きいろ)” の例文
縫ふやうにへりに並んで生えてゐる楊柳やうりうの緑についさつきから吹き出した蒙古風もうこかぜがすさまじくきいろ埃塵ほこりを吹きつけてゐるのを眼にした。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
足はきいろい皮から爪の先までが脳病の薬になるといって特別のスープに取るし、足の先のたなぞこの肉は支那料理で珍重する上等の御馳走だ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
中空ちゅうくうには大なるかさいただきしきいろき月を仰ぎ、低く地平線に接しては煙の如き横雲を漂はしたる田圃たんぼを越え、彼方かなた遥かにくるわの屋根を望む処。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
赤く、紫に、きいろに、かば色に、まるで花のやうにいろいろの紅葉が青い松やもみと入りまじつた、その美しさといつたらありません。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
月は無いが、星が、宵のきいろい色から、だんだん白い光に変つてしまつた。さやさやした風が横手の竹薮を吹いて、広前の砂の上に落ちた。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
きいろい本の表紙には、“Trueツルー Loveラヴ”と書かれた。文科の学生などの間に流行はやつてゐる密輸入のアメリカ版の怪しいほんだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
きいろい行燈が秋の灯らしい色をみせて、床の下ではこおろぎが鳴く。今宮さんは飯をくいながら、今日は詰所でこんな話を聴いたと話しました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すぐ右側に赤いポストの立っている処があって、そこから横街よこちょうの入口が見え、そのむこうかどになった処にきいろおおいを垂らした洋食屋らしい店があった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「なんだ、査公おまわりさんでねえだ」と、一人の若者、獅子鼻ししっぱなうごかしつつ忌々いまいまし気にいうと、中に交った頬被りの三十前後の女房、きいろい歯を現わしてゲラゲラと笑い
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
きめこまかい、きいろい石や、黒い石の上をすべると、思いなしか、沈んだ、冴えた声をして、ついと通る。この谷を一回、大きい徒渉をやる、つづいて二回の小徒渉をやる。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
峰から峰へ渡る幾百羽と云う小鳥の群が、きいろい翼をひらめかしながら、九郎助の頭の上を、ほがらかに鳴きながら通っている。行手には榛名はるなが、空をくぎって蒼々とそびえていた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼等は左に一本のきいろい斧、右に一本の黒い斧、後に一本の非常に大きくて古い軍旗をひらめかして、まっしぐらに女媧のかばねの周りに攻め寄せたが、いっこう何等の動静も見えない。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
おなじ事で、たとえ不気味だからといって、ちっとも怪しいものではないと、銑さんはいうけれど、あの、黄金色こがねいろの目、きいろな顔、うように歩行あるいた工合。ああ、思い出しても悚然ぞっとする。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叱られているのではなかったのかと、ほっとすると、順平は媚びた笑いをきいろい顔に一杯浮べて、菓物あかもん屋のお爺がぼんぼんは何処さんの子供衆や、学校何年やときいたなどとにわかに饒舌になった。
放浪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
公園の草わかばのいたみに病犬びやうけんきいろやつが駈けまわり
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さめかけたきいろい花かんざしを
聖三稜玻璃:02 聖三稜玻璃 (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
これはそも驚くまじき事か、火のが降るやうに満面に吹き附けて、すぐ下の家屋の窓からは、黒くきいろけむと赤い長い火の影とが……
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
しかし見た処の外観からして如何にも真底しんそこからノラらしい深みと強みを見せようというには、やはり髪の毛をきいろく眼を青くして
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
中川君、僕も今度朝早く飼禽場しきんじょうって胸のふくらんだ肋骨ろっこつの尖って肛門の締った足のきいろ若鶏わかどりを買って来て家で料理してみよう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ただ暫時しばらくは黙って睨んでいると、老女は何と感じたか、きいろい歯を露出むきだして嫣然にやにや笑いながら、村境むらざかいの丘の方へ……。姿は煙の消ゆるが如くにせてしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
処々乾きかゝつてゐる赤土の運動場には、今年初めてのきいろい蝶々が二つ、フワ/\ともつれて低く舞つてゐる。隅の方には、柵を潜つて来た四五羽の鶏が、コツ/\と遊んでゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
主人は岩魚いわなでも釣りに往ったかして戸が閉っている、小舎の近傍そばには反魂草はんごんそうきいろい花が盛りだ、日光から温かい光だけを分析し吸収して、咲いているような花だ、さっきの沼の傍で
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それには先ず薬種屋からサフランを買ってその一もんめを器へ入れて上から熱湯にえゆいで暫く浸しておきますときいろい汁が出ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
乗客が構わずそれをば踏み付けて行こうとするので、此度こんどは女房が死物狂しにものぐるいに叫び出した。口癖になった車掌はきいろい声で
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さま/″\の評判のうちに、秋は去り、冬は来た。木の葉は疎々そゝとして落ち、打渡した稲はきいろく熟した。ある朝はしもは白く本堂の瓦の上に置いた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そのきいろい渦が今は仄白くみえるので、あたりがだんだんに薄暗くなって来たことが知られた。汽車の天井には旧式な灯の影がおぼつかなげに揺れている。
春の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
へやの障子に冬の日が差込んで來た。置時計が優しい小さな音でもう三時を打つた。午後ひるすぎの冬の日はきいろい色をしていかにも軟く穩かに輝いてゐる。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのしづかな村落にもく/\と黒くきいろけむが立昇つて、ばち/\と木材の燃え出す音! 続いて、寺の鐘、半鐘の乱打、人の叫ぶ声、人の走る足音!
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
口も比較的に小さい方で、きいろ口唇くちびるから不規則に露出むきだしている幾本の長い牙は、山犬よりも鋭く見えた。足の割には手が長く、指ははり五本であるが、爪は鉄よりも硬くかつとがっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
第百十八 ボイルドチキン 病人には牛肉よりも鶏肉の方が消化も良くって味も軽いものですがしかしそれもとりによるので三百目位の雛鶏ひなどりでよく肥えた足のきいろいのでなければいけません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「ああ、君が膝にわがひたいを押当てて暑くして白き夏の昔を嘆き、やわらかにしてきいろき晩秋の光をあじわわしめよ。」という末節の文字があきらかに読まれます。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その上には時には明るい朝日が照り、わびしいきいろい夕日が落ち、赤いくやうな雲が浮んだ。「群」の人達の記憶は払つても払つても絶えずかれの魂を襲つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
米粒を御覧になると先の方のとがった処にきいろいような黒いような芽のようなものがありましょう。白米にするとあの芽をつぶしますがそれでもよく見ると、きいろいようなものが小さく残ります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その実ばかりでなく、大きい葉にも、きいろい花にも野趣横溢、静にそれを眺めていると、まったく都会の塵の浮世を忘れるの感がある。糸瓜を軽蔑する人々こそかえって俗人ではあるまいかと思う。
我家の園芸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒い四角な硯石のほとりに、二三本の優しい筆が、細くきいろい竹の軸と、まだ汚れない白い毛の先を不揃ひに竝べてゐる。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
きいろい小さな花、紫色をした龍胆に似た花、白く叢を成して咲いてゐる花、運が好いと、真紅まつかな美しい撫子の一つ二つをその中から捜すことは出来た。波の音は地をうごかすやうに絶えずきこえて来てゐた。
磯清水 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
彼女かれは例の如くきいろい歯を露出むきだして笑っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家の戸口は開かれて、くわすき如露じょうろなぞは、きいろ日光ひかげに照されし貧しき住居すまいの門の前、色づく夕暮のうちよこたはりたり。
毎年まいとし冬のはじめに、長吉はこのにぶきいろ夜明よあけのランプの火を見ると、何ともいえぬ悲しいいやな気がするのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
毎年まいとし冬のはじめに、長吉ちやうきちはこのにぶきいろい夜明のランプの火を見ると、なんともへぬ悲しいいやな気がするのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
耳元みゝもと近くからおそろしいきいろい声が、「かはるよ———ウ」とさけび出した。見物人が出口のはうへとなだれを打つてりかける。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
耳元近くから恐しいきいろい声が、「変るよ——ウ」と叫び出した。見物人が出口の方へとなだれを打ってりかける。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きいろい軍服をつけた大尉たいいらしい軍人が一人、片隅かたすみに小さくなって兵卒が二人、折革包おりかばんひざにして請負師風うけおいしふうの男が一人、掛取かけとりらしい商人あきんどが三人、女学生が二人
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
例へば雲の白きに流るる水の青きと夕照ゆうやけの空の薄赤きとを対照せしめたる、あるひは夜の河水かわみずの青きが上に空の一面に薄黒うすくろく、このあいだ苫船とまぶねの苫のきいろきを配したる等
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
然れども色地縞柄なぞはその人々の勝手なる故、日本人洋服をきる場合にはきいろき顔色に似合ふべきものを択ぶ事肝要なるべし。色白き洋人にはく似合ふものも日本人には似合はぬ事多し。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
三時の茶菓子おやつに、安藤坂あんどうざか紅谷べにや最中もなかを食べてから、母上を相手に、飯事ままごとの遊びをするかせぬうち、障子に映るきいろい夕陽の影の見る見る消えて、西風にしかぜの音、樹木に響き、座敷の床間とこのまの黒い壁が
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
カチリと電燈をじる響と共に、きいろい光が唐紙からかみの隙間にさす。先生はのそのそ置炬燵から次の間へ這出はいだして有合ありあ長煙管ながギセルで二、三ぷく煙草を吸いつつ、余念もなくお妾の化粧する様子を眺めた。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
乾きてきいろTobosoトボソ の谷の、身も焼けぬべきそゞろ歩きよ。唐辛とうがらしの紅色と、黄橙おらんじほのおの色に、絹の衣裳いしょうを染めなして、おと騒がしき西班牙エスパンユの、いらだつ舞ひのとゞろきや。又われは聞かずや。
庭の隅に咲いた石蕗花つわぶききいろい花に赤蜻蛉とんぼがとまっていた。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
例のあがり降りの混雑。車掌は声をきいろくして
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)