出した。そこに坐っている患者の一群ひとむれとこの着飾った若い奥様とは、とても調和すべき性質のものでなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとその巨大な海藻の一群ひとむれの中でも、私に一番近い一本の中から人間の声が洩れ聞えて来た。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
教師達の出て行つた後からは、毛色の悪い一群ひとむれの雞がをあさりながら校庭へ入つて行つて。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
けれども司教はそれに思いをせ、一群ひとむれの木立ちがその年老いた民約議会員のいる谷間を示しているあたりを時折ながめた。そして言った、「彼処あそこに一人ぽっちの魂がある。」
その明かるみの下を一群ひとむれの鳥が西の方へ飛んでいつた。一羽遅れた鳥が、落伍らくごしまいとして、一生懸命に追ひすがつてゆくのが見られた。そしてすぐ見えなくなつてしまつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
空には一群ひとむれ/\の小鳥が輪を作ツて南の方へ飛んで行き、上野の森にはからすが噪ぎ始めた。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
嬉々としてたわむれながら帰って行く一行を、船の上から見ていた有王は、最初はそれを獣か何かの一群ひとむれのようにあさましいと思っていたが、そのうちになんとも知れない熱い涙が
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
麻生のかたからざあと降り出した白雨ゆうだち横さまに湖の面を走って、漕ぎぬけようとあせる釣舟の二はい三ばい瞬くひまに引包むかと見るが内に、驚き騒ぐ家鴨の一群ひとむれを声諸共もろともに掻き消して
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
橋のうへに一群ひとむれの若者がたたずんでゐて、その中でいちばん垢ぬけのしたみなりで、白い長上衣スヰートカに、鼠いろの羊毛皮アストラハンの帽子をかぶつた若者が、両手を腰につがへたまま傍若無人に
水夫たちは、その仕事のために特別に選抜されて来たような無頼漢の一群ひとむれである。そして偽牧師は、武器を一ぱいつめてあるらしい黒い袋を持っては、私たちをはげましにやって来た。
何万坪テフ庭園の彼方かなた此方こなたに設けたる屋台店やたいみせを、食ひ荒らして廻はる学生の一群ひとむれ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
著しく水気すいきを含んだ北風が、ぱっ/\と顔をって来た。やがて粒だった雨になる。らいも頭上近くなった。雲見くもみ一群ひとむれは、急いで家に入った。母屋おもやの南面の雨戸だけ残して、悉く戸をしめた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
鋭い眼でじろりと睨まれて、気の弱いお清は思わず立縮たちすくんだ。其間そのまにお杉は出て行く。お葉も後からいて行った。正午に近い冬の日は明るく晴れて、蒼い空には黒い鳥の一群ひとむれが飛んで渡った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
オヤとおもつて、窓外まどのそとながめると、今宵こよひ陰暦いんれきの十三月明つきあきらかなる青水せいすい白沙はくしや海岸かいがんには、大佐たいさ部下ぶか水兵等すいへいらは、晝間ひるま疲勞つかれこのつきなぐさめんとてや、此處こゝ一羣ひとむれ彼處かしこ一群ひとむれ詩吟しぎんするのもある。
今日こんにちは十一月の十一日で、追々白洲へ呼込みになる時刻に相成りましたから、公事の引合に呼出された者は五人十人と一群ひとむれになって、御承知の通り数寄屋橋うちの奉行所の腰掛茶屋に集っていますを
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
永遠とわひらめきつつ「こだま」の一群ひとむれ来たりぬ
一群ひとむれの屋根草は同じ色に染つて光つてゐる
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
草場くさばの赤き一群ひとむれよ、ををののかし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一群ひとむれ少女せうぢよら、戸を細目ほそめに開く。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
静かなる浴女の一群ひとむれ
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
朝明あさあけ一群ひとむれうろこしろく
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
本名は誰も知らない、何をして暮すのか、ただ遊んで、どこともわず一群ひとむれ一群入り込むきおい壮佼わかものに、時々木遣きやりを教えている。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから数日の間、ここに巣くう悪の一群ひとむれは、毎日、範宴の居所と、噂の実相をさぐることにかわがわる出あるいていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我等は堤に沿ひて來れる一群ひとむれの魂にいであへり、さながら夕間暮れ新月にひづきのもとに人の人を見る如く 一六—
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
人影は見るあざやかになった。それはいずれも見慣れない、素朴そぼくな男女の一群ひとむれだった。彼等は皆くびのまわりに、にぬいた玉を飾りながら、愉快そうに笑い興じていた。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
丁度純一が上がって来たとき、あがくちに近い一群ひとむれの中で、たれやらが声高こわだかにこう云うのが聞えた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
破れたモーニング・コートを着た毬栗いがぐり頭の小男で、今の老人と、青年と、少女の一群ひとむれが居る処とは正反対側の、東側の赤煉瓦塀に向って演説をしているところで御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
空には一群ひとむれ一群の小鳥が輪を作ッて南の方へ飛んで行き、上野の森にはからすさわぎ始めた。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
途中で紙の旗を押立てた少年の一群ひとむれに出遇つた。音楽隊の物真似、唱歌の勇しさ、笛太鼓も入乱れ、足拍子揃へて面白可笑しく歌つて来るのは何処のうちの子か——あゝ尋常科の生徒だ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おぼつかなくもかきに沿い、樹間このまをくぐりて辿たどりゆけばここにも墓標新らしき塚の前に、一群ひとむれ男女なんにょが花をささげて回向えこうするを見つ、これも親を失える人か、あるいは妻を失えるか、子を失えるか
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二名にめい水兵すいへい仲間なかま一群ひとむれ追廻おひまはされて、憘々きゝさけびながら逃廻にげまわつた。それは「命拾いのちひろひのおいわひ」に、拳骨げんこつひとづゝ振舞ふるまはれるので『これたまらぬ』と次第しだいだ。勿論もちろん戯謔じやうだんだが隨分ずいぶん迷惑めいわくことだ。
これでも昔は内芸者うちげいしゃぐらいやったと云うを鼻に掛けて、臆面おくめんもなく三味線を腰に結び付け、片肌脱ぎで大きな口をいて唄う其のあとから、茶碗を叩く薬缶頭やかんあたまは、赤手拭のねじり鉢巻、一群ひとむれ大込おおごみうしろから
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一群ひとむれのわがやからえさりゆきぬ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
牝羊めひつじ一群ひとむれ鐵橋てつけうを過ぎ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
かかる中にも自若として冷静の態度を保ち、ことさらには耳を傾けて雨を聞こうともしないのは彼等士官の一群ひとむれである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とばかり、雲をつかむような相手を追って、夕方の往来の者の眼をそばだたしめて行く一群ひとむれの男どもがここにある。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中にも際立きわだちてにぎわしきは中央なる大卓おおづくえを占めたる一群ひとむれなり。よそには男客のみなるに、ひとりここには少女おとめあり。今エキステルに伴はれてし人と目を合はせて、互に驚きたるごとし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
十月下旬の日の光は玻璃窓ガラスまどから射入つて、煙草のけぶりに交る室内の空気を明く見せた。彼処あそこの掲示板の下に一群ひとむれ、是処の時間表のわき一団ひとかたまり、いづれも口から泡を飛ばして言ひのゝしつて居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この一群ひとむれの天使たちは蓄音機ちくおんきのレコオドを翼にしてゐる。
軽井沢で (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
沈黙のいまはしき蜘蛛くも一群ひとむれ